外食・食品業界における投資会社/PEファンドの動向
⽬次
- 1. 外食・食品業界における投資会社/PEファンドによるM&Aの推移
- 1-1. 投資会社/PEファンドによる外食・食品業界への関与件数推移(投資・売却合算)
- 1-2. 投資会社/PEファンドによる外食・食品業界への投資件数推移
- 1-3. 投資会社/PEファンドによる外食・食品業界への投資件数推移(投資先業種別)
- 1-4. 外食・食品業界における投資会社/PEファンドによる投資先の売却件数推
- 2. 2024年の外食・食品業界における投資会社/PEファンドによるM&A事例
- 3. 投資会社による【投資】事例
- 3-1. 1.投資会社:D Capital /売却企業:カバヤ食品
- 3-2. 2.投資会社:サンライズ・キャピタル / 売却企業:ひいらぎホールディングス
- 4. 投資会社による【売却】事例
- 4-1. 3.投資会社:丸の内キャピタル/売却企業:三浦屋/買収企業:Olympic
- 4-2. 4.投資会社:アドバンテッジパートナーズ/売却企業:日本銘菓総本舗/買収企業:コロワイド
- 4-3. 5.投資会社:アント・キャピタル・パートナーズ/売却企業:アミノ /買収企業:SRSホールディングス
- 5. 外食・食品企業が投資会社/PEファンドと手を組むメリット
- 5-1. 1.企業価値向上に向けた手厚いサポートが受けれる
- 5-2. 2.幹部人材の確保が出来る
- 5-3. 3.企業価値向上のための投資が可能
- 5-4. 4.色がつかない事業承継が可能
- 5-5. 5.企業価値を高めベストオーナーに引き継げる
- 6. 最後に
- 6-1. 著者
当コラムは日本M&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
今回は高橋が「外食・食品業界における投資会社/PEファンドの動向」についてお伝えします。
外食・食品業界における投資会社/PEファンドによるM&Aの推移
PEファンドを中心とする投資会社による外食・食品業界に対するM&A件数は、2024年に入り8月末時点で過去最高水準の件数を記録しており、皆様もPEファンドの存在を耳にする機会が多くなっているのではないでしょうか?
1996年からの推移で見てみると、2006年にそれまでの過去最高記録を更新しましたが、その後2007年にサブプライムローン問題が取りざたされて、翌2008年にリーマン・ショックが起きたことにより、M&A件数は低水準で推移することになります。
その後、2012年末から、企業の稼ぐ力が高まり、収益の改善に広がりがみられていることと、雇用情勢が継続して改善していることが基調として、日本経済は緩やかな回復基調となりました。
それに連動して、PEファンドを中心とする投資会社による外食・食品業界に対するM&A件数は、今日に至るまで増加傾向となっています。
投資会社/PEファンドによる外食・食品業界への関与件数推移(投資・売却合算)
参照:レコフM&Aデータベースより㈱日本M&Aセンターが作成
【検索期間】1996/01/01~2024/08/28 (公表日など) 【データ種別】[M&A]M&A
【キーワード】投資会社(投資), 投資会社(売却) (OR条件) 【業界】食品, スーパー, 外食 (OR条件) 【形態】合併, 買収, 事業譲渡(営業譲渡)
続いて、PEファンドを中心とする投資会社による外食・食品業界に対する‘投資実行’の件数の推移をみていきます。
「投資実行」の件数の推移としては、全体件数の推移と同様に、2006年にそれまでの過去最高記録を更新するも、その後2017年までは、低水準の件数で推移を推移しています。
このような件数推移となっている背景として、リーマン・ショックや東日本大震災等の影響により、2006年までに投資をした案件のEXITが遅れたことにより、新規投資を積極的に出来なかったことが想定されます。
投資会社/PEファンドによる外食・食品業界への投資件数推移
参照:レコフM&Aデータベースより㈱日本M&Aセンターが作成
【検索期間】1996/01/01~2024/08/28 (公表日など) 【データ種別】[M&A]M&A
【キーワード】投資会社(投資) 【業界】食品, スーパー, 外食 (OR条件) 【形態】合併, 買収, 事業譲渡(営業譲渡)
投資先の業種別に見ていくと、外食・食品製造業への投資が多く、スーパー・コンビニへの投資は数年に1件程度、食品卸への投資は見受けられない結果となりました。
PEファンドを中心とする投資会社は、投資実行後の企業価値向上が至上命題になるため、‘企業単独で見て’今後も安定的な成長が見込みやすい企業への投資を積極的に行います。
そういった意味において、外食企業は特定の業種(ex.ファミレス・牛丼など)以外は、マーケットが飽和していないため、優れた業態を保有している企業であれば、市場における出店余地が‘多く’あるため投資が行われやすいと想定されます。
また、食品製造業は、製造している商品が優れていれば、投資会社のネットワーク活用・マーケティングの見直による販路拡大、製造フローの見直しによる生産性の向上など、投資会社の知見を活かした企業成長の促進ができるため、食品製造業への投資も多いと想定されます。
一方で、スーパー・コンビニ業界、食品卸業界は大手寡占状態となっており、業界再編型のM&Aが主流となっているため、投資会社が企業成長のために関与出来る余地が少ないため、投資件数が少なくなっていると想定されます。
投資会社/PEファンドによる外食・食品業界への投資件数推移(投資先業種別)
参照:レコフM&Aデータベースより㈱日本M&Aセンターが作成
【検索期間】1996/01/01~2024/08/28 (公表日など) 【データ種別】[M&A]M&A
【キーワード】投資会社(投資) 【業界】食品, スーパー, 外食 (OR条件) 【形態】合併, 買収, 事業譲渡(営業譲渡)
これまで、投資会社/PEファンドによる外食・食品業界への‘投資’件数を見てきましたが、続いて投資先の‘売却’件数を見ていきます。
2006年の「投資」件数のピークに対して、「売却」件数は2013年がピークとなっております。
通常PEファンドの投資期間は3年から5年程度が多いものとなりますが、リーマン・ショックや東日本大震災等の影響により、投資期間が想定より長くなった結果、2013年に売却のピークが来たのではないかと想定されます。
ここ数年における売却件数は、新型コロナウイルスによる影響などで低水準で推移していますが、2017年からの投資件数を鑑みると前回のピーク同様、7年後にあたる今年2024年から投資会社による売却ラッシュが起こるのではないかと想定されます。
外食・食品業界における投資会社/PEファンドによる投資先の売却件数推
【検索期間】1996/01/01~2024/08/28 (公表日など) 【データ種別】[M&A]M&A
【キーワード】投資会社(売却) 【業界】食品, スーパー, 外食 (OR条件) 【形態】合併, 買収, 事業譲渡(営業譲渡)
2024年の外食・食品業界における投資会社/PEファンドによるM&A事例
前述の通り、外食・食品業界における投資会社/PEファンドによるM&Aは、8月末時点で過去最高水準の件数を記録しており、投資会社による売却ラッシュが起こると想定されているため、今まさに注目度が上がってきているかと思います。
そういった中において実現した、2024年の外食・食品業界における投資会社/PEファンドによるM&A事例について、5つ解説をさせて頂きます。
投資会社による【投資】事例
1.投資会社:D Capital /売却企業:カバヤ食品
カバヤ食品は、1946年に創業した売上高260億円、「カバヤキャラメル」「ジューC」などの商品を提供している。歴史ある食品メーカーです。
D Capitalは「DX×PE」をコンセプトに掲げているPEファンドであり、過去には「Francfranc」や「おやつカンパニー」などへの投資も行っております。
カバヤ食品は、食品メーカーとして、日本で培った高い商品力を活かし、社会的意義を有する新たな商品を生み出していくことで、国や年齢を問わず、さらに多くのファンを創出していく可能性を秘めており、同社が創業来培ってきた強みにD Capitalの有するデジタルの力を組み合わせることで、成長の可能性を最大限追求することが出来ると想定し、投資実行をしたと発表をしています。
2.投資会社:サンライズ・キャピタル / 売却企業:ひいらぎホールディングス
ひいらぎホールディングスは、「笑顔と感動をもっとずっと」の理念のもと、2002年に創業し、グループ全社にて多種多様な「食」に関わる事業を行っております。
「サーティワンアイスクリーム」や「久世福商店」、「串カツ田中」などのフランチャイズ業態運営、「ビビン亭」などの自社業態を運営する外食・食物販事業の「イートスタイル」、フレンチレストランとブライダル事業の「シャトー文雅」や、洋菓子・パン製造販売の「マヌカンピス」など、九州を中心に全国で約 140 店舗を展開しています。
サンライズ・キャピタルは、CLSAキャピタルパートナーズがアドバイザーを務める、日本の中堅・中小企業への投資に特化したPEファンドです。
直近では「キルフェボン」や「SBIC」など食分野への投資も積極的に行っています。
ひいらぎホールディングスの常にお客様の満足を追求する企業文化と卓越した店舗運営能力、それらを支える従業員の幸せを目指す経営理念に加え、地域社会への多大な貢献を高く評価しており、今後は同社とのパートナーシップの下で、継続的な事業成長の支援と経営基盤の強化を通じて、同社の更なる発展に貢献したいと発表しています。
なお、柊崎庄二代表取締役は留任し、株主としての関与を継続するとのことです。
投資会社による【売却】事例
3.投資会社:丸の内キャピタル/売却企業:三浦屋/買収企業:Olympic
三浦屋は1924年創業した東京都に食品スーパー「三浦屋」を7店舗展開しており、また外販事業(給食用食材)では、東京都多摩地区、23区西部、埼玉県西部・神奈川県北部で高いシェアを誇る高いシェアを誇る企業です。
2012年にいなげやが創業家から三浦屋を買収しましたが、中長期的な相乗効果が薄いと判断し、2021年に丸の内キャピタルが全株式を譲り受けました。
丸の内キャピタルは、「成城石井」や「クイーンズ伊勢丹」などの高級スーパーへの投資実績を生かして、三浦屋の事業拡大機会を見込み投資実行をされました。
今回の買収社となったOlympicは、今回のM&Aで東京都内の店舗網を拡充し、商品調達や販売ノウハウでのシナジー効果を見込むと発表しています。
4.投資会社:アドバンテッジパートナーズ/売却企業:日本銘菓総本舗/買収企業:コロワイド
日本銘菓総本舗はPEファンドであるアドバンテッジパートナーズが2018年に設立した、地域銘菓・名産品の事業承継のプラットフォーム企業です。
売上高は約59億円と発表されており、2018年8月に「チーズガーデン」を展開する㈱庫や、2021年3月に「グリンデルベルグ」を展開するトアヴァルト㈲、2021年8月に「クリオロ」を展開するエコール・クリオロ㈱などを、過去M&Aによって譲り受けています。
これらの企業はシナジー効果を発揮し、ふかや花園プレミアム・アウトレットや麻布台ヒルズなどの一等地に昨年旗艦店を出すなど、事業成長を実現していました。
コロワイドグループは外食事業を営んでいるが、コロナ禍も含め変化した消費者ニーズに対応する観点からは、よりブランド価値や付加価値に基づいた事業領域の拡大が重要であると同時に、デザート事業の拡充は、グループの店舗における顧客満足度の向上にとって重要な要素であるとしています。
今後はコロワイドグループの全国に渡るサプライチェーンや店内飲食業におけるメニュー開発、グローバル展開をはじめとする様々知見やノウハウを活用し、国内・海外への出店で事業成長を図るとしています。
5.投資会社:アント・キャピタル・パートナーズ/売却企業:アミノ /買収企業:SRSホールディングス
アミノは売上高約55億のグルメ寿司業態「うまい鮨勘」を始めとした飲食店を東北地域中心に国内に31 店舗、海外に2店舗展開し、顧客からの高い支持を集めるグルメ寿司チェーンです。
アント・キャピタル・パートナーズはアミノを2019年8月に創業オーナーからの事業承継として譲受しており、その他にも、「イカセンター」等を展開するスプラウトインベストメントや、「ビアードパパ」等を展開する麦の穂ホールディングス等、食領域に対して多くの投資実績を有するPEファンドとなります。
SRSホールディングスは、国内約700 店舗、海外約20 店舗の外食ブランドを直営及びフランチャイズ展開している上場企業であり、アミノの完全子会社化を通じて、SRSグループが今まで展開していなかった新たな地域での事業基盤の確立、並びに、双方の仕入力や店舗運営力、マーケティングやDX施策等を互いに活用、共有することにより、仕入原価の低減、既存事業の強化が期待でき、またSRSグループの資金、店舗開発力を活かした、アミノの更なる出店の加速等のシナジーも見込める為、グループの中期経営計画の達成に大きく貢献するとの見解に至り、同社の株式を取得することとしたと発表しています。
外食・食品企業が投資会社/PEファンドと手を組むメリット
ここまで、これまでの外食・食品業界に対する投資会社/PEファンドの関与件数の推移や、直近の具体的な事例について解説をさせて頂きましたが、最後に外食・食品企業が投資会社/PEファンドと手を組むメリットについて5つ解説をさせて頂きます。
1.企業価値向上に向けた手厚いサポートが受けれる
投資会社/PEファンドを活用する一番のメリットは、企業価値向上に向けた手厚いサポートを受けれる点にあると言えます。
M&A実行後は、投資会社/PEファンド側から役員や専門家などのチームが派遣されることが一般的です。派遣された役員は、いわゆる「プロ経営者」であることが多く、彼らからは今まで気が付かなかった問題点や新たな経営手法による業務改善への道筋が示されます。
また、これまで社長のマンパワーに依存し過ぎた体質から脱却し、社員の自立を促し、新たな管理体制の構築をするための道筋も示されます。
参考として、当社グループ会社である、日本投資ファンド(J-FUN)による、食品企業の企業価値向上支援の事例のコラムを記載させて頂きますので、是非ご拝読頂ければと思います。
逆境に負けないお菓子メーカー「フジバンビ」のチャレンジ
https://www.nihon-ma.co.jp/columns/2022/x20220225-2/
2.幹部人材の確保が出来る
投資会社/PEファンドは、さまざまな業界の複数の企業とネットワークを構築しており、役員や幹部クラスの従業員など数多くの人材との接点をもっています。
そのネットワークを活用し、自社の事業にふさわしい人材を紹介してもらえる可能性があります。
3.企業価値向上のための投資が可能
投資会社/PEファンドは、多くの機関投資家からの投資を受けているため、金融機関と比較しても十分に潤沢な資金を持っています。
また、ファンドからの出資金は借入金ではないため、毎月の元本返済や金利などを支払う必要はありません。
したがって、出資を受けた資金はすべて、企業価値向上のために投入できることもメリットとしてあげられます。
4.色がつかない事業承継が可能
事業会社とのM&Aの場合、M&A後、親会社のカラーや、経営方針の影響を受けることが往々にしてあります。
しかし、投資会社/PEファンドであれば、投資した企業を中心に考えて、経営体制を作っていくため、これまでの企業文化の維持が企業価値向上につながると考えれば維持発展を望めます。
5.企業価値を高めベストオーナーに引き継げる
投資会社/PEファンドのEXITはM&Aが主流のため、M&A戦略に長けた専門家が多数在籍しています。
したがって、そのノウハウを活かして企業価値を最大限まで高めたうえで、売却先企業として最もふさわしい企業を見つけてもらえる可能性があります。
とある食品製造業の企業様は、PEファンドを経由し企業価値を向上させたことで、当初は関心を持ってもらえなかった上場食品メーカー様への譲渡を実現しました。
その他にも、投資会社/PEファンドを経由して上場を実現するなど、外部資本を活用することによって、企業を次のステージに導くことが出来ます。
今後、外食・食品業界における投資会社/PEファンド活用事例は増加してくると想定されます。
「経営課題を解決したい」「会社を成長させたい」と考える経営者の皆様には、企業戦略の選択肢のひとつとして、今回のコラムを参考に取り入れて頂ければと思います。
最後に
本コラムはいかがでしたでしょうか?
食品業界のM&Aへのご関心、ご質問、ご相談などございましたら、下記にお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。
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また、上場に向けた無料相談も行っております。お気軽にご相談ください。