補助金と助成金の違いとは?特徴や申請方法、注意点について解説
近年、補助金や助成金などの公的支援制度を活用したM&Aが、スムーズな事業承継や成長戦略実現を後押しする手段として注目されています。本記事では、補助金と助成金の違いを詳しく解説し、それぞれの効果的な活用方法をご紹介します。
この記事のポイント
- 補助金は返済不要の資金で新規事業や設備投資を支援し、採択制で審査が必要である。
- 助成金も返済不要だが、雇用環境改善を目的とし、要件を満たせば受給可能である。
- M&Aにおいては、補助金や助成金を活用することで、資金負担を軽減し、スムーズな事業承継が実現できる。
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補助金とは?
補助金は、国や地方自治体が提供する返済不要の資金で、企業が新たな事業に挑戦したり、設備投資を行ったりする際の経済的負担を軽減するために支給されます。その多くは、事業にかかった経費の一部を補助する形で支給される点が特徴です。
補助金の目的は、新規事業や設備投資の支援だけにとどまりません。地域活性化や環境対策、技術開発の促進など、政策目標に基づいた幅広い分野で活用されています。そのため、補助金を受け取るためには、提出する事業計画が政策目標に適合していることを示す必要があります。
補助金は、基本的に審査を伴う採択制であり、限られた枠の中で選ばれた事業者だけしか受給できません。しかし採択されれば、企業にとって新たな挑戦を支える重要な後押しとなります。
助成金とは?
助成金は、国や地方自治体が提供する返済不要の資金で、主に企業の雇用環境改善や従業員のスキルアップを支援する目的で設けられた制度です。たとえば、新規雇用の確保や正社員化の推進、働き方改革に関連する取り組みが主な対象となります。このように、多くの助成金は雇用関連の取り組みに焦点を当てていますが、研究開発や地域振興など、雇用以外を目的とする助成金も存在します。
助成金の大きな特徴は、補助金とは異なり、申請条件を満たせば基本的に受給できる点です。他の応募者と比較して採択を競う必要がないため、採択率は非常に高いといえます。ただし条件をクリアするためには事前準備が重要であり、要件を満たさない場合は支給が受けられないこともあります。また支給までのプロセスでは、提出書類の作成や進捗報告など、定められた手続きを行わなければなりません。
補助金や助成金とよく似たお金の種類
公的に提供される資金には、補助金や助成金以外にも、似た性質を持つものが多く存在します。ここでは、交付金・給付金・支援金・負担金について具体例を交えて説明します。
交付金
特定の目的のために国や地方自治体が支給する資金のことです。たとえば、地方自治体の財源格差を是正するための「地方交付税交付金」や、学校教育の充実を目的とした「教育交付金」などがあります。
給付金
特定の条件を満たした個人や企業に支給される資金のことです。生活支援や特定の状況への対応を目的としており、「育児休業給付金」や「失業給付金」などがあります。
支援金
特定の活動や目的を支援するために提供される資金のことです。災害時の復興支援や新型コロナウイルスの影響を受けた事業者への「事業復活支援金」など、緊急的な場面で提供されることが多い特徴があります。
負担金
特定の事業や公共サービスに対して、利用者が一部の費用を分担する形で提供される資金のことです。たとえば、公共施設の利用料や教育費の一部などが該当します。
これらの資金は、補助金や助成金とは異なる仕組みを持っていますが、公的支援を受けられる手段として多くの事業者に活用されています。
補助金と助成金の違い
補助金と助成金は、どちらも国や地方自治体が提供する返済不要の資金ですが、目的や仕組み、申請条件などにさまざまな違いがあります。これらの違いを正確に理解することで、自社の状況や目的に最適な制度が選べます。
管轄の違い
補助金は、主に経済産業省や地方自治体が管轄しており、事業拡大や地域振興を目的とした企業活動を支援するために提供されます。代表的なものとしては、「ものづくり補助金」や「事業再構築補助金」などが挙げられます。
一方で助成金は、主に厚生労働省が管轄しており、雇用促進や労働環境の改善を支援する制度です。代表的なものとして「キャリアアップ助成金」や「働き方改革推進支援助成金」があります。
目的の違い
補助金は、新規事業の立ち上げや技術革新、設備投資を支援することを目的としています。これにより、企業の競争力強化や経済の発展が期待されます。
一方で助成金は、雇用の維持や従業員のスキルアップ、職場環境の改善など、人材や労働環境に関する支援が主な目的です。このような目的の違いにより、補助金と助成金では、企業が活用する場面や用途が大きく異なります。
公募期間の違い
補助金は、公募期間が限られている場合がほとんどであるため、受給するためには申請スケジュールをしっかりと管理しなければなりません。「IT導入補助金」は年度内に複数回公募が行われますが、それぞれの締め切りは短いため、募集日程を注意深く確認しておかなければなりません。
一方で助成金は、年間を通じて募集される場合が多いため、企業が必要なタイミングで申請しやすいといえます。
給付額の違い
補助金の給付額は、数百万円から数億円に達することもあるため、大規模なプロジェクトや新規事業などに挑戦する場合などに適しています。「補助金」では、補助上限額が数千万円~1億円の場合があります。
これに対し助成金の給付額は、通常の場合、数十万円から数百万円程度です。そのため補助金と比べると、比較的小規模な取り組みに適しています。
受給のしやすさの違い
補助金は厳しい審査を通過する必要があるため、採択率が低いのが特徴です。そのため上述の「ものづくり補助金」も、応募者全員が受給できるわけではありません。
一方で助成金は、要件を満たせば基本的に受給が可能です。この違いにより、補助金は「競争型」、助成金は「条件型」と呼ばれることもあります。
手続きの難易度の違い
補助金の申請手続きには、詳細な事業計画書や経費明細書の作成が必要なうえに、申請書類が多岐にわたります。
これに対し助成金は、比較的シンプルな書類で申請できる場合が多いですが、条件に基づく証明書類の提出が求められるため、正確な手続きが必要です。
採択率の違い
補助金は限られた予算内での支給であるため、多くの応募者が競うような場合は、採択されるのは容易ではありません。
一方、助成金は予算が比較的潤沢であるため、対象条件を満たしていれば高い確率で受給ができます。「働き方改革推進支援助成金」などは、条件を満たした事業者であれば基本的に受給可能です。
補助金や助成金を申請する流れ
補助金や助成金を活用するためには、適切な申請手続きが不可欠です。以下では、事前準備から結果通知までのプロセスを3つのステップに分けて詳しく解説します。
この手順を把握しておけば、申請から受給までの流れをスムーズに進められるでしょう。
①事前準備
申請の第一歩は、補助金や助成金の募集要項を確認し、自社が対象となるかを見極めることです。具体的には、以下の作業を行うことが大切となります。
・ 対象となる事業を明確化し、計画を立てる
たとえば、新規設備投資や製品開発を目的とした事業であれば、「ものづくり補助金」が対象となる、などお金の使い道を明確化します。
・ 必要書類や情報をリストアップし、早めに準備を進める
事業計画書、財務諸表、過去の事業実績資料など、必要な書類を準備します。
・ 必要に応じて、専門家の意見を参考にする
補助金や助成金に詳しい専門家や商工会議所の窓口などに相談し、計画を具体的に進めていく準備をします。
これらを計画的に進めることで、のちの手続きがスムーズになります。
②申請書類の作成と提出
次に申請書類を実際に作成し、提出します。この段階では以下の点に注意するとよいでしょう。
・ 書類には、詳細な事業計画や予算計画を記載する
期待される成果を数値で示すと、審査での評価が高まる傾向があります。たとえば「売上高の10%増加を見込む」などが挙げられます
・ 提出書類の不備を防ぐため、関係機関への確認を忘れずに行う
提出期限を厳守することが必須です。また、電子申請では締め切り直前にシステムが混雑する場合があるため、余裕を持って提出するように心がけましょう。
書類作成が煩雑に感じる場合は、専門家やコンサルタントなどの支援を検討するのもひとつの方法です。
③審査と採択の結果通知
提出後、担当機関による審査が行われます。この段階では、一般的に以下の点が評価される傾向にあります。
・事業の実現可能性
・社会的意義や地域への貢献度
・経済効果や継続性
審査の結果は、数週間から数ヶ月以内に通知されます。採択された場合は、結果通知とともに、補助金・助成金の受給手続きや進捗報告の義務についての案内が行われます。
なお、採択後には資金の使途を明確にしたうえで、その報告書を提出しなければなりません。不備があると最悪の場合、返還を求められることもあるため、慎重に対応することが大切です。
補助金や助成金を申請・受給する際の注意点
補助金や助成金を申請し、受給する際には、いくつかの重要な注意点を理解しておくことが大切です。これらの注意点を把握することで、手続きや計画がスムーズに進み、リスクを回避しやすくなります。
まとまった資金の確保が必要となる
補助金や助成金は、対象経費の一部を補助する制度であり、全額を賄うものではありません。また、多くの補助金や助成金は後払い方式を採用しているため、事業を開始するための初期資金を自社で準備しておく必要があります。
1,000万円の設備投資を予定している場合、補助率が3分の2であれば、約670万円が補助されますが、残りの約330万円は自己資金や融資で補わなければなりません。資金不足が事業の進行を妨げることがないよう、事前に計画的な資金繰りを行いましょう。
後払いであり、必ず支給されるわけではない
補助金や助成金の多くは、事業が完了したあとに発生した経費を報告し、審査を経て支給される仕組みとなっています。そのため申請から入金までには、数ヶ月程度の期間を要することが一般的です。
さらに、審査において計画の不備が見つかった場合や、提出書類に不備があった場合には、採択されたとしても全額または一部が支給されないリスクがあります。たとえば、経費の領収書が適切に管理されていなかったり、事業計画の変更が未申告だったりした場合には、支給の遅れや不支給につながります。
事業実施後の報告を丁寧に行い、不備がないように進めなければなりません。
事業期間外は対象外となる
補助金や助成金では、指定された事業期間内に発生した経費のみが対象となります。事業期間外に発生した費用や計画外の支出は、補助の対象から外れてしまうため注意が必要です。
事業期間が2024年4月から2025年3月までと定められている場合、2024年3月に発生した費用や、2025年4月以降に支出した費用は補助対象とされません。
必要な費用が事業期間外となることを防ぐためには、事業スケジュールを明確に設定したうえで、期間内に支出を集中させるように計画に管理しておかなければなりません。
法令違反をした場合は行政処分の対象となる
補助金や助成金を受給する際には、法令遵守が必須です。不正受給や虚偽報告が発覚した場合、支給額の返還請求だけでなく、行政処分や刑事罰が課される可能性もあります。また状況次第では、今後の補助金申請が難しくなってしまいます。
このようなリスクを避けるには、法令に即した適切な手続きを徹底することです。不安がある場合には、あらかじめ専門家に相談しておくとよいでしょう。
M&Aに活用できる補助金
M&Aを通じた事業承継や新たな事業展開を進める際、資金面での負担を軽減する補助金制度が利用できます。とくに「事業承継・引継ぎ補助金」と「事業再構築補助金」は、M&Aを活用した成長戦略を支援する有力な制度です。
各補助金の概要について詳しく見ていきましょう。詳細な情報や最新の公募状況については、公式ウェブサイトをご確認ください。
事業承継・引継ぎ補助金
事業承継・引継ぎ補助金は、中小企業の事業承継を円滑に進めるために設立され、事業承継をきっかけとした新たな取り組みを行う事業者や、事業の売却を希望する事業者を支援します。
対象者は事業承継を行う売り手と買い手であり、補助対象経費には専門家への相談費用や新規事業立ち上げ費用が含まれます。
・ 事業承継の売り手:事業を譲渡する際に必要な費用を補助
・ 事業承継の買い手:引き継いだあと、新たな設備投資や販路開拓を行う事業者
補助対象経費
・ 専門家への相談費用(弁護士、税理士、中小企業診断士など)
・ 事業承継後の新規事業立ち上げ費用(設備投資や販路開拓費用)
・ 事業譲渡に伴う契約書作成やデューデリジェンスの費用
・ 事業閉鎖にかかる費用(従業員の退職金や清算手続きなど)
事業再構築補助金
事業再構築補助金は、既存の事業を抜本的に見直し、新たな市場進出や事業転換、業種転換を目指す中小企業を支援する制度です。この補助金は、競争力のある事業構造への転換を促進することで、日本経済の活性化を目指しています。
事業再構築に取り組む中小企業や中堅企業が対象です。具体的には以下の取り組みを行う事業者が該当します。
・ 新市場進出:新たな顧客層や市場の開拓
・ 事業転換・業種転換:既存事業の新しい方向への切り替え
・ 事業再編:事業の組織や運営体制を見直して競争力を強化
・ 国内回帰:海外から国内に生産拠点を移す事業
補助対象経費
・ 設備投資費用:新規事業に必要な生産設備や機器の導入
・ 研究開発費:新製品やサービスの開発費用
・ 専門家への相談費用:法務、会計、事業計画の策定支援
・ 販路開拓費用:新市場参入のためのプロモーション費用
・ 人材育成費用:新規事業に必要なスキル向上のための研修
M&A後に活用できる助成金
キャリアアップ助成金
「キャリアアップ助成金」とは、非正規雇用労働者(契約社員やパートタイマーなど)のキャリアアップを支援するため、企業が正社員化や賃金アップを行った際に、その取り組みにかかる費用の一部を助成する制度です。M&A後に組織統合を進める中で、従業員の安定した雇用形態やキャリア形成を支援する場合、この助成金の対象となる場合があります。
主な助成対象と金額
「正社員化コース」 「賃金規定等改定コース」「健康診断制度コース」「諸手当制度共通化コース」の取り組みが助成対象です。正社員化コースを例にとると、概要は以下の通りです。
「正社員化コース」
・ 内容:非正規雇用労働者を正社員または無期雇用社員に転換する
・ 助成額:正社員化:1人あたり57万円(中小企業は72万円)、無期雇用転換:1人あたり28.5万円(中小企業は36万円)
・ 例:契約社員を正社員として雇用契約を更新
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金とは、企業が従業員のスキル向上や再教育を目的に職業訓練を実施した場合、その費用の一部を助成する制度です。M&A後に新しい経営方針に適応するための研修や教育を行った場合、この助成金の対象となる場合があります。
「従業員のスキル向上訓練(人材育成支援コース)」「新規事業に伴うリスキリング(事業展開リスキリング支援コース)」「テクノロジー対応スキルの習得(人への投資促進コース)」の取り組みが助成対象となります。「従業員のスキル向上訓練」を例にとると、概要は以下の通りです。
従業員のスキル向上訓練(人材育成支援コース)
・ 内容:職務に必要な知識や技能を習得させるための訓練の実施
・ 助成額:
訓練経費:中小企業は実費の45%(大企業は30%)
賃金助成:中小企業は1人あたり760円/時(大企業は380円/時)
・ 例:業務システムの操作研修、資格取得のための講座費用
働き方改革推進支援助成金
働き方改革推進支援助成金は、中小企業が労働環境の改善や働き方改革を推進する取り組みを行う際に、その費用を支援する制度です。M&A後に労働時間の課題解決や職場環境の整備などを行った場合、当該助成金の支給対象となる場合があります。
働き方改革推進支援助成金は、「勤務間インターバル導入コース」「労働時間適正管理推進コース」「業種別課題対応コース」「団体推進コース」の4つのコースに分かれています。「勤務間インターバル導入コース」を例にとると、概要は以下の通りです。
勤務間インターバル導入コース
・ 内容:勤務終了から次の勤務開始まで一定の休息時間を確保する取り組みを支援
・ 助成対象:労務管理システム導入費、従業員研修費、外部専門家のコンサルティング費用など
・ 助成率:対象経費の75%他
終わりに
補助金や助成金は、正しく活用することで、事業の成長を大きく加速させる強力なツールとなります。とくにM&Aにおいては、資金面での不安を解消し、新たな成長への足掛かりとして重要な役割を果たします。
本記事では、補助金や助成金の基本的な仕組みや違い、活用方法について解説しました。この情報を参考に、自社に適した制度を選び、事業の発展に活用してみてはいかがでしょうか。
なお、補助金や助成金は毎年新たな制度が登場することも多く、常に最新情報をチェックすることが重要です。また適切な制度を見極め、最大限の効果を得るためには、専門家のアドバイスを受けることも有効です。迷った際には、ぜひ信頼できるM&Aアドバイザーや資金調達の専門家に相談してみてください。