コラム

株式譲渡(M&A)所得vs給与所得

M&A実務
更新日:

⽬次

[表示]

株式譲渡であれば所得税の税率は固定!

中小企業の社長の皆さまとM&Aのお話をしていると「私はオーナーとして会社から毎年3千万円の役員給与を得ている。もしも会社が2億円で売れたとしても、7年足らずで同じくらいの給与が得られるので会社を売ることにあまりメリットを感じない」とおっしゃる方がかなりいらっしゃいます。 掛け算で考えればその通りのようにも思えますが、実際はそれぞれの税金インパクトを考慮する必要があります。

M&Aの方が手取りが多いという結果

下記に詳しい前提と試算を挙げていますが、これによれば、株式譲渡の方が約2,000万円ほど手残りが多いという結果になりました。これは、給与所得と株式譲渡所得では適用される税率が異なることが大きな理由です。 給与所得は「総合課税」という形で所得税を計算します。所得が増えるほど税率が大きくなり、最高で約55%になります(所得税・住民税合計)。下記ケースですと所得税・住民税あわせて約50%となっています。 一方、株式譲渡所得は「分離課税」という形で所得税を計算します。所得の大きさに関わらず税率は一定で、所得税・住民税あわせて約20%となっています。 また、役員給与は数年にわたって受け取っていくことになるのに対して、株式譲渡はその実行のタイミングで対価が全て入ってくるという違いもあります。入った対価を運用できる点や、昨今の厳しい経済環境を考慮すると、株式譲渡の優位性を感じていただけるのではないでしょうか。

給与所得との比較詳細

前提

  • 法人形態:株式会社
  • スキーム:株式譲渡
  • 株  主:社長でもあるオーナー個人が100%保有
  • 資本金額:1,000万円
  • 株  価:2億円(※仲介手数料等の諸費用は考慮しない)
  • オーナーの役員給与:年3,000万円 (※給与所得控除200万円、基礎控除等の所得控除300万円と仮定)

1)役員給与を7年得た際の手取概算

a

給与所得

3,000万-200万

2,800万円

b

課税所得

a-300万

2,500万円

c

所得税

b×40%-280万

720万円

d

住民税

b×10%

250万円

e

税額計

c+d

970万円

f

手取イメージ

3,000万-e

2,030万円

●7年分の給与所得での手取イメージ f×7年→1億4,210万円

※上記は復興税を考慮せず

2)株式譲渡で会社を第三者に引き継いだ場合

a

株式譲渡対価

2億円

b

株式取得価額

1,000万円

c

株式譲渡所得

a-b

1億9,000万円

d

所得税・住民税

c×20%

3,800万円

f

手取イメージ

a-d

1億6,200万円

●株式譲渡所得(M&A)での手取イメージ 1億6,200万円

株価診断会を申し込む

最後に

中小企業がM&Aに取り組む際には事業承継問題の解決を一番の目的とすることがケースとしては多いわけですが、せっかくであれば今までひたむきにお仕事に取り組んでこられた証を何らかの形で残せれば何よりですね。そのひとつとして、M&Aによりオーナーの皆さまのお手許に相応の対価を残すお手伝いができればと考え、日々業務に邁進しております。

日本M&Aセンター コーポレートアドバイザー室 雙木 達也(なみき・たつや、税理士)

コーポレートアドバイザー室とは? 日本M&Aセンターには、コーポレートアドバイザー室という士業専門チームがあります。CAと呼ばれるこの部署のメンバーは、公認会計士や税理士などの資格者のみが所属しており、M&Aコンサルタントが担当する譲渡希望の顧客企業1社1社についてすべて担当CAが必ずいます。M&Aを進める中で税務・会計面でスキーム構築などのサポートを行い、顧客にとっての最適解、すべての関係者にとっての効果の最大公約数化を目指すことをミッションとしています。法務室と並んで、いわばM&Aコンサルタントのアドバイザー的立場なのですが、もちろん直接お客様のもとへも訪問する、ミドルオフィスの位置づけです。 日本M&Aセンターでは、お客様の安心と業務品質向上のため、このようなチーム体制でサービスの提供を行っています。

日本M&Aセンターの公認会計士・弁護士・税理士・司法書士

著者

M&A マガジン編集部

M&A マガジン編集部

日本M&Aセンター

M&Aマガジンは「M&A・事業承継に関する情報を、正しく・わかりやすく発信するメディア」です。中堅・中小企業経営者の課題に寄り添い、価値あるコンテンツをお届けしていきます。

この記事に関連するタグ

「株式譲渡・M&A税務」に関連するコラム

会社を売りたい。会社売却で知っておくべきポイントとは

事業承継
会社を売りたい。会社売却で知っておくべきポイントとは

事業を継いでくれる後継者が見つからない場合、残される選択肢は廃業、そして会社の売却です。本記事では、会社売却の動向、会社売却のメリットなどを整理したうえで、売却時の注意点や全体の流れについて解説します。事業承継を断念する前に、会社を売却し事業を存続させる方法について話を聞いてみませんか?数々の事業承継をご支援してきたコンサルタントが、M&Aによる取引価額、売却先候補についてご案内致します。ご相談は

家族に株式を譲渡する方法とは?相続、贈与、売買それぞれの特徴を解説

事業承継
家族に株式を譲渡する方法とは?相続、贈与、売買それぞれの特徴を解説

株式会社を家族に継がせるためには、オーナー経営者が持つ株式を、家族内の後継者に譲渡しなければなりません。その譲渡方法は3種類存在しますが、それぞれにメリット・デメリットがあり、また手続きの方法や税金などに違いがあります。本記事では、家族間で株式を譲渡する3つの方法についてご紹介します。事業承継は、今回ご紹介する親族承継のほか、従業員承継、外部への承継があります。それぞれの事業承継のポイントについて

株式譲渡とは?中小企業が用いるメリット・注意点・手続きを解説

M&A全般
株式譲渡とは?中小企業が用いるメリット・注意点・手続きを解説

株式譲渡は、株式の譲渡によってM&Aが完了し、比較的簡易な手続きであることから、中堅・中小企業のM&Aで多く用いられるスキームです。本記事では、株式譲渡の概要、メリットやデメリット、手続きの流れ、税金についてM&Aに精通した税理士がご紹介します。日本M&Aセンターのご支援するM&Aでは約9割の案件で株式譲渡の手法が用いられています。非上場株式が多くを占める中小企業M&Aには特有の論点があります。経

クロスボーダーM&Aにおける株式譲渡契約書の基本

海外M&A
クロスボーダーM&Aにおける株式譲渡契約書の基本

本記事では、クロスボーダーM&Aのスキームとして一般的な株式譲渡の場合に締結される株式譲渡契約書(英語ではSPA、SharePurchaseAgreementやStockPurchaseAgreementと表記されます。)について解説します。株式譲渡契約書(SPA)の一般的な内容一般的な株式譲渡契約書は概ね以下のような項目で構成されていることが多いです。売買の基本事項クロージング及びクロージング条

クロスボーダーM&Aにおける株式譲渡の基本 ~法務~

海外M&A
クロスボーダーM&Aにおける株式譲渡の基本 ~法務~

この記事では、クロスボーダーM&Aの手法として用いられることの多い株式譲渡について、基本的な事項をご紹介させていただきます。クロスボーダーM&Aとは日本企業が外国企業を譲り受けるIn-OutM&Aと外国企業が日本企業を譲り受けるOut-InM&Aを、国境をこえて行われるM&Aということで、クロスボーダーM&Aと呼びます。海外M&Aという呼ばれ方をする場合もあります。@sitelink株式譲渡とは株

海外子会社・海外支店の税金のかかり方比較 ~グローバルなタックスプランニング基本②~

海外M&A
海外子会社・海外支店の税金のかかり方比較 ~グローバルなタックスプランニング基本②~

日本企業が直接的な海外進出を考えたときの代表的な二つの選択肢、「海外子会社」と「海外支店」について税金面を中心に比較します。本記事は、「グローバルなタックスプランニングの基本①『外国子会社配当益金不算入制度』活用のすすめ」と関連する内容になっております。海外マーケットへの進出形態日本M&Aセンターでは、企業の成長戦略実現の一手法として、クロスボーダーM&Aを活用した海外進出を多数お手伝いさせていた

「株式譲渡・M&A税務」に関連する学ぶコンテンツ

「株式譲渡・M&A税務」に関連するM&Aニュース

東祥、子会社の東祥アセットマネジメントの全株式をいちごへ譲渡

株式会社東祥(8920)は、連結子会社である東祥アセットマネジメント株式会社(愛知県安城市)の全株式を、いちご株式会社(2337)へ譲渡することを決定した。東祥グループは、スポーツクラブ事業で「ホリデイスポーツクラブ」、ホテル事業で「ABホテル」、不動産事業で「A・City」を展開している。東祥アセットマネジメントは、不動産に関する管理、投資、運用を行っている。いちごはクリーンエネルギー事業、アセ

旭食品が豪州の水産加工品卸売企業を買収、オセアニアへ進出

旭食品株式会社(高知県南国市)は、LyttonRoadInvestmentsPtyLtd(イギリス)が保有する、TheFishFactoryAustraliaPtyLtd(オーストラリア)の株式を譲り受けた。旭食品は、一般加工食品・冷凍食品・チルド食品・酒類・菓子・家庭用品の卸売業を行っている。TheFishFactoryAustraliaは、オーストラリア国内で、寿司ネタや水産加工品の販売を主力

インテグラル、豆蔵K2TOPホールディングスの株式を荻原商事に譲渡へ

インテグラル株式会社(5842)、並びにインテグラルグループが運用するファンドであるインテグラル3号投資事業有限責任組合及びInnovationAlphaL.P.(以下、両ファンドを総称して「3号ファンドシリーズ」、及びインテグラルグループと3号ファンドシリーズを総称して「インテグラル」)は、インテグラルの投資先として保有する株式会社豆蔵K2TOPホールディングス(東京都千代田区、以下「豆蔵K2T

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース