多様化する食品業界の出口戦略|スイングバイIPO事例紹介

岡田 享久

日本M&Aセンター業種特化2部/食品業界専門グループ

業界別M&A
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こんにちは。(株)日本М&Aセンター食品業界支援グループの岡田享久です。
当コラムは日本М&Aセンターの食品専門チームのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
今回は「多様化する食品業界の出口戦略」について解説します。

今注目の経営手法スイングバイIPO

2024年3月26日、IoTプラットフォームを提供するソラコムが東京証券取引所グロース市場に上場しました。ソラコムは2015年に創業した企業で、2017年にKDDI株式会社に株式の過半を譲渡しております。
KDDIの資本参画から7年後、同社としては設立10年目となる2024年にIPOを果たしました。

この上場は「スイングバイIPO」と呼ばれる手法によって実現され、多くの注目を集めています。

スイングバイIPOとは

スイングバイIPOとは、スタートアップが大企業や投資ファンドの有する経営リソースを活用して、事業価値を高めてIPOを目指す成長モデルです。

宇宙探査機が惑星の重力を利用して加速する「スイングバイ」という技術のように、相乗効果のある大手企業と資本提携を行いリソースの共有を行うことで成長スピードを加速させることを目的としています。

スイングバイIPOのメリット

1.大手企業の資源を活用し、成長スピードを加速させることができること

大手企業のネットワークや人的資源、信用力等を使うことにより、成長にレバレッジをかけていくことができます。
結果、IPOを目指す上でスピードも変わり従来の計画を上方修正することも可能になります。

2.企業の信用力強化に繋がること

大手企業や実績のあるファンドが参画しているということで取引先や市場へ安心感を与えることができ資金調達がしやすくなると共に、社内の管理体制の強化やなどスタートアップの弱点である守りの部分の強化を図ることができます。

3.経営の目線を増やすことができる

スタートアップの社内だけでなく、パートナー企業とも一緒に経営を行うことができます。

IPOを目指していた企業がM&Aを選択した際に、何か問題があったのでは?という市場の推測もスイングバイIPOと公表することで回避が可能です。

4.早期に創業者利得を確保できる

大手資本との売却時に株主であれば早い段階で一定の売却益を手にすることができます

売却益を得ることで、より企業の業績を上げるための投資に振り切ることも可能になり、企業価値向上へも繋がります。

スイングバイIPOのデメリット

1.IPOの不確実性

大手企業と資本提携を結んでも予定通り順調に成長するかは、ひいては上場まで到達できるかは未知数です。
当然ながらパートナーとして提携後、そしてIPOができたとしてもその後も連携を強化していく必要があります。

2.M&A時の株価の算定の難しさ

初期的に過半数を大手企業の譲渡することになるスイングバイIPOの場合、売却時は赤字の事も多く事業計画に基づいたDCF(将来の収益力を現時点での価値に置き換えて株価を算定する手法)を基に推測することもあります。

シナジーのある相手でも金額面で折り合いが付かない可能性もあり交渉が頓挫することもあります。

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食品業界のスイングバイIPO事例

それでは、実際に食品業界で起きたスイングバイIPO事例をまとめてみます。

1.2024年7月 オイシックス・ラ・大地×Hi0LI

直近では、オイシックス・ラ・大地はラクラフトスイーツベンチャーの株式会社HiOLIを買収しました。

既存株主から株式を取得したほか、シリーズCラウンドで第三者割当増資を引き受け出資比率を高めました。
HiOLIは2018年に創業し「素材へのこだわり」「マイクロバッチでの製造」「生産者の顔が見えるモノづくり」という3つのクラフトアプローチを大切にし、企画から開発/製造までを手がけるクラフトスイーツカンパニーです。

脱脂粉乳のアップサイクル活用をして「フードロス削減」や、地域の素材を活かしたクラフトスイーツづくりによる「地方創生」の取り組みがオイシックス・ラ・大地側の企業理念と親和性があったようです。本提携はスイングバイIPOを前提とした資本提携と公表しております。

