スケールメリットとは?ビジネスにおける効果や注意点、シナジー効果との違いを解説

経営・ビジネス
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人口減少で縮小する市場において生き残りを賭け、スケールメリットを活かした経営戦略を採用する企業が増えています。事業規模や生産規模を拡大することで、調達コストの削減や生産効率の向上が望めるためです。
しかしスケールメリットにはリスクも伴います。規模を拡大しても思うような利益に結びつかない、管理体制が整わず品質低下を招く、などかえってマイナスの効果を生んでしまうことも珍しくありません。本記事では、スケールメリットの概要について解説します。

この記事のポイント

  • ビジネスにおけるスケールメリットは、企業が事業や経済活動の規模(スケール)を拡大することで得られるメリットを指す。
  • スケールメリットによって、企業は経営の効率化やコスト削減などが期待できる。
  • 他の企業の力を借りてスケールメリットを享受する方法として、M&Aが挙げられる。

⽬次

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スケールメリットとは?

ビジネスにおいてスケールメリットとは、企業が事業や経済活動の規模(スケール)を拡大することで得られるメリットを指します。

例えば企業が生産量や取引量を増やすと、調達コストや物流コストを削減できるため、生産効率の向上を図ることが可能になります。このように規模拡大の結果得られる優位性などのメリットをスケールメリットと言います。

シナジー効果との違い

スケールメリットと混同しやすい言葉に「シナジー効果」がありますが、両者には明確な違いがあります。

スケールメリットは、前述の通り、企業が事業規模や生産規模を拡大することで得られる、効率化やコスト削減の効果のことです。代表的なものとしては、同業他社を買収することで調達コストを削減したり、大量生産による単価引き下げを実現したりすることなどが挙げられます。

これに対してシナジー効果は、自社の強みと他の企業・事業の強みを組み合わせることで生まれる相乗効果を指します。他の会社とのM&Aを通じて新商品や新サービスを生み出し、新たな市場を開拓することなどが挙げられます。

スケールメリットが規模拡大による効果に重点を置くのに対し、シナジー効果は異なる要素を組み合わせて新たな価値を創出する点において異なります。

スケールメリットが企業経営に与える影響

スケールメリットが企業経営に与える影響の中でも、代表的なものは次の4つです。

経営の効率化

スケールメリットを得るために生産量を増やすと、固定費を多くの製品で分散できるようになるため、1つあたりのコストが削減できます。また物流ネットワークを再編成すれば、重複するルートや設備の無駄が減らせるため、運営効率を高めることも望めます。このように、スケールメリットにより事業全体の効率化が進むため、リソースの無駄使いが大幅に改善できます。

したがってスケールメリットが得られると、最小の社内リソースで最大の効果を引き出すことが可能になり、経営が効率化されます。

生産量の拡大

スケールメリットを得るために生産規模を拡大すると、生産量を増やすことが可能になります。また大量生産体制が整うと、製品1つあたりのコストを削減できるようになるため、価格競争力も高まります。さらに、大量の商品を安定して供給できるようにもなるため、需要の急増にも対応しやすくなるでしょう。

コスト削減

企業が規模の拡大を達成すると、様々な場面でコストの削減が実現できます。生産規模の拡大に伴い原材料などの仕入れが増えるため、単価の引き下げや、資材や部品などの調達費用を抑えられます。また、生産拠点や物流ネットワークの統合も同時に行えば、設備や人員の重複なども避けられるようになるため、全体の運営コストの削減も達成できます。

したがってスケールメリットにより、企業は競争力を高めながら、コスト削減による利益率の向上も図ることができます。

知名度や信用度の向上

事業規模を拡大した結果、企業の知名度や信頼度が向上します。特に全国規模や複数地域で展開する企業であれば、より多くの顧客層に認知されるようになるため、ブランド力の強化が期待できます。

また知名度や信頼性が高まれば、取引先や金融機関からの信用度も向上するため、資金調達や新規取引の獲得をスムーズに進めることも可能になるためです。

このように事業規模拡大にとどまらず、知名度や信頼性の向上にも寄与するため、企業成長の加速化が期待できます。

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スケールメリットの注意点

スケールメリットには、これまで述べたような様々なメリットがある反面、注意すべき点がいくつかあります。そのなかでも特に重要なのが以下の3つです。

余剰在庫を抱えるリスクがある

規模の拡大によって、余剰在庫を抱えるリスクが生じる場合があります。なぜなら、大量生産を行う際には正確な需要予測が不可欠ですが、市場のトレンドは常に変化しているため、それを正確に予測することは非常に困難だからです。需要が予測よりも少なかった場合は、生産された製品が売れ残る結果となる可能性があるでしょう。

また製品のライフサイクルが短い業界では、余剰在庫のリスクがさらに高まります。特に流行に依存する商品や技術革新が早い製品では、売り時を逃した在庫が陳腐化する可能性が高いため、保管コストの増加や資金の滞留といった問題が経営を圧迫しかねません。

したがって、規模の拡大により製品を大量生産する場合は、こうしたリスクを常にコントロールする必要があります。

品質が低下する可能性がある

生産量を増やす過程では、品質管理の難しさやコスト削減に伴う素材や生産工程の変更が生じる可能性があります。こうした問題が生じると、結果的に商品の品質が低下することにつながりかねません。

