インドネシアの2025年はどうなる? ~経済、外交、国家長期開発計画~
⽬次
- 1. 2024年の振り返り
- 1-1. 新大統領の就任
- 1-2. 首都移転プロジェクト
- 1-3. OECD加盟を表明
- 1-4. BRICSへの加盟意欲を表明
- 1-5. 実質GDP成長率
- 1-6. インドネシア証券取引所への上場数
- 2. 2025年のインドネシア
- 2-1. 経済
- 2-2. 外交
- 2-3. 国家長期開発計画の具体的施策
- 3. 2024年12月に成約したクロスボーダーM&A事例
- 3-1. プロフィール
こんにちは、ジャカルタの安丸です。
2025年におけるインドネシアのマクロ的な展望につき、私見を交えて解説させていただきます。
(今回のこのコラムは、2025年1月8日に作成しています。)
2024年の振り返り
最初に2024年にインドネシアで起こった重要なイベントを、簡単に振り返ってみたいと思います。
2024年はインドネシアにとって、重要なイベントが目白押しの1年でした。
新大統領の就任
10年振りの大統領選挙が実施され、旧ジョコ政権を踏襲するプラボウォ・スビアント氏が第8代新大統領に就任しました。
首都移転プロジェクト
首都をジャカルタからヌサンタラ(カリマンタン島)へ移転する開発プロジェクトが進められ、首都移転の時期が20年後の2045年を目標とする旨が正式に定められました。
OECD加盟を表明
現在、中・高所得国38か国から構成されるOECD(経済協力開発機構)への加盟を東南アジア諸国として初めて表明し、3年以内の加盟につきOECD側もロードマップの作成に入りました。加盟すれば、日本、韓国に続いてアジアでは3番目の加盟国となります。
BRICSへの加盟意欲を表明
ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国等10か国で構成されているBRICSへの加盟意欲を、ASEAN諸国でタイ、マレーシアに続き、インドネシア政府が表明。2024年10月には13か国の候補国から構成されるパートナー国の創設が宣言されましたが、インドネシアもその13か国に加えられていました。
※2025年1月6日、インドネシアは11か国めのBRICS正式加盟国となったことがブラジル外務省より発表されました
実質GDP成長率
2024年の実質GDP成長率については、まだ正式な数字は出ていませんが、5%程度となりそうです。春の大統領選挙や首長選挙等の影響を受け、各企業の新規投資が様子見となったことに加え消費者の購買力が低迷した影響が出たため、当初の政府計画には満たない見込みです。例を挙げると、新車の販売台数も、コロナ禍並みの水準まで減少したとの発表もありました。
インドネシア証券取引所への上場数
IDX(インドネシア証券取引所)への上場(IPO)数は、2024年単年で41社(2024年12月20日時点)と2023年の79社より減少しました。とは言え、ASEAN諸国の中では近年高い上場数を維持しています。なお、2024年のパイプラインとして、潜在的な上場企業が21社あるため、2025年は持ち直す見込みとIDXは発表しています。ただ上場後の株価は低迷している企業が多く、“上場がゴール”となってしまっているような企業が多いのではないかとの印象を持っています。
このように、2024年のインドネシアは大統領選挙の年であったこともあり、選挙の動向を窺う必要があり、経済面では少し停滞した1年であったようです。一方、外交面では2045年の先進国入りを目指し、各国への積極アピールの1年でもあったと言えるかと思います。
2025年のインドネシア
続いて、2025年のインドネシアの展望につき考察してみたいと思います。
経済
実質GDP成長率については、2025年も+約5%と2024年とあまり変わらない政府予想ですが、政治的な不安要素が落ち着いた2025年は、新規投資等が活発となることが予想されます。なお、この+5%という数値は、近隣のASEAN諸国と比較しても相対的に勢いのある数値であり、このまま+5%を維持していけば、2045年に先進国入りも実現可能な数値と見込まれています。
長期的にみても、独立100周年目にあたる20年後の2045年に、一人当たり名目国民所得(GNI)をUS$23,000~30,300/年にすることを目指しています。このUS$30,300という数値は、日本のGNIに迫る勢いのものであり一気に先進国への仲間入りを目論んでいると言えます。またGDPに占める製造業の割合を28%に引き上げる、所得格差を測る指標であるジニ係数を0.290~0.320ポイントに引き下げる等の目標があり、その目標に向けての第一歩となる1年となりそうです。
また、最低賃金の引き上げ率も、ジャカルタ首都特別州が、2025年は2024年から平均6.5%アップと正式に発表しました。政府は、2025年のインフレ率は1.5%~3.5%の範囲を想定しています。
加えて、2024年9月末にインドネシア銀行は政策金利を6%/年と、約4年振りに0.25ポイント引き下げており、この金利下げコストのプラス面が、2025年には企業の投資意欲、個人購買力の増加につながるものと期待されています。
総じて経済面では、2025年は2024年の政治的不安が解消され、前向きな経済環境が整う1年となるかと思います。
外交
新体制となったプラボウォ政権ですが、まずは旧ジョコ政権の施策を踏襲しそうです。
すなわち、対米国、中国、日本と、どの国にも平等に(ある意味したたかに)、外交を進めていくものと予測しています。この外交策は等距離外交と呼ばれており、「全ての国々と友好的な関係を築く」という施策となります。
ただ米国、中国の動向には特に注視しているようで、2024年11月6日には、米国大統領選挙で勝利したドナルド・トランプ氏にプラボウォ大統領自身のX(旧Twitter)で祝意を即座に表明しました。また11月9日には就任後初の外国訪問先として中国を訪問し、習近平国家主席と面談するなど、積極的な外交策を展開しています。この際、プラボウォ大統領は中国企業のインドネシア投資を歓迎するとともに、「一つの中国」政策、「内政不干渉」原則を堅持すると表明されました。おそらく日本とも、このように程よい距離感で付き合っていくものかと思います。
一方で、過去の歴史的背景から、インドネシアは反植民地主義を掲げており、パレスチナの独立を支持するとの意向を表明しています。イスラム教の大国として、この点は注目に値すると言えるでしょう。
国家長期開発計画の具体的施策
2025年は、2045年の先進国入りを目指す国家長期開発計画を推進する大事な1年となりそうです。各目標に向けての具体的な施策は下記の通りです。
- 一人当たりの所得を先進国と同様に。世界5大経済国のひとつに
この目標には、実質GDP成長率(+5%)の達成が政府としての必須条件です。 - 国民の貧困率ゼロ
2025年は、学校給食の無償化、健康診断の無償化等のプロジェクトのトライアル年度となります。 - 国際社会におけるリーダーシップと影響力の拡大
BRICSへの正式加盟が発表された今、OECD加盟への必要条件を満たすための「歩」の一年となるかと思います。 - 人的資本の向上
技能実習生の派遣数の増加、高等教育の充実等が必要です。 - 温室効果ガスの実質ゼロ排出
自動車のEV化促進や、石炭火力発電の割合(現在約6割)の段階的減少、再生エネルギーの導入及びカーボンニュートラルプロジェクトの推進等が見込まれます。
その他に、2025年は、現在進められているジャカルタの地下鉄の南北線の拡張工事はもとより、東西線についても調査段階を終了し、正式に日本の支援を受けて、工事開始の第一歩を踏み出す年です。この地下鉄は、インドネシアと日本の経済的パートナーシップを象徴するものであり、私個人も利用者の一人として誇らしく思っています。
2024年12月に成約したクロスボーダーM&A事例
最後に、当社で2024年後半にお手伝いさせていただいた、日本企業とインドネシア企業とのクロスボーダーM&Aの事例を紹介しまして、コラムの締めくくりとさせていただきます。
〔譲渡企業〕インドネシアのアイスクリーム等冷凍冷蔵食品倉庫・運送業
〔譲受企業〕日本の未上場会社(冷凍冷蔵倉庫・運送業)
〔スキーム〕第三者割当増資を含め、トータル6割超の株式を譲渡
譲受企業は、インドネシアより毎年技能実習生を受け入れている地方の優良企業であり海外への進出は今回が初めてでした。
ASEANに進出するのであれば、実習生を受け入れているインドネシアを第一の候補国との考えを受けて、同業に近いインドネシア企業を紹介。トップ面談から約4か月でのスピード成約となりました。
決め手は、実直な経営をしている企業であること及び譲渡企業の経営陣がパートナーとして信用できる人物であったことが挙げられます。
今後は、両社の従業員の往来も始まり、ノウハウの共有が第一課題かと思いますが、両国の宗教・文化面の相違を理解した上での事業拡大を期待しています。
微力ながら今後も、日本、インドネシア両国の発展に寄与できるM&Aを進めていきたいと思っています。
ご高覧いただきありがとうございました。
<参考文献>
JETRO調査レポート
Mizuho RT EXPRESS 2024年10月16日版