かかりつけ薬局化と淘汰される薬局、在宅医療への取り組み
⽬次
- 1. 加速する“かかりつけ薬局化”
- 2. 薄れる門前薬局の優位性
- 3. 大手調剤薬局の取り組み
- 4. 薬局の淘汰と生き残り戦略
- 5. 在宅医療への取り組み
- 6. 医薬分業の加速
- 7. ビジネスモデルの変化
- 8. 現行制度と将来制度でのジレンマ
- 9. 売り手主体の戦略的M&A
- 9-1. 著者
加速する“かかりつけ薬局化”
調剤薬局業界において、“かかりつけ薬局化”の動きが速まっている。
2015年5月に開催された経済諮問会議において「全ての薬局をかかりつけ薬局にする」と塩崎厚生労働大臣が発言して以来、日本薬剤師会の山本会長の「われわれとしては歓迎している」との呼応(6月4日記者会見にて)、そして6月末の骨太の方針での提言。
これで行政の“かかりつけ薬局化”への後押しがいよいよ加速してきた。具体的には、(1)患者情報の一元管理(2)24時間対応・在宅対応(3)医療機関との連携(厚生労働省)、(4)地域における医薬品の供給地点としての機能(5)医薬品の一元的・継続的管理が可能な体制(日本薬剤師会)、が求められている。
薄れる門前薬局の優位性
従来の薬局は、「薬局が病院の近くにあるから」という理由から患者に選ばれてきた。(下図参照)実際、数多くのM&Aをお手伝いさせていただく中で、そのような好立地の門前薬局を紹介してほしいという声を多く聞く。
しかしながら、“かかりつけ薬局化”が進むと、24時間対応してもらえる、もしくはビックデータを使って的確なアドバイスをくれる、など立地の良さ以外の利点も考慮されるようになる。すなわち、病院の近くにあることだけでは、優位性は相対的に低くなっていく。
大手調剤薬局の取り組み
こうした動きを見据え、調剤薬局大手はそれぞれの取り組みを始めている。(以下表を参照)
この他にも、ナカジマ薬局(北海道札幌市)は“テレフォンサポート”で患者の服薬状況を確認するサービスを提供していたり、千里プラス薬局(大阪府吹田市)では高齢者ら地域住民が集まる交流ルーム“ピアプラス”を作ったりなど、それぞれ独自の取り組みが行われている。
薬局の淘汰と生き残り戦略
“かかりつけ薬局”が推進される中、各調剤薬局は独自の取り組みで差別化を進めている。一方で、差別化できない薬局は、大手薬局の急拡大や隣接業種や異業種からの参入という競争の波にのまれ淘汰されていくだろう。さらに今後、マイナンバー制の導入や処方箋の電子化といったICT化への対応や、医療費削減政策による報酬改定など、業界再編の契機が次々とやってくる。再編が進む中で、大手と手を組むという判断(M&Aで譲渡する)も中小薬局にとっては重要な戦略になってきている。
在宅医療への取り組み
“ウチは処方箋の枚数も多いので、今無理に在宅に手を出す必要はない“
このように考える薬局経営者は多いことだろう。しかし果たしてその判断は本当に正しいのだろうか?
医薬分業の加速
2015年6月30日、内閣府経済財政諮問会議において「骨太の方針」の決定が成された。以下は要点の抜粋である。
“平成28 年度診療報酬改定において、調剤報酬について、保険薬局の収益状況を踏まえつつ、医薬分業の下での調剤技術料・薬学管理料の妥当性、保険薬局の果たしている役割について検証した上で、服薬管理や在宅医療等への貢献度による評価や適正化を行い、患者本位の医薬分業の実現に向けた見直しを行う。”
ここでのポイントは
- 1.在宅療養を支援する薬局における基準加算(基準調剤加算2)が増加すること
- 2.在宅患者訪問薬剤管理指導料が増加すること
という2点である。つまり在宅医療への加算は更に大きく改定される見通しが強い。
ビジネスモデルの変化
一つ確実に言えることは、ビジネスモデル(収益構造)が変化するということである。病院周辺に立地し一定数の処方箋を確保すれば大きな利益を生み出せる時代は、既に終わりを迎えつつある。今後は在宅医療への対応を中心として、調剤薬局が主体的に行動することが求められる。
現行制度と将来制度でのジレンマ
しかし、多くの薬局にとって在宅医療に取り組むことは並大抵のことではない。薬剤師の処方箋枚数制限などにより、処方箋枚数が多い薬局ほど通常の調剤業務に携わる時間は増える。また、小規模な調剤薬局ではそもそも在宅に充てられるだけの薬剤師を確保するのが難しいだろう。結局、将来的な診療報酬の変化に対応できるのは限られた大手調剤薬局だけになってしまう公算が高い。
売り手主体の戦略的M&A
M&Aと言えば買い手が主体となって売り手を買収するイメージが強い。しかし昨今、小規模薬局が売り手として、能動的に大手薬局チェーン傘下に入るケースが目立ってきている。戦略的に合従連衡し、時代の変化を乗り越えるという試みだ。
変化に対応するためには早目早目に対応策を考えなくてはならない。今回の骨太の方針の決定は、薬剤師と資本を確保するためのM&Aの引き金となるだろう。来るべき診療報酬の改定への備え、ひいては在宅医療への備えを今のうちから取り組まなくてはならない。近い将来この変化に適応できない調剤薬局は淘汰されることになるだろう。制度変更による薬局業界の再編は待ったなしで進んでいる。