2024年 物流業界のM&A 回顧と展望
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2024年は1月1日に能登半島地震が発生し、翌日には羽田空港で旅客機と航空機が衝突する事故が発生するなど、衝撃的な出来事で幕を開け、多くの方が不安を抱きながら新年をスタートしたのではないでしょうか。
スポーツではパリオリンピック・パラリンピックが開催され、ドジャースの大谷選手が前人未到の「50:50達成」を成し遂げるなど、日本中が熱狂に包まれました。
一方で、政治・経済においては内閣総理大臣やアメリカ大統領の交代、円安が進み一時160円を超え、訪日外国人消費が2023年以上に増加し、103万円の壁撤廃など、政治・経済が大きく動き始めました。
物流業界においては、2024年4月からトラックドライバーを含む自動車運転に関わる「960時間」の時間外労働の上限規制が罰則付きで適用される「働き方改革関連法」が施行され、大きな転換期を迎えました。
2024年の物流・トラック運送業界の公表M&A件数は121件
2024年10月にはトラック事業者を対象に「勤務時間等告示の遵守違反」や「点呼の未実施」に対する行政処分基準の一部改正が発表され、小さな違反でも積み重なれば中小規模の企業にとって大きな打撃となるため、企業の存続と発展のために「ホワイトな経営」が今まで以上に求められる環境になりました。
これらの外部要因の解決策として、豊富な労働力と大きな資本、そして強い採用力を誇る大手物流会社のグループ傘下に入る形のM&Aが当たり前になってきました。
2024年1月から12月末までの物流業界M&A件数は121件でした。
2023年1月から2023年12月末までの物流業界M&A件数97件と比較し、2割以上の増加となっており、業界再編が進展する年となりました。
大手物流企業や中堅・中小企業もM&Aを決断した背景には「2024年問題」が引き続き多く目立ちます。
譲渡企業側の特徴としては、長時間労働ができない中でドライバーの確保によるコストアップを運賃に転嫁することが困難なため、大手の豊富なリソースを活用した生存戦略を描きM&Aを決断した理由が挙げられます。
譲受企業側の特徴としては、譲渡企業側の背景と同様に「2024年問題」を背景として拠点の確保を目指したM&Aの実行が挙げられます。
また、上場企業の特徴としては、上場企業が買い手となる買収や資本参加が121件のうち43件と3割超を占めているように、東証による「PBR1倍割れ改善要請」を背景とした、コストや株価を意識したM&A戦略が挙げられます。
もう一つ大きな特徴としては、買収対象となった譲渡企業の大型化が挙げられます。
現経営陣によるMBO、TOBを含めると5社の上場企業が株式の売却、上場廃止を発表しており、代表的な事例としてはロジスティードによるアルプス物流買収が挙げられます。
2022年に米投資ファンドKKRが買収した後、アセット・ライト戦略を打ち出し、物流センターの売却によりキャッシュを作り、そのキャッシュをアルプス物流の買収資金に充てるという歴史ある物流企業とファンドのタッグならではの戦略で再上場に向けた企業価値向上を図っており、同様の狙いで海外の投資ファンドが国内の大手物流企業を買収対象としたM&A戦略を打ち出してくることも十分に考えられるため、大手の物流企業といえども企業価値の向上が急務といえる状況です。
弊社に問い合わせをいただいた企業層も大企業から中堅・中小企業に至るまで幅広く、今後の物流戦略、2024年問題への対応、事業承継問題への対応、様々な課題に対策を講じるべく行動を起こしていたように思えます。
本コラムでは2024年の物流業界M&Aの動向を大手企業と中堅・中小企業に分けて振り返るとともに、2025年が物流業界にとってどのような年になるか解説していきます。
大手企業のM&A動向と特徴
働き方改革関連法の施行、燃料費の高騰、物価高などの外的要因がある中で、大手物流企業は昨年以上に積極的なM&Aを実行したように思います。
2024年に特に大きなインパクトを残した企業は、宅配大手2社のSGホールディングスとヤマトホールディングスではないでしょうか。
SGホールディングスは佐川急便を傘下に持つ国内大手の総合物流グループで、2024年7月にC&FロジホールディングスのTOBを行い子会社化しました。
C&Fロジホールディングスは名糖運輸・ヒューテックノオリンなどを傘下に持ち、低温食品物流に強みを持つ専門性の高い物流企業グループです。
SGホールディングスは、C&Fロジホールディングスの低温物流のノウハウ・アセットを活かしたシナジー効果を2029年3月期には120億円見込んでいます。
法人領域に強みを持つSGホールディングスは、C&Fロジホールディングスのコールドチェーンを活用し、物流サービスにさらに付加価値を提供することができるようになりました。
次にヤマトホールディングスですが、ヤマト運輸を傘下に持つ国内大手の総合物流グループです。
2024年11月5日に株式の87.7%を保有し、株式会社ナカノ商会を子会社化しました。
ヤマトホールディングスは、さらなる宅急便ネットワークの強靭化を中期経営計画の一つに掲げており、顧客ニーズに合わせた複数の物流機能を一貫して提供するナカノ商会をグループに加えることで、①CL事業の拡大、②EXP事業とのシナジー創出、③両社リソースの共同利用等コストシナジー創出を通した法人ビジネス領域拡大を目標として手を取り合いました。
「2024年問題」の解消がメインだったこれまでの物流業界M&Aから、より成長戦略的に手を取り合い、グループで荷主の物流網を補完しようとするM&Aが今後もさらに増えていくことが予想されます。
中堅・中小企業のM&A動向と特徴
大手物流企業同様に、中堅・中小企業においてもM&Aが活発に実行されている状況が見受けられます。
大手企業のM&Aの波が確実に中堅・中小企業にも波及してきていると実感します。
福岡県に本社を構える福岡運輸ホールディングスは、福岡運輸を傘下に持つ冷凍・冷蔵輸送や定温物流に特化した物流企業で、2024年7月に福島県福島市に本社を置く厚成社をグループに加えました。
厚成社は東北から関東エリアにサービスを展開する定温物流企業です。
中堅・中小企業のM&Aにおいて、異なる地域の企業同士のM&Aのメリットの一つはサービス地域の拡充です。
これは譲受企業だけではなく、グループインした企業にとっても、全国のグループネットワークを生かして、顧客や荷主に一貫した物流サービスを提供でき、新たな取引先の獲得にもつながります。
こういった相互に大きなシナジー効果を実現していくことが、中堅・中小企業の発展及び生存戦略の主軸になってくると思われます。
これらの事例を含めた2024年のM&A事例から、昨今の譲受企業と譲渡企業のそれぞれが考えるニーズは下記の通りとなります。
【譲受企業のニーズ】
- 大手(覇権争い)
・PBR1倍割れ対策
・物流サービスの拡充による覇権獲得 - 中小(物流コストの最適化)
・拠点の確保
・輸送や整備の内製化
【譲渡企業の譲渡理由】
- 大手
・企業価値の向上
・物流サービスの拡充 - 中小
・後継者不在
・経営や物流業界に関する先行き不安
・自助努力の限界
物流業界は慢性的な人手不足、燃料の高騰、2024年問題への対処など課題は山積みですが、一つひとつ解決策を模索しながら行動を起こすことこそが今まさに求められています。
大手を中心に物流業界の再編が進んでいくことで、必然的に中堅・中小でも同じように再編が進むことは間違いないでしょう。
このような環境では会社を譲渡することも譲受することもどちらも正解です。
強いて上げるのであれば、選択肢を増やさない「現状維持」が失敗だと考えます。まずは、選択肢の一つとしてM&Aを検討してみてはいかがでしょうか。
2025年の物流業界の展望~“誰”と手を組み“どこ”を目指すのか~
2024年は昨年以上に大手企業、中堅・中小企業ともにアクションを起こし始めた年でした。
「2024年問題」に突入し、中堅・中小企業がM&Aの情報収集、また弊社への譲渡相談が目に見えて増えてきた1年でした。
会社を譲り渡したい企業様の中には、売却可能性・企業の価値・M&Aの流れなど基本的な事項から知りたいという企業様、従業員の処遇・ご自身の退職金・M&A後も経営陣として残ることが可能なのかなど、M&A実行後の可能性についても知りたいという企業様まで様々です。
背景には協力会社がM&Aで譲渡していたなど、M&Aがどんどん身近になってきたことを実感していることが挙げられます。
譲受企業様も同様です。
また、2024年は「不適切な買い手問題」をはじめ、多くのメディアがM&Aを過去に類を見ないほど取り上げ、インターネットの世界でも真偽を問わずM&Aに関する多くの情報で溢れかえっています。
したがって、今後もM&Aが増加していく見通しの物流業界で企業の存続・更なる成長のためには、“正しい”情報収集し、自社のみで戦うのか、はたまた誰かと手を組み成長する未来を描くのか、だれと手を組むのか、自社は譲受・譲渡どちらの方が会社を良い未来に繋ぐことができるのかを判断し実行する必要があります。
M&Aは経営者様にとって重要な決断です。譲渡側(売り手)オーナーの多くにとって、M&Aは一生に一度の選択であり、大切に育ててきた会社を譲るという大きな決断であり、一度譲渡した後にやり直しはできません。
満足度の高いM&Aの実行で最大の結果を得るための情報収集はいくら早めに始めても早すぎるということはありません。
自社の存続と更なる成長のために選択肢の一つとしてM&Aを持っていただくためにも、情報収集から始めてみてください。
2025年は「情報収集」から「判断・実行」に向けて動き出す企業がさらに増えます。
「2024年問題」、後継者不在、オーナーの高齢化、物流業界の先行き不安から急速にニーズが拡大していますが、「物流業界のM&Aの実情」を知る人は多くないと日々の現場から感じています。
私たち日本M&Aセンター物流業界専門グループは、年間300社以上の物流企業オーナーと面談し、様々な情報を現場から得ています。
その経験をもとに企業様の状況に合わせて様々な提案をさせていただき、一つでも多くの情報を提供すべく尽力しております。今後の物流業界がより発展していくよう努めてまいります。
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