M&Aのディールとは?手順やポイントについて徹底解説
⽬次
- 1. M&Aのディールとは
- 2. 金融機関におけるディールとは
- 3. M&Aのディールと関連する用語
- 3-1. 1. プレディール
- 3-2. 2. ポストディール
- 3-3. 3. ディールサイズ
- 3-4. 4. ディールメーカー
- 3-5. 5. ディールブレーカー
- 4. M&Aにおけるディールを行う全手順
- 4-1. ①M&Aの専門家に依頼する【プレディール】
- 4-2. ②M&Aの戦略を練る【プレディール】
- 4-3. ③M&A先の企業を選定する【プレディール】
- 4-4. ④M&A先の企業を決定する【ディール】
- 4-5. ⑤条件交渉、スキームの決定を行う【ディール】
- 4-6. 株式譲渡
- 4-7. 株式交換
- 4-8. 株式移転
- 4-9. 事業譲渡
- 4-10. 会社分割
- 4-11. 合併
- 4-12. ⑥本合意書を交わす【ディール】
- 4-13. ⑦デューデリジェンス(買収監査)を実施する【ディール】
- 4-14. ⑧最終条件の調整、最終契約書を作成する【ディール】
- 4-15. ⑨終契約書の締結、成約へ【ディール】
- 4-16. ⑩PMIの実行【ポストディール】
- 5. M&Aのディールで失敗する要因
- 5-1. 価値観や条件が一致しなかった
- 5-2. 売り手企業側に重大なリスクが発覚した
- 5-3. ディールの途中で業績が悪化した
- 5-4. 期待したシナジー効果が見込めなかった
- 5-5. 社内に情報が漏れて混乱を招いた
- 6. M&Aのディールを成功に導くポイント
- 6-1. M&Aを行う目的や条件の明確化
- 6-2. 対等な立場に立った誠意ある対応を心がける
- 6-3. M&Aの専門家に相談する
- 7. 終わりに
- 7-1. 著者
海外の映画やドラマを見ていると、ビジネスの交渉が行われるシーンで「It’s deal(よし、これで手を打とう!)」というセリフを耳にしたことはありませんか?このdeal(ディール)という言葉は、私たちの日常会話でも近年用いられる機会が増えており、たとえば、自動車メーカーと特約店契約を結んだ正規販売店は「ディーラー」と呼ばれます。
一方M&Aの世界でも、「ディール」が頻繁に使われています。ただし、そこで使われている言葉の意味は、私たちが普段耳にしている「ディール」と異なります。そこで本記事では、M&Aにおけるディールという言葉の意味やその手順、そしてディールする上での大切なポイントや成功に導くためのコツなどについて解説していきます。
M&Aのディールとは
日本語として「ディール」という言葉を用いる場合は、一般的に「取引をする」ことを意味します。しかしM&Aで用いられる場合は、M&Aのプロセス全体を表す言葉として使われます。
M&Aの準備からM&A後の統合を済ませるまでの一連の流れが「ディール」です。具体的には、M&Aの準備からはじまり、売り手(もしくは買い手)との交渉やスキームの選定、デューデリジェンスやM&Aの実行とクロージング、そして買収後のPMIまでのすべてがディールに含まれます。ちなみに、非常に大規模なM&Aの場合はメガディールと呼ばれる場合があります。
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金融機関におけるディールとは
一方、金融機関でも「ディール」は頻繁に使われます。金融機関におけるディールは、金融機関に預けた顧客の資産を扱う(=運用する)意味で使われます。顧客が預けた資産を運用する運用者はディーラーと呼ばれ、たとえば外国為替取引を行う運用者は、外国為替ディーラー(もしくは「外為ディーラー」や「為替ディーラー」など)と呼ばれます。
M&Aのディールと関連する用語
M&Aにおけるディールでは、関連する用語が頻繁に使われます。ここでは主な5つを紹介します。
1. プレディール
プレディールとは、 M&Aを実施する前に行う事前検討と、ディールに向けた準備 を指します。
具体的には、社内での検討を経た上でM&Aの専門家(仲介会社など)に依頼し、M&Aに向けた戦略を練り上げた上で対象となる企業の選定を行うまでの過程がプレディールに含まれます。
M&Aの目標設定や戦略など、M&Aの全体に影響するすべての事柄を策定していくのがこのプレディールです。したがって、仲介会社の選定をはじめ、ここでのプロセスは丁寧に行わなければなりません。仮にプレディールでのプロセスが不十分なままで見切り発車してしまうと、思った通りのゴールにたどり着くことは難しくなってしまうでしょう。
2. ポストディール
ポストディールとは、 M&Aを実施した後の統合手続き です。M&Aの最終契約書を締結しても、この時点では売り手と買い手における契約書上の手続きが完了したに過ぎません。これを実際に稼働させるために、さまざまな実務上の手続きを行うのがポストディールです。具体的には、工場などの生産設備や事務所だけでなく、企業文化や社風、給与体系や営業方法などさまざまなものを統合していきます。
M&Aで予想通りのシナジー効果を発揮できるかどうかは、ポストディールの統合手続き(=Post Merger Integration、略称PMI)にかかっていると言っても過言ではありません。そのため、PMIは仲介会社などのサポートを受けながら行うのが一般的です。
3. ディールサイズ
ディールサイズとは、M&Aの取引金額の規模や大きさを指し、次の3つに分類されます。
小規模取引 | ディールサイズが1億円以下のM&Aを、小規模取引と言います。 スモールM&Aとも呼ばれ、個人事業や小規模企業、インターネットサイトのM&Aなどが小規模取引に該当します。 この規模のM&Aは新聞などで取り上げられることが少ないため、目に触れることはあまりありませんが、毎日のように行われているのがこの小規模取引です。 |
中規模取引 | ディールサイズが数億から数十億規模となるM&Aが、中規模取引です。ベンチャー企業や地方優良企業をはじめ、中小企業におけるM&Aの多くは、この中規模取引に該当します。 小規模取引と比べると検討すべき内容や課題が多く、またスキームの選定やタックスプランニングなども非常に高度になるため、ほとんどの場合仲介会社などの専門家のサポートを受けながら進められます。 |
大規模取引 | ディールサイズが数百億規模以上のM&Aが、大規模取引です。資金調達を引き受ける投資銀行などが中心となり、M&Aの交渉や成立までのプロセスは他規模のものよりも時間をかけて行われます。私たちがテレビや新聞などを通して知るM&Aの多くは、この大規模取引です。 |
4. ディールメーカー
ディールメーカーとは、M&Aのディールを作り出す買い手企業を中心としたM&Aプレイヤー全般を指します。具体的には、買い手企業をはじめ、仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)、金融機関などがディールメーカーに該当します。
5. ディールブレーカー
ディールブレーカーとは、M&Aのディールを破談させる人ではなく、ディールを破談する要因です。財務や法務のデューデリジェンスを行うと、大小さまざまなリスク(粉飾決算やコンプライアンス違反など)が検出されることがあります。これらのリスクを検討した結果、M&Aそのものを取りやめることになった場合、このリスクがディールブレーカーと判断されます。
M&Aにおけるディールを行う全手順
M&Aにおけるディールのプロセスはその内容に応じて細分化されており、主に以下の手順で行われます。
【プレディール】 | 【ディール】 | 【ポストディール】 |
---|---|---|
① M&Aの専門家に依頼する ② M&Aの戦略を練る ③ M&A先の企業を選定する |
④ M&A先の企業を決定する ⑤ 条件交渉、スキームの決定を行う ⑥ 基本合意書を交わす ⑦ デューデリジェンスを実施する ⑧ 最終条件の調整、最終契約書を作成する ⑨ 最終契約書の締結、成約へ |
⑩ PMIを行う |
これらのプロセスを詳細に解説します。
①M&Aの専門家に依頼する【プレディール】
はじめに、社内で自社の強みや弱みなどを整理し、「M&Aが本当に必要なのかどうか」「M&Aによって何を達成したいのか」を明確にします。「M&Aをしている会社が多いから、何となくM&Aで現状打破を」という程度では、思った通りのゴールにたどり着くことは難しいでしょう。M&Aを実行する意志が固まったら、次に必要なのがM&Aの専門家への依頼です。一部の特別なケースを除けば、M&Aが未経験であるかM&Aに対する知識や経験が不足している企業がほとんどです。したがって、自力でやろうとするのは無理だと考えた方が良いでしょう。M&Aのディールには多額の資金が投入されるため、失敗は許されません。一歩間違えば、企業にとって致命的なダメージとなりかねないため、M&Aの専門家への依頼が必要になります。
中小企業がM&Aを行う場合は、多くの場合M&Aの仲介会社に依頼しますが、その際にどの仲介会社に依頼するのかは極めて大切な問題です。仲介会社の持つ売り手企業のリスト数が少なければ、思い通りの企業にアプローチできないかも知れません。また、知識や経験が不足している担当者に当たってしまったら、成約するはずのM&Aも失敗する恐れがあります。そのため、M&Aの実績や経験が豊富で、担当するアドバイザーの質が高い仲介会社を探すことが重要です。
②M&Aの戦略を練る【プレディール】
仲介会社との契約が済んだら、M&A全体の戦略を作ります。そもそもM&Aの目的が何であるのかを、仲介会社を交えてもう一度明確にしておかなければなりません。M&Aを成立させることだけが目的になってしまいがちですが、M&Aは会社を成長させるための手段のひとつに過ぎません。そのため、M&Aを通して何を実現したいのか改めて明確にしておくことが大切です。
総合的・客観的な評価により、自社の企業評価やマーケット動向を把握しながらM&Aの戦略を練り上げていきます。買い手企業であれば、自社の現状に合わせて以下のどのタイプのM&Aを行うのか検討していきます。
- 既存事業の拡大を狙うM&A⋯⋯自社と同業の売り手企業をM&Aで吸収して、売上高をはじめとする事業規模の拡大を狙います。スケールメリットを生かしたコストダウンや、販売エリアの拡大などに使われます。
- 関連事業の獲得を目指すM&A⋯⋯自社と関連のある事業を行っている企業をM&Aで吸収して、取り扱う商品やサプライチェーンの拡大を目指します。
- 新規事業の獲得を目指すM&A⋯⋯既存の事業と関係ない事業を行っている売り手企業をM&Aでグループ企業として迎え入れ、多角化経営を行うことで経営リスクの分散を目指します。
反対に売り手企業の場合は、自社のアピールポイントを整理した上で、理想の譲渡先としてどのような企業をイメージするのかを明確にしていきます。
③M&A先の企業を選定する【プレディール】
M&Aの目的や戦略が整理できたら、具体的に対象となる企業の選定に入ります。買い手企業であれば、仲介会社が持っている売り手希望企業のリストの中から自社のニーズに合ったものを探していきます。
この時、閲覧する売り手希望企業の情報が書かれた匿名の資料が「ノンネームシート」です。ノンネームシートは、秘密保持契約を締結することなく閲覧できるため、売り手が特定できない程度に業種やエリアなどが秘匿されています。
このノンネームシートを見て関心を持った場合は、仲介会社と秘密保持契約を締結した上で、さらに詳細な情報が記載された「企業概要書(Information Memorandum、略称IM)」を開示してもらい、M&Aに向けた本格的な検討を行います。
一方、売り手企業がこの段階で買い手企業を探すために行うのが、ノンネームシートの作成です。M&Aが成立するまでは、情報の秘匿を最優先し、漏洩防止に細心の注意を払わなければなりません。したがって、ノンネームシートを見ただけでは自社が特定されないように秘匿性を高めておかなければなりませんが、同時に見た人の関心を引き付けるアピールも必要です。ちなみに、このノンネームシートは、多くの場合仲介会社が売り手企業のインタビューなどを行った上で作成します。
④M&A先の企業を決定する【ディール】
買い手企業は企業概要書をもとに、M&A先の企業を決定します。決定後に売り手と買い手の経営者の間で行われるのが「トップ面談」です。
トップ面談は、お互いの経営者が顔を突き合わせて直接話すことで、企業概要書だけでは分からないお互いの人間性や企業文化、M&A後の方針などを理解する目的で行われます。面談は売り手企業のオフィスなどで行われるのが一般的で、その際には仲介会社が同席し、面談がスムーズに進むための進行役を果たします。
⑤条件交渉、スキームの決定を行う【ディール】
M&A先の企業が決定したら、次はM&Aの成立に向けた条件交渉です。売り手企業の譲渡価格をはじめ、従業員の処遇や取引先との契約、譲渡時期などを話し合って決定します。
こうした条件交渉のプロセスにおいて、最も大切なものが M&Aスキームの決定 です。M&Aにはさまざまなスキームがあり、どのスキームを用いるのかによって売り手や買い手に大きな影響が及ぼされます。
ここではM&Aで用いられる主なスキームについて紹介していきます。
株式譲渡
株式譲渡とは、売り手企業の株主が持っている株式を買い手企業が買い取ることで、売り手企業を買い手企業の子会社化するスキームです。買い手企業が売り手企業の株式のすべてを買い取るのが一般的であるため、売り手企業は買い手企業に対して完全子会社化します。
基本的に株式の売買のみで売買手続きが成立するので、手続きのための高額な費用や煩雑な手間などが必要でないことなどから、大半のM&Aではこの株式譲渡がスキームとして選択されます。
株式譲渡を選択した場合の売り手側のメリットとして挙げられるのが、株式売却時の税負担の少なさ(売買金額に関係なく、一律で約20%)です。ただし、デメリットとして、株主全員の同意がなければ100%の株式を譲渡できない点が挙げられます。
一方、買い手側のメリットとして挙げられるのが、手続きが簡単である点に加え、M&Aによって売り手側が変わるのは株主の構成だけに留まるため、M&A後の運営がスムーズに行いやすい点です。ただし、デメリットとして、会社を丸ごと買い取るため売り手企業に内在している潜在的なリスクもそのまま引き継ぎかねない点などが挙げられます。
株式交換
株式交換とは、対象となる企業を完全子会社化する目的で、親会社が保有している自社の株式を子会社の株主が保有している株式と交換する企業再編の手法のひとつです。
子会社の株主が対価として受け取るのが親会社の株式となるため、親会社が非上場企業であれば、受け取った株式を現金化できません。したがって、このスキームが選択されるケースでは、親会社が上場企業であることが大半です。
次に、株式交換のメリットとしては、完全親子会社を成立させるための買収資金が不要な点が挙げられます。対象企業を子会社化するためには、通常ならかなりの買収資金が必要となります。しかし株式交換による完全子会社化であれば、対価として自社株を交付するだけで済むため、特別に資金を調達する必要がありません。したがって、M&A後にキャッシュフローが悪化することもありません。
一方、株式交換のデメリットとしては、買い手企業の株主構成が変わってしまう点が挙げられます。親会社と子会社の株式交換比率によっては、株式交換後の親会社の株主構成が大幅に変わってしまう可能性もあります。場合によっては、今後の経営に問題が生じてしまうこともあり得るため、大きなデメリットになりかねません。
株式移転
株式移転とは、既存の会社が発行済株式のすべてを別の会社に取得させることで完全親子会社を設立する企業再編の手法のひとつです。子会社となる既存の会社は2社以上の場合が多く、親会社を頂点とした持株会社化することもあります。
株式移転の主な目的は、持株会社を新たに設立して異なる会社同士が生き残りをかけて経営統合する場合や、企業グループ内における持株会社化や統廃合による再編などです。
次に、株式移転のメリットとしては、株式交換と同様に完全子会社化するための買収資金が不要な点や、買収対象企業における株主の3分の2以上が賛成すれば、それ以外の株主から賛同が得られなくても強制的に排除して完全子会社化できる点などが挙げられます。
一方、株式移転のデメリットとしては、株式交換と同様に完全親会社の株主構成が変化してしまう点や、手続きが煩雑な上に時間がかかること、親会社の1株あたりの利益が下がるため上場企業であれば株価が落ちる可能性がある点などが挙げられます。
事業譲渡
事業譲渡とは、対象となる会社の一部門だけを切り抜いて売却するM&Aの手法のひとつです。株式譲渡が会社を丸ごと買い手側に譲渡するのに対し、事業譲渡は部門や店舗などを切り取って譲渡するため、譲渡後も売り手側の会社は存続します。
飲食店や美容院のように多店舗展開している会社が不採算部門を切り離すのに大変使いやすい手法であるため、小規模なM&Aではこのスキームが頻繁に用いられています。
このような売り手側のメリットに対し、買い手側のメリットは買収したい部分だけを買収できる点や、余分や資産や負債を引き継がなくても良いという点です。
株式譲渡のように会社を丸ごと買う場合、どうしても自社にとって必要でない部分まで買わなければならないため、買収価格が高騰してしまうことがあります。また、引き継ぎたくない債務なども引き継がなければなりません。しかし、事業譲渡であれば、このような心配をする必要がありません。こういった点が買い手側のメリットとして挙げられます。
一方、売り手のデメリットは、資産などを個別に譲渡していくため、その都度契約が煩雑になる点であり、これは買い手側にとっても同様にデメリットです。
会社分割
会社分割とは、会社が展開している事業の一部(もしくは全部)を本体から切り離し、別会社に移転するM&Aの手法のひとつです。事業を切り離して別会社に移転できるため、会社の抜本的な立て直しや経営のスリム化などを主な目的として行われます。
分割の方法は大きく2種類あり、法人を新設して行うのが「新設分割」で、既存の法人に事業を承継させるのが「吸収分割」です。
本体から切り離して譲渡する点は事業譲渡と似ていますが、対価として株式を交付する点や、移転にともない個別に契約を結ぶ必要がない点などが大きく異なります。
次に、会社分割のメリットとして挙げられるのが、対価として交付するのが自社株であるため、買収資金の用意が不要な点です。これ以外にも、手続きが簡単な点や目的に応じた柔軟な事業承継が行える点などが挙げられます。
一方、デメリットとしては、債務などを引き継ぐリスクがある点や、「適格分割」か「不適格分割」になるかで税務上の取り扱いが大きく異なるため手続きが複雑であることなどが挙げられます。
合併
合併とは、複数の会社が法的にひとつに統合されることを言います。ただし、いきなり複数の会社が合併するケースは少なく、いったん完全親子会社となって統合をある程度進めた上で合併が行われる場合が多いです。
合併には、親会社が子会社を吸収する「吸収合併」と、新たに法人を設立し、その法人が合併によって消滅する法人の権利義務を引き継ぐ「新設合併」の2種類があります。
吸収合併には、合併によって会社の事業規模が拡大するのはもちろん、新設合併よりも合併の手続きが簡単に済む点や消滅会社に繰越欠損金があるとそれを引き継げる場合がある点などがメリットとして挙げられます。
ただし、存続会社が非上場企業の場合は合併の対価として株式を交付するのが難しいため買収資金が必要となる点や、吸収合併によって被吸収側の従業員のモチベーションが低下するリスクなどがデメリットです。
一方、新設合併のメリットは、合併によるマイナスイメージを持たれにくい点や、合併による事業規模の拡大などが挙げられます。しかし、吸収合併と比べるとコストや手続きなどが煩雑な上に、許認可や免許などを再取得しなければならない点などがデメリットです。
⑥本合意書を交わす【ディール】
ここまでの話し合いを通じ、M&Aの対価や役員の処遇など様々な条件やスキームがある程度固まった段階で、売り手と買い手の合意事項を確認して、契約書を締結します。これが基本合意書です。基本合意書は、これまでの合意事項からM&A成立に向けた交渉を円滑に行うために締結されます。
⑦デューデリジェンス(買収監査)を実施する【ディール】
基本合意書を締結したら、次に行われるのが、買い手企業による売り手企業のデューデリジェンス(買収監査)です。デューデリジェンスは、財務や法務・税務などをはじめ、さまざまな角度から行われます。特に、財務や税務・法務などのデューデリジェンスは、一般的に公認会計士や税理士・弁護士などの専門家によって行われ、売り手企業の規模などによっては高額になることも珍しくありません。しかも、これらの費用は基本的にすべて買い手企業が負担します。
しかし、デューデリジェンスを行わなければ、売り手企業の状況を買い手企業が正確に把握できません。
したがって、デューデリジェンスは、買い手企業が売り手企業の企業価値評価を正確に行い、M&Aのシナジー効果やリスクなどを正しく理解する目的で実施されるわけです。
さらに、デューデリジェンスを行うと、売り手企業の抱えている問題を売買価格や最終契約書に反映させられます。適正な価格や条件でM&Aを行い、トラブルを未然に防ぐためにも、デューデリジェンスはM&Aのプロセスにおいて極めて重要な地位を占めているといえます。
⑧最終条件の調整、最終契約書を作成する【ディール】
基本合意書締結後に行われたデューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な売買価格やM&Aに関する諸条件などを調整し、両社の合意を得た上でそれをまとめて作成するのが最終契約書です。
基本合意書は交渉過程の確認やそれまでの合意事項をまとめたものであり、独占交渉権や秘密保持義務などを除けば法的拘束力を持たない契約に過ぎません。これに対し、最終契約書は契約違反に対して損害賠償請求ができる法定拘束力を兼ね備えています。
⑨終契約書の締結、成約へ【ディール】
最終契約書を締結すると、M&Aが成約します。日本M&Aセンターでは、両社のこれまでの道程とこれからの成長を願い、無事成約を迎えた両社とともに「M&A成約式」を執り行っています。
M&Aは会社同士の結婚式にたとえられることがあります。しかし、結婚のゴールが結婚式ではないように、M&Aのゴールも成約式ではありません。これからは、お互いの企業文化を理解し、お互い手を取り合って成長していかなければなりません。そのための第一歩として、全国各地でM&A成約式が行われています。
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⑩PMIの実行【ポストディール】
最終契約書の締結によってM&Aは無事成約しましたが、この段階ではまだ実際に売り手企業と買い手企業がバラバラに存在しているだけです。M&Aの成立後に、この両社を実際に統合させていく作業がPMIです。
統合させていく対象は、財務経理をはじめとする業務オペレーションやITシステムだけでなく、企業文化や経営ビジョンなども含まれます。
M&Aによって買収された側の従業員の大多数は、今後の処遇などに大なり小なり不安を抱えています。この不安を取り除き、十分に説明を果たした後で理解してもらえなければ、コアとなる社員の離脱や大量離職は避けられません。これは、得意先との取引も同様です。
したがって、M&Aで思い描いたシナジーを実現させるためには、PMIを迅速かつ的確に行うことが極めて大切です。
なお、一般的にPMIは以下のプロセスで行われます。
実行プロセス | 実施内容 |
---|---|
マッチング | M&Aで実現したいビジョンを明確にした上で、マッチングを行います |
成約前準備 | M&Aの成約前の段階で、PMIを進める上で必要な論点などを洗い出します |
ディスクローズ | M&Aの発表にともない、従業員のケアなどに尽力し、不信感が起きないように努めます |
現状把握 | 売り手企業の担当者などにインタビューを行い、PMI実施に向けて売り手企業の現状をできるだけ正確に把握します |
100日プランの作成・実行 | 成約後約3ヶ月間行うPMI(100日プラン)について、重要度の高いものから順に何をどれだけ行うかをリストアップし、実行します |
実行計画の作成・実行 | 100日プランに盛り込まれなかった内容をピックアップし、順次実行に移します |
モニタリング | 実行計画の進捗状況をモニタリングします |
M&Aのディールで失敗する要因
M&Aのディールは手順通りに行っても必ずしも成功するわけではありません。それでは、どのような場合にディールが失敗に終わってしまうのでしょうか?ディールが失敗に終わるパターンやその原因は、主に以下の5つに分類できます。
- 価値観や条件が一致しなかった
- 売り手企業側に重大なリスクが発覚した
- ディールの途中で業績が悪化した
- 期待したシナジー効果が見込めなかった
- 社内に情報が漏れて混乱を招いた
価値観や条件が一致しなかった
企業文化などの価値観は、会社ごとにそれぞれ違うのが当たり前です。それは、基本合意後に行われるトップ面談などを行えばある程度は理解できるでしょう。問題は、その価値観の不一致が統合後も解消されないままで放置されてしまった場合です。
たとえば、職人気質で品質の向上のみを追求する企業風土の会社で育った社員と、事業の収益性や規模の拡大を追求していく企業風土の会社で育った社員とでは、統合によって事業を一緒に行うのは難しいでしょう。なぜなら事業に対する価値観がまったく違うからです。これを放置したままにしておくと、ディールそのものが失敗に終わりかねません。
また、条件のすり合わせも大切です。M&Aは、売り手と買い手の双方が条件をそれなりに譲り合わなければ成約までなかなか進みません。売り手側(もしくは買い手側)の希望ばかりを押し通そうとすれば、相手側の不満と不信感は募ります。そうなれば、M&Aのディールが破談になりかねません。
売り手企業側に重大なリスクが発覚した
デューデリジェンスの目的は、売り手企業が抱える問題点をさまざまな角度から検出していくことです。したがって、デューデリジェンス後に問題点が浮かび上がること自体には何の問題もありません。むしろ、デューデリジェンスとしては成功に終わったといえるでしょう。ただし、問題は浮かび上がったリスクが重大すぎる場合です。
簿外債務や法令違反がデューデリジェンスによって発覚し、M&Aによって統合するにはリスクが大きすぎると買い手側が判断した場合は、ディールは失敗に終わってしまいます。
とは言え、デューデリジェンスによってさまざまな問題が検出されること自体は問題ではありません。事前に問題をあぶり出せれば、先回りして統合前に対処したり両社で解決に向けた対応を協議したりすることは十分に可能です。
ディールの途中で業績が悪化した
M&Aのディールを行っている途中で、業績が悪化してしまうことがあります。それ自体は珍しいことではありませんが、その程度が著しい場合はディールそのものが立ち消えになることもあります。
仮に、買い手側の業績が大幅に悪化してしまったらどうでしょうか?場合によっては買収資金の用意が難しくなってしまい、M&A自体が不可能となってしまいます。したがって、このような場合は、売り手側に何の問題もなかったとしても、ディールが失敗に終わってしまうケースもあるのです。
反対に、売り手側の業績が悪化した場合はどうでしょうか?M&Aは短期的な損益だけを見て行われるわけではないため、多少業績が悪化した程度ではディールそのものが消滅してしまうことはあまりありません。
ただし、今後の事業を継続するにあたって重大な問題が生じるほど悪化した場合などには、買い手からM&Aを断られ、ディールが失敗に終わるケースもあります。
期待したシナジー効果が見込めなかった
M&Aの目的のひとつは、統合によるシナジー効果の創出です。1+1が2ではなく、3にも4にもなるからこそ、買い手側は困難な方法をとってでもM&Aのディールを行っています。
