薬局機能に迫られる選択肢と、調剤薬局経営者の悩み。単独では難しいジレンマ。

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「患者のための薬局ビジョン」実現のためのアクションプラン検討委員会報告書の中には、国が求める薬局機能について詳しく記載されている。

具体的に上げると、かかりつけ薬剤師・薬局の基本的機能としては
・服薬情報の一元的・継続的把握とそれに基づく薬学的管理・指導
・24時間対応・在宅対応
・医療機関等との連携
が挙げられている。

これらについては2016年度の調剤報酬改定により、その重要度、国としての重視度が強調されていた。それを踏まえての本報告書発表であるが、実態はなかなかうまく進んでいない。

オーナーが抱える経営の苦労・悩みの多くは・・・?

オーナーが抱える悩みの多くは「薬剤師の確保ができない」ということだ。
小規模店舗(5店舗以下)が薬剤師を確保できない事例や、翌月に薬剤師が退職することが決定しているが新規の薬剤師を確保できず店舗運営ができなくなる事例をよく聞く。
しかし、最近は状況が変化している。
5店舗以上の中規模店舗であっても、薬剤師の確保に苦労しているのだ。

在宅対応ひとつをみても・・・

例えば在宅対応。報告書によると、在宅業務を行っている薬局は約半数の52.7%。これは国が想定している数字より低い。

在宅業務を行っていない主な理由としては

  • 薬剤師の人員不足のため 58.9%
  • 在宅業務の経験・知識がなく、対応方法が分からないため 16.0%
    となっている。

24時間対応についても、対応ができていない薬局がまだ15.6%あり、その主な理由は

  • 費用負担が経営上の大きな負担となっている 50.7%
  • 薬剤師の人員不足 45.2%
    となっている。

医療機関等との連携については、連携ができていない薬局は34.5%あり、その理由としては「調剤業務が忙しく時間が取れないため」が49.7%で最多であった。

迫られる選択肢

これらのことから分かることは、国の求める薬局機能を満たすには、薬剤師の人員不足と費用負担増への対応が必須であるということだ。

これらに即対応できているのは薬剤師を豊富に抱え、潤沢な投資資金を持っている上場企業をはじめとした大手企業。地場の中堅、中小企業には非常につらい状況である。
優秀な薬剤師は大手に確保されてしまい、募集を出してもすぐに採用できるという状況ではない。資金的にも潤沢に有るわけではないため、大きな投資をするには二の足を踏んでしまう。

仮に、なんとか投資をして薬剤師を増やしたり、店舗を増やしたりしても、経営的なメリットは限定的になる場合が多い。加えて、調剤報酬の改定が2年ごとにあり、より要件が厳しくなっていくことで、負担が増えるばかりであることは目に見えている。

未来を見据えて何を選ぶか

調剤薬局のオーナーは、今後の薬局経営について、従来のままではなく選択肢の一つとして、大手企業と一緒に歩むことも考えなければならない。
大手企業と一緒になることで、薬剤師確保の悩みから解放され、さらにはシステムや薬価交渉など、さまざまな点で効率化され、費用負担が減少する。
よりよい医療サービスを提供し続け、地域包括ケアシステムの構築が可能となる未来は、M&Aで選ぶことができるのだ。

調剤薬局は地域医療への貢献のため様々な取り組みを行っている。

例えば、お薬・漢方の相談に乗ること―高齢者の患者様にはお薬の飲み方・飲み忘れを防止するためにシールを張ってゆっくりと説明をするなど、懇切丁寧に行われている。
「開局当初から自分を信頼して来てくれる患者様には120%で応えたい」「病気で不安な時には優しく丁寧に接することが大切」というオーナーの声もよく聞く。

また、自社の地域の患者様に合わせて介護用品を店舗に準備したり、自社で独自の商品(例:医療用杖・間接サポーターなど)を開発し販売する薬局もある。
この仕事をしていると、医療従事者として、薬剤師として、患者様に密着した医療を目指し患者様一人一人のサポートに心を配っているオーナーの姿に感銘を受けることが多々ある。

一方で、理想とする調剤薬局の姿を達成できないという悩みを打ち明けられることも多い。

薬剤師不足がもたらす負のサイクル

これは9店舗の薬局を経営するオーナーに伺った話である。
この薬局は、1地域(1つの駅を中心に)に3店舗ずつ出店している。人繰りや急きょ欠員が出た際に迅速に対応するためだ。かつては薬剤師の数に余裕もあったためこの方法で通用したが、現在は異なるという。
勤務していた薬剤師が高齢で退職したため、現在は各店舗に適正人数(1日で受領する処方箋枚数に対応できる人数)しか配置できない。
欠員が出た場合は、オーナー自身が店舗の応援に行ってなんとか対応している。しかしそれ以上に人員が不足するときもあり、人材派遣会社に高額の紹介料を支払い依頼するという。本来であれば定着する薬剤師の募集に時間とお金をかけたくても、人材不足に翻弄されて、採用活動すら行う余裕がない。

「今はなんとかやっているが、もし、今後一度に複数の欠員や退職者が出た場合のことを考えると、ぞっとする」(オーナー談)

国が求める地域包括ケアシステムの構築に向けて、薬剤師や薬局が期待されている機能を充実させるためには優秀な薬剤師の確保は必須事項。しかしその悩みは単独で容易に解決できるものではない。

薬剤師不足を解決する方法がある

単独では解決できない薬剤師不足問題。だが、“単独でなければ”どうだろう?
M&Aで大手調剤薬局グループの傘下に入ることで、単独では難航していた薬剤師不足問題を解決したケースは多い。

群馬県のアンナカ薬局がその一例だ。薬剤師の確保に苦労していた矢先、管理薬剤師が退職。人材不足を打開するため破格の求人広告を出したが、応募は乏しかった。薬剤師が確保できなければ経営は難しい状況に陥る。
アンナカ薬局のオーナーであった佐鳥氏は、この問題の解決策としてM&Aを検討。大手調剤薬局グループのメディカルシステムネットワークと手を組むことでこの課題を解決した。

実際、メディカルシステムネットワークと一緒になったことで、管理薬剤師の補充をしてもらうことができた。また、在籍する従業員に対してもメディカルシステムネットワークの研修制度や福利厚生を適用することができ、大きな安心感を与えることができた。
医療従事者として地域医療の発展と貢献を第一に考え、M&A譲渡をした佐鳥氏のご決断は本当に素晴らしいものである。

大手調剤薬局の動き

他の大手調剤薬局の動きを見てみよう。

メディカルシステムネットワークの中期経営計画では、平成27年3月末から平成30年3月末で売上を約1.4倍にする計画を打ち出し、その成長の軸となるのは積極的なM&Aによる店舗拡大としている。他大手調剤薬局も同様の考えを持ち、自前出店に頼るのではなくM&A専門の部署を立ち上げ、積極的に店舗を拡大していく方針だ。

現在トップ10社の店舗数シェアは約14%であり、アインホールディングスの拡大スピードで各社店舗数を増やしたと仮定すると、1年後には約28%に達する。こういった数字から見ても、調剤薬局業界は再編のステージである「成長期」「成熟期」「最終期」のうち「成長期」であり、今後さらなる寡占化がおきると考えられる。

各社店舗拡大を急ぐ裏には・・・

これほどまでに各社が店舗拡大を積極的に進めるのはなぜだろうか。
それは国が求める地域包括ケアシステムの構築のためだろう。2017年3月に厚生労働省から発表された「患者のための薬局ビジョン」実現のためのアクションプラン報告書には、今後の薬局の機能として「服薬情報の一元的・継続的把握とそれに基づく薬学的管理・指導」「24時間対応・在宅対応」「医療機関等との連携」を備えることが必要であると発表されている。

これらの機能を充実させるためには、さらなる薬剤師の確保、情報収集のためのインフラ(店舗網)の拡大が急務になっている。
各社がこれに対しどのように経営の旗振りをしていくか、検討した結果のひとつが「M&Aによる店舗拡大」の道なのではないだろうか。

大手と一緒に歩んでいく決断

そのような中、今後の自社の成長を考えて2016年度に行動を移した共栄堂、みよの台薬局、葵調剤の決断は興味深い。いずれも売上100億程度で黒字という規模も大きい優良企業であるが、将来の成長スピードや国の行く末を勘案し、大手と一緒に歩むことを選択した。

社会保障費が増加し続ける環境下、今後国が求める薬局へのハードルは高くならざるを得ない。
それらを踏まえ、独自路線を貫くのか、大手と組んで共に歩んでいくのか―立ち止まっているだけでは何も始まらない。業界再編が進んでいるまさに今、選択を迫られているのである。

著者

日本M&Aセンター 業種特化事業部コラム制作担当

日本M&Aセンター  業種特化事業部コラム制作担当 

業種特化事業部はIT、建設・設備工事、住宅・不動産、食品、調剤薬局、物流、製造、医療・介護といった各業界に特化し、日々新たな案件に取り組んでいます。各コンサルタントのノウハウや知見を集め、有益な情報発信に努めてまいります。

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