2022年のM&A件数は過去最多更新するも、23年は景気後退の影響を受ける可能性も

渡部 恒郎

プロフィール

渡部恒郎

日本M&Aセンター(2023年3月時点)

M&A全般
更新日:

⽬次

[非表示]

アフターコロナによる経済活動の本格的な再開により、日本企業のM&A件数が過去最高を更新しました。レコフM&Aデータベースによると、2022年の日本企業が関連したM&A件数は、21年の4,280件を24件上回る4,304件となり、2年連続で過去最多を更新しました。一方でM&Aの取引額は11兆4,530億円と21年の16兆7,270億円から31.5%減少しました。これは、大幅損失で今後の舵取りが注目されるソフトバンクグループのビジョンファンドの低調が背景にあります。
日本M&Aセンターの渡部恒郎が2022年の回顧と2023年の動向を予想します。

◆ポイント
・IPO(新規上場)の件数とM&Aの件数には相応の相関性があり、22年はIPOが減少
・FRB(米連邦準備理事会)が金融引締めを強めていることから、23年はM&A件数にも影響大
・後継者不在は今後も堅調に増加し、今後10年間もM&Aの増加傾向はベースシナリオ

3つの観点をもとに、2023年は2022年の延長線上と考えると、IPOは停滞し、金融引締めによる景気後退の波は強いと想定されますが、後継者不在型のM&Aは景気に関わらず増加していくものと予想しています。

景気後退はIPOとM&Aに影響

日本市場におけるIPO件数(TOKYO PRO Marketを除く)は、帝国データバンクによると、2022年の件数は21年の125社から27.2%減の91社となり、2年ぶりに100社を割り込みました。リーマン・ショックに匹敵する落ち込みとなりました。22年末には大幅なダウンラウンド(上場時の企業価値が増資時の企業価値から下がってしまう)のIPOが見受けられ、IPOを取り巻く環境は厳しい1年となりました。米抵当銀行協会によると、2022年秋に米国の住宅ローン金利が6%から7%に高まり、GAFAMをはじめとするテック系の企業が大規模なリストラを受けて、世界的な景気後退の兆候が見られました。国内においては後継者不在のニーズが大幅に増えるにもかかわらず、M&A件数は大幅な増加とまでは進みませんでした。FRBと日銀の利上げのピッチが、市場関係者の想定以上に早かった点と、コロナの影響が長期化していることが要因に挙げられます。

スタートアップによるM&Aは増加

拡大するフードデリバリー事業で急成長する「バーチャルレストラン(東京)」と「USEN-NEXT HOLDINGS(東京)」のM&Aのように、スタートアップのM&Aが増加しています。これまでは、「サービス」や「媒体」だけを譲った事例が多かった一方で、「事業」を譲り、上場企業グループとなって急拡大させていく傾向が近年のトレンドです。日本M&Aセンターの仲介後、バーチャルレストランの創業者は、譲渡後もそのままグループ内で経営に携わっています。
本題となる2023年のM&A動向は「市場の天井」を探す1年間になると考えています。

市場の天井はどこか

低金利でこれまで続いていた金融緩和によって、企業が「ヒト・モノ・カネ」に投資した結果、市場への供給多寡は顕著となり、需要が追い付かない状況となっています。急速な金融引締めや、半導体不足、ウクライナ侵攻、中国のゼロコロナ政策の撤廃など成長における不確定要素が多い経済状況が不安視されています。中国に関しては、61年ぶりに人口が85万人減少する統計は公表され、インドの人口が2023年にも中国を抜くことが予想されており、市場の軸足が変わってくることも想定されています。

海外M&A 件数は横ばいだが取引額は減少で中小企業がトレンドに

レコフM&Aデータベースの集計では、国内企業が海外企業を譲り受けたIN-OUT案件は625件、海外企業が日本の企業を譲り受けたOUT-INは334件とほぼ横ばいとなりました。一方、IN-OUT案件は3兆4743億円(前年比51.8%減)、OUT-IN案件は3兆9622億円(37%減)に減少し、海外における取引額の減少が顕著です。大規模なM&Aが減少し、中小企業による海外M&Aの件数が増えていると想定されます。日本M&Aセンターは後継者不在企業が増加しつつあるASEANにも拠点を設け、海外進出を図りたい中小企業のM&Aを支援しています。

遅れている日本の経営

日本の社長就任時の平均年齢は52.1歳(帝国データバンク:全国「社長年齢」分析調査2021年)で、アメリカにおいてCEOに就任する平均年齢は47歳(ニッセイ基礎研究所:日米CEOの企業価値創造比較と後継者計画2019年)と開きがあります。米国では新陳代謝や事業の構造転換を図ることで、高い営業利益率を維持していますが日本企業は、海外に比べて構造転換が進まず、利益率も低いことが一般的です。日本経済の硬直性は昔から課題とされており、今後も海外との格差は広がっていくと考えられています。日本企業がこれまで蓄えてきた豊富な内部留保を投資に回すのは、今後5年程度が勝負どころと捉えています。

FRBの金融引締めによる景気後退にどこまで耐えられるのか、アメリカの住宅市場のバブルが弾けないかが懸念材料です。日本においては内部留保が効き、海外と比較すると大きな影響は受けないものと想定されますが静観はできません。以上のような点から、2023年は2022年の延長線上の1年と踏まえ、市場の天井がどこになるのかを探る1年となりそうです。M&A件数も2022年同様に堅調な数字で進捗することが予想されます。

プロフィール

渡部 恒郎

渡部わたなべ 恒郎つねお

日本M&Aセンター(2023年3月時点)

学生時代に起業を経験の上、日本M&Aセンター入社。2008年から2015年までの8年間で最優秀社員賞を3度受賞。 中堅・中小企業M&AのNo.1プレイヤーとしてM&A業界を牽引してきた。 トータルメディカルサービスとメディカルシステムネットワークのTOBは日本の株式市場で最大のプレミアムを記録した(グループ内再編を除く)。 著書に「業界再編時代」のM&A戦略―No.1コンサルタントが導く「勝者の選択」』(幻冬舎、2015年)、「業界メガ再編で変わる10年後の日本」~業界・部署・技術の境界線がなくなる時代へ~(東洋経済新報社、2017年)がある。

この記事に関連するタグ

「株式譲渡・M&A・IPO・経営者」に関連するコラム

個人保証とは?メリットやデメリット、関連ガイドラインを解説

M&A全般
個人保証とは?メリットやデメリット、関連ガイドラインを解説

中小企業の経営者が金融機関から融資を受ける際、個人保証を求められることがあります。個人保証に応じると融資が受けやすくなる反面、資金難に陥った場合は、経営者の個人資産を切り崩すなどの必要が生じます。本記事では、個人保証の概要、メリットやデメリット、そして「経営者保証に関するガイドライン」について取り上げるほか、M&Aによる個人保証の解除についてもご紹介します。この記事のポイント個人保証は、企業が融資

会社売却とは?メリットや注意点、流れを解説

M&A全般
会社売却とは?メリットや注意点、流れを解説

会社売却とは?会社売却とは、会社の事業や資産を第三者に売却し、対価を受け取るプロセスを指します。近年は、企業規模に関わらず、中小企業の会社売却の件数も増加傾向にあります。中小企業において、会社売却が検討される具体的な場面としては「後継者が身近にいないため、外部に引き継ぎ手を求めるケース」「自社単独での成長に限界を感じ他社と手を組むケース」が考えられます。この記事のポイント中小企業における会社売却で

社長交代の流れ、必要な手続きを解説

M&A全般
社長交代の流れ、必要な手続きを解説

企業にとって、社長の交代は、経営方針や企業の未来に大きな影響を及ぼす極めて重要なプロセスです。本記事では、代表取締役社長が交代するタイミング、必要な手続きについて概要をご紹介します。※本記事では、「社長=代表取締役」という前提で、社長交代が必要となるケースについて解説します。社長交代のタイミングとは?社長交代のタイミングは企業ごとに異なりますが、一般的には、社長の年齢や健康状態がきっかけとなるケー

著者インタビュー!『社長の決断から始まる 企業の最高戦略M&A』

広報室だより
著者インタビュー!『社長の決断から始まる 企業の最高戦略M&A』

日本M&Aセンターは、書籍『社長の決断から始まる企業の最高戦略M&A』を東洋経済新報社より発売しました。著者の柴田彰さんに、発刊の経緯と本書に込めた想いを聞きました。M&Aしかないとわかっていても、踏み出せない理由――本書は、経営者が押さえておくべき経営戦略の一つとして、M&Aの特に「譲渡」に特化した書籍です。なぜこのテーマで本を出そうと思われたのですか。日本には二つの大きな課題があります。一つ目

会社の身売りと会社売却の違いとは?

M&A全般
会社の身売りと会社売却の違いとは?