オイシックスは24年1月に給食事業を展開するシダックスホールディングスや、キッチンレス社員食堂事業を運営するノンピ、旬八青果店を運営する株式会社アグリゲート等24年も買収を加速化しております。

オイシックスの食品ロスを防ぐ取り組みの中で、オイシックスの持つEC販売ノウハウ、物流拠点の活用等を生かして業績を伸ばし、今後上場へと舵を切っていくとのことです。

2.サムカワフードプランニング(現SFPホールディングス株式会社)

スイングバイIPOという名称はソラコムの事例で知られることとなりましたが、過去飲食業界でも同様の手法の事例は起きています。

その中でも代表的なスイングバイIPOと言えば、磯丸水産を運営するサムカワフードプランニングです。

現在はクリエイト・レストランツ・ホールディングスの傘下でSFPホールディングスという名称で東証プライムに上場しています。
下記の時系列でファンドへの譲渡、事業会社への譲渡を通じ企業を成長させて上でIPOを果たしています。

  • 2010年に投資ファンドポラリスへ売却しハンズオンによる経営
  • 2013年には株式会社クリエイト・レストランツ・ホールディングスと資本提携
  • 2014年には東京証券取引所2部
  • 2019年には東京証券取引所1部に昇格

2010年9月期には16店舗だった磯丸水産の店舗数を2013年には41店舗、2015年には109店舗と増やしコロナ禍を経て現在では99店舗(SFPホールディングスHP. 2024年2月末時点)を運営しております。
ポラリスへの譲渡後の翌2011年1月の社員総会では4年以内の株式上場を社員総会で約束し、約束の期限の2014年12月に見事上場を果たしております。

ファンドを活用したスイングバイIPOの主な成果

1.オーナー企業から脱却

2.内部管理を整えながら組織体制の構築

3.ファンド側と目標を定め期限内のIPO目標達成

まとめ

上記のような明確な目標を達成するには、一部の社長を除いては外部から(今回はファンド)のサポートを受けながら進むことが近道になるかもしれません。

社長と言えど人間ですので、明確な目標を決めて達成まで道筋を決めて走り続けることは容易なことではありません。
同じ経営者の目線で相談相手・パートナーができることも大きなメリットです。

オーナーの性格や目指すべき方向性などを考慮し最短距離での企業成長を考えたときに、サムカワフードプランニングのやり方は一つ参考になるかもしれません。
 
またベンチャー企業にとってはオイシックスのように買収先のリソースを使いながら事業シナジーを最大化し、自社をの成長を図ることも事業拡大の近道です。
ビジネスモデルとして優れている場合でも模倣が容易なビジネスであれば一気に市場のパイを取ることも必要です。

IPO、M&A、スイングバイIPO、と経営者の選択肢は多様化しております。
元々子会社上場という手法でベンチャー企業だけではなくスイングバイIPOの手法そのものは存在しておりました。

ただ、近年ではスイングバイIPOという形で言葉になったという事もありこの手法への市場の注目度も上がっております。
創業オーナーの性格やタイプによって、いきなりIPOを目指すべきなのか、他資本と組んでIPOを目指すのか、M&Aで売却するのか、プロに相談しながら判断してみてはいかがでしょうか。

食品業界のM&Aへのご関心、ご質問、ご相談などございましたら、下記にお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。
買収のための譲渡案件のご紹介や、株式譲渡の無料相談を行います。
また、上場に向けた無料相談も行っております。お気軽にご相談ください。

日本M&Aセンターでは、事業売却をはじめ、様々な手法のM&A・経営戦略を経験・実績豊富なチームがご支援します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。

著者

岡田 享久

岡田たかだ 享久たかひさ

日本M&Aセンター業種特化2部/食品業界専門グループ

神奈川県出身。早稲田大学法学部卒業後、大手保険会社にて営業企画・債券投資業務に従事し、日本M&Aセンターに入社。食品業界専門チームにて、企業の存続と発展に向けたM&Aの提案に従事している。外食、食品EC、食品製造業など食分野における知見と支援実績を持つ。

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