個人M&Aを成功させるポイントとは?メリット・注意点を解説
M&Aは大企業や中小企業など企業ではく、個人が行うケースも増えています。本記事では、個人M&Aの現状や実行する場合のメリット、注意点・利用目的・利用方法などについて詳しくご紹介します。
個人によるM&Aとは
M&Aにおいて、売買案件が小規模のものをスモールM&Aと呼びます。具体的には、会社の売買金額が1億円以下、あるいは譲渡側と譲受側の年間売上高が1億円以下に該当するM&Aが、スモールM&Aに該当します。さらに、スモールM&Aの中でも売買金額が数百~1,000万円未満程度の取引がマイクロM&Aです。個人が参入しているM&Aの主戦場がこのマイクロM&A市場です。個人M&Aの現状について詳しく見ていきましょう。
この記事のポイント
- 個人によるM&Aは、後継者不足やM&Aマッチングサイトの普及により増加傾向にある。
- 会社を買うメリットには、ゼロから立ち上げる必要がないこと、ニーズのあるサービスを引き継げること、役員報酬を得られる可能性、自社事業の拡大、成長後の高額売却の可能性がある。
- 注意点としては、簿外債務の引き継ぎリスク、人材の流出リスク、顧客や取引先からの理解を得る必要があり、M&Aの流れは目標設定から契約締結までの一連のプロセスが含まれる。
⽬次
個人によるM&A増加の背景
冒頭で述べた通り、個人M&Aのような小規模のM&A案件は増加傾向にあります。
中小企業庁が公表している「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」によると、中小企業や小規模事業者の事業承継は喫緊の課題とされており、今後も事業承継型のM&Aは増加すると予想されています。
このような背景により、個人でも手を出しやすい規模のM&A案件は今後さらに増えることが推測されます。
これらの動向に加えて、次にご紹介する副業・兼業の広がりやプラットフォームの登場も、個人M&A増加の後押しになっていると考えられます。
副業・兼業の広がり
厚生労働省による「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の改定(2020年)において、企業が副業を解禁した際に必要となる「労働時間の管理・通算の考え方」や「割増賃金の支払い方」などのルールが明確化されました。それらを契機として、多くの企業で副業・兼業解禁の機運が高まったことも、個人M&Aの増加の一因と考えられるでしょう。
個人でも利用しやすいM&Aマッチングサービスの登場
近年、事業の売り手と買い手が専用のウェブサイトを通じて直接交渉できるM&Aマッチングサービスを提供する企業が増えています。
これらの中には数百万円程度の小規模な案件を取り扱っているケースも多く、個人でも情報収集や取引へ参加が実施しやすくなっています。こうしたサービスの普及・拡大にともない、個人M&Aも増えています。
個人M&Aの取引額
個人の場合は資金力に限度があり、大企業のように数百億円もの資金を用意することは困難です。個人M&Aの主戦場であるマイクロM&A市場の規模は、数百~1,000万円未満ですので、実際の個人M&Aは300~500万円ほどの案件が多いと言われています。中には1,000万円クラスの案件もありますが、M&A実施後の運転資金なども考慮して、自分に合ったM&A案件に取り組むのがよいでしょう。
個人M&Aが行われやすい会社
個人M&Aに向いている主な会社(業種)とその特徴・理由について解説します。
M&Aが行われやすい会社 | 特徴・理由 |
---|---|
飲食業 | ・設備や専門スタッフを確保できれば比較的参入しやすい。 ・売却金額は店舗の規模や設備によるが、それほど高額ではない場合が多い。 |
美容系(エステティックサロン) | ・設備と専門スタッフが確保できれば比較的参入しやすい。 ・売却金額は店舗の規模・設備やスタッフのスキルによる。 |
教育系(塾・予備校など) | ・設備や専門スタッフを確保できれば比較的参入しやすい。 ・売却金額は生徒や優秀な講師の人数などによる。 |
Webサービス(ECサイトなど) | ・店舗を構える必要はなく、専門スタッフを確保できれば比較的参入しやすい。 ・コンテンツなどの定期的なリニューアルは必要。 |
これらは一部ですが、ご覧のとおり「異業種からでも比較的参入しやすい」点が共通点に挙げられます。
個人M&Aのメリット【売り手の場合】
