【不動産業のM&A事例】40代の若い経営者が譲渡を決断
⽬次
- 1. 40代の経営者がM&Aによる譲渡を検討
- 2. 業績が良いからこそM&Aに着手
- 3. 上場会社との交渉 トップ面談は相互理解の場
- 4. 成長のためには他社との連携が不可欠
- 4-1. 著者
譲渡企業のM&Aの動機で最も多いのは60代、70代のオーナー社長の事業承継問題によるものです。
しかし昨今では、40代、50代などの若い経営者がM&Aで譲渡を決断する事例が増えています。今回は、40代のオーナー社長がM&Aで譲渡を決断した事例をご紹介します。
40代の経営者がM&Aによる譲渡を検討
G社は首都圏の主要都市において、賃貸物件の仲介・管理を行う会社です。代表者の太田社長(仮称)は元々不動産会社に就職するも、自分で会社を立ち上げたいと思うようになったことからG社を創業しました。社員が安心して働ける会社づくりを目標にしており、20名を超える社員に恵まれ順調に業容を拡大してこられました。
しかし、創業10年、売上が4億円を超えるころから、太田社長は自社単体での成長に限界を感じるようになってきました。人件費や広告宣伝費などの資金面において、大手不動産会社との差を痛感するようになったのです。それまでは営業力の強化に取り組むなどの工夫でカバーしてきましたが、それも限界が見えてきたのです。
太田社長は、目標である「社員が安心して働ける会社」にするためには、10年後も成長し続ける会社にすることが必要だと思いました。成長し続けるには「資金力」と「人材」の2つが欠かせませんが、それまでと同じ経営のしかたでは、どちらも獲得することは難しいという状況でした。この時太田社長は40代で、経営者としては若い年齢であったものの、このまま単独で経営を続けるより、会社を成長させてもらえる大手企業のグループに入った方が従業員の将来が明るくなると考えたのです。
業績が良いからこそM&Aに着手
太田社長はインターネットで中小企業のM&Aについて検索し、日本M&Aセンターにご相談いただくこととなりました。ご面談では、M&Aの進め方、G社に近しい事例のご紹介などを行いました。M&Aの検討をスタートするのに様々なタイミングがありますが、太田社長は下記の状況を鑑み、すぐにお相手探しをすることを決断されました。
- 成長戦略を描く上でM&A以外の選択肢がある今だからこそ、様々な検討を重ねた上での決断ができる
- 個人の体調、会社の業績が良好であることから、ベストな状態・条件で譲渡できる
また、太田社長からは時間をかけてお相手探しをするのではなく、決断したからにはスピーディに進めていきたい旨を承りました。当社の方では速やかに案件化(企業評価書、企業概要書の作成)を行い、候補先リストを作成しました。都市部で不動産仲介事業を営む企業を譲り受けたいというニーズは非常に多く、当社からはまず約100社の候補先を太田社長へ提示しました。
M&A相手の候補先は100社にも及んだため、当社のほうで希望条件を満たす企業に優先順位をつけ、提案活動を進めていきました。そのような中で、G社に対し強い熱意を示す上場会社のH社と協議を進めていくこととしました。
上場会社との交渉 トップ面談は相互理解の場
H社は上場している不動産賃貸管理業の企業です。都市部に特化して事業展開を行っており、順調に業績を伸ばしていました。今後は少しずつ地域展開を進めていくことを検討していたのですが、G社が事業を営む地域はまさにH社が進出したい地域だったのです。H社の柴田社長(仮称)にG社のご紹介をしたところ、柴田社長は本件に取り組むことを即決されました。
トップ面談では主に、M&A成立後の事業運営と太田社長の譲渡理由について話し合われました。
両社の相乗効果は明確でした。H社はG社の隣接エリアにおける展開をしており、両社が一緒になることでエリアの総合展開が可能となり、人材交流・ノウハウの共有などを進め、よりよい事業運営が見込めたのです。H社は資金力もあり、広告宣伝に力を入れることもできるようになります。また、上場企業のグループになることで、採用力の強化も見込めました。
ただH社からすると、40代でまだ若い太田社長の譲渡理由は気になるものでした。譲渡を決めた背景を深く理解することは、M&Aを成功させる上で重要なポイントです。太田社長は経営者としては若い年齢であったものの、「このまま単独で経営を続けるより、会社を成長させてもらえる大手企業のグループに入った方が従業員の将来が明るくなる」という考えをお持ちでした。柴田社長も直接説明を受けたことで太田社長の譲渡理由について納得できたようです。
その後のプロセスは順調に進みました。社歴が浅いこともあり、買収監査で論点になる点もほとんどありませんでした。本件においては、最終契約の直前にG社のキーマンである幹部社員に本件を開示し、本件の同意を取り付けました。このとき柴田社長から幹部社員に直接、今回のM&Aの意義や会社の将来についてお話しいただいたことで、幹部の方もH社のグループに入ることのメリットを理解し、前向きに受け止めていただけました。結果として、トップ面談からおよそ2ヶ月で最終契約・譲渡の実行に至りました。
成長のためには他社との連携が不可欠
太田社長のような若い経営者が積極的にM&Aを考える時代になっています。業績が悪い・資金繰りに困っているなどという理由ではなく、しっかり利益を出している会社が中長期的な会社の発展のためにM&Aを行っています。今後、ますます競争が激化する不動産業界において、中堅・中小企業が自前で成長できる幅は限られており、他社との連携が不可欠になってきます。そのため不動産業界においても、若い経営者らを中心に、このような成長戦略を見据えたM&Aによる再編の動きは加速していくと考えています。