効果が限定的な場合がある

コスト削減や市場シェア拡大などのメリットをもたらす可能性がある反面、必ずしもすべての企業、すべての状況において効果を発揮するわけではありません。

特定の顧客層に特化したニッチ市場では、大規模な生産体制が必ずしも必要ではなく、むしろ小回りの利く小規模な企業の方が成功する場合があります。また顧客のニーズに合わせて製品をカスタマイズする必要がある場合は、大量生産による効率化が困難なため、こうした市場でスケールメリットを活かすのは簡単ではありません。

さらに、規模を拡大していけばいくほど優秀な人材の確保は難しくなるため、必要な人材の獲得が規模拡大のペースに追いつかなければ、スケールメリットの効果は限定的にならざるを得ません。こうしたことから、スケールメリットの効果が限定的となってしまう場合があります。

M&Aで得られるスケールメリット

スケールメリットを獲得する方法は様々ありますが、効果を期待できる方法の1つがM&Aの活用です。事業規模や生産規模の拡大を自社単独で実現しようとすると、多くの時間や多額のコストがかかるだけでなく、ある程度のリスクも覚悟する必要があります。

M&Aを活用し、既に一定の市場シェアや技術・生産設備を保有する企業を自社グループ内に取り込む、もしくは傘下に入ることで、自社単独よりも短期間で規模拡大の効果が期待できます。

このようにM&Aは、生産コストの削減、市場シェアの拡大、新たな事業への参入など、単独では実現が難しいシナジー効果を生み出し、スケールメリットを最大化するための手段として用いられます。
スケールメリットの獲得にM&Aを活用する際に注意すべき点は以下の通りです。

経営資源の統合と活用

M&Aを活用してスケールメリットを引き出すために重要なポイントは、経営資源を統合し、それをいかに有効活用するかです。

例えば生産拠点の統合を行えば、設備の稼働率を高められるため、コストの削減が達成できます。また物流ネットワークの再編成によって配送効率を向上させれば、運送コストの削減も可能です。
さらに統合された人材やお互いのノウハウを活用すれば、新しい市場や製品開発への展開もスムーズになるでしょう。

このように、統合した資源を有効活用できれば、単にスケールメリットを得る以上のさまざまなシナジー効果を創出することも可能です。

専門家の支援

上述のように、スケールメリットを活かした経営戦略は、すべての企業や状況に適しているわけではありません。したがって状況によっては、スケールメリットが期待通り得られない場合もあります。

またM&Aを実施するためには、法務、財務、税務といった多岐にわたる専門的な知識が求められるうえに、最適な相手とのマッチングを実現しなければ、望むようなシナジー効果の創出はできません。

こうしたことから、M&Aを活用してスケールメリット戦略を推し進めていくためには、専門家の支援は欠かせません。専門家の支援を積極的に取り入れていくことが、スケールメリットを効果的に活かすためには重要となります。

業界別のスケールメリットの具体例

最後に、スケールメリットの具体例を業界別に紹介します。

飲食・小売業

飲食・小売業ではスケールメリットとして、原材料の調達コスト削減や販売ネットワークの拡大が期待できます。
飲食店であれば、複数店舗で共通の食材や商品を大量に仕入れることで、1つあたりの調達コストを抑えることが可能です。また店舗数の増加に伴い物流ネットワークを効率化すれば、配送コストを削減することも望めます。

そのほか規模を拡大していくことで知名度が高まれば、ブランド力の強化や広告費用の分散化にも期待できます。

製造業

製造業におけるスケールメリットの代表例は、大量生産体制の構築による製造コストの削減と、設備の効率化です。実際に自動車産業では、同一のプラットフォームを複数の車種で共有することで生産工程を統合し、コスト削減を実現しています。

また規模拡大により最新設備の導入や技術革新が可能になるため、製品の品質を向上させながら生産効率を高めることもできます。

運送業

運送業における代表的なスケールメリットは、配送ネットワークの効率化と運営コストの削減です。物流企業の多くは、複数の拠点や配送ルートを統合することで空車率を低下させ、効率的な配送を実現しています。

また規模の拡大により、燃料や車両の大量購入によるコスト削減も可能になります。これらに加え、最新のITシステムを導入することにより、配送計画の最適化やリアルタイムの進捗管理も可能です。

教育・人材業

教育・人材業におけるスケールメリットとは、運営コストの削減と提供サービスの多様化です。大規模化を進めるとカリキュラムや教材を共通化しやすくなるため、教材開発や運営費用の削減が望めます。また規模の拡大により、多様な分野の講師が確保しやすくなるため、幅広い教育プログラムを提供することが可能になります。

人材業においては、大規模な登録者データベースが活用しやすくなるため、求職者と企業のマッチング精度を高めることが可能です。

M&Aでスケールメリットを獲得するには

スケールメリットは、企業の成長を加速させる強力なツールです。このスケールメリットを獲得する手段としてM&Aを活用すれば、その効果を最大限に引き出し、効率化、コスト削減、競争力強化などを短期間に実現することも不可能ではありません。

ただしM&Aのプロセスは非常に複雑なため、専門家の支援は不可欠です。リスクを最小限に抑え、最短距離でスケールメリットを得るためには、経験豊富なプロフェッショナルに相談することが重要となるでしょう。

日本M&Aセンターは、企業価値の算出から売却先の選定、契約締結後の統合まで、経験豊富なM&Aのプロが丁寧に一括でサポートいたします。売却・買収をご検討の方は、まずは無料相談をご活用ください。

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M&A マガジン編集部

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