新聞や経済ニュースなどで時折目にする「会社の身売り」という言葉は、会社売却とどのように違うのでしょうか。本記事では、身売りが指す意味合い、会社売却の概要についてご紹介します。日本M&Aセンターは1991年の創業以来、数多くのM&A・事業承継をご支援しています。中小企業のM&Aに精通した専任チームが、お客様のM&A成約まで伴走します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。会社売却・事業承継のお

IPO(新規公開株式)とは?上場するメリットやデメリット、審査基準を紹介

経営・ビジネス
IPO(新規公開株式)とは?上場するメリットやデメリット、審査基準を紹介

IPOを行った企業は、成長に向けて多くのアドバンテージを獲得できます。そのため多くの企業は、IPOを企業が目指すべき通過点の一つとして見据えています。本記事では、IPOの概要やメリット・デメリット、審査基準、IPOを成功に導くためのポイントについてご紹介します。※本記事のIPOに関する記述は、一般市場を想定しています。IPOとはIPOとは「InitialPublicOffering(※)」の略語で

「株式譲渡・M&A・IPO・経営者」に関連する学ぶコンテンツ

M&Aの事前準備。売り手が押さえておくべきポイント

M&Aの事前準備。売り手が押さえておくべきポイント

自社の売却を考える譲渡オーナーの多くにとってM&Aは未知の体験であり、不安はつきません。本記事では、相手探しを始める前に何を準備しておけばいいのか?どのような状態にしておけばいいのか?売り手が押さえておきたいM&Aの事前準備として資料収集・株式の集約についてご紹介します。この記事のポイントM&Aの事前準備として、売り手は企業価値評価や資料収集が必要で、特に決算書類や財務関連資料が重要である。M&A

譲渡・売却先の探し方、選び方のポイント

譲渡・売却先の探し方、選び方のポイント

会社の譲渡・売却を通じてどういう会社になりたいか、そのためにどんな相手に会社を売却したいか、イメージし明確化することは非常に大切です。本記事では、売却する相手を探す時、そして具体的に検討する時のポイントについてご紹介します。この記事のポイントM&Aの譲渡先を探す際は、同業種か異業種か、近隣か遠隔地かを考慮し、シナジー効果を見込むことが重要である。譲渡先が事業会社、ファンド、または個人かによっても戦

M&Aのトップ面談

M&Aのトップ面談

M&Aのトップ面談とは?M&Aのトップ面談は、売り手、買い手両者の経営者同士が顔を合わせ、書類だけでは見えてこない相手の価値観、企業文化、M&Aに対する想いを把握し、相互理解を深める場として重要なプロセスです。トップ面談を通じて理解を深め、疑問を解消することで、「M&Aに向けて交渉を進めるか」両者が最終決断するための重要な材料の1つになります。売り手にとっては「相手が自社のどこに興味を持ち、魅力に

M&Aの企業価値評価(バリュエーション)とは?算定方法、ポイントを解説

M&Aの企業価値評価(バリュエーション)とは?算定方法、ポイントを解説

M&Aの企業価値評価(バリュエーション)とは?M&Aにおける「企業価値評価」とは、文字通り企業全体の価値を評価することを意味します。「企業全体の価値」とは、企業が保有する資産の価値だけでなく、企業が今後創出すると見込まれる収益力、及びその源泉となる無形資産をも含めた価値を指します。これらは以下のように言い換えることができます。企業価値=「事業価値(事業が生み出す経済的価値)」+「非事業用資産(余剰

「株式譲渡・M&A・IPO・経営者」に関連するM&Aニュース

日本エコシステム、テッククリエイトの全株式取得へ

日本エコシステム株式会社(9249)は、株式会社テッククリエイト(石川県金沢市)の全株式を取得し、グループ化することに関し、株主との間で株式譲渡契約を締結することを決定した。日本エコシステムは、環境、公共サービス、交通インフラに関する事業を行う。テッククリエイトは、北陸三県の鉄道線路・施設の保守点検、石川県内の工場・商業施設・公共施設などの給排水衛生設備、空調設備工事等を行う。テッククリエイトのグ

電材グループのDENZAI、中島運輸機工を完全子会社化

DENZAI株式会社(東京都港区)は、中島運輸機工株式会社(島根県出雲市)の発行済全株式を取得し、完全子会社化した。DENZAIは、クレーン・特殊車両リース大手の株式会社電材重機(北海道室蘭市)を基に構成された電材グループの中間管理会社。グループの戦略策定ならびに経営管理、および技術研究開発業務を行っている。中島運輸機工は、クレーンリース、運送、機工の3事業を展開する山陰地方で最大級のクレーンリー

ネオマーケティング、マーケティング支援事業のZeroを売却

株式会社ネオマーケティング(4196)は、連結子会社である株式会社Zero(東京都渋谷区)の全株式を譲渡することを決定した。本件株式譲渡に伴い、Zeroは、ネオマーケティングの連結対象から除外されることとなる。ネオマーケティングは、マーケティング支援事業(マーケティングリサーチ、デジタルマーケティング、ブランド戦略など)を行っている。Zeroは、マーケティング支援事業を行っている。目的ネオマーケテ

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース