焼肉業界の現状とM&A戦略|焼肉店・焼肉屋M&A
⽬次
- 1. 1.外食産業:焼肉業界の今
- 1-1. コロナ禍では“勝ち組”の焼肉業界
- 1-2. “勝ち組”から異変
- 2. 2.焼肉業界のM&A事例及び背景
- 2-1. 焼肉店・焼肉関連M&Aによる買収戦略
- 2-2. M&Aによる譲渡戦略:焼肉店のファンド活用等
- 3. 3.焼肉業界の生き残り戦略
- 3-1. 店舗サイズ等多様な観点でのブランドの拡大&ターゲット拡充
- 3-2. 業態の拡大
- 3-3. 『地方の過疎化』を避けるための新エリア進出
- 3-4. 働き方改革に対応するバックオフィス強化
- 4. 4.最後に
- 4-1. 著者
当コラムは日本М&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
今回は勝又が「焼肉業界の現状とM&A戦略」というテーマでお伝えします。
1.外食産業:焼肉業界の今
本項では、外食産業の中で特に近年、動きの激しい焼肉業界について現状を記載いたします。自明の事実も多々ございますがご一読ください。
コロナ禍では“勝ち組”の焼肉業界
2019年、世界中を騒がせたCovid-19により外食産業は大きな打撃を受けました。
日本国内においても緊急事態宣言が発せられ、飲食店での外食を控える国民が急増しました。
その影響もあり、多くの飲食店は補助金だけでは営業継続が叶わず廃業が相次いだことは言うまでもありません。
そのような通称「コロナ禍」において、“勝ち組”と言われた業界があります。それが焼肉業界です。
焼肉バブルと言われたこともありましたが、焼肉店は排気ダクトを使うため換気が良く、空気感染するコロナが感染しにくいと消費者が考えたことが大きな要因です。
実際に、こういった背景から中華麺大手チェーン「幸楽苑」を展開する幸楽苑ホールディングスは「焼肉ライク」を展開するダイニングイノベーションとの連携を強化し1人焼肉に注力するなど業界での動きも多くありました。
“勝ち組”から異変
2023年に入り、その勝ち組に異変が起こってきておりました。
㈱帝国データバンクの「「焼肉店」倒産動向:全国企業倒産集計2023年8報」によると、2021年の倒産事業者は通年11件(負債1,000万以上の法的整理)でありましたが、2023年は2倍の22件。2024年においては、調査史上過去最多の39件が“9月まで”に倒産しております。
ただ、個人営業や小規模店舗の廃棄数を考慮すると、数値以上の店舗が撤退しているとみられております。
これは、出店数が増えすぎたこと、それに伴い価格競争が熾烈となり我慢比べの状態が続いてしまっているからというのが主な要因と言われております。
牛肉や野菜の原料高騰に際し、価格転嫁しづらい市場の環境は倒産数が増えてしまう理由となりうることは議論の余地がありません。
2.焼肉業界のM&A事例及び背景
前述のとおり、業界情勢が大きく変わってきている中でM&Aによる買収戦略、またあえて大手の傘下に入り込むことで成長を目指す譲渡戦略が増えてきております。
具体的に焼肉業界でどのようなM&Aが行われてきたのか、買収、譲渡の両面でみていきましょう。
焼肉店・焼肉関連M&Aによる買収戦略
焼肉業界において事業会社によるM&Aは近年、活発に行われています。
具体的に、近年M&Aを複数行っております『GYRO HOLDINGS株式会社(以下、GYRO HOLDINGS)』『株式会社あみやき亭(以下、あみやき亭)』の事例をみていきます。
まずGYRO HOLDINGSですが、ビーフキッチンを運営する株式会社OYAの買収(2023年)や2022年、株式会社パッションアンドクリエイトから「牛8―USHIHACHI」ブランドの事業譲渡による譲り受けがございます。
あみやき亭は、野毛ホルモンセンターを運営する株式会社ニュールックの買収(2023年)や、ホルモン青木を運営する杉江商事の買収(2019年)など数多くの同業を買収しております。
こういった大手による買収には様々は狙いや戦略がございます。
GYRO HOLDINGSの「牛8」買収においての狙いは、既に展開しているブランドを含め、客単価3,000円~10,000円程度と幅広い焼肉業態を保有することで、食材の安定確保やコスト削減、品質の維持など様々な面でシナジー効果を狙うことにありました。
あみやき亭の杉江商事(ホルモン青木)買収の背景は、店舗サイズの幅確保です。
ロードサイドでの大型店舗を運営するあみやき亭にとって、小型店舗の空き店舗情報をキャッチしてもなかなか手を出せずにいました。
ホルモン青木のような小型店舗で運営可能な業態をグループに入れることで店舗拡大をより効率的に行うことができるなどの狙いがありました。
M&Aによる譲渡戦略:焼肉店のファンド活用等
M&Aというと、どこかの会社を買収して大きくなっていくという絵を描く方が多いと思います。
まさに上記のM&Aです。ただ今の時代、一概にそうとは言えなくなってきていると筆者は感じております。
それはつまり、買収ではなく譲渡で成長を目指すことを考える経営者も少なくないということです。
M&Aによる譲渡で成長を描くとはどういうことか。
先日のコラムでもご紹介させていただいた*¹スイングバイIPO(大企業の傘下に入ることで顧客基盤や組織体制を整え、急成長を図り上場を目指す戦略のこと)や、ファンドに株式を譲り渡すことによる戦略などがこれに該当します。
焼肉業界で有名な事例を挙げますと、
K&C 刈田アンドカンパニー×大将軍(2016年)、BASIC CAPITAL MANAGEMENT×KINTAN(2018年)、NIPPON INVESTMENT Co.×うしごろ(2020年)などです。
コロナが明けたと言われる現在でも存在感のあるブランド名が並んでおります。
ファンドに株式を譲り渡すことで個人保証の解除はもちろん条件に入れつつ、優秀な人材の派遣、顧客基盤などビジネスリレーションの構築補助、店舗展開において煩雑な管理体制の強化などをしてもらうことができます。よって譲り渡した企業においては、単独ではなし得なかった急速な拡大を行うことができるようになるということです。
企業の経営者として、M&Aで株式を譲り渡す資本提携により成長を目指すというのはキャッチアップしておくべき情報だと考えます。
*¹多様化する食品業界の出口戦略|スイングバイIPO事例紹介
3.焼肉業界の生き残り戦略
上記にて焼肉業界の業界環境、またそのような中で発生している具体的なM&Aをみてきました。
その背景には業界に顕在する課題解決、成長のための戦略があったことも明記いたしました。
本項では、焼肉店を運営する企業様にとっての生き残り戦略を提言させていただきます。
結論、昨今の円安や原材料高騰、人手不足かつ賃金高騰の需要など、自社単独による成長は大変難しいのが外食産業です。
そのうえ、新型コロナウイルスの波及により、店舗数が増え供給過多になったこの焼肉業界は特に生き残り戦争は熾烈です。
よってほかの会社と資本提携を組むというM&Aは売り買い両面で有効かつインパクトが大きいと考えます。
店舗サイズ等多様な観点でのブランドの拡大&ターゲット拡充
店舗、出店場所が重要な飲食業界において、あみやき亭の杉江商事の買収(前述)のようにロードサイドに出せる大型店舗ブランド&駅チカ小型店舗ブランドというブランドのポートフォリオ拡充は行っていくことは、店舗情報を活用するという点で有効でありますしターゲットを広げることができます。
GYRO HOLDINGSの牛8買収も価格帯の拡充を行うことでターゲット層も広げることを目的としています。ターゲットを広げるという観点はこの市場では重要です。
業態の拡大
焼肉業界は前述した通り、競争が熾烈になっております。
もちろんその他の飲食業界も容易ではありません。ここで提言したいのが、業態の拡大です。
本記事で取り上げましたGYRO HOLDINGSの例をみると、当該企業は株式会社ヴィクセス傘下の株式会社ESOLAから飲食店4店舗「yaesu海老talianバル ルクア大阪梅田店」「かきカツオLINKS UMEDA」「焼はまぐりstandLINKS UMEDA」「幸の鳥」を譲り受けております。(2023年)
この狙いはまさに業態の拡大です。
広い業態を有することにより、食材の安定的な供給、コストの削減、そして品質の安定的な維持を図るだけでなく、多様な業態を抱え多様化するニーズに応えることを目的としておりました。
『地方の過疎化』を避けるための新エリア進出
地方が過疎化していくにあたり地方のみで事業を展開している企業は、新エリアへの進出が急務です。
資本力に余裕のある企業は、新エリアへの横展開や、新エリアで事業拠点を確保するM&Aが増えてきています。
一方、自力で成長を描くのが困難な場合には、後継者がいてもあえて大手に譲り渡して商圏を拡大していくM&Aも非常に増加しております。
働き方改革に対応するバックオフィス強化
働き方改革に伴い、バックオフィス面の強化が必要です。
残業をさせる場合には、36協定を出したり、はたまた正社員やアルバイトには有給の消化を推奨したりと煩雑な作業も増えていきます。
規模を大きくしようとすればするほど、経営者が直面するのが労務面での問題です。
そういったバックオフィス面の強化を求めてM&Aを検討するのも少なくありません。
このようなお悩みを抱えていらっしゃる経営者の皆様は是非一度、あえて株式を譲り渡すことを検討するのもいいかもしれません。
4.最後に
本コラムでは焼肉業界にフォーカスし、現状や課題、M&Aの事例及び背景を記述してまいりました。
M&Aではよく、「ヒト、もの、お金、情報」の共有と言いますがまさにこの業界において上記資源の共有は必要不可欠であります。
日本社会はいわずもがな変化しており、それに伴い消費者のニーズも変容しております。
流行り廃りなどの影響も受けやすく将来を読み切れないのが飲食業界の怖さであり面白さでもあります。
そういった状況下、会社を経営し、従業員の人生を背負う経営者として、M&Aという会社変革の手段をぜひ視野に入れていただければと思います。
お困りごと、ご質問等ございましたらお気軽に弊社食品業界専門グループへお問い合わせください。