個人M&Aにおける売り手のメリットには、売却益を得られる、後継者問題を解決できる、個人保証から解放される、などが挙げられます。それぞれのメリットについて解説します。
個人で売却益を手にすることができる
個人事業を売却する際、売却益が発生した場合には、原則としてすべて個人が受け取ることが可能です。ただし、株式の譲渡益に対しては税金が課されるため注意が必要です。
他者に立て直しを委ねることで、事業再生につなげられる
自分ひとりだけでは業績の悪化を止めることができず、廃業もやむをえないと考える個人事業主は多いでしょう。しかし、新たな経営者に代わればビジネスが息を吹き返し、顧客や取引先などに迷惑をかけずに済む場合も考えられます。
ビジネスの継続を簡単に諦めずに有能な買い手に売却できれば、長年携わっていたビジネスを続けることが可能になりますし、場合によっては、アドバイザー的な立場での関与ができる可能性もあります。
個人M&Aにおける注意点【売り手の場合】
次に売り手の注意点について解説します。
タフな交渉が必要になる
買い手側が法人の場合には、さまざまな部分を厳しく査定して交渉が進められるため、個人では納得のいく条件でM&Aを進めるにはタフな交渉が必要になることが予想されます。
譲渡の背景が正しく伝わらない可能性がある
個人でビジネスを行っている場合に、自分が経営している会社・ビジネスを売却すると、「ビジネスに見切りをつけたのだろう」などと勝手な憶測が流れ、経営者としての評判を低下させてしまう可能性があります。買い手側企業が合意してくれれば、買い手側企業の広報・IR手段を通じて正しい情報を伝達することでそうした懸念を防ぎやすくなります。
個人によるM&Aのメリット【買い手の場合】
ここでは具体的な個人M&Aの買い手としてのメリットをご紹介します。
会社の設備や人員を一から準備する必要がない
個人M&Aに限らず、M&Aの買い手側になった場合には、売り手側企業から機械設備や従業員を受け継ぐケースが多くみられます。個人M&Aであれば、そうした負担が軽く済むというメリットがあります。
個人の場合には、資金面でどうしても不安が生じやすいため、新たに機械設備や要員を準備するとなると、多額の費用が発生してしまうおそれがあります。しかし、M&Aを利用すれば、売り手側企業の機械設備・要員をそのまま引き継げる場合も多いため、負担が軽く済む可能性が高いでしょう。
自分自身の強みを生かしてビジネスを展開できる
個人ならではの強みを発揮できる可能性が高いことも個人M&Aのメリットのひとつでしょう。場合によっては趣味をビジネスに発展させることができるかもしれません。
例えば、ラーメンの食べ歩きが趣味だった人が、M&Aでラーメン店を買収して新たにビジネスとして展開する場合を考えてみましょう。多くのラーメン店を巡る中で、接客などのサービス面で改善したほうが良いと思った点を自分の店に生かすことで、集客や売上のアップが期待できるでしょう。
個人での取得が難しい許認可を要するビジネスに参入できる
飽和状態であったり、先行きに不安が持たれる市場では、新たに許認可を取得することが難しいこともあるでしょう。しかし、自分自身がその業界に精通しており、将来的な成長も見通せるような場合には、すでに許認可を取得している企業を買収することで、許認可取得を必要とするビジネスに参入できる可能性があります。
個人によるM&Aの注意点【買い手の場合】
次に、買い手の注意点についてそれぞれ説明します。
手続きに予想以上の時間・コストがかかる場合がある
売り手側企業のビジネスモデルや規模にもよりますが、個人でM&Aの手続きを行う場合には、想像していた以上に手続きが面倒で、時間・コストがかかってしまう場合が考えられます。ひとりで多くの手続きに忙殺されることにもなりかねません。
M&Aの手続きを進めていると、バリエーションやデューデリジェンスなど、専門家からのサポートを必要とする業務も出てくるでしょう。そうした事態が発生することも見越して計画や予算を策定しておくことが重要といえます。そういった煩雑な手続きをサポートしてくれるサービスが用意されている場合もあるので、うまく活用していくとよいでしょう。
不要な資産などを引き受けてしまう可能性がある
買い手が個人の場合には、予算の制約などの理由から十分なデューデリジェンスをおこなうことができないケースが考えられます。その結果、事前に想定していなかった引き継ぎたくない資産まで引き継いでしまう可能性があります。
こうしたリスクを回避するためには、デューデリジェンスにかける時間や費用を最初からきちんと見込んでおくことが必要です。個人が買い手の場合には、とりわけ慎重に売り手側企業のリスクをと見極めることが重要となります。
虚偽の情報がないか注意する
非常にまれなケースではありますが、買い手側が個人である場合、売り手側が虚偽の情報を示す可能性もゼロではありません。専門家に助言を求められない状況では、売り手側に悪意があった場合に、個人で見破ることはなかなか難しいでしょう。
こうしたトラブルを防ぐためには、自分自身の知識や経験を積むことも手段のひとつですが、M&Aアドバイザリー企業に依頼し、専門家からのサポートを受けることが重要といえます。
個人によるM&A案件の探し方
個人M&Aにおける具体的な案件の探し方として主にはマッチングサイトを利用する、事業引継ぎ支援センターに相談する、商工会議所・商工会に相談する、といった方法が挙げられます。それぞれのメリットとデメリットについてご紹介します。
①M&Aマッチングサイトを利用する
M&Aマッチングサイトとは、企業・事業を売りたいと考えている会社(または個人)と企業・事業を買いたいと考えている個人(または会社)のニーズや情報をサイト上に登録して、気になった相手にアプローチできるプラットフォームサービスです。
マッチングサイトには個人で登録することも可能で、個人M&A向けの売買の希望金額が数百万円程度の案件も多く掲載されています。中小企業の事業承継に関する問題が深刻化する状況でマッチングサイトは進化していますので、買い手のさまざまなニーズに対応できます。マッチングサイトの利用料金は競争が進んでいる状況から、低価格化が進んでいます。中には、利用基本料は無料で成約した場合のみ報酬を払う成功報酬型の報酬体系を採用しているM&Aマッチングサイトもあります。
M&Aマッチングサイトを利用する メリット
個人で候補先をリスト化することは多くの時間と労力が必要ですが、マッチングサイトには数多くの企業が掲載されていますので、とても便利に使えます。マッチングサイトに掲載されている数多くの企業の中から、興味を持った魅力的な企業を選べば効率的にアプローチできます。同様に、マッチングサイトに掲載されている興味を持った企業に直接コンタクトすることもできます。
マッチングサイトでは匿名でメッセージをやりとりするシステムや機能などを用いて、仲介会社を使わず当事者間でダイレクトに話を進めることができます。マッチングから交渉までダイレクトに進めることができる分、M&A仲介会社に支払う手数料・報酬と比べて、M&Aマッチングサイトを使用する費用は安価で済む場合が多く、登録費用は無料、売り手側は成功報酬なし、というケースも見られます。
M&Aマッチングサイトを利用する デメリット
マッチングサイトを利用する場合には、まず情報の拡散や漏洩に注意する必要があります。例えば、M&Aマッチングサービスの利用者であればだれでもノンネームシートを閲覧できます。したがって、公開しているノンネームシートの内容によっては会社を特定されてしまうリスクが低くありません。もし特定されてしまった場合、取引先の離反・取引中止などにつながる可能性も考えられます。
また、基本的な情報しか開示されていないため、候補となる相手側の強い関心・興味をひくことが難しく、相手探しが長期化しやすい点もデメリットとして挙げられます。
また、M&Aにおける複雑な手続き、相手側との交渉・調整など仲介会社と同レベルの手厚いサポートを期待することは難しいですが、補完するようなサポートサービスを充実させる会社も増えてきています。
②事業承継・引継ぎ支援センターに相談する
個人M&Aで案件を探す場合には、事業承継・引継ぎ支援センターに相談する方法も考えられます。事業承継・引継ぎ支援センターとは、後継者不足に悩む中小企業・小規模事業の事業承継をM&Aなどの活用によってサポートすることを目的とする国の事業です。創業を目指す起業家と、後継者不在の会社や個人事業主を引き合わせ、創業と事業引継ぎを支援する「後継者人材バンク」などの支援が受けられます。
事業承継・引継ぎ支援センターに相談するメリット
事業承継・引継ぎ支援センターを利用するメリットは、公共機関であるため全国各地で安心して相談できること、中小企業診断士や税理士、公認会計士などの専門家に無料で相談できる点です。
事業承継・引継ぎ支援センターに相談するデメリット
事業承継・引継ぎ支援センターを利用する場合のデメリットは、M&Aの直接的な仲介、相手との交渉など、一貫したサポートを受けることはできない点に注意が必要です。
③商工会議所に相談する
個人M&Aで案件を探す場合には、商工会議所に相談する方法もあります。商工会議所は、中小企業の経営力強化や地域経済の活性化を目的として非営利の会員制組織で主に市および特別区をカバーしています。
各地の商工会議所は、中小企業の後継者不足に対応するためにM&Aに対する助言やサポートを行っています。具体的には、ビジネスポートデスクの設置、相談拠点の開設、事業承継支援機関の紹介、などを実施しています。
商工会議所に相談するメリット
商工会議所・商工会を利用するメリットは、数多くの中小企業の相談を受けているため豊富な事例の中から相談内容にマッチした事例を無料で紹介してもらえる点が挙げられます。また、商工会議所は公共性が高い経済団体なので、安心して相談できるメリットもあります。
商工会議所に相談するデメリット
地域に根差しているため、案件のエリアや種類が民間のサービスと比較すると限定されるケースが多い点はデメリットとして挙げられます。また、事業承継・引継ぎ支援センターと同様に、バリュエーションやデューデリジェンスのような専門的な作業を行う必要がある場合には、外部の弁護士や公認会計士などのサービスを別途利用する必要があります。
個人M&Aで案件を探す方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
M&Aマッチングサイト | ・数多くの企業にアプローチできる ・興味がある会社に直接コンタクト することもできる ・利用料金が比較的安い |
・サイト運営会社によるサポートが 仲介会社と比べると手厚くない |
事業承継・引継ぎ支援センター | ・公共機関なので安心して無料で相談ができる ・全国各地に設置されている |
・直接的な仲介など、一貫したサポートは受けられない |
商工会議所 | ・公共機関なので安心して無料で相談ができる ・全国各地に設置されている |
・直接的な仲介など、一貫したサポートは受けられない |
M&Aを企業が行う場合はM&A仲介会社に依頼することが一般的です。大手の仲介会社では個人M&Aに対応していないケースが多く見られますが、近年は個人M&AやマイクロM&Aに特化した仲介会社も登場しています。あらかじめ対応領域や契約内容を確認した上で、相談されることをおすすめします。
個人によるM&Aの流れ
企業間で行うM&Aと大きな流れは共通ですが、個人によるM&Aの流れについて簡潔にご紹介します。
➀探し方を決める
個人でM&Aを実施する場合には、最初にどのような方法で案件を探すのかを決めることが必要です。案件の探し方には上記のようにさまざまな方法がありますが、それぞれのメリットとデメリットを踏まえて自分に最も適した方法を検討・選択することが重要です。
②M&Aの相手企業を探す
案件の探し方が決まったら、その方法を利用して具体的な相手先を探します。その際M&Aの目的を明確に設定しておくことが必要です。なぜなら相手企業を探す場合の条件も、目的を達成できそうな相手先なのかどうかという視点で検討すれば軸が定まるからです。M&Aマッチングサイトを利用する場合には、買い手として興味がある売り手企業にメッセージを送って交渉を始めます。
➂相手企業と交渉し、基本合意書を締結する
相手企業の候補が決まったら、いよいよ相手先と交渉を始めます。交渉においては、お互いの事業概要、財務諸表などの情報を交換して、基本的な質問と回答を積み重ねていきます。そのうえで基本的な売買の合意が形成できた場合には、基本合意書を締結します。基本締結書には法的な拘束力はありませんが、お互いの意向を確認・合意した意味があります。
④デューデリジェンスを実施する
基本合意書を締結したら、デューデリジェンスを実施します。個人M&Aにおいて、デューデリジェンスは非常に重要なアクションの一つです。ただし、個人で弁護士や公認会計士に依頼する場合には多額の費用が必要になるため、範囲や期間など慎重に検討することが必要です。
⑤最終契約を行う
デューデリジェンスを実施して懸念点などを解消できたら、最終契約を行います。最終契約は、M&Aの手法によって契約の種類も異なります。例えば、株式譲渡でM&Aを実行する場合には株式譲渡契約書の締結が必要です。そして、最終契約の内容に基づいて、実際に株式を譲渡したり買収資金を支払ったりしてクロージング手続きを実施します。
終わりに
個人M&Aを進めるにあたってはご紹介したようなM&Aマッチングサイトなどを利用して情報収集を行うなど、さまざまな選択肢が考えられますが、それぞれの方法のメリットやデメリットを踏まえて検討・選定してM&Aの各ステップに臨むことが重要です。