中小企業がM&Aを行う背景や目的とは?手法や成功のポイントをわかりやすく解説
急速に高齢化が進み、2025年問題が目前に迫る中、中小企業によるM&Aの件数は増加傾向にあります。本記事では、中小企業のM&Aの現状とその目的、用いられる手法、中小企業のM&Aを成功に導くポイントについて紹介します。
この記事のポイント
- 中小企業のM&Aが増加傾向にある背景として、経営者の高齢化による「後継者不在問題」と、人口減少による「縮小する国内市場への対応」が挙げられる。
- 中小企業がM&Aを選択する主な目的には、事業承継、事業の成長・拡大、技術・ノウハウの獲得、経営の効率化、財務改善、資金調達がある。
- M&Aを成功させるためには、M&Aの目的を明確にし、情報管理を徹底することが求められる。
⽬次
中小企業のM&Aが増加する背景
レコフM&Aデータベースによると、2022年の日本企業が関連したM&A件数は4,304件と過去最多の件数を記録しました。
これに伴い、中小企業のM&A件数も増加傾向にあります。その主な背景である「後継者不在の問題」と「縮小する国内市場への対応」の2つについて、それぞれ見ていきます。
後継者不在問題
経営者の高齢化
団塊の世代(1947~49年に生まれた世代)が全員75歳以上の後期高齢者になる「2025年問題」が迫る中、経営者の高齢化に伴い中小企業は「後継者不在問題」に直面しています。
帝国データバンクの「全国『社長年齢』分析調査(2022 年)」によると、全国の社長の平均年齢は60.4歳と過去最高を更新し、50歳以上が8割を占める結果となりました。同調査によると、社長が引退する平均年齢は 68.8 歳、つまり70 歳目前で社長交代が行われていることも判明しました。
事業承継は一般的に、少なくとも5年~10年程度を要すると言われています。後継者が決まらないまま、経営者が高齢に差し掛かれば、後継者選びや引継ぎ・育成に時間をかけることは困難です。
親族内承継の減少
また現代では、後継者候補である親族に引き継ぐ意思がなく、家業とは異なるキャリパスを選択する傾向がある事も、後継者不在につながっています。
そのため、高齢の経営者が適切な後継者を見つけることが難しい場合に、外部の第三者へ引き継ぐM&Aが有効な手段として選ばれていることが考えられます。
それを裏付けるように、帝国データバンクの全国企業『後継者不在率』動向調査(2022)」によると、同族承継つまり親族内での事業承継の割合が急減した一方、「M&Aほか」の割合が調査開始以降、初めて20%を超える結果となりました。
そのほか中小企業のM&Aが増えた要因として、中小企業のM&Aを支援する事業者が急増したことや、国による事業承継の支援策の充実も挙げられます。
縮小する国内市場への対応
また、人口減少により縮小する国内市場への対応も、多くの中小企業が直面する課題の1つです。
縮小する市場に合わせ、経営の合理化や統廃合、新規事業参入やシェア拡大など、中小企業を取り巻くさまざまな問題を解決する手段として、M&Aが積極的に選択されるようになったことも、中小企業のM&Aが増えている背景の1つと考えられます。
以上のように、中小企業が直面する課題に対応する効果的な手段として、近年多くの企業がM&Aを選択していることがうかがえます。
中小企業がM&Aを行う目的
以上の背景をふまえ、中小企業がM&Aを行う主な目的について、譲渡企業、譲受け企業双方の視点でご紹介します。
事業承継
前述の通り、経営者の高齢化や、親族や社内に後継者が存在しない場合、外部の第三者に引き継ぐ選択肢としてM&Aが活用されます。これにより、企業の存続や従業員の雇用が守られます。
かつて中小企業では親族内承継がポピュラーな選択肢でしたが、後継者不足を背景に、中小企業のM&A件数は増加傾向にあります。
事業の成長・拡大
事業領域を拡大したり、新たな市場に進出するための手段としてM&Aは用いられます。相手企業の持つシェアや顧客基盤、ブランド力など経営資源を活用し、成長、拡大を目指すことができます。
異なる強みを持つ2社が統合することで、業界内でのシェアやプレゼンスの強化につながります。
技術・ノウハウの獲得
他社が独自に保有する技術やノウハウを取得するために、M&Aが行われることもあります。これにより、製品開発のスピードを加速させ、新たな価値提供を可能にすることができます。
経営の効率化
競合他社や同業者同士が1つになることで、重複する部門や機能を統合し、経営を効率化することが可能になります。これにより、経営資源を最適に配分させることができるため、企業の競争力強化につながります。
財務改善
経営状況が厳しい企業が、自身の事業や資産を他社に売却することで、財務状況を改善する場合があります。これは一時的な資金調達だけでなく、企業再生の一環として行われることもあります。
資金調達
