外食企業が将来の売却を見据えた物件選定のポイント|飲食店M&A

江藤 恭輔

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江藤恭輔

日本M&Aセンター業種特化2部 部長

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当コラムは日本M&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
今回は江藤が「外食企業が将来の売却を見据えた物件選定のポイント」についてお伝えします。

外食企業のM&Aで最重要ファクターである物件(立地)について

2024年も早いもので後半戦に差し掛かろうとしており、外食企業は年末の繁忙期に向けて、新規出店や人員の確保など、非常にやることの多い時期に入って来ています。

そんな中、将来M&Aでの売却をすることを見据えて飲食店を経営されている企業オーナーにとって、物件(立地)の選定は最も重要な要素になって来ます。
本コラムでは、外食企業が『将来のM&Aでの売却を考慮しながら物件を選定する際のポイント』について解説します。

【物件選定ポイント1】地理的な条件

将来のM&Aでの売却を見据えた物件選定では、地理的な立地条件が重要な要素となります。

交通アクセス

高い交通アクセス性は、将来的な売却時に物件の魅力を高める要素となります。

交通の便が良く、アクセスしやすい立地を選ぶことで、将来的な購買層やテナントの需要を高めることができるからです。
一方、アクセス性の高い立地や人気のエリアは、当然賃料の坪単価も高額になりますので、業態相応の立地選定が収益性の面からもより重要になります

例えば、一般的なラーメン店やレストラン業態などは視認性が高く駅から近い場所、ロードサイドでは、駐車場への乗り入れが容易な場所などが望ましいですが、鰻店のように、消費目的が明確な業態においては、鰻を食べたいという目的で飲食店に足を運んでもらうことになるため、必ずしも一等立地である必要はなく、二等立地、三等立地でも十分集客は可能です。

それにより、店舗の利益率も大きく変わってくるため、業態に即した立地選定が非常に重要になって来ます。

周辺環境

周辺環境の魅力や需要も将来のM&Aでの売却に影響を与えます。

商業施設やオフィスビル、観光地など、周辺に需要のある施設や観光名所が存在する場所を選ぶことで、物件の価値を高めることができます。
また低単価な業態であれば、大学の近くや若者が多く訪れる場所などに出店することで、安定的なリピーターの獲得に繋がります。

もちろん、そのような場所は競合店も多いため、味やサービスのブラッシュアップは、当然ながら常にやっていく必要はあります。

【物件選定ポイント2】賃貸借契約の内容、条件

将来のM&Aでの売却を見据えた物件選定では、賃貸借契約の条件も非常に重要になってきます。
以下のポイントに留意しましょう。

契約期間

長期の契約期間を選ぶことで、将来的なM&Aでの売却時に物件の価値を高めることができます。
短期の契約では、将来の売却や撤退時に契約の更新や解約に伴う手続きや費用が発生する可能性があるからです。

また、保証金を償却する条文があるかどうかについてもチェックが必要です。
M&Aでの売却の際、本来であれば返還されキャッシュとして戻ってくる可能性が高い保証金で、それが貸借対照表の資産の部に全額計上されている場合でも、保証金を償却する契約になっていれば、返還される保証金が経過年数によっては大幅に減額されることになり、買収企業側が思わぬ痛手を被ることになる可能性があるからです。

解約条項

COC条項と呼ばれる契約解約に関する条項を慎重に検討しましょう。
多くの賃貸借契約のひな型には、資本構成の大幅な変更や代表者変更が起こった際は、事前に物件オーナーに連絡し、当該変更について承諾をとることを要件としている条文があります。
将来的なM&Aでの売却を見据えて、柔軟な解約条件を盛り込むことが重要であり、例えば、早期解約に伴う違約金や手数料の軽減など、将来的な撤退や売却時に柔軟に対応できる契約条件を確保しましょう。

【物件選定ポイント3】フィットネスと拡張性

将来のM&Aでの売却を見据えた物件選定では、フィットネス(適合性)と拡張性も重要な要素です。

コンセプトのフィット

物件が外食企業のコンセプトやブランドイメージに適合しているかを検討しましょう。
将来的なM&Aでの売却時に、他の外食企業やテナントに引き継がれやすい物件を選ぶことで、売却や撤退のスムーズな実現が可能となります。

拡張性

物件が将来的な拡張や改装に対応できるかを確認しましょう。
外食企業は成長や需要の変化に対応するために、店舗の拡張や改装が必要となる場合があります

将来的なM&Aでの売却を見据えて、物件の拡張性を考慮することが重要です。

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【物件選定ポイント4】その他、再開発や物件オーナーとの関係性、定期賃貸借契約

上述した内容と重複する点もありますが、周辺の再開発の状況や物件オーナーとの関係性、定期賃貸借契約など、M&Aの進行を妨げたり、そもそもブレイク要因になってしまうようなポイントについて、過去の事例を元に説明して参ります。

近隣の再開発により契約の残存期間が短期の場合、M&Aにより資本構成が変わり、そのことについて物件オーナーの許可を取ろうとしても、それが出来ないケースが多々あります。
そのような場合、本来その物件が存続していれば得られたであろう利益の数年分を、株価から差し引く形で調整が行われます。

また、物件オーナーと店子企業との関係性が芳しくなく、解約条項の許可を取得する際に、そもそも許可を下ろさない、解約及び新規巻き直しを要求されたケースや、許可を下ろす代わりに、多額の更新料を請求されたケースなどもあります。

普段から、物件オーナーとは良好な関係を構築することを心掛け、管理会社経由であってもコミュニケーションを図ることが重要です。

定期賃貸借契約については、期限の到来によって強制的に契約が終了となり、更新することが出来ない可能性が非常に高いと言えます。
そのため、普通賃貸借に比べて、定期賃貸借契約の物件は評価が大きく下がる傾向にあります。

物件との出会いは運とタイミングですので、上記に合致したものばかりを選んでいると、せっかくのチャンスを逃してしまうことになりかねませんが、将来M&Aでの売却を見据えて飲食店の経営に携わっている企業オーナーにおかれましては、是非上述の4点を意識して、物件を選定してみてはいかがでしょうか。

いかがでしたでしょうか?
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プロフィール

江藤 恭輔

江藤えとう 恭輔きょうすけ

日本M&Aセンター業種特化2部 部長

1982年12月、宮崎県生まれ。青山学院大学法学部卒業後、大手金融機関にて約10年法人営業に従事した後、2015年10月、日本M&Aセンターに入社。その後、食品業界専門グループを立ち上げ、大手外食企業のM&Aを中心に、数多くの食品関連M&Aを手掛ける。2023年4月には同グループを部署に昇格させ、メンバー全員で、全国の優れた食文化の存続と発展をサポートしている。代表的な成約実績は、トリドールHDとアクティブソース(立ち飲み居酒屋晩杯屋)、トリドールHDとZUND(ラーメンずんどう屋)、サッポロライオンとハンエイ(餃子専門店である大阪王)、佐賀県の老舗アイス菓子メーカーである竹下製菓と生クリームパンメーカーの清水屋食品、PEファンドであるエンデバー・ユナイテッドと関西レストランチェーンのアートオブウォー・バサラダイニングの資本提携など。

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