上場企業を子会社化?丸和運輸機関とファイズHD、資生堂の物流M&Aを解説

臼井 智

プロフィール

臼井智

日本M&Aセンター 成長戦略開発センター 統括

西川 大介

プロフィール

西川大介

日本M&Aセンター 成長戦略開発センター長/株式会社ネクストナビ 取締役

M&A全般
更新日:

⽬次

[非表示]

上場企業が子会社になる?物流M&Aの最新事例を詳しく解説

物流業3PL分野の有力企業同士のM&Aに注目

西川: これまで日立物流の事例を取り上げてきましたが、今年に入って行われた物流M&A事例をもう1件紹介したいと思います。
買い手は丸和運輸機関、株を売却したのがファイズホールディングス(ファイズHD)です。どちらも上場しているオーナー系の企業であり、今回TOBが用いられました。ただしTOBの後もファイズHDは上場を維持しています。

【M&Aニュース】丸和運輸機関、ファイズHDへ対しTOB(2022年02月18日)

いずれも3PL分野における有力なプレーヤーであり、強みがそれぞれ異なるというところでM&Aとして非常に良い組み合わせだったのではと考えます。臼井さんはこの案件、どうご覧になりますか。

臼井: M&A的には見どころが多い案件ですよね。丸和運輸機関もファイズHDも創業世代の会社です。丸和運輸機関は上場して10年未満、ファイズHDは5年未満ではないでしょうか。

面白いなと思ったのが、一般的に上場会社を子会社にする場合、親子上場の問題や上場コストの問題があるので完全子会社にするケースが多いのですが、今回ファイズHDは上場維持をされています。こういうところは、おそらくオーナー社長の方針が色濃く反映されているのではないでしょうか。そのほか注目するのは、筆頭株主は丸和運輸機関ですが、2番目の株主に丸和運輸機関の社長が個人でなっているところですね。

西川: うーん、すごいですよね・・・

臼井: 創業世代で売上2,000億円が見えるところに来ている(※)のが丸和運輸機関のすごいところです。一方視点を広げると、この次の世代をどうするのか、という課題が浮かび上がります。(※2022年3月期連結売上:1,330億円)

創業者の影響が強い大手企業などでも昨今よく言われる話ですが、「次の世代の経営者をどうやって探すのか」というテーマは今後おそらく出てくるのだろうな、というのがM&A的な見方です。

西川: 今回は上場会社同士ですが、ファイズHD側のある意味、事業承継の要素が含まれている案件ともいえるのではないでしょうか。

臼井: 譲渡したからと言って社長を辞するわけでなく、新しいパートナーを探したというタイプのディールですね。

互いの得意分野でシナジー創出を目指す

西川: なんといってもこの案件の素晴らしいところは、お互い3PL分野のプレイヤーでありながら得意分野が違う点です。
丸和運輸機関はラストワンマイル物流(最終拠点からエンドユーザーへの物流)を得意とします。一方、 ファイズHDはAmazonなどEC事業者の物流拠点の管理・運営を非常に得意とする会社です。
今回この両社が一緒になって「物流の川上から川下まで」一気通貫で押さえることで、より付加価値の高いサービス提供ができる体制が整ったと言えます。

ファイズHDは、見方によってはこれまではアマゾンかつEC事業に依存していたとも捉えられます。それは強みである反面、リスクでもあります。買い手側の丸和運輸機関は、EC物流も得意としている一方で、食品物流、医薬・医療系の物流、多岐にわたって得意分野を持っています。ファイズHD側としては、自社のノウハウをこの多様な分野に適応していけるというチャンスがあります。いわゆる「ポートフォリオの分散」という考え方がそこにはあるんだろうな、と我々はこの案件から感じ取りました。

臼井: 戦略的、戦術的なM&Aという特徴と、オーナー社長特有のM&A行動、意思決定という面、いろいろ読み取れて非常に面白いですよね。

西川: ぜひこの案件もプレスリリースを見ていただくと面白いと思います。今回の件はファイズHDの創業オーナー側から丸和運輸機関の社長にコンタクトをとったことから始まった、という経緯が物語のように記述されていますので、是非読んでほしいなと思います。

臼井: 以前に取り上げた日立物流もそうですが、最近のプレスリリースは読み物として面白くて読み応えがありますので、ぜひみなさんも読んでみてください。

ファイズホールディングス株式会社株式(証券コード:9325)に対する公開買付けの開始及び資本業務提携契約の締結に関するお知らせ

資生堂のM&A事例を振り返る

西川: 昨今2024年問題をはじめ、さまざまな外部要因で物流業界の再編、M&Aが増えています。なかには事業承継問題をそこで解決していく会社もあります。一方で前回ご紹介した日立物流、日立製作所のように上場会社の物流機能・部門のカーブアウト型のM&Aも、物流M&Aの件数アップに影響しています。

10年以上前の事例ですが、物流業界で先進的なM&Aだと思った事例があります。資生堂が当時の物流系子会社、資生堂物流サービスを、日立物流、日立キャピタル、プロロジスの3社に様々なスキームでカーブアウトしたという事例です。

臼井: M&Aは事業一体を株式で売却することが一般的ですが、この事例の構造としては資生堂物流サービスを「ビジネスそのものを日立物流に、アセット・不動産をプロロジスに、それ以外の設備は日立キャピタルに」と端的に言うと3つにわけるイメージです。

おそらく資生堂の狙いとしては、「事業の選択と集中」で付帯事業である物流は他社に任せる、という判断を下されたのでしょう。

一方で、買い手側の事情も透けて見えてきます。日立物流は「ビジネスだけ譲り受けます、その他のアセットはいりません」という姿勢でバリューを上げていく。プロロジスはアセットの面で日立物流におそらくリース(セールス&リースバック)する。日立キャピタルは、いわばリース会社さんですから、設備リースを引き受ける。各社の目的が上手くマッチしたM&A事例といえますね。

西川: まさに、三方よしとも言えそうですね。

臼井: 三方よし、そうですね。普通はなかなかここまで複数の事業を調整できないので、一旦PEファンドが引き受けて買収後に事業をバラしていくことが多いんですけど、このケースだと非常にきれいに収まりました。

「選択と集中」は未上場会社にも当てはまる

西川: 資生堂さんは上場企業ですけど、こうしたカーブアウトのM&Aは上場、未上場関係ないんですよね。保有する資産を圧縮したり「選択と集中」で本業に売却代金を投資し、または経営資源を集中させたりする。

事業承継問題を抱えている未上場の会社さんであっても、それぞれの事業分野に分けて買い手を探していくという考え方は、今後もっと増えていっていいのではと考えます。当社はもちろんそうしたご相談もお受けしていますので、ぜひ事業承継のお悩みとセットでお問い合わせいただければと思います。

臼井: 過去に資生堂物流を譲り受けた日立物流が、今度はM&Aの対象になる。ぐるっと一周回ってつながったような感じですね。

西川: 今回は盛りだくさんに物流業界のM&Aを取り上げてまいりましたが、いかがでしたでしょうか。

臼井: 有難うございました。また次回もよろしくお願いいたします。

本記事の動画はこちらからご覧いただけます。

企業戦略サービス

日本M&Aセンターでは上場企業の成長を実現するM&Aをサポートします。戦略実現のためのプロアクティブサーチや企業組織再編など、高度なスキーム提案を上場企業専門チームが行います。

プロフィール

臼井 智

臼井うすい さとし

日本M&Aセンター 成長戦略開発センター 統括

1991年に山一證券株式会社に入社、M&A部門に配属。同社自主廃業後、大手証券会社M&A部門を経て2009年に日本M&Aセンター入社。27年間にわたり一貫して国内外のM&A仲介アドバイザリー業務の第一線に従事。上場企業同士の経営統合から中小企業の事業承継案件まで、規模の大小を問わず幅広い業界にて200件超のM&A成約実績がある。最近は、S&P Global Market Intelligenceに2024年M&A展望についてコメントを寄稿。

西川 大介

西川にしかわ 大介だいすけ

日本M&Aセンター 成長戦略開発センター長/株式会社ネクストナビ 取締役

大手プラントエンジニアリング会社(海外プラント建設)、Big4系コンサルティングファーム(PMI等)、大手証券会社(M&Aアドバイザリー)を経て、2010年に当社に入社。通算20年近いM&A実務経験に強み。現在、上場会社グループに特化してM&Aサービスを提供する部門を率いる。事業ポートフォリオ再構築プランやM&A戦略の立案サポートから、クライアント毎のオーダーに基づく案件オリジネーション、交渉・実行サポートを行う。弊社において、大型案件、複雑案件、及びノンコア切離し案件をリードする。

この記事に関連するタグ

「上場企業・カーブアウト・買収・株式譲渡」に関連するコラム

日立のM&Aプレスリリースから読み解く!価格交渉の背景とは?

