2017年の外食・食品業界のM&A総括とM&Aニュース・トレンド事例
⽬次
- 1. 2017年外食・食品業界のM&A総括
- 1-1. 2017年度の外食・食品業界のM&A一覧
- 2. ポートフォリオ拡大型のM&A
- 3. 海外進出型のM&A
- 4. 2017年食品業界のM&A事例・ニュース・トレンド
- 4-1. 老舗を後世に残せ! M&Aによって秘伝の味や、ブランドを伝承
- 4-2. 加速する回転すし業界の再編
- 4-3. 外食企業はポートフォリオ経営を加速
- 5. イオンの1強独占に待ったをかける食品スーパー上位ランカーのM&A攻勢
- 5-1. 著者
2017年外食・食品業界のM&A総括
2017年度の食品業界のM&A件数は、138件(公表ベース)と、過去10年で最多であった2014年とタイ記録の件数となりました。
また2017年特に外食産業のM&A動向を語るうえで、外せないキーワードが2つあります。
- ポートフォリオの拡大
- 海外進出
外食企業が買収を仕掛ける目的は、業態を広げて国内市場を取りに行くか海外のマーケットを開拓するか。その2つが特に目立った年であったといえます。
2017年度の外食・食品業界のM&A一覧
ポートフォリオ拡大型のM&A
居酒屋の業態開発で業界をけん引していたダイヤモンドダイニングが、9月から持ち株会社体制となり、DDホールディングスとなりました。
これは今年の象徴的な出来事と言え、持株会社化することで、子会社の意思決定が迅速になり、リスク分散が可能になります。多様な業態をぶら下げて、ポートフォリオ拡大に動く姿が浮かび上がります。
海鮮居酒屋「はなの舞」などを運営するチムニーは、11月にハヤマフーズから7店舗を譲り受けると発表。ハヤマフーズはハンバーグやビーフシチュー等、洋食が強い企業です。
ダイニングやカフェ業態を展開するバルニバービは、6月に京都市東山の料理旅館「菊水」の株式を取得。洋風レストラン業態を多く持つ会社が、純和風に手を広げたポートフォリオ経営の例と言えます。
昭和30年創業の歴史ある店舗を取得したのは、業態にこだわるバルニバービらしいM&Aでした。
「丸亀製麺」を展開するトリドールホールディングスは7月に居酒屋「晩杯屋」を展開するアクティブソースの株式を取得。また11月には関西圏を中心にとんこつラーメン店「ずんどう屋」を展開するZUNDの株式を取得。
いずれの案件もトリドールホールディングスが強みとする昼間、ロードサイド大箱という領域から夜間のピークタイム、駅近の路地裏での展開という領域を補完することで時間・不動産のポートフォリオ拡充が実現されました。
海外進出型のM&A
海外展開を視野に入れたM&Aニュースといえば、スシローと元気寿司の経営統合に向けた動き。
米卸大手の神明が9月、英投資ファンド「ペルミラ」からスシローグローバルホールディングスの株式33%を379億円で取得しました。
神明はすでに元気寿司を傘下に収めており、神明はスシローと元気寿司の経営を統合し、スシローの海外進出を狙うことが予想される。スシローの海外店舗数は8。今期は2店舗を撤退しています。一方、元気寿司は海外の店舗数が165。直販とフランチャイズを組み合わせて着実に拡大しております。
2017年27店舗を出店したスシローは、他店との苛烈な価格競争に巻き込まれること必至です。当時上場したばかりのスシローは、投資家にアピールするための企業戦略を描かなければなかったと考えられます。そのためにも、元気寿司との統合でノウハウを獲得し、海外進出に弾みをつけたかったと想像します。
先ほど国内ポートフォリオ拡充を行ったトリドールホールディングスがとった海外戦略は独特でありました。
同社は7月に、外食企業に出資をする米投資ファンド「ハーゲット・ハンター」への出資を決定しました。出資することにより、アメリカで成長している外食企業ベンチャーの情報をいち早く入手することを目的としたと考えられます。
ハーゲット・ハンターは、人気のチョップドサラダ系飲食店「CHOPT」をいち早く見出し、チェーン展開したことで有名。
トリドールは、フランチャイズ化する前の飲食店の芽を刈り取ろうとしている。同社は当時アジア地域で177店舗、アメリカは5店舗。出遅れ気味のアメリカ出店を本格化する狙いがありました。
ラーメン店「一風堂」を展開する力の源ホールディングスも、海外展開に力を入れている企業です。同社は6月にインドネシアの飲食企業を2700万円で買収しました。海外で65店舗を運営しており、出店を更に加速するため、当時の出店重要拠点はアメリカでしたが、アジアでの拡大を狙ったものと考えられます。
10月には「築地銀だこ」のホットランドも、イオンと共同で出資して設立したL.A.Styleを完全子会社化しました。同社は米The Coffee Bean & Tea Reafの国内フランチャイズ契約を締結していました。
以上のように2017年度に関しては国内においてはリスク分散・新業態展開を狙った「ポートフォリオ拡充型」のM&A、また内需が中長期的に見たときには確実にシュリンクしていくことを懸念し「自社ブランドの海外展開型のM&A」というものが多くみられた年であったといえます。
食品の世界大手ネスレは、米ブルーボトルコーヒーを買収したと9月に発表。買収額は約470億円。ネスレは自社運営する「ネスカフェ」でエスプレッソ型を、ブルーボトルコーヒーでドリップ型コーヒーの消費を伸ばす戦略。こちらもポートフォリオ拡大の戦略が垣間見られます。
2017年食品業界のM&A事例・ニュース・トレンド
老舗を後世に残せ! M&Aによって秘伝の味や、ブランドを伝承