新たな事業展開や大規模な設備投資など、大きな資金を必要とする場合、自社の一部または全体を他社に売却して資金を調達することがあります。この方法は金融機関からの借入れに比べて柔軟性があり、資金調達の選択肢の一つとなります。
中小企業のM&Aで活用される手法・スキーム
M&Aを行う手法・スキームには様々存在しますが、本記事では多くの中小企業で用いられる「株式譲渡」「事業譲渡」の2つについてご紹介します。そのほかのスキームについて詳しくは、以下の記事をご覧ください。
株式譲渡
株式譲渡は、譲渡企業(売り手)側の株主が保有する株式を、譲受け企業(買い手)側に譲渡する手法です。
株式の譲渡によってM&Aを完了させるスムーズで簡易な手続きであり、譲渡対価を株主(譲渡オーナー)が受け取れることから中堅・中小企業のM&Aでは株式譲渡が多く選択されています。
譲渡企業(売り手)側としては、会社自体がそのままの状態で残る点や、株主が個人の場合は所得税(復興特別所得税含む)・住民税合わせて20.315%の固定税率で分離課税となるため、株主の手取り額を最大化できるケースが多いことがポイントです。
譲受け企業(買い手)側としては、従業員との雇用関係や、取引先との契約関係など対象会社のステークホルダーとの法的な関係や、取得している許認可を引き継げるため、比較的スムーズにM&Aを実行できる点がポイントとして挙げられます。
事業譲渡
事業譲渡は、会社の事業の一部もしくは全部の事業を譲渡する手法です。不採算部門を切り離して財務状況を改善する場合や、反対に優良部門を売却して資金調達を行う場合などに用いられます。
譲渡企業(売り手)側としては、会社そのものを売却するわけではないため、オーナーは事業譲渡後も引き続き会社を保有し続けることが可能です。
譲受け企業(買い手)側としては、必要なものだけを引き継げる点がポイントです。一定のリスク回避を行える一方で、個別の契約関係を締結し直す必要や、許認可などの再取得など、対象事業の規模によっては手続きが煩雑なる傾向があります。
中小企業のM&Aの流れ
中小企業のM&A成約までの主な流れについて、M&A仲介会社の協力を得て進める場合を前提に、それぞれ簡潔にポイントをご紹介します。詳しい流れ、内容については以下の記事をご覧ください。
初期検討・相談
②M&Aをサポートしてくれる事業者の選定
まず、自社の現状を把握し、M&Aで実現できることやリスクを理解し、目的を明確にする必要があります。M&Aを行う目的や達成すべきゴールを、できるだけ具体的な金額や数値を用いて設定します。
また、M&Aのプロセスでは、財務や法務、税務など高い専門知識が必要となる局面が発生し、相手となる候補企業探しも自社単独では選択肢に限りがあるため、中小企業のM&Aでは、M&A仲介会社など外部の事業者の協力を得て、M&Aを進めることが一般的です。
個別の無料相談などの機会を活用し、パートナーになりうる事業者の選定を行います。
企業価値の算出、マッチング・候補企業の検討
②企業評価額の算出
③ノンネーム資料や企業概要書の提示・検討
譲渡企業は、相手企業を探す上で、自社の強みを訴求する資料を作成する必要があります。そのため決算資料や契約書、事業に関する資料をM&A仲介会社に提出します。
また、時価総額が把握できる上場企業の株式と異なり、非上場企業の株式は個別に株式価値評価を行う必要があります。ここで求める評価額はあくまで参考値ですが、希望価額の設定や、M&Aの交渉の場で譲渡企業、譲受け企業双方にとって重要な判断材料となります。
なお一般的に用いられている株式価値評価の方法は、以下の3種類です。
- インカムアプローチ⋯⋯企業の収益性を基準に株式価値評価を行う方法
- マーケットアプローチ⋯⋯評価対象企業と類似している上場企業との比較で株式価値を行う方法
これらのプロセスを経て算出された評価額、ノンネームシートや企業概要書をもとに、候補企業探し(マッチング)が行われます。
相手企業との面談・基本合意
②条件調整・基本合意契約の締結
③デューデリジェンス(DD)
マッチングにより関心を持つ企業が見つかったら、両社の経営者同士による面談を行います。面談では、資料だけでは把握できない価値観や、M&A後の方針などを確認します。
面談後、互いに交渉を進めたいという意思確認が取れた場合、譲渡価額などの条件調整、基本合意契約を結びます。
基本合意契約後に、譲受け企業は譲渡企業の監査(デューデリジェンス)を行い、法務・財務・税務などのさまざまな面から買収に関するリスクを洗い出します。M&A後の思わぬトラブルを防ぐためにも、デューデリジェンスは弁護士、公認会計士など専門家の協力を仰ぎ、取り組む必要があります。
最終条件調整・成約
②最終契約の締結・成約
③成約・ディスクロージャー(社員や取引先への開示)
デューデリジェンスの結果を受けて、最終的な合意形成を行うための調整が行われます。
最終契約書は、M&Aの最終段階において締結される最も重要な契約書です。
最終契約書は、これまでの交渉を通じて確定した合意事項がすべて盛り込まれており、法的拘束力を持つ契約となります。
この最終契約書に調印後、株券や印鑑などの重要物品の授受を行い、譲渡代金の決済が行われます。
M&A成約後に行うのが、従業員など関係者へのディスクロージャー(情報開示)です。両社がスムーズに統合を進められるよう、経営者は従業員たちの不安や動揺を最小限に抑え、安心して今後も仕事が行えるように十分な説明を果たす必要があります。
また統合を円滑に進めるための、経営統合プロセス(PMI)の段取りについても成約前後に確認をしておく必要があります。
中小企業のM&Aを成功に導くためのポイント
最後に、中小企業のM&Aを成功に導くポイントについてご紹介します。
M&Aの目的を明確化する
当然ながら、M&Aは手段であって目的ではありません。検討を進めるうちに、M&Aを行うこと自体が目的になってしまうケースがあるため注意が必要です。
どのような目的を達成するために、自社がM&Aに取り組むのかを明確に決めておかなければ、望むゴールにたどり着くことはできないでしょう。
また、相手企業を選定する際に、互いの目的を照らし合わせて、統合することが両社にとって有効なのか、慎重に検討することも重要です。
経営者ご自身が、明確な意思と目的を持って、M&A戦略を策定するように心がけましょう。
自社の企業価値を把握しておく
前述のような計算式で求められるのはあくまで参考値ですが、自社の企業価値を把握しておくことは大切です。客観的な企業価値を把握した上で、希望価額の設定を行う必要があるためです。
最終的な譲渡価額は両社の交渉の結果決まりますが、譲渡企業側の希望価額が高すぎる、あるいは価額に見合う価値を感じてもらえない場合は交渉が難航するケースが多く見られます。
そのため、客観的な企業価値を把握しておくことで、交渉の場面において両社が適切な判断を行うことができます。希望価額での譲渡を実現するためには、M&A仲介会社のサポートを受けながらの交渉も重要になります。
従業員や取引先などに十分配慮する
M&Aにおいて、譲渡企業(売り手)、譲受け企業(買い手)ともに、株主や従業員、取引先企業や金融機関など、関係するステークホルダーへの配慮は不可欠です。特に、譲渡企業側は、M&Aの事実を関係者に知らせる際の伝え方、段取りなども十分配慮する必要があります。
特に従業員は、経営者や会社の環境が変わることに対し、大きな不安を覚えるのは当然のことです。そのため、M&Aの事実を伝える際、譲受け企業側の社長や関係者が同席し、今後についての説明を直接丁寧に説明するなど、安心して働けるようにフォローすることが重要です。
また、従業員への発表に先駆け、役員や幹部社員へは先に知らせておくなど、相手の心情を考慮し、伝える段取りなども綿密に計画する必要があります。
金融機関や取引先に対しても、今後も取引を継続するために、十分に説明を果たしておくように心がけましょう。
情報管理を徹底する
M&Aは「秘密保持に始まり、秘密保持に終わる」と言われるほど、情報の取り扱いに細心の注意が必要です。
M&Aの交渉中に、何らかの事情で情報が外部に漏れてしまうことになれば、M&Aが破談に終わるだけでなく、取引先への影響や、インサイダー取引など企業経営に深刻なダメージを及ぼすことも覚悟しておかなければなりません。
そのような事態を防ぐためには、M&Aの情報管理は慎重を期し、社内でM&Aに関わるメンバーを厳選し、最小限の人数で極秘裏に進行するようにしましょう。
マッチングに強みを持つM&A仲介会社を選ぶ
M&Aの成否が決まる大きな要素の1つは、相手企業を見つけ出すマッチングです。自社の目的が明確であっても、最適な相手と出会えなければ、当然ながら目的を達成することができません。
そのため、譲渡、譲受け意思が明確な候補企業の情報、企業情報を持つ外部ネットワークと連携したM&A仲介会社をパートナーに選定することが、成功に近づく鍵となります。
また情報量だけでなく、いかに最適なマッチング、企業同士の引き合わせが行えるかという点も重要です。そのため、豊富なデータを有効に活用したマッチングのシステム、実績・経験豊富なコンサルタント数なども、仲介会社選びの際に重視する必要があります。
終わりに
以上、中小企業のM&Aについてご紹介しました。M&Aは事業承継や事業拡大、財務状況の立て直しや資金調達など、様々な経営課題の解決が期待できます。しかし、そのプロセスの中には、法務、会計など専門的な知識が必要な局面もあるため、M&Aの仲介会社など専門家へアドバイスを求めることが望ましいでしょう。
M&Aの成功確率を上げるためには、M&Aについて数々の経験・実績を保有するM&A仲介会社に相談してみることも解決の1つです。
日本M&Aセンターは1991年の創業以来、数多くのM&A・事業承継をご支援しています。
中小企業のM&Aに精通した専任チームが、お客様のM&A成約まで伴走します。
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