【広報誌「MAVITA」Vol.4より】 地方発 世界に誇るブランド企業 Vol.2 小田陶器株式会社
⽬次
- 1. 伝統と革新が織りなす美濃焼の至宝
- 2. 新たなパートナーシップで世界を見据えた次なる100年へ
- 2-1. 著者
陶磁器の生産で日本一を誇る「美濃焼」。美濃焼の窯元として100年以上の歴史をもつ小田陶器(岐阜県瑞浪市)が2024年、世界を見据えての新たな一歩を踏み出しました。(日本M&Aセンターが発刊する広報誌「MAVITA」Vol.4より転載)
伝統と革新が織りなす美濃焼の至宝
古来より生産が行われ、現在、国内食器生産におけるシェアが5~6割とも言われる美濃焼。生産地である岐阜県・東濃エリアには、数百もの窯元が軒を並べます。
一方で、他の焼き物産地と同様、時代の波にもさらされています。海外および国内の旺盛な需要を背景に1991年には1,437億円に達した美濃焼の生産額は、国内需要の減退や中国製品の台頭などで、2022年には291億円まで減少(※)。それにともない、多くの窯元が姿を消しました。
そんな同地で、大正10年の創業以来100年超も続く窯元が、瑞浪市西小田町の小田陶器です。同社は陶石を主成分とする「磁器」の和食器を中心に、数多のOEM生産(他社ブランドの製品の製造)を手掛ける窯元で、近年はオリジナルブランドにも力を入れています。
小田陶器の製品は、一般的な陶磁器の中では、中高価格帯のものが中心。その背景には、こだわりのものづくりがあります。
そうしたこだわりのものづくりを可能にしているのが、社内の陶磁器専門のデザイナーによる製品開発と、長年培ってきた技術力や絶え間ない研究開発です。
小田陶器の製品開発は、陶磁器の専門知識を持ちながら自社工場も知り尽くしている社内のデザイナーが行っています。手間やコストがかかるために他ではなかなかやらない仕様も、必要とあればデザイナーと工場が連携して採り入れます。工場ではそれを実現するために、生産機械を改変したり、型を作り直して調整したり、製法を徹底的に研究しています。
また小田陶器では独自の製品開発にも力を入れています。たとえば、環境にやさしいリサイクル食器です。陶磁器食器の原料は枯渇性資源ですが、以前は不要になった陶磁器食器は埋め立てられるしかありませんでした。しかし業界の研究により、不要の陶磁器食器を粉砕し通常の原料の一部に配合することで、再び陶磁器食器として再生させることができるようになりました。小田陶器では、より環境にやさしいリサイクル食器を研究し、不要食器の配合率を50%まで高め(通常は20%位)、さらに焼成温度も1150℃(通常より100~200℃低い)で出来る、「Re50」というリサイクル食器を製造しています。
こうした技術革新は、単に自社オリジナルブランド製品の品質を向上させるだけでなく、幾多のOEM生産を通じてさまざまな所で活かされています。
成形、素焼き、絵付け、本焼きなどの生産工程のすべてを、自社工場でまかなうことができ、機能性と意匠性にこだわった難易度の高い食器製造を得意とする
小田陶器の工場内部。熟練の職人たちが丁寧に作業を行う。伝統的な技法と最新の技術を融合させ、高品質な製品を生み出している
新たなパートナーシップで世界を見据えた次なる100年へ
2024年3月、小田陶器は同じ東濃エリアの土岐市で美濃焼製品を製造販売する山加商店のグループ企業となりました。この提携により、両社の強みを活かした新たな展開が期待されています。
山加商店および小田陶器の加藤大輝代表取締役社長は、こう話します。「小田陶器の高い技術力と、山加商店の販路や、ムーミンなどのライセンスブランドを組み合わせることで、これまでにない商品展開が可能になります。たとえば、小田陶器の高付加価値の器で世界的なライセンスブランドを展開するなど、新しい価値を生み出せると考えています」。
小田陶器株式会社 代表取締役社長 加藤 大輝さん
さらに、機械化やDXの推進においても、互いのノウハウを組み合わせながら同時に進めていく計画とのこと。両社の販路を活用し、新たなビジネス機会の創出も見込んでいます。「陶磁器食器には、『古今東西人々の食生活には欠かせない』というハードの部分と、『その時代その時代の社会環境に合わせた製品開発や製造技術の取り入れ』というソフトの部分があります。世の中の流れに合わせながら陶磁器食器を提供していくことで、これからも歴史を積み重ねていければと思います」。
近年は日本文化への関心が世界的に高まり、陶磁器の輸出が再び増えつつあります。小田陶器はこの機会を活かし、世界市場への展開も視野に入れています。「和食器への追い風も生かし、また世界に向けて展開していければ。それには欧米に合わせてひと回り大きな規格にしたり、日本らしい繊細な手描き模様を前面に打ち出したりと、海外の文化や生活をふまえたものづくりが必要です」。
100年を超える歴史を持ちながら、常に新しい価値を追求し続ける小田陶器。伝統と革新のバランスを取りながら、新たなパートナーシップを得て、次の100年に向けて歩みを進めています。美濃焼の未来を担う小田陶器の挑戦は、まだ始まったばかりです。
※岐阜県陶磁器工業協同組合連合会統計による
写真:富本 真之 文:田嶋 章博