M&Aの成功をデザインする~ PMIの肝は100日プランの準備と実行にあり ~

竹林 信幸

日本PMIコンサルティング代表取締役社長

PMI
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M&Aには「成功」と「失敗」がある

成長を目指す企業にとって、M&Aは大変有効な手段であり、検討していない企業は皆無と言っても過言ではないだろう。「M&Aは有効。そしてシナジー効果を享受するためにはPMI(Post Merger Integration = M&A前に企図したシナジー効果を実現するプロセス)が重要。」という考え方もまた、もはや常識でありこれに異論を唱える方々はいないのではないか。しかしながら、現実の世界に目を向けると、実行されるM&Aは結果として「成功例」と「失敗例」にはっきりと分かれてしまう。

成功例としては、M&A巧者の代表である日本電産を挙げることができる。50を超えるM&Aを実施しているにもかかわらず、一度も減損損失を計上していない。被買収会社の業績を向上させ、買収会社グループの業容を継続的に拡大させている。「戦略はパズルだ」「買収は目利き」といった永守会長兼CEOのM&Aに関する言葉は、大変示唆に富む。

その一方で、新聞などで大々的に報道されているように、日本企業が買収した海外企業をうまく統治(あるいはマネジメント)できず、巨額の損失計上を余儀なくされた総合家電メーカーや住宅設備大手のようなケースは、失敗事例と言えるだろう。何が両者の差を生んでいるのか?

成功するM&A(PMI)には“物語”がある

当社(株式会社日本CGパートナーズ (現 日本PMIコンサルティング))は、「売り手企業と買い手企業がともに成長を実現すること」をM&Aの成功と定義し、PMIをサポートしている。その経験の中で強く感じているのは、「成功するM&A(PMI)には、“物語”がある」ということだ。

“物語”とは「当該M&Aを通じて両社が発展していくためのロジックがしっかりしており、かつ、両社従業員のポジティブな感情を刺激する情熱がある」と定義できる。つまり、PMIを上手に進める会社には、「なぜ(その会社を)買うのか?」「買ってからどうするのか?」という問いに対する、明確な解があり、それを淀みなく言語化できる強みがあるのだ。例えば上述の「戦略はパズルだ」というのは、「自分たちの行きたいところがあって、現在地はどこなので、足りないピースを外部に求めて買収する」ということであり、「買収は目利き」というのは、「対象会社のどこにどう手を入れれば利益率が上がるのか、具体的に想定している」と言い換えることができる。これらは、成功の絵姿と、そこに至るためのプロセス=物語の蓋然性の高さを表している言葉ではないか。

これらの“物語”をしっかりつくるポイントは2点ある。1つめは「backcastで考える」こと。M&A後に取り組むべきことについて、現時点から将来を見通す「forecast」ではなく、将来時点、つまり「出したい成果」から現在に遡って考えることが重要なのだ。【図表1】では、backcastの思考法である「GROWモデル」を紹介する。ゴールが決まっていれば、どういう選択をすべきか、その後何に取り組むべきなのかは自ずと明白になるのだろう。

図表1 Backcast(GROWモデル)で考える

図表1 Backcast(GROWモデル)で考える

2つめは「定性的要素と定量的要素を連動させる」ことだ【図表2】。図表を眺めていただければ、どちらか一方だけでは物事が進まないことが理解していただけるのではないだろうか。我々がPMIのサポートをおこなっている会社のうち、定性面と定量面がバランス良くミックスされ、論理的整合性が高く、感情的に腹落ちしやすい成長ストーリーをお持ちの会社は、比較的スムーズにM&A(PMI)の局面を乗り切っている印象がある。

図表2 成功する“ストーリー”の構成要素

図表2 成功する“ストーリー”の構成要素

M&Aにおいて“物語”を計画するのが“100日プラン”だ。「その物語の主要ストーリーは?」「登場人物は?」「場面は?」「セリフは?」「アクションは?」…M&Aを成功に導くためのPMIは、実施事項が非常に多岐にわたるため、できる限り前倒しで成功シナリオを準備する必要がある。もし準備が後手に回り、M&A成立後にあたふたしている買い手を目の当たりにして、果たして対象会社の経営者や従業員が「(貴社と)一緒になってよかった」と思うだろうか?

今後のM&A市場では、成長のために企業の売却を選択する「戦略的売却」が増えていく。つまり「買ってくれるなら売る」ではなく、「一緒になってどう成長させてくれるのか?」という視点で買い手企業を選ぶ時代になるといえる。当社では、PMIについて以下のチェックリスト【図表3】を活用しながらクロージング前から100日プランを準備することを推奨している。貴社におかれても、このリストを成功シナリオの作成の際の参考としていただき、ぜひ「選ばれる買い手」となっていただきたい。

図表3 M&A戦略の明確化/ターゲット要件定義の項目例

図表3 M&A戦略の明確化/ターゲット要件定義の項目例

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広報誌「Future」 vol.14

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当記事は日本M&Aセンター広報誌「Future vol.14」に掲載されています。

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著者

竹林 信幸

竹林たけばやし 信幸のぶゆき

日本PMIコンサルティング代表取締役社長

国内外コンサルティング会社にて経営コンサルティング業務に従事。オペレーション改善、BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)、M&A支援、企業再生、経営者向けのコーチングなど、豊富なコンサルティング経験を有する。 株式会社日本M&Aセンター入社後、2018年に日本PMIコンサルティング設立時に取締役就任、2020年4月より現職。中小企業庁 中小PMI促進戦略検討会 委員。

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