このシナジー効果を発生させるためには、売り手と買い手の双方が全力でM&Aに取り組まなければなりません。しかし、それでも残念ながら期待したシナジー効果が見込めなかった場合、ディールは失敗してしまいます。
社内に情報が漏れて混乱を招いた
M&Aの情報は、最小限の人間の間だけに留めておかなければなりません。万が一社内に情報が漏れてしまうと、根拠のないうわさ話や憶測が飛び交い、社員が不安を募らせてしまいます。こうなると、最悪の場合、社員の大量離脱を招きかねません。
仮に、売り手企業の主要業務を行っているコア人材が大量に退職してしまえば、M&A後の収益性は大幅に低下して、思い描いたシナジー効果を発揮することが難しくなるでしょう。
したがって、このようなケースではディールが失敗に終わってしまいます。
M&Aのディールを成功に導くポイント
最後に、M&Aのディールを成功に導く3つのポイントを紹介します。
M&Aを行う目的や条件の明確化
M&Aは会社を飛躍させるための手段であり、目的ではありません。M&Aを通じて何を獲得し、その結果どのようになりたいのかを明確にイメージしておかなければ、ディールの成功すら定義できません。
同時に、条件もはっきりさせておかなければなりません。売買金額や企業文化の承継、従業員の雇用継続など、どういった条件が大切なのかも明確にして、ゴールのイメージをはっきりさせておくことが大切です。
対等な立場に立った誠意ある対応を心がける
M&Aは法律に基づく契約行為ではありますが、お互いに大切な会社をめぐり、経営者を中心とした協議によってディールは進められていきます。そのため、条件や金額だけですべてが決まるわけではありません。相手の立場を尊重し、時には譲り合いながら対等な立場で誠意ある対応を心がけなければなりません。
M&Aの専門家に相談する
多くの経営者にとって、M&Aは人生最初で最後の経験になるはずです。ですが、最初で最後ということは、経験がないため、何をどのようにすれば良いのか皆目見当がつかないはずです。そこで大切なのが、専門家への相談です。
M&Aを進めていくためには、高度な法律知識が必要です。民法はもちろんのこと、法人税法や所得税法などさまざまな専門知識が求められます。こういった知識は、専門家でなければ持ち合わせていないでしょう。そのため、M&Aのディールを成功させるためには、まず専門家に相談することが大切です。ただし、どの専門家に相談するかによって、結果が大きく変わるので、この点は十分に理解しておかなければなりません。
M&Aのマッチング相手は、仲介会社などの専門家が持っているリストの中から審査され、そこから絞り込みます。そのため、リストの質や量次第では、そもそも理想の相手に最初から出会うことが不可能な場合もあることに注意しましょう。
加えてM&Aのディールには、高度な専門知識だけでなく、相手との交渉力も必要です。引くところは引き、主張すべきところは主張しなければ、満足のいく成果は得られません。
こういった交渉に長けた専門家に出会うためには、M&Aの経験や実績が豊富な仲介会社を選ぶことが大切です。
終わりに
M&Aのディールを成功させるためには、売り手側も買い手側も、自社の現状と真摯に向き合い、「何が足りないのか」「どうしたいのか」を明確にしておかなければなりません。なぜならゴール設定があやふやなままはじめてしまったら、目指す場所がどこなのか分からないままで話が進んでしまうからです。
そのためには、自分に合った専門家との出会いが大切です。仲介会社をはじめとする専門家の役割は、売り手側や買い手側に寄り添い、満足のいく結果を得られるためのサポートを行うことです。もちろん、さまざまな専門知識や交渉力、情報網などを使って、プロフェッショナルならではの役割を果たしてもらうことも大切ですが、経営者の揺れ動く心を支えてもらえなければ、M&Aのゴールまで無事にたどり着くことはできません。そのため、M&Aを成功させるためのファーストステップは、満足のいく専門家選びにあると言っても過言ではないでしょう。
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