M&Aの条件交渉・調整
M&Aの最終契約書を完成させるには、様々な条件交渉を行い、盛り込む必要があります。本記事ではM&Aを成立させるために必要な、最終条件の交渉についてご紹介します。
M&Aの条件交渉とは
最終契約書が締結されて、M&Aは実行フェーズにうつります。株式譲渡の場合、最終契約書である株式譲渡契約書は、株式と代金を交換して、経営権を移譲することを目的としています。
また、それに伴いM&Aで売り手、買い手がそれぞれ実現したいことを果たすための双方の権利義務を契約書では定めています。
場合によっては双方の意見が重ならず、最終局面でやむなく破断となる可能性もあります。また、成約に至ったとしても、一方にとって著しく不利な内容である場合には、事後的にトラブルに発展する、あるいは禍根を残してしまうケースもゼロではありません。
最終条件の交渉では、お互いにM&Aを目指す理由・目的を改めて確認し、それぞれが譲れない条件をしっかりと主張するとともに、相手方の主張内容やその背景、事情にも配慮した上で、交渉を進めていく必要があります。
この記事のポイント
- M&Aの条件交渉は、最終契約書締結後に行われ、売り手と買い手が譲渡価格や条件を確認し、相互の権利義務を定める重要なプロセス。
- 売り手は譲渡価格や従業員の雇用条件などの優先順位を明確にし、買い手はリスクを適切に評価し、旧経営陣の処遇に配慮する必要がある。
- 最終条件の交渉では、合意内容を明確にしてトラブルを防ぐことが重要である。
⽬次
M&Aの条件交渉はいつ行う?
最終条件の交渉はデューデリジェンス(買収監査)後から始まります。
デューデリジェンスの結果(買収監査(買収監査)が終了すると、通常7~10日後に監査を実施した監査法人から「買収監査報告書」が提出されます。
基本合意契約のときに株価を決めるベースとなった「修正貸借対照表」と「買収監査報告書」との間には乖離がある場合があります。その乖離を1点ずつ検討して最終的な株価を決定します。
両者の間には、視点の違いや評価基準の違いにより乖離が発生しているケースが少なくありません。一概にどちらが正しいと言えるものではないため、慎重な調整が必要です。
M&Aの条件交渉のポイント(売り手)
M&Aの条件交渉において、売り手が意識しておくべきポイントは以下の通りです。
条件に優先順位を付ける
売り手が特に重視する条件は「譲渡価格(株価)」「従業員の雇用・待遇」「既存取引先との取引継続」など複数に及ぶことが一般的です。
自分たちの希望通りに条件がすべて満たされることは理想ですが、買い手側も同様に希望する条件を持つため、全てをそのまま通すことは容易ではありません。
そのため、条件の優先度を明確にすることが大切です。
M&Aを成立させ、目的を果たすためには、譲れない条件以外は、時として受け入れる姿勢も非常に重要となります。
譲渡タイミングを逃さない
条件交渉も終盤に差し掛かるほど、売り手側の譲渡オーナーが「このM&Aは成約して良いのだろうか」「もう少し待ったら、もっと良い買い手が現れるのではないだろうか」と、マリッジブルーのような状態に陥ってしまうケースは少なくありません。
譲渡タイミングを検討する上で、会社とその会社が属する業界が成長期にあるタイミングがベストと言われます。
迷っているうちにタイミングを逸し、成長が鈍化、業績が下降した状態では、自分の思うような条件が叶う可能性が低くなります。
譲渡オーナー自身が「まだM&Aしなくていいのでは」「手放すのが惜しい」と思えるタイミングだからこそ、買い手にとっても魅力に映っていると認識しておく必要があります。その前提を意識して、条件交渉に臨むようにしましょう。
最終判断はオーナーが行う
条件を含めM&Aの決定は、売り手の譲渡オーナーにとって重圧の掛かる決断となります。
親族や、顧問税理士に相談を求めるケースがありますが、それぞれの立場での意見・アドバイスは時に混乱を招き、「船頭多くして船山に上る」という状態に陥ることもあります。
条件交渉が長期化すると、最悪の場合買い手側が検討を辞退する事態に陥りかねませんが痺れを切らして検討を辞退する可能性もあります。最後は譲渡側(売り手)オーナー(筆頭株主)が決断するという覚悟を持って、最終条件の交渉に臨みましょう。
M&Aの条件交渉のポイント(買い手)
M&Aの条件交渉において、買い手が意識しておくべきポイントは以下の通りです。
リスクを必要以上に恐れない
前述の通り、最終条件の交渉では、基本合意契約の内容と買収監査の結果で生まれた差異を中心に調整することになります。
買い手は不安を極力取り除きたい心理から、些細な問題点、差異に執着し、売り手側に過度な要求を行ってしまう場合があります。
M&Aではいくらリスク軽減策を検討しても、投資リスクをゼロとすることは不可能です。リスクがあるからこそリターンがあると割り切り、最終条件の交渉においては、自社のリスク回避と、売り手との信頼関係のバランスを意識しましょう。
M&A後の「社長」の処遇に注意する
買い手にとっては、買収後こそがM&Aの勝負になります。買収後にきちんと取引先や技術の引継ぎが行われ、順調に事業運営を推進できないと買収の目的を果たすことはできません。
特に中小企業においては、譲渡オーナーである社長自身が得意先、従業員、技術等に極めて大きな影響力を持つケースが多くみられます。
従って、M&A後にうまく会社を引き継いで、これまで以上、事業拡大を進めるには、売り手側の社長、経営陣の協力が不可欠です。
近年はM&A後も譲渡オーナーが引き続き社長として残る場合もありますが、最終条件の交渉における旧経営陣の処遇については、尊厳を守り、自発的な協力を促すものとなるよう、細心の注意を払いましょう。
買収後を見据えておく
円滑なPMIのため、M&A実施後の運営体制や統合戦略も、最終条件の交渉のタイミングで検討します。
買収は企業成長の手段であり目的ではありません。両社が更なる飛躍を遂げられる様、買収日当日からスムーズに統合作業が開始できることが望ましいです。
M&Aの目的を実現するために新役員体制はどうあるべきか、売り手側の従業員や取引先へはどのように開示すべきか、など最終条件の交渉とともに真剣に検討しましょう。
対象となる条件項目の例
最終条件の交渉を行う上で、対象となる主な項目について紹介します。
M&Aスキーム
M&Aスキームには株式譲渡、事業譲渡などの方法があります。中小企業のM&Aでは株式譲渡が多く用いられますが、状況に応じて、買い手と売り手の合意に基づき決めていきます。
譲渡価額(株価)
買収監査の結果も踏まえ、最終的に株価を決定します。両者で価格について交渉し、相互に利益を最大化するための合意を形成します。
役員退職金
M&Aを機に売り手側の役員が退職する場合、退職金の支払いに関する項目です。退職金の金額や支払いスケジュールなどが合意されます。スキームによって退職金についての扱いも異なってきます。
クロージング日
M&Aの完了日を指す項目です。買い手と売り手は、クロージング日を合意し、それに向けて準備を進めます。
対価の支払い方法
買収代金の支払い方法に関する項目です。買い主から売り主の指定口座に送金する方法が一般的です。場合によっては、エスクロー(第三者となる金融機関が入り譲渡代金を決済する方法)などの条件を定めます。
従業員の雇用・処遇
買収後の従業員の雇用や処遇に関する項目です。例えば、留任条件や報酬、福利厚生などが合意されます。M&A後の譲渡企業の従業員・社員の処遇を定めます。全員引き受ける条件にするケースが一般的です
譲渡オーナーの処遇
譲渡オーナーの処遇に関する項目です。例えば、役職の退任、報酬、契約の継続などが合意されます。譲渡企業社長の尊厳を守り、自発的な協力を促す処遇にすることが大切となります。
譲渡オーナーの連帯保証、担保提供の解除
譲渡オーナーが連帯保証人の地位から外れ、担保提供を解除するための手続きを定めます。「買い手が売主の連帯保証と担保の差し入れの解除に責任を持つ」旨の条項を入れることが一般的です。
その他細目事項の決定
例えば、譲渡オーナーの趣味の絵画の取り扱いや、買い手から派遣される役員の取り扱いなどが含まれます。
これらの項目は、中小企業のM&Aにおいて最終条件として考慮される一般的な要素です。具体的な内容は、買い手と売り手の交渉によって合意されます。
最終契約締結前にきちんと決定しておくことが、M&A成立後にトラブルが起きることを防ぐために重要です。
終わりに
以上、M&Aの最終締結前に行う条件交渉についてご紹介しました。
契約締結後もスムーズに歩みを進めるために、妥協することなく、きちんと互いの条件を確認しあう最後のフェーズとして慎重に進めていきましょう。