薬剤師採用と調剤薬局のM&A、どうすれば薬剤師を確保できるのか
⽬次
- 1. 離職率の少ない調剤薬局を目指して
- 2. 薬剤師の離職理由
- 3. 「なの花薬局」から学ぶ
- 4. 薬剤師採用と調剤薬局のM&A
- 4-1. 著者
離職率の少ない調剤薬局を目指して
現在、リクルートの薬剤師専門の人材サイトには、35,000件以上の薬局・ドラッグストアの登録があり、どれだけ多くの薬局が薬剤師確保に頭を悩ませているか見て取れる。
薬局・ドラッグストア業界で薬剤師の新規獲得が喫緊の課題となっており、大手薬局が薬剤師獲得手段の一つとしてM&Aを実行していることを紹介した。しかし一方で、薬剤師の確保を考える上では、離職率の抑制も欠かせない。このコラムでは、メディカルシステムネットワークグループの調剤薬局事業を統括する株式会社ファーマホールディングの研修制度を通して、薬剤師が長く就業するために何が必要か考えてみたい。
薬剤師の離職理由
メディカルマーケティングプロモーションリサーチの調査によると、大手薬局で三年以上勤める薬剤師の割合は58%、全体でみても68%しかいない。
※メディカルマーケティングプロモーションリサーチのHPより抜粋
では、なぜ薬剤師の離職率は高いのだろうか。
それには、
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- 薬剤師は女性の割合が多く、妊娠、出産による退職、休職が多い
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- 人材が不足し、求人が多く存在するので、辞めても他に働き口があり、辞めることへの心理的なハードルが低い
という2つの理由が考えられる。
では薬剤師の離職率を下げるためにはどうすればいいのだろうか。
「なの花薬局」から学ぶ
「なの花薬局」を展開するファーマホールディングは、新卒離職率3%(2014年数値)という驚きの数字を誇る。
ファーマホールディングは「街の灯り」を企業理念に全国展開でありながら地域密着を目指している調剤報酬ランキング第7位の薬局だ。
「街の灯り」とは、「地域の皆さまから必要とされ、信頼され、少しでもお役にたてる(薬局)」(※ファーマホールディング編集刊行「地域薬局ものがたり」より引用)、つまるところ「かかりつけ薬局」であるが、その言い回しには創業者である秋野代表のこだわりが見える。ファーマホールディングの教育研修制度日本でトップレベルの評価を受ける。それは、九州で35店舗を持つトータルメディカルサービスの大野社長がファーマホールディングの研修制度を見て、譲渡を決心したという話からも見てとれる。
ではその研修の中身はどうなっているのだろうか。
ファーマホールディングは、入社1~3年目を基本薬剤師、4~5年目をコア薬剤師、6年目からを管理者と位置付け、それぞれに応じた研修プログラムを用意している。特徴的な取り組みの一つとして、札幌市の研修保養施設で行われる新卒新入社員合宿がある。
大学を卒業し、社会に出たばかりの薬剤師に泊まり込み研修を行うことで、コミュニケーション能力向上や仲間意識の醸成を狙う。
また、全国各地に配属された後も、グループ内の組織である「医薬総合研究会」が各地で年間357回(2014年3月期実績)の研修を主宰し、認定薬剤師資格を発行している。足を運ぶことができない薬剤師のためには、eラーニング講座をどこでも受講できるようにネット配信している。それだけでなく、さらに成長したい薬剤師向けには、ビジネスマナーや調剤報酬勉強会等の多くの機会を提供している。驚くべきことに、4年目以降は受講が任意であるにも関わらず、交通費と、1,000円の受講費を自己負担し、参加している薬剤師も少なくないという。
また、ファーマホールディングのスタッフは、全店共通のアメニティコンテストなど、患者さんの入りやすい店舗を積極的につくれるようにする取り組みを通じ、「街の灯り」という理念を理解し、行動に移すことができるようになる。それも結果として、「なの花薬局」で働くことへの誇りを生み、離職を防いでいるともいえる。
給与待遇などの差別化で薬剤師を確保しようとする動きがある中で、ファーマホールディングの新卒年収は、同業他社に比べ決して高くない。それにも関らず、離職率が圧倒的に低いという事実は、新入社員が溶け込みやすい「なの花薬局」の環境が、他にも豊富な働き口がある中でファーマホールディングの薬剤師が辞めない理由であることを証明している。
薬剤師採用と調剤薬局のM&A
平成16年に開始された薬学教育6年制の影響により、それまで安定していた労働者市場が、調剤薬局業界の企業経営者から外部リスク要因の一つとして強く認識されるようになった。特に象徴的なのが、平成26年度の薬剤師試験が過去に類を見ない程の低合格率であり、内定者の半数が不合格となり、人事採用計画が大きく狂ってしまった企業も少なくない。
大手調剤チェーン、地場中堅企業、中小企業に対して薬剤師の採用問題についてヒアリングを行う中で、今年度の低合格率の影響を最も受けているのは大手調剤チェーンであり、採用人数も多い(100名規模)ため、内定者の半数以上が不合格であるという話をよく聞く。地場中堅企業については、合格率60~70%程度という企業が多くあまり深刻な状況ではないようである。このような環境下でも、大手調剤チェーンは売上を拡大しており、今年度も増収計画を打ち出している。
但し、注目すべきは『大手調剤チェーンの新規出店の半数はM&Aによるもの』ということである。
新規出店は薬剤師の確保が必要であり、年間で10店出店しようとすると、少なくとも20名の薬剤師の新規確保が必要である。しかしながら、大手調剤チェーンはM&Aによって、薬局だけではなく、そこで働く薬剤師の確保も同時に実現している。例えば、大手調剤チェーンが地域戦略として福岡県で10店舗新規出店する必要がある場合、既存で営業している薬局店舗をM&Aにより譲りうけることが出来れば、新たに多くの薬剤師を確保する必要がない。M&Aにより買収された企業の従業員はリストラにあうというイメージを持たれる中小企業経営者が少なくないが、買い手としてはM&Aに伴って薬剤師も同時に確保することが必要不可欠であり、従業員の雇用は維持される。このような労働市場の不安定化が現在の調剤薬局のM&Aを活発化させている一つの要因となっている。
また最近の調剤薬局のM&Aの傾向として、譲渡企業のオーナーがM&A後も引き続き大手調剤チェーンの関連会社の幹部役員として働き続けることが増えている。この業界では譲渡企業のオーナー経営者も薬剤師として現場で働いていることが多く、また経営・計数管理能力もあるので、買い手企業から重宝される。そのため、M&Aで企業を譲渡するオーナーの年齢も様々で、非常に若くして大手調剤チェーンと資本提携をし、大手調剤チェーンの資本力を活かした経営を行っている元オーナー雇われ社長も多い。
平成27年度の薬剤師試験は本年度の不合格者が再受験するため、受験者数が例年に比べて増大し、合格率が更に悪化することが予測される。しかしながら、企業側は新卒予定者に対する内定により人材の囲い込みをする必要がある。今後も新卒薬剤師採用の不安定化が解消されない中で、M&Aは活発に行われて行くと考えられる。
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