会社を売りたい。会社売却で知っておくべきポイントとは
事業を継いでくれる後継者が見つからない場合、残される選択肢は廃業、そして会社の売却です。
本記事では、会社売却の動向、会社売却のメリットなどを整理したうえで、売却時の注意点や全体の流れについて解説します。
この記事のポイント
- 2025年には70歳以上の経営者が245万社に達し、約127万社が後継者不在。M&Aによる会社売却が成長加速の選択肢として注目されている。
- 会社売却の主なメリットは存続、経営者の負担軽減、廃業コスト削減が挙げられる。
- 売却時の注意点には条件交渉、ロックアップ条項、妥協が必要である。
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「会社を売りたい」会社売却は増加傾向に
2025年には、経営者が70歳以上の中小企業が約245万社にまで増加すると言われています。また、その半数を占める約127万社では、いまだに後継者が決まっていません。
この後継者不在問題に対する有効な対策が打てない状態が続けば、約650万人の雇用や、約22兆円にも及ぶGDPが失われることは避けられないため、官民一体となって事業承継の促進に向けた取り組みが行われています。
こうした事態を背景に、M&Aによる会社売却の件数は事業引継ぎ支援センターや各種調査会社が公表している件数ともに、増加傾向を示しています。
開示されていない非上場企業のM&A件数を含めれば、こうした傾向はさらに活発になると推察されます。
また事業承継のニーズの高まりだけでなく、譲渡先とのシナジーにより、会社の成長を加速化させる選択肢の1つに選ばれていることも、会社売却が増加している要因です。
グローバリゼーションによる競争の激化から、機動的かつ迅速な事業展開が求められるようになり、その結果、企業の規模を問わず、多くの経営者が会社売却を選択するようになりました。
会社を売るメリット
会社を売る主なメリットは、以下の通りです
会社を存続させることができる
会社の売却によって事業の継続が約束されます。
廃業すると会社は消滅し、これまで築き上げてきた技術やノウハウ、企業風土などの伝承は行われません。また従業員は雇用を喪失し、長年取引のあった得意先との関係も失われてしまいます。
会社を売却することが出来れば、従業員の雇用は守られ、得意先との取引が消滅することもありません。また買い手の持つノウハウや設備、ブランド力などが活用できれば、これまで以上の発展が望めるようになるでしょう。
オーナー経営者の負担が軽減される
オーナー経営者は株式の対価として株式の売却益を買い手企業から直接受け取ります。獲得したお金は、老後資金や新たな事業の開業資金などに活用できます。
また会社売却により、多くの場合、経営者の個人保証が解除されるため、会社を売却したあとは経営者の個人資産が個人保証で脅かされることはありません。
廃業にかかるコストを省ける
会社を廃業するためには、廃材などの処分費用や工場などの原状回復工事が必要です。
また法人を廃業するためには、2度の登記と最低2回の確定申告を行わなければなりません。しかし、こうした手続きを司法書士や税理士などに依頼すると、別途高額な費用を支払う必要があります。
一方で会社を売却すれば、こうした手間や費用を負担する必要はありません。それどころか売却益が得られることも多いため、経営者の手元に多くの資金を残せます。
会社を売る際の注意点
会社を売る際の主な注意点は、以下の通りです。
思い通りのタイミングで売却できない可能性も
会社を売りたいと思っても、必ずしもすぐに候補企業が見つかるとは限りません。候補企業とのタイミングが合わなければ、当然ながらM&Aは成立しません。
候補先企業が現れる可能性はどの案件でも高いですが、譲渡が成立するかは希望条件とのトレードオフとなります。条件に拘るのであれば早く準備を進めることが思い通りのタイミングでの売却確率を高める上では重要です。
ロックアップ(キーマン条項)が入る場合がある
ロックアップはキーマン条項とも呼ばれ、会社を経営するうえでキーマンとなる役員や従業員などに買収後も一定期間在籍してもらい、引継ぎなどの業務を行うことを取り決めたものです。
一般的に、多くの中小企業では社長や役員の影響力が強く、よくも悪くも属人性の高い特徴を持っています。したがって経営や業務のキーマンの退職による業績の悪化や内部統制の混乱を避けるため、ロックアップが設けられます。
会社を売ったあとも一定期間は業務の継続を約束するため、承継後すぐの引退を思い描いていた場合には、注意が必要です。
思い通りの条件で売れない場合もある
会社を売却するためには売り手も買い手もお互いに、ある程度譲り合うことが大切です。売却の条件などについて一歩も譲歩せず、すべて売り手の条件通りに進めようとすると、売却が難しくなってしまう場合もあります。
もちろんすべてが順調に進めば問題ありませんが、交渉に臨む前にあらかじめ妥協点を決めておき、希望通りの条件でなくともどこまでなら譲歩できるかを明確にしておけば、交渉をスムーズに進められるでしょう。
会社を売る、その主な方法
会社を売るための主な手法は、以下の通りです。中小企業のM&Aでは、オーナーが対価を受け取ることができる株式譲渡が多く用いられています。
株式譲渡
株式譲渡とは、オーナー経営者をはじめとする株主が持つ株式を、買い手企業に売却することで会社売却を成立させる手法です。
株式譲渡では、会社の資産・負債などを直接売買するのではなく、売買の対象は株式とします。株式の売買によって株主総会での議決権が買い手側に移るため、これで会社の売却が成立します。
また会社の売却を株式譲渡で行うと、会社の持つ資産や負債だけでなく、取引先や従業員との契約などのすべてを包括的に譲渡できるため、他の手法と比べて手続きに時間がかかりません。
なお売却代金は会社ではなく、株主であるオーナー経営者が直接受け取れるため、受け取った資金は老後資金の確保や新たなビジネスの原資などに自由に使えます。
事業譲渡
事業譲渡とは、売り手が持つ複数の事業の一部もしくは全部を切り出して、買い手企業に売却する方法です。
株式譲渡とは違い、売り手にとっては必要な部分が残せる、また買い手にとっても欲しい部分だけが買えるという特徴があるため、お互いのニーズが一致する場合は非常に使い勝手のよいスキームといえるでしょう。
ただし資産や負債、契約などを一つひとつ個別に売り手から買い手に移さなければならないため、株式譲渡と比べると手続きに多くの手間がかかります。
また売却しても会社自体は残るため、会社売却にともない引退を望むような場合には向きません。
なお事業譲渡を選択した場合は売却代金を会社が受け取るため、会社を売却してもオーナー経営者の手元に売却益が入ることはありません。
会社を売る、その流れ
会社を売る流れを大まかに分けると、以下のようになります。
①会社売却に向けた下準備
まず行うのは、会社を売る目的の明確化です。
会社を売る目的は各社それぞれ異なります。事業の存続は勿論のこと、雇用の維持、技術の次世代への継承、成長の加速など、優先させる目的によって、それを実現できる相手も変わります。
目的を定めたらM&A仲介会社を探します。中小企業の経営者が、日々の業務と並行して候補企業探しを行うことは、選択肢にも限りがあり、情報漏洩の防止など様々な観点で現実的ではありません。
そのため中小企業のM&Aでは、M&A仲介会社など外部の専門家の協力を得て進めることが一般的です。
M&A仲介会社もその規模や情報ネットワーク、得意とするエリア、業界などが異なります。
各社が行う無料相談、セミナーなどの機会を活用し、M&Aの目的を一緒に叶えられそうなパートナーか見極めることが大切です。
②相手探し(マッチング)の準備・開始
M&A仲介会社とまず行うのが、相手探しに向けた準備です。企業概要書の作成や企業価値評価の算定とともに、ノンネームシート(自社が特定されない程度に作成された匿名性の高い資料)によって買い手候補企業を探してもらいます。そこで買収に興味を持った企業とは秘密保持契約を交わし、企業概要書を開示して本格的な買収の検討をしてもらいます。
③トップ面談→基本合意契約の締結
次は、買い手候補企業との面談です。譲渡を望む複数の買い手候補企業と売り手企業のトップ同士が面談し、買収に向けた話し合いを行います。
複数社との面談が済んだら意向表明書を受け取り、その中から1社に絞り込んで基本合意契約書を締結します。
④買収監査→最終契約の締結
基本合意契約書を締結したら、次は買い手によるデューデリジェンス(買収監査)です。デューデリジェンスでは、法務や財務、税務などの調査が行われ、さまざまな角度から買収リスクを検出します。
こうして検出されたリスクをもとに、基本合意契約書で交わした条件を変更する話し合いが行われ、すべての条件がクリアした段階で最終契約書を締結し、クロージングを迎えます。
会社を売るための成功ポイント
会社売却を成功させるためには、いくつもの注意すべきポイントがあります。その中でも特に重要なのが、以下の4つです。
自社の現状分析を入念に行っておく
自社の強みと弱みを正しく把握したうえで、売却によって何を得たいのか、目的の明確化が一番に挙げられます。
会社売却の目的は企業ごとに異なるため、自社ならではの目的を設定し、現状分析を十分に行ったうえで、理想の買い手候補のイメージを作り上げていくとよいでしょう。
自社の企業価値を正しく把握しておく
譲受け企業との交渉をスムーズに進めるためには、自社の企業価値を正しく把握しておかなければなりません。
最終的なM&A取引価格は譲受け企業との交渉を通じて決まりますが、互いに希望価格をぶつけるだけでは話がまとまらず、最悪の場合破談になるケースも考えられます。
そのため、判断の拠り所となる客観的な企業評価の算出が必要になります。また、企業評価を行うことで事前に決算書など必要書類が整い、M&Aを進めるにあたってのリスクも洗い出すことができます。
多くが未上場の株式である中小企業の場合、企業評価の算出には高度な専門性が求められます。そのため適切な企業評価の専門性、実績を保有しているか、どうかもM&A仲介会社選びの1つの基準になります。
従業員への手厚い説明・サポートを行う
中小企業の友好的なM&Aでは、従業員への雇用はそのまま引き継がれ、従業員は売却後も変わらず業務を行うことが一般的です。場合によっては労働環境や待遇が改善するケースも少なくありません。
しかしM&A後への不安から、従業員の間に動揺が生じることもあります。そのため、M&Aの事実を成約後直接丁寧な説明を行う、不安を解消する対応策を講じるなど手厚いフォローが重要となります。
M&Aのプロセスの中でも重要な局面であるため、「いつ」「誰に」「どのように伝えるか」、経験豊富なM&Aコンサルタントのアドバイスを受けながら綿密に計画する必要があります。
赤字でも売却を検討してみる
M&Aは、単に会社の持つ資産の売買ではありません。譲渡企業の持つ技術やノウハウ、取引先との関係、顧客ネットワーク、ブランド力など目に見えない無形資産も「のれん」として評価されるため、赤字企業でも売買が成立することは珍しくありません。
もちろん、黒字企業であれば譲渡先候補が多くなる可能性が高まります。しかし「従業員が高度な技術・経験をもつ」「業界でも希少な設備を持つ」「譲受け企業が獲得したい営業ネットワークを持つ」などの強み、シナジーの可能性が決め手となり、赤字であっても売買が成立するケースも少なくありません。
終わりに
会社を売りたいと思ったら、できるだけ早い時点で準備をはじめることが大切です。
なぜなら本記事で述べたように、適切な価格で会社を売るためにはタイミングが重要であり、また売るための準備にはある程度の時間を要するためです。
このような理由から、会社の売却を決意したら、できるだけ早く専門会社に相談することをおすすめします。じっくりと時間がかけられれば、理想的な候補企業が見つかる可能性も高まります。
ただし、どのM&A仲介会社を選ぶかで、選択肢の幅が大きく変わるため、M&A仲介会社選びは慎重に行わなければなりません。できるだけ多くの会社から話を聞き、十分に納得したうえで選ぶように心がけましょう。