M&A全般
日立のM&Aプレスリリースから読み解く!価格交渉の背景とは?

日本M&Aセンターの中で特に業界での経験豊富な二人のスペシャリストが、世の中の企業のM&Aの動き、プレスリリースを中心に解説する「M&Aニュースサテライト」。今回は前回に引き続き日立製作所による日立物流の売却をテーマに解説します。(本記事ではYouTube動画の概要をご紹介します。)日立製作所と日立物流が正式発表へ西川:前回(日立製作所が日立物流を売却へ!M&Aの狙いとは)につづき日立物流パート2

西武建設をミライトHDへ売却する背景とは?西武ホールディングスのカーブアウト事例を解説

M&A全般
西武建設をミライトHDへ売却する背景とは?西武ホールディングスのカーブアウト事例を解説

日本M&Aセンターの中で特に業界での経験豊富な二人のスペシャリストが、世の中の企業のM&Aの動き、プレスリリースを中心に解説する「M&Aニュースサテライト」。今回は西武ホールディングスによる西武建設の売却をテーマに解説します。(本記事ではYouTube動画の概要をご紹介します。)※撮影は2022年1月下旬に行われました。西武ホールディングス、西武建設売却へ西川:今年に入って1月はコロナ禍にも関わら

日本ハムは、なぜマリンフーズを双日に売却したのか?ニュース解説動画

M&A全般
日本ハムは、なぜマリンフーズを双日に売却したのか?ニュース解説動画

M&A業界のキャリアが長いふたりが、世の中の動き、プレスリリースをもとに分析をするニュース解説動画がYouTubeでスタートしました。本記事では動画の内容をご紹介します。動画本編はこちらからご覧いただけます。西川:今年に入っていろいろなニュースがある中で、気になったのは「BIGBOSS」ですね。臼井:あぁ…BIGBOSS銘柄(笑)…、日ハムさんですね。西川:2022年2月9日、日本ハムの子会社の水

今さら聞けない「PBR1倍割れ」とは?日本企業がとるべき対策は?

経営・ビジネス
今さら聞けない「PBR1倍割れ」とは?日本企業がとるべき対策は?

2023年3月、東京証券取引所(東証)から「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」が発表され、上場企業の多くで「PBR1倍割れ」が起きていること、資本収益性や成長性の観点で課題があることなどが指摘されました。東証が上場企業に対してこのような積極的な要請を行うのは異例として、大きな話題となりました。そして、東証が指摘したさまざまな課題のなかでも、特に注目を集めてい

企業買収とは?買収スキームやメリット・デメリットを解説

M&A全般
企業買収とは?買収スキームやメリット・デメリットを解説

事業承継や業界再編への対応策として、企業買収の動きは今後ますます加速することが考えられます。本記事では、企業買収の基礎を整理した上で、その種類やメリット・デメリット、具体的な流れなどについて解説します。買収をご検討の方は、希望条件(地域、業種など)を登録することで、条件に合致した譲渡案件のご提案や新着案件情報を受け取ることができます。まずは登録から始めてみませんか?買収希望条件の登録(無料)はこち

事業ポートフォリオ変革をバックアップ!M&A仲介最大手による上場企業向け新サービスとは

M&A全般
事業ポートフォリオ変革をバックアップ!M&A仲介最大手による上場企業向け新サービスとは

日本M&Aセンターが上場企業の事業ポートフォリオ変革を多数お手伝いしていること、ご存じでしょうか。このたびサービスラインナップの拡充とともに、事業ポートフォリオの総合分析と個別事業に関するカーブアウト分析の簡易版について、無料でご提供を開始しました。専門チームを率いる西川大介成長戦略開発センター長に、どのようなサービスなのかを聞きました。日本M&Aセンター成長戦略開発センターのコンサルタントたち@

「上場企業・カーブアウト・買収・株式譲渡」に関連する学ぶコンテンツ

買収先の本格検討・分析

買収先の本格検討・分析

買収先の探し方でご紹介したように、買い手はノンネームシート、企業概要書で買収先についてM&Aを進めるかどうか検討します。本記事では、買い手が企業を検討する際流れと、陥りがちな注意点についてご紹介します。買い手が買収先を検討する流れ企業概要書をふまえ、さらに具体的に検討を進めるに一般的には「M&A仲介会社との提携仲介契約の締結」「個別詳細情報についての質疑応答」のステップがあります。買い手候補企業の

買収先の探し方

買収先の探し方

買い手の相談先でご紹介したように、M&A仲介会社などパートナーを選定したら、いよいよ買収先の候補企業を探すステップに移ります。本記事ではM&A仲介会社を通じてお相手探しを行う主な方法について、日本M&Aセンターの例をもとにご紹介します。買収先の探し方①譲渡案件型お相手探しは大きく「譲渡案件型」と「仕掛け型」の2つにわかれます。譲渡案件型は、M&A仲介会社が保有する売り手企業(譲渡を希望する企業)の

買い手がM&Aを行う目的

買い手がM&Aを行う目的

買い手の買収戦略には様々な目的があります。M&Aの成功に向けて、押さえておきたいポイントを確認していきましょう。【登録無料】買収をご検討の方は、希望条件(地域、業種など)を登録することで、条件に合致した譲渡案件のご提案や新着案件情報を受け取ることができます。まずは登録から始めてみませんか?買収希望条件の登録はこちらM&Aの目的①市場シェアの拡大企業は競合他社を買収することで、自社の市場シェアを拡大

譲渡・売却先の探し方、選び方のポイント

譲渡・売却先の探し方、選び方のポイント

会社の譲渡・売却を通じてどういう会社になりたいか、そのためにどんな相手に会社を売却したいか、イメージし明確化することは非常に大切です。本記事では、売却する相手を探す時、そして具体的に検討する時のポイントについてご紹介します。M&Aをするとしたらどのような相手が候補に挙がるのか。M&Aについて、一度話を聞いてみませんか?ご相談は無料、秘密厳守で対応します。M&A・事業承継のお問合せはこちら譲渡先は同

M&Aの企業価値評価(バリュエーション)とは?算定方法、ポイントを解説

M&Aの企業価値評価(バリュエーション)とは?算定方法、ポイントを解説

M&Aの企業価値評価(バリュエーション)とは?M&Aにおける「企業価値評価」とは、文字通り企業全体の価値を評価することを意味します。「企業全体の価値」とは、企業が保有する資産の価値だけでなく、企業が今後創出すると見込まれる収益力、及びその源泉となる無形資産をも含めた価値を指します。これらは以下のように言い換えることができます。企業価値=「事業価値(事業が生み出す経済的価値)」+「非事業用資産(余剰

「上場企業・カーブアウト・買収・株式譲渡」に関連するM&Aニュース

メドレー、在宅医療機関・介護事業者向け経営サポート子会社のメディパスを売却

株式会社メドレー(4480)は、同社の連結子会社である株式会社メディパス(東京都目黒区)の発行済株式の全てを、株式会社メディパスホールディングス(東京都世田谷区)に譲渡することについて決議した。これに伴い、メディパス社はメドレーの連結子会社から除外される。メドレーは、人材プラットフォーム事業、医療プラットフォーム事業を行っている。メディパスは、在宅医療機関・介護事業者向け経営サポート等を行っている

青山財産ネットワークス、チェスターの株式取得・株式交換による完全子会社化などを発表

株式会社青山財産ネットワークス(8929)は、株式会社チェスター(東京都中央区)の発行済株式の一部を取得し、その後、青山財産ネットワークスを株式交換完全親会社、チェスターを株式交換完全子会社とする簡易株式交換を行うこと、並びに、株式会社チェスターライフパートナー(東京都中央区)及び株式会社チェスターコンサルティング(東京都中央区)の発行済株式の全部を取得することを決定し、株式譲渡契約及び株式交換契

コニカミノルタ、遺伝子検査企業の米Ambry Geneticsを売却

コニカミノルタ株式会社(4902)は、子会社であるREALMIDx,Inc.(米国)を通じて、AmbryGeneticsCorporation(米国カリフォルニア州、以下:AmbryGenetics社)の全株式をTempusAI,Inc.(米国イリノイ州、以下:Tempus社)に譲渡することを決定し、株式譲渡契約を締結した。AmbryGenetics社は、がん領域を中心とした遺伝子検査サービスを行

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース