2022年のM&A件数は過去最多更新するも、23年は景気後退の影響を受ける可能性も
⽬次
- 1. 景気後退はIPOとM&Aに影響
- 2. スタートアップによるM&Aは増加
- 3. 市場の天井はどこか
- 4. 海外M&A 件数は横ばいだが取引額は減少で中小企業がトレンドに
- 5. 遅れている日本の経営
- 5-1. プロフィール
アフターコロナによる経済活動の本格的な再開により、日本企業のM&A件数が過去最高を更新しました。レコフM&Aデータベースによると、2022年の日本企業が関連したM&A件数は、21年の4,280件を24件上回る4,304件となり、2年連続で過去最多を更新しました。一方でM&Aの取引額は11兆4,530億円と21年の16兆7,270億円から31.5%減少しました。これは、大幅損失で今後の舵取りが注目されるソフトバンクグループのビジョンファンドの低調が背景にあります。
日本M&Aセンターの渡部恒郎が2022年の回顧と2023年の動向を予想します。
◆ポイント
・IPO(新規上場)の件数とM&Aの件数には相応の相関性があり、22年はIPOが減少
・FRB(米連邦準備理事会)が金融引締めを強めていることから、23年はM&A件数にも影響大
・後継者不在は今後も堅調に増加し、今後10年間もM&Aの増加傾向はベースシナリオ
3つの観点をもとに、2023年は2022年の延長線上と考えると、IPOは停滞し、金融引締めによる景気後退の波は強いと想定されますが、後継者不在型のM&Aは景気に関わらず増加していくものと予想しています。
景気後退はIPOとM&Aに影響
日本市場におけるIPO件数(TOKYO PRO Marketを除く)は、帝国データバンクによると、2022年の件数は21年の125社から27.2%減の91社となり、2年ぶりに100社を割り込みました。リーマン・ショックに匹敵する落ち込みとなりました。22年末には大幅なダウンラウンド(上場時の企業価値が増資時の企業価値から下がってしまう)のIPOが見受けられ、IPOを取り巻く環境は厳しい1年となりました。米抵当銀行協会によると、2022年秋に米国の住宅ローン金利が6%から7%に高まり、GAFAMをはじめとするテック系の企業が大規模なリストラを受けて、世界的な景気後退の兆候が見られました。国内においては後継者不在のニーズが大幅に増えるにもかかわらず、M&A件数は大幅な増加とまでは進みませんでした。FRBと日銀の利上げのピッチが、市場関係者の想定以上に早かった点と、コロナの影響が長期化していることが要因に挙げられます。
スタートアップによるM&Aは増加
拡大するフードデリバリー事業で急成長する「バーチャルレストラン(東京)」と「USEN-NEXT HOLDINGS(東京)」のM&Aのように、スタートアップのM&Aが増加しています。これまでは、「サービス」や「媒体」だけを譲った事例が多かった一方で、「事業」を譲り、上場企業グループとなって急拡大させていく傾向が近年のトレンドです。日本M&Aセンターの仲介後、バーチャルレストランの創業者は、譲渡後もそのままグループ内で経営に携わっています。
本題となる2023年のM&A動向は「市場の天井」を探す1年間になると考えています。
市場の天井はどこか
低金利でこれまで続いていた金融緩和によって、企業が「ヒト・モノ・カネ」に投資した結果、市場への供給多寡は顕著となり、需要が追い付かない状況となっています。急速な金融引締めや、半導体不足、ウクライナ侵攻、中国のゼロコロナ政策の撤廃など成長における不確定要素が多い経済状況が不安視されています。中国に関しては、61年ぶりに人口が85万人減少する統計は公表され、インドの人口が2023年にも中国を抜くことが予想されており、市場の軸足が変わってくることも想定されています。
海外M&A 件数は横ばいだが取引額は減少で中小企業がトレンドに
レコフM&Aデータベースの集計では、国内企業が海外企業を譲り受けたIN-OUT案件は625件、海外企業が日本の企業を譲り受けたOUT-INは334件とほぼ横ばいとなりました。一方、IN-OUT案件は3兆4743億円(前年比51.8%減)、OUT-IN案件は3兆9622億円(37%減)に減少し、海外における取引額の減少が顕著です。大規模なM&Aが減少し、中小企業による海外M&Aの件数が増えていると想定されます。日本M&Aセンターは後継者不在企業が増加しつつあるASEANにも拠点を設け、海外進出を図りたい中小企業のM&Aを支援しています。
遅れている日本の経営
日本の社長就任時の平均年齢は52.1歳(帝国データバンク:全国「社長年齢」分析調査2021年)で、アメリカにおいてCEOに就任する平均年齢は47歳(ニッセイ基礎研究所:日米CEOの企業価値創造比較と後継者計画2019年)と開きがあります。米国では新陳代謝や事業の構造転換を図ることで、高い営業利益率を維持していますが日本企業は、海外に比べて構造転換が進まず、利益率も低いことが一般的です。日本経済の硬直性は昔から課題とされており、今後も海外との格差は広がっていくと考えられています。日本企業がこれまで蓄えてきた豊富な内部留保を投資に回すのは、今後5年程度が勝負どころと捉えています。
FRBの金融引締めによる景気後退にどこまで耐えられるのか、アメリカの住宅市場のバブルが弾けないかが懸念材料です。日本においては内部留保が効き、海外と比較すると大きな影響は受けないものと想定されますが静観はできません。以上のような点から、2023年は2022年の延長線上の1年と踏まえ、市場の天井がどこになるのかを探る1年となりそうです。M&A件数も2022年同様に堅調な数字で進捗することが予想されます。