IPOとM&Aの違いとは?メリットやデメリット、選択するポイントを解説
企業がさらなる成長を目指す際に、多くの場合検討される選択肢が、IPO(新規株式公開)とM&A(合併・買収)です。どちらも企業価値を高める手段として非常に効果的なものですが、両者の目的やプロセスには大きな違いがあります。
本記事では、IPOとM&Aの違いやそれぞれのメリット・デメリット、さらには選択する際の判断基準について解説します。
この記事のポイント
- IPO(新規株式公開)は、企業が株式を市場に公開し資金調達を行う手法であり、経営権は創業者や経営陣が維持する場合が多い。
- M&A(合併・買収)は、会社の経営権が移転し、迅速な成長やリソースの補完を目指す戦略である。
- IPOとM&Aは、費用や準備期間、ステークホルダーへの影響が異なり、企業の成長目標や状況に応じて選択されるべきである。
⽬次
IPOとは?
IPO(新規株式公開)とは、企業が自社の株式を株式市場に公開し、多くの投資家から幅広く資金調達を行うことです。IPOを実施した企業は、調達した資金を活用し、さらなる成長や事業拡大を目指します。
また、IPOを行うと知名度や信頼度が上がるため、ブランド価値を高める効果も期待できます。ただし上場後は、経営の透明性や社会的役割がより高く求められるだけでなく、株主への説明責任も増えるため、経営者にはこれまで以上に慎重かつ的確な判断を行わなければなりません。
本章では、IPOに向いている企業の特徴やメリット・デメリット、そして具体的な流れについて詳しく見ていきます。
IPOに向いている企業の特徴
IPOに向いている企業の特徴としては、成長性が高く、安定した収益基盤を持っている点が挙げられます。特に、業界内で一定のシェアを確保しつつ、市場拡大や新事業開発による成長が見込める企業が該当します。また、上場には透明性の高い経営が求められるため、適切な内部統制が整備されていなければなりません。
例えば、創業から数年が経ち、売上規模が10億円以上に達している企業や、すでに事業が黒字化し安定したキャッシュフローを確保している企業などが上場を検討しています。また、近年では環境問題や社会問題解決に貢献するなど、社会的責任(CSR)を果たしている企業が投資家から注目される傾向にあります。
したがって、業績が安定し継続的な利益を上げているだけでなく、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを行い、具体的な成長戦略を持つ企業であることが、IPOに向いている企業の特徴といえるでしょう。
IPOのメリット・デメリット
IPOの最大のメリットは、株式市場を通じて多額の資金を調達できる点です。上場によって得た多額の資金は、研究開発や事業拡大、設備投資などに活用できるため、IPOを実施すれば企業の成長スピードを大幅に加速することができます。また、上場すると企業の知名度が向上し、取引先や顧客からの信頼性が高まることも大きな利点となります。
ただし、上場の準備には最低でも数年は必要とされます。その間にサポートしてくれる監査法人など専門家への報酬、内部統制の強化やコンプライアンス対応など準備や事務作業に対する負担やコスト、そして上場後も維持コストがかかる点が主なデメリットとして挙げられます。
IPOの流れ
IPOの流れは、大きく以下の5つのステップに分かれます。
- 上場準備として、事業計画の策定や内部統制の強化を行う
- 証券会社や監査法人との契約を結び、財務諸表の整備や法的なコンプライアンス対応を進める
- 証券取引所への申請と審査を経て、上場承認を得る
- 投資家向けの説明会を実施し、企業の価値をアピールする
- 新規株式の公募や売出しを行い、株式市場に上場する
これらの過程には多くの時間と労力が必要となりますが、計画的な準備を行うことで、IPOを成功に導くことが可能となります。
M&Aとは?
M&Aとは、企業の買収や合併による組織再編のことで、他社との統合を通じて事業拡大や成長を目指す経営戦略のひとつです。「M&A」とひと口にいっても、新規市場への参入や資源の効率的な活用、シナジー効果の創出、事業承継など、多種多様な目的があります。
売り手の株式を買い手側が買い取って子会社化する株式譲渡や、一部の事業部門だけを切り取って売却する事業譲渡などその手法もさまざまで、状況に合わせて最適なものが選択できるのもM&Aの大きな特徴のひとつといえるでしょう。近年では、中小企業の事業承継の手段としても、多くの企業で活用されています。
M&Aに向いている企業の特徴
M&Aに向いている企業の特徴としては、成長を加速させるために自社単独ではリソースが不足している状態が挙げられます。例えば、新規市場への参入や技術課題の解決を必要とする場合、他社と統合することで効果的に成長を図れます。また競争が激化する中で、競合を取り込んで市場シェアを拡大したい場合もM&Aが有効と考えられます。
また、創業者や経営陣が事業のイグジットを検討している場合にも、M&Aは有効な選択肢といえるでしょう。これ以外にも、後継者不在に悩む中小企業もM&Aの実行が有効といえます。
M&Aのメリット・デメリット
主なメリットは、単独では難しい成長や利益を短期間で実現できることです。例えば、新規市場への迅速な参入や、買収企業の技術やノウハウを活用することで、商品開発や生産性の向上が期待できます。また、規模の拡大によるスケールメリットや事業承継、創業者・株主にとってのイグジット手段としての活用も大きなメリットといえるでしょう。
一方で、企業統合の失敗や文化の違いによる摩擦により、業務効率や士気の低下を招くリスクがあります。また、多額の買収資金が必要となる点や、計画したシナジー効果が得られない可能性などは、M&Aのデメリットとなります。
M&Aの流れ
M&Aのプロセスは、一般的に以下のステップで進められます。
- 自社の課題や目的を明確にしたうえで、対象となる企業の条件を設定する
- 仲介会社などの専門家と契約し、対象企業の選定を行い、買収候補のリストを作成する
- 候補企業との交渉を進め、条件をすり合わせたうえで基本合意を締結する
- デューデリジェンスを実施し、対象企業の財務状況や法的リスクを徹底的に調査する
- デューデリジェンスの結果を基に条件のすり合わせを行い、最終契約を締結する
- 取引が完了したら、関係各所に通知するとともに、統合に向けた準備を始める
こうした一連の流れには多くの専門知識と労力が必要となりますが、専門家のサポートを受けながら計画的に進めていくことで、M&Aの成功率を大きく高めることできます。
IPOとM&Aの違いとは?
IPOのM&Aの主な違いは、以下の通りです。
経営権の違い
IPOとM&Aでは、経営権の扱いが大きく異なります。IPOでは株式を一般公開することで外部から資金を調達しますが、多くの場合創業者や経営陣が一定の株式を保有し続けるため、IPO後も経営権を維持し続けるのが一般的です。ただし、上場後は他の株主の意見に耳を傾ける必要があるため、従来に比べて経営の自由度が下がる点に注意が必要です。
一方、M&Aでは対象企業の経営権が対象企業の経営者から買い手に移ります。
資金調達の違い
IPOでは、株式市場を通じて不特定多数の投資家から資金を集めるため、資金調達の規模は非常に大きくなります。また、事業の成長に伴い新たな資金の調達も望めます。
これに対しM&Aでは、売り手企業の株主が、譲渡した株式の対価を買い手企業から得る形で資金調達が支払われますが、対価がその後増えることはありません。
費用や準備期間の違い
IPOとM&Aは、費用や準備期間にも大きな違いがあります。前述の通りIPOの場合、内部統制の強化や財務諸表の整備、証券取引所の審査など多くの準備が必要です。こうした準備や手続きには一般的に数年単位の期間がかかるうえに、コンサルタントや監査法人などの専門家への依頼費用も大きな負担となります。
M&Aの場合も、自社の経営状況の棚卸しや相手企業探しなどに一定の準備が必要です。また、デューデリジェンス費用や仲介会社への成功報酬などが主な負担となりますが、比較的短期間かつ、(IPOと比べて)費用負担を抑えて手続きを完了できるといえるでしょう。
従業員や取引先に与える影響の違い
IPOとM&Aは、取引先や従業員に対しても異なる形で影響を与えます。IPOでは、上場によって企業の信頼性が大幅に向上するため、多くの安心感を従業員や取引先に与えることが可能です。
これに対しM&Aでは、統合による新たなビジネスモデルやシナジー効果の創出が期待されるため、従業員にとって成長機会が広がる可能性があります。
買い手側の従業員にとっては、新しい人材や技術が加わることで、これまでにない挑戦や学びの機会が得られます。一方で売り手の従業員は、潤沢なリソースやノウハウを活用することで自らのスキルアップが可能となる、働く環境が整うことで安心感を獲得することが期待できます。
また売り手は取引先に対して、より安定した取引を継続的に提供できる点も大きなメリットといえるでしょう。
事業承継の実現可能性の違い
IPOは、一般的に創業者や現経営陣が引き続き経営に携わり続けるため、事業承継の実現手段として直接的に用いられるケースは多くありません。ただしIPOを行うと資金力が大幅に強化されるため、次世代に経営を引き継ぐ基盤を整えるという点で大きな効果が期待できます。
これに対し、M&Aは、親族や従業員への承継が難しい場合などに外部の第三者へ事業承継を行う手法として注目されています。
IPOとM&Aの選択における判断基準
IPOとM&Aのどちらを選択するかは、企業の経営目標や成長フェーズ、そして資金調達のニーズに大きく左右されます。
経営の目標に基づいた選択
IPOとM&Aのどちらを選択するのかを考える際に重要なのは、まず経営者の目標を明確にすることです。IPOは企業の独立性を維持しつつ、長期的な成長を目指す場合に適しています。したがって、上場によって市場から大規模な資金調達を行い、長期的に企業価値を向上させるのを目指す場合は、IPOを選択した方がよいでしょう。
これに対し、M&Aは中長期的な成長を目指す際に有効な戦略です。IPOが独立性を保ちながら市場から資金を調達する手法であるのに対し、M&Aは他社を取り込むことで不足するリソースを補完し、迅速かつ持続的な成長を実現します。また、事業再編や経営資源の最適化を図る場面、あるいは経営者がイグジットを視野に入れている場合にも効果的な選択肢となります。
資金調達とリスク許容度
資金調達の方法やリスクの許容度も、IPOとM&Aの選択を左右する重要な要因となります。IPOを実施すると株式市場から多額の資金を調達できますが、経営の透明性向上や内部統制の整備を行わなければなりません。また上場後は、株価変動や投資家の意見などにも注意を払わなければならないため、一定のリスクを許容できる体制の整備も必要です。
これに対しM&Aの場合は、買い手から直接資金が提供されるため、短期的な資金ニーズにも十分に応えることが可能です。また買収企業との統合によりシナジー効果が得られれば、リスクを分散しながら新たな成長機会を見出すことも望めます。ただし企業評価が適切でなかったり、期待したシナジー効果が創出できなかったりするリスクも考えられるため、買い手によるデューデリジェンスの徹底とPMIの十分な準備はしておかなければなりません。
M&A後にIPOを実現した事例
ここまでは、IPOかM&Aのどちらかを選択するために必要となる基準や考え方などについて解説してきました。最後に、M&Aを選択した後でIPOを実現した事例について紹介します。
AI関連事業を展開する株式会社AVILENは、事業拡大の資金調達と経営基盤の強化を目的にM&Aを実施し、日本M&Aセンターの仲介で、ベンチャーキャピタルのジャフコグループに株式を譲渡しました。そして同社はジャコフグループの支援を受け、内部統制や財務基盤を整えつつ、事業規模を急ピッチで拡大させていきます。
その結果、M&Aのからわずか2年9カ月後に、東京証券取引所グロース市場への上場を実現させました。この成功の背景には、ファンドによる資本や経営ノウハウの提供が大きな役割を果たしていました。
こうした例からも、「M&AかIPOのどちらか」を選択する以外にも、 M&Aを経由してIPOを実現させるルートが存在していることがわかります。この手法のメリットとしては、M&Aによって資本や経営基盤を強化しつつ、IPOに必要な準備を段階的に進められる点が挙げられます。
また、ファンドやパートナー企業の支援を受けることで、成長の加速や上場に向けた体制の整備が効率的に行える点も大きな利点です。このような選択肢を視野に入れれば、経営戦略の幅を広げることができるでしょう。
IPOかM&Aか迷ったら
IPOとM&Aのどちらを目指すべきなのかは、企業の成長戦略や経営目標に大きく影響するうえで、非常に重要な判断です。
こうした重要な判断をサポートするために、日本M&AセンターではM&A仲介以外にも、東京プロマーケットや福岡プロマーケットでの上場を支援する専門チームが在籍しています。
IPOとM&A、どちらの選択肢が最適かお悩みの場合は、ぜひお気軽にご相談ください。専門家が企業の状況や目標に合わせた最適なご提案を致します。