売り手が自社の情報を開示する流れ
譲渡・売却先の探し方、選び方のポイントでご紹介した通り、譲渡・売却したい相手の条件を明確化した後、具体的な相手探しを進めます。
M&Aを検討している、という事実は売り手企業にとって機密情報です。どのように情報管理を行いながら、相手企業に情報を共有し、M&Aの検討を進めていくのでしょうか。
本記事では、売り手が情報を開示していくプロセスを中心にご紹介します。
この記事のポイント
- 売り手がM&Aを進める際、最初にノンネームシートを作成し、候補企業に提示して関心を確認する。
- ノンネームシートに興味を持った買い手は、仲介会社と秘密保持契約を結び、売り手の合意のもと企業概要書を閲覧することができる。
- M&Aプロセス中は、提案後の状況を仲介会社を通じて確認し、買い手からの質問に丁寧に回答することで、円滑な交渉を促進する。
⽬次
ノンネームシートで検討してもらう
まず、売り手企業に対する関心、譲受けの意思があるかどうかを確認する資料、いわゆる「ノンネームシート」を作成し、候補企業に対して提示します。
ノンネームシートは企業が特定されないよう、社名などが伏せられた状態で会社の事業内容、従業員数など基本情報、売上高など財務情報、譲渡理由や条件などが記載されています。
M&A仲介会社の膨大なデータの中から、買い手候補企業を絞り込み、候補企業をリストアップします。リストアップされた候補企業に対し、ノンネームシートを用いた提案が行われます。
提案を受けた買い手候補企業は、ノンネームシートの内容から、さらに具体的に検討を進めたいと判断した場合、より詳細な資料である「企業概要書」を開示してもらうため、M&A仲介会社と秘密保持契約を締結します。
なお、秘密保持契約の締結を経て、売り手の詳細情報が開示されることを「ネームクリア」と言います。
ネームクリアで詳細情報開示を行うかどうかは、あらかじめM&A仲介会社が売り手側に可否を確認します。
企業概要書でさらに検討を進めてもらう
買い手企業は、ノンネーム資料で対象企業に興味を持った場合、前述の通り仲介会社との秘密保持契約の締結を経て「企業概要書」を入手します。この企業概要書をもとに売り手企業の精査な分析を行い、M&Aを進めていくかどうかを検討します。
企業概要書は30~40ページほどのボリュームがあり、売り手企業の強み・弱みや得意先・仕入先、詳細な財務状況などが記載されています。買い手企業は企業概要書をもとに、自社が求める買収相手のイメージにマッチしているかどうか、社内で検討していきます。企業概要書を十分に検討しM&Aに向けた交渉に入る意思が固まった場合、売り手とのトップ面談に進みます。
売り手が情報開示で留意すべきポイント
買い手への詳細情報開示の場に売り手側の関係者が立ち会うことはありません。情報開示を行うにあたって気を付けておきたいポイントについてご紹介します。
正しい情報を記載する
基本的ですが、開示情報を作成するにあたって、売り手側は正確な情報を仲介会社に伝えることが非常に重要です。
自社を良く見せたいばかりに、事実と異なる情報を伝えてしまい、交渉途中に発覚するとトラブルにつながりかねません。また、作成されたノンネームシート、企業概要書は「この情報まで記載してほしくなかった」というような事態を避けるためにも、M&A仲介会社に一任せず、最終版の内容は必ず確認するようにしましょう。
開示する相手は必ず確認する
現在すでに取引がある企業、競合他社など、自社がM&Aを検討していることを知られることで、現在の事業活動に影響を及ぼすような相手など、開示を避けたい相手について、事前にM&A仲介会社に伝えておきましょう。
思わぬルートで情報が漏洩してしまう懸念もあるため、あらかじめ慎重に検討しておくことが大切です。
提案後の状況を確認する
ネームクリア(提案許可)したからといって、すぐに提案結果が分かるとは限りません。すぐに結果がわからないからといって、自ら交渉を諦めてしまうのは得策ではありません。
面談を調整する、担当者に提案する、上席に報告する、社内で真剣に検討が始まる等、特に相手の買い手企業の規模が大きいほどプロセスは増え、時間を要することが一般的です。
また、相手が平行して別のM&Aを進めている場合、検討自体に時間がかかることもあります。M&A仲介会社の担当者と定期的に連絡をとり、相手の状況や傾向を確認しましょう。
質問には丁寧に回答する
企業概要書を開示した後、資料だけではわからない個別論点の確認や、追加資料の要求が買い手側から発生することが一般的です。
M&A仲介会社によっては、これを「Q&A対応」といいます。質問があるということは、裏を返せば関心があるということです。何を、どこまで、どのように伝えるのか、仲介会社の担当者と連携し、論点を整理していきます。この段階になれば、トップ面談は近づいています。
終わりに
以上、売り手の詳細情報開示について、その前後のプロセスをご紹介しました。
トップ面談はある意味で「お見合い」に似ているかもしれません。その際、詳細情報は「釣書(つりがき)」「プロフィール」にあたります。
お互いに初期的な関心を抱く相手と実際に対面するには、信頼のできる「仲人」に詳細情報を託し、候補者が現れるのを待ちましょう。
M&A仲介会社が信頼できる相手かどうかは、厳重な情報管理体制が敷かれていること、買い手側の事情も把握しており両社の間でコミュニケーションがスムーズであること、意図せず情報漏洩などが起きた際、最小限に留めるリスク管理体制が整っていることなども、判断材料の一つになります。そのような専門家を介して、スムーズにM&Aを進めるようにしましょう。