かかりつけ薬局化と淘汰される薬局、在宅医療への取り組み

業界別M&A
更新日:

⽬次

[非表示]

加速する“かかりつけ薬局化”

調剤薬局業界において、“かかりつけ薬局化”の動きが速まっている。

2015年5月に開催された経済諮問会議において「全ての薬局をかかりつけ薬局にする」と塩崎厚生労働大臣が発言して以来、日本薬剤師会の山本会長の「われわれとしては歓迎している」との呼応(6月4日記者会見にて)、そして6月末の骨太の方針での提言。

これで行政の“かかりつけ薬局化”への後押しがいよいよ加速してきた。具体的には、(1)患者情報の一元管理(2)24時間対応・在宅対応(3)医療機関との連携(厚生労働省)、(4)地域における医薬品の供給地点としての機能(5)医薬品の一元的・継続的管理が可能な体制(日本薬剤師会)、が求められている。

薄れる門前薬局の優位性

従来の薬局は、「薬局が病院の近くにあるから」という理由から患者に選ばれてきた。(下図参照)実際、数多くのM&Aをお手伝いさせていただく中で、そのような好立地の門前薬局を紹介してほしいという声を多く聞く。

しかしながら、“かかりつけ薬局化”が進むと、24時間対応してもらえる、もしくはビックデータを使って的確なアドバイスをくれる、など立地の良さ以外の利点も考慮されるようになる。すなわち、病院の近くにあることだけでは、優位性は相対的に低くなっていく。

大手調剤薬局の取り組み

こうした動きを見据え、調剤薬局大手はそれぞれの取り組みを始めている。(以下表を参照)


この他にも、ナカジマ薬局(北海道札幌市)は“テレフォンサポート”で患者の服薬状況を確認するサービスを提供していたり、千里プラス薬局(大阪府吹田市)では高齢者ら地域住民が集まる交流ルーム“ピアプラス”を作ったりなど、それぞれ独自の取り組みが行われている。

薬局の淘汰と生き残り戦略

“かかりつけ薬局”が推進される中、各調剤薬局は独自の取り組みで差別化を進めている。一方で、差別化できない薬局は、大手薬局の急拡大や隣接業種や異業種からの参入という競争の波にのまれ淘汰されていくだろう。さらに今後、マイナンバー制の導入や処方箋の電子化といったICT化への対応や、医療費削減政策による報酬改定など、業界再編の契機が次々とやってくる。再編が進む中で、大手と手を組むという判断(M&Aで譲渡する)も中小薬局にとっては重要な戦略になってきている。

在宅医療への取り組み

“ウチは処方箋の枚数も多いので、今無理に在宅に手を出す必要はない“
このように考える薬局経営者は多いことだろう。しかし果たしてその判断は本当に正しいのだろうか?

医薬分業の加速

2015年6月30日、内閣府経済財政諮問会議において「骨太の方針」の決定が成された。以下は要点の抜粋である。

“平成28 年度診療報酬改定において、調剤報酬について、保険薬局の収益状況を踏まえつつ、医薬分業の下での調剤技術料・薬学管理料の妥当性、保険薬局の果たしている役割について検証した上で、服薬管理や在宅医療等への貢献度による評価や適正化を行い、患者本位の医薬分業の実現に向けた見直しを行う。”

ここでのポイントは

  • 1.在宅療養を支援する薬局における基準加算(基準調剤加算2)が増加すること
  • 2.在宅患者訪問薬剤管理指導料が増加すること
    という2点である。つまり在宅医療への加算は更に大きく改定される見通しが強い。

ビジネスモデルの変化

一つ確実に言えることは、ビジネスモデル(収益構造)が変化するということである。病院周辺に立地し一定数の処方箋を確保すれば大きな利益を生み出せる時代は、既に終わりを迎えつつある。今後は在宅医療への対応を中心として、調剤薬局が主体的に行動することが求められる。

現行制度と将来制度でのジレンマ

しかし、多くの薬局にとって在宅医療に取り組むことは並大抵のことではない。薬剤師の処方箋枚数制限などにより、処方箋枚数が多い薬局ほど通常の調剤業務に携わる時間は増える。また、小規模な調剤薬局ではそもそも在宅に充てられるだけの薬剤師を確保するのが難しいだろう。結局、将来的な診療報酬の変化に対応できるのは限られた大手調剤薬局だけになってしまう公算が高い。

売り手主体の戦略的M&A

M&Aと言えば買い手が主体となって売り手を買収するイメージが強い。しかし昨今、小規模薬局が売り手として、能動的に大手薬局チェーン傘下に入るケースが目立ってきている。戦略的に合従連衡し、時代の変化を乗り越えるという試みだ。

変化に対応するためには早目早目に対応策を考えなくてはならない。今回の骨太の方針の決定は、薬剤師と資本を確保するためのM&Aの引き金となるだろう。来るべき診療報酬の改定への備え、ひいては在宅医療への備えを今のうちから取り組まなくてはならない。近い将来この変化に適応できない調剤薬局は淘汰されることになるだろう。制度変更による薬局業界の再編は待ったなしで進んでいる。

著者

日本M&Aセンター 業種特化事業部コラム制作担当

日本M&Aセンター  業種特化事業部コラム制作担当 

業種特化事業部はIT、建設・設備工事、住宅・不動産、食品、調剤薬局、物流、製造、医療・介護といった各業界に特化し、日々新たな案件に取り組んでいます。各コンサルタントのノウハウや知見を集め、有益な情報発信に努めてまいります。

この記事に関連するタグ

「調剤薬局」に関連するコラム

調剤薬局における親族継承のメリットとデメリット

業界別M&A
調剤薬局における親族継承のメリットとデメリット

日本M&Aセンター業界再編部調剤薬局業界専門グループの伊東勇一と申します。経営者として事業を長く続けていくこと。これは地域医療の一端を担う調剤薬局としても長く地域に貢献し続けることであり、多くの経営者が望まれていることかと思います。@cv_buttonただし、様々な苦境を乗り越えてきた経営者であっても、年齢の壁は乗り越えることはできず、いずれ事業承継が必要になります。事業承継は一般的に、親族承継・

薬価制度と日本の財政について

業界別M&A
薬価制度と日本の財政について

改定によって見直しが続く薬価薬局を経営していく中で重要な経営指標の一つに「薬価」があります。薬価、すなわち薬価基準制度とは、保険医療機関等の扱う医薬品の価格を公的に定めているシステムです。厚生労働大臣を通じて国が決定する薬価ですが、最近の薬価改定では医療費抑制のため薬価の引き下げが顕著となっています。さらに二年に一回であった薬価改定が2021年度から中間年も薬価の見直しを行うようになり、毎年改定に

日医工の上場廃止から考えるジェネリック医薬品卸業界の先行き

業界別M&A
日医工の上場廃止から考えるジェネリック医薬品卸業界の先行き

いつもコラムをご愛読いただきありがとうございます。日本M&Aセンター業種特化事業部の岡田拓海です。今回は「日医工の上場廃止から考えるジェネリック医薬品卸業界の先行き」についてお伝えします。@cv_button日医工の上場廃止が及ぼす医薬品卸業界への影響2022年12月28日、日医工株式会社は業績不振を理由に申請していた事業再生ADRが成立したことを発表しました。事業再生案として、国内投資ファンドの

2022年調剤薬局業界M&Aの振り返りと2023年の市場展望

業界別M&A
2022年調剤薬局業界M&Aの振り返りと2023年の市場展望

日本M&Aセンターの田島聡士と申します。2022年は、一部メーカーの製造不正を発端に生じたジェネリック医薬品の供給不足が、先発品も含めた医薬品の供給不足にまで発展し、地域に関わらず全国の薬局に大きな影響を与えました。この未曾有の医薬品不足に加え、毎年の薬価改定と2年に1度の報酬改定、近隣での競合店舗の出現など多種多様な問題に頭を抱える薬局経営者も増えています。ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源

Amazonが日本市場へ上陸する!?電子処方箋が引き起こす、調剤薬局の参入障壁の崩壊

業界別M&A
Amazonが日本市場へ上陸する!?電子処方箋が引き起こす、調剤薬局の参入障壁の崩壊

電子処方箋の導入で変わる、薬局のビジネスモデルいつもコラムをご愛読頂きありがとうございます。日本M&Aセンターの調剤薬局専門グループです。先日ニュースをみて衝撃を受けた方も多いかと思われますが、2023年Amazonが日本の処方薬販売への進出を検討しているとの報道がありました。確定した情報ではないにも関わらず、同業界の上場企業株価は急落し、競争激化への懸念が強まる形となっています。@cv_butt

ファーマシィとの資本提携で注目されるアインホールディングスの歴史と挑戦

業界別M&A
ファーマシィとの資本提携で注目されるアインホールディングスの歴史と挑戦

はじめに2022年5月9日、多くの調剤薬局業界関係者が驚いたのではないでしょうか。業界最大手のアインホールディングスが、中国地方を中心に100店の調剤薬局を持つファーマシィホールディングスの全株式を取得し、完全子会社化することを発表したのです。@cv_button取得額は非公表ですが、ファーマシィホールディングスの2021年3月期の売上高は約215億円で、アインホールディングスのM&Aとしても、過

「調剤薬局」に関連するM&Aニュース

くすりの窓口、ヘルパーリンクを同社前代表取締役に譲渡

株式会社くすりの窓口(5592)は、連結子会社の株式会社ヘルパーリンク(千葉県千葉市)の株式を、同社前代表取締役に譲渡することを決定した。くすりの窓口は、薬局・医療向けソリューションを提供している。ヘルパーリンクは、インターネットを利用したシニア層向け生活サポート、介護代行サービスのビジネスマッチングサイトの運営等を運営し、地域の登録サポーターを通じて生活サポートサービスを提供している。背景・目的

ファーマライズホールディングス、寛一商店グループから一部の調剤薬局事業を譲受け

ファーマライズホールディングス株式会社(2796)は、寛一商店株式会社・アサヒ調剤薬局株式会社・有限会社ハヤシデラ・有限会社共生商会・株式会社ハーベリィ科学研究所・株式会社ソフトリー・有限会社ライフプランニング・新潟医薬株式会社・有限会社さくら調剤薬局(以上、会社更生手続き中)及び株式会社メディカルアソシエイツ(以下、寛一商店グループ)から、一部の事業譲渡を受けることを決定した。また、同日、同社と

メディカル一光グループ、三重県薬剤師会から薬局2店舗を譲受け

株式会社メディカル一光グループ(3353)の連結子会社である株式会社メディカル一光(三重県津市)は、一般社団法人三重県薬剤師会(三重県津市)より2薬局を譲受けることについて決定した。メディカル一光は、調剤薬局事業・医薬品卸売事業を行う。三重県薬剤師会は、薬剤師を会員とする職能団体。事業(調剤薬局)譲受けの目的今回の譲受けは、メディカル一光グループの薬局事業のさらなる強化を目的としており、地域医療の

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース