M&Aのトップ面談
M&Aのトップ面談とは?
M&Aのトップ面談は、 売り手、買い手両者の経営者同士が顔を合わせ、書類だけでは見えてこない相手の価値観、企業文化、M&Aに対する想いを把握し、相互理解を深める場として重要なプロセスです。
トップ面談を通じて理解を深め、疑問を解消することで、「M&Aに向けて交渉を進めるか」両者が最終決断するための重要な材料の1つになります。
売り手にとっては「相手が自社のどこに興味を持ち、魅力に感じているか」「M&A後のビジョンをどう考えているか」直接確認できる場になります。
買い手にとっては、交渉を進める判断材料とするほか、複数の買い手候補が名乗りを上げている場合は、自社の考え方や魅力をアピールできる場になります。
この記事のポイント
- M&Aのトップ面談は、売り手と買い手の経営者が直接対面し、企業文化や価値観を理解し合う重要なプロセスで、交渉の進行判断に寄与する。
- 面談では、会社の基本情報や経営者の価値観、M&Aの目的を確認することが求められ、具体的な条件交渉は後日行うべきである。
- トップ面談では、情報漏洩防止の配慮が必要である。
⽬次
トップ面談はいつ行う?
買い手が、M&A仲介会社から紹介された売り手のノンネームシートや、詳細な企業概要書をもとに初期検討を行い、「さらに前向きに検討を進めたい」と判断、売り手が合意した時点で実施されます。
一般的には1回ですが、後述のように工場見学など複数回にわけて実施するケースもあります。
トップ面談後に買い手が「意向表明書」を提示し、両者の希望価額など条件について具体的に交渉を進めることになります。
トップ面談はどこで行う?
トップ面談は、会社のオフィスや設備など見てもらうために、売り手の社内で、従業員が不在のタイミングに行われることが一般的です。秘密保持の観点から、M&A仲介会社の会議室など外部で行われるケースもあります。
トップ面談を複数回行う場合、2回目を買い手のオフィスで行う、もしくは売り手が保有する施設や工場見学に充てる場合もあります。
トップ面談は誰が出席する?
売り手側の出席者
意思決定権者である株主、経営者が出席します。経営者が非株主の場合、その時点でM&Aを開示しているのであれば、買い手の質疑応答に対応するため同席することがあります。
株主が複数いる場合、筆頭株主または議決権の過半数を有する株主らが出席します。
また、M&A仲介会社が、取引金融機関や顧問の会計事務所などから売り手の紹介を受けている場合、金融機関や会計事務所の関係者が同席するケースもあります。
買い手側の出席者
意思決定権者である経営陣やM&A担当責任者が出席します。場合によっては技術部門、工場部門の責任者も同席させることがあります。
但し、売り手側の出席者よりも人数が多くなると過度な圧迫感を与えてしまうため、人数のバランスに留意する必要があります。
両者の出席者はM&A仲介会社が事前に把握し、調整を図ることが一般的です。
トップ面談で何を確認する?
トップ面談で確認すべき主な項目は以下の通りです。
会社の基本情報
会社の基本情報は、事前に書類などで確認することができますが、改めて最新の情報を面談の場で確認しておきましょう。定量的な数字もその内訳など掘り下げて確認し、クリアにしておくことが大切です。
経営者の価値観・企業文化
相手の経営理念や価値観は、自社との相性を見極める上で重要です。企業風土がまったく真逆の場合は、M&A後、スムーズに事業運営が行えなくなる可能性もあります。
価値観・企業文化を象徴するような具体的なエピソードを引き出すなど、会話の中でキャッチボールできると、納得感も高まります。
売り手は「この会社、経営者に自社の経営と従業員の未来を託したい」、買い手は「この方が経営してきた会社であれば、リスクを取ってでも引き継ぐことができる」と思えるかどうかが重要です。
M&Aの目的、検討理由
「相手がなぜM&Aを検討しているのか」「どんなシナジー効果を期待しているのか」は売り手、買い手双方にとって重要な質問事項です。
売り手側は「なぜ自社に関心を持ったのか」「M&Aをしたら、その後どのようなビジョンを描いているのか」「両社にどのようなメリット・相乗効果があると考えているのか」確認しておく必要があります。
例えば、買い手が単に自社の特許や技術、ノウハウだけが欲しいと考えていると判明した場合、売り手側のオーナーは自社の従業員への待遇に不安を覚え、交渉を見送る可能性もあります。
M&A後に「こんなはずではなかった」とならないように真の目的や理由を確認しておきましょう。
トップ面談でNGな言動
トップ面談での言動がきっかけで、M&Aの検討が取りやめとなるケースは少なくありません。売り手、買い手の双方は、特に以下のポイントに注意する必要があります。
具体的な条件交渉をする
トップ面談は結婚に例えると「お見合い」に該当します。前述の通り、お互いの価値観や経営理念、事業内容への理解を深め、信頼関係を構築すべき場であるにも関わらず、株価の希望価格などの発言が出ると、一気に場が冷め、相手先からの不信感を招きかねません。具体的な条件交渉は、面談後に行われるため、トップ面談の本来の目的を果たすように心がけましょう。
一方的に話し過ぎる
トップ面談でしばしば見られるのは、一方が自社、自身の考えを熱心に話すあまり、相手がずっと聞く側に回ってしまうケースです。
聞いてる相手は、自身が聞きたいことが後回しになり、話す側も相手に対する情報を得られず理解が不十分となり、お互いに消化不良のままトップ面談が終了してしまいます。
また「相手の話を聞き入れない」という印象を与えてしまいかねないため、当日の会話量はバランスを見ながら進めるという意識を持つことが大切です。
虚偽の情報を伝える
トップ面談で、売り手側が自社に対し良い印象を与えようと、事実と異なる情報を伝えたり、大げさな表現で伝えてしまい、後にトラブルに繋がるケースも少なくありません。
トップ面談後、交渉を進めることになったとしても、その後のデューデリジェンス(買収監査)で虚偽の事実だと判明した場合、買い手が不信感を抱き、破談につながる可能性も考えられます。買い手の場合も同様です。
M&Aが無事に成立し、その後成功するためには双方の信頼関係と誠意ある対応が不可欠であるため、相手からの質問には正直かつ正確に答えましょう。
消極的な返答をする
トップ面談で、買い手からの質問に対し、「それはできません」「無理です」「やったことはありません」と後ろ向きな返答が続き、破談になってしまったケースもあります。
ともに事業を進めるパートナーとして消極的な姿勢は、不信感を生みかねません。もし現時点で対応が難しくても「○○という条件がそろえば検討できます」など、事実にもとづきつつ、前向きで建設的な返答を心がけましょう。
トップ面談を通して相互理解を深め信頼関係を構築し、M&Aを成功させるためには譲渡企業(売り手)側の質問応対には前向きな姿勢が望まれます。
高圧的な態度で接する
中小企業においてM&Aは企業戦略の選択肢として広く浸透しつつありますが、いまだに「買い手の方が立場が上だ」という大きな誤解をしているケースも少なくありません。
両者は完全に対等です。無事成約に至り、PMIを成功させるためにも双方の信頼関係が必要不可欠です。
また、一般的に複数人で検討を進める買い手企業と異なり、売り手側はオーナー1人、あるいはオーナーご夫妻のみで検討を進めているケースも少なくありません。相談する先も限られており、自身の選択が正しいのか、悩みながらM&Aの検討を進めている可能性が高いため、心情面への注意が必要です。
買い手はトップ面談で売り手を見下しているように捉えられかねない言動は厳に慎むべきです。本来の目的を忘れ、些細な問題点に目を奪われて、過度な質問を行うことが無いように、配慮をしましょう。
トップ面談の事前準備
トップ面談の時間は一般的に1時間半~2時間程度です。限られた時間をお互いにとってより有意義な時間とするためには、事前の準備が必要となります。
日程の調整
一般的に、日程や場所などはM&A仲介会社が間に入って調整を行います。
面談には以下のように準備が必要になるため、急いで最短の日程を指定することなく、余裕をもって決定することを心がけましょう。また、自分たちの希望だけ叶えようとせず、相手の希望をふまえて日程や場所を決めることが信頼関係構築の一歩につながります。
相手先の情報収集を行い、質問事項をまとめておく
トップ面談前に企業ホームページ、帝国データバンク、東京商工リサーチ、日経テレコンなどから企業情報を収集するようにしましょう。
それら情報を基に、M&Aの検討において必要な事項を整理し、疑問点があれば、あらかじめ当日の質問事項としてまとめておくことができます。
また、事前の情報収集はお互いの企業情報に限ったものではなく、相手先の出席者個人に関することについても把握するようにしましょう。
例えば、共通の話題(例:出身地、出身大学、趣味)があれば一気に距離が縮まり面談がより一層盛り上がることになるので、信頼関係の構築に寄与することになります。
なお、仲介会社を介している場合、あらかじめ疑問点や質問事項をアドバイザーに共有しておくと、当日の進行がスムーズになったり、直接は聞きづらい質問をアドバイザーが代わりに質問してくれます。
自社の情報を整理し、説明できるようにしておく
自分が質問するだけでなく、相手からも質問を受けるため、自社の創業経緯やこれまでの沿革、事業内容や組織体制など自社に関する情報をしっかりと整理しておきましょう。
この際、自社の会社案内や製品パンフレットなどのツールを準備しておくと、相手の理解につながりやすくなるため持参することをお勧めします。
トップ面談当日の流れ
一般的な流れについてご紹介します。
当日はM&A仲介会社の担当者が司会などサポートしますが、当事者自身も式次第を事前に確認しておくなど、流れを把握しておくようにしましょう。
①名刺交換で開始
一般的なビジネスの打ち合わせと同様、挨拶から始まります。
開始5分前には参加者全員が着席しておくよう心がけましょう。座席の位置関係などは、事前にM&Aコンサルタントに確認しておきましょう。
②自社の紹介、プレゼンテーションの実施
それぞれ代表者が自社について紹介を行います。出力や投影スライドなど方法は会議室の設備と合わせて事前に確認しておきましょう。
自社紹介と合わせて、売り手は自社紹介と合わせて譲渡を検討した理由、買い手は本件に興味を持った理由、M&A後のビジョンなどを伝えます。
③質疑応答・ディスカッション
それぞれ自社紹介をふまえ、事前に検討しておいた質問項目をふまえ質疑応答、フリーディスカッションを行います。
前述の通り、具体的な交渉の場ではないこと、過度に質問を重ねないことを心がけておきましょう。
④売り手の店舗・工場などの現地視察
売り手が店舗や工場、農園などを保有する場合、トップ面談当日、あるいは別日に現地視察を行うケースがあります。
夏に役員の方たちが、大阪から直接農場に来られて。青果の仲卸業なので畑の事をよくご存じなんです。いままで他に見学に来られた会社さんと、質問やチェックの視点が明らかに違いましたね。
生産する側としては「畑を見てわかってもらえる」という点が一番心強かったです。
([M&A事例インタビュー](/page/interview/akeno/)より抜粋)
トップ面談で現地視察を行う際の注意点
情報漏洩を防ぐために従業員が不在のタイミングで行うことも多いですが、例えば専門性が高い分野においては、売り手の技術者が直接買い手に説明すべき場面も発生します。
このように、もし従業員の業務中に視察が行われる場合は、以下の点に留意しましょう。
事前の説明
トップ面談を行う段階では、従業員は自社がM&Aを検討していることを知らされていない場合がほとんどです。そのため見学の際に不審に思われないように配慮することが大切です。
売り手側のオーナーは、例えば「〇日に新規取引見込み先の役員〇名が、現場チェックのために来社する」と伝えておくなど事前説明をしておきましょう。またこのシナリオは事前に買い手にも共有しておきましょう。
買い手の服装
買い手側は、従業員の目を引かない様、場合によってはスーツではなくカジュアルな服装や作業服が良い場合もあるため、事前に売り手やM&A仲介会社と相談をしておきましょう。
終わりに
トップ面談は、M&Aを成功に導くために重要なプロセスです。
事前の情報収集はもちろんのこと、面談本来の目的とゴールを両社がしっかりと認識し、臨むことが大切です。
ご紹介したように、準備が成否をわける鍵となるため、数々のトップ面談に立ち会い、ノウハウを持つM&A仲介会社のサポートを受けることが望ましいでしょう。