アウトソーシング&共同エンジニアリングのケース

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M&Aを継続することによって、高ROEを維持

株式会社アウトソーシングは、ここ6年で15件のM&Aを実施してきている(アウトソーシング社適時開示資料より)。茂手木専務のインタビューからも明らかなように、アウトソーシング社は多数のM&Aを継続することにより、選択眼を高め、PMIにおいては独自のノウハウを確立してきた。その結果、のれんの償却負担などにより短期的な低下はあるものの、ROEは中期的に向上してきている。

PMIとは|M&A用語集

この背景には、祖業である製造業アウトソーシング・ビジネスの枠にとどまることなく、建築・土木、IT、医療関連と領域を広げ、その各領域において知見を広め、グループ総合力を高めてきていることがある。すでに事業領域を広げた同社においては、M&A案件の成否の見極め、適正価格、買収後のPMIフローが備わっている。買収価格においては、つねに適正価格の軸がぶれず、高すぎると判断した場合には、泰然と見送るという冷静さも備えている。

ここでは、最近成約した共同エンジニアリング株式会社買収案件を取り上げてみたい。

共同エンジニアリングの事業内容

共同エンジニアリング社は国内外の大手顧客に対して、土木・建築工事、空調・衛生設備、建設コンサルタント、設計、管理業務等の技術者を派遣している。 国内のスーパーゼネコンを中心に抜群の知名度を誇り、国内の現場はもとより、海外に対するインフラ輸出案件でも中核となる人材を供給しており、顧客にとって欠かせない存在となっていた。

共同エンジニアリング株式会社

本社:東京都新宿区 設立:2002年3月 従業員:約530名 事業:建築・土木関連の技術者派遣事業 売上高:約30億円 ※2015年12月15日の取得時点

本件M&Aの背景

共同エンジニアリング社は、2020年の東京オリンピックや老朽化した国内インフラの更新という喫緊の課題や、海外に事業機会を見出し始めた国内大手ゼネコンによるインフラ輸出事業等の拡大トレンドに支えられ、毎年10%以上の着実な成長を続けており、極めて良好な経営状況であった。

しかしながら、顧客より要求される人材の高度化が進み、共同エンジニアリング社の業界内の知名度を以ってしても当該ニーズに応える事ができる人材の採用が思うようにできていないという課題に直面していた。例えば、海外プロジェクトへの派遣のため、英語・フランス語の堪能な1級建築士を派遣して欲しい等のニーズである。顧客からの仕事の引き合いは非常に強いものの、人材採用力の観点から当該依頼を断らざるを得ない状況が続き、収益機会を逃していたことも事実であった。

上記環境下において、共同エンジニアリング社前代表は、自社の今後の成長の為には、自社の弱みを補完できる大手企業グループに参画した方が会社の為、従業員の為になるのではないかと考えた。また、自身の年齢、ご子息が官僚や医師となり、会社を継ぐ可能性が実質的に皆無である現状を総合的に勘案し、M&Aに踏み出した。
但し、前述の通り、現状の経営は好調であり、M&Aの相手は同業のどこでも良いという訳ではなかった。弊社と前代表との複数回に渡るディスカッションの結果、共同エンジニアリング社の更なる成長に資する企業、従業員を託せる企業、具体的には、資本力、人材採用力、営業力等がある同業大手という条件で相手探しをすることとなった。その中でも、経営理念に共感でき、M&Aを多数実行し、確固たるPMI手法を有していたアウトソーシング社と初めに交渉をしたいという申し出となった。

両社のトップ面談に於いては、アウトソーシング社のマネジメント陣は決して上から目線になることなく、むしろ10数年で、ここまでのビジネスを育てた共同エンジニアリング社前代表の手腕を高く評価し、前代表もそのようなアウトソーシング社の姿勢に感銘を受けた。さらに、アウトソーシング社は業績も順調に拡大していることから、「この企業であれば、共同エンジニアリング社を託すことができる」との確信に至り、最終的に譲渡の決断をされる。

アウトソーシング社ROEと営業利益の変遷

アウトソーシング社ROEと営業利益の変遷

本件シナジー

(1)人材採用の更なる強化 (2)営業力の更なる強化 (3)共同エンジニアリング役員及び従業員の更なるモチベーションアップ (4)建築・土木技術者派遣業界におけるアウトソーシング社のプレゼンスの向上

本件実行により、アウトソーシング社の製造業以外での売り上げ構成は約40%となり、祖業と拮抗してきている。共同エンジニアリングとのPMIはいまだこれからであるが、前述したPMIフローをあてはめることにより、アウトソーシング社グループの一員として大きく成長するものと確信している。

広報誌「Future」 vol.10

Future vol.10

当記事は日本M&Aセンター広報誌「Future vol.10」に掲載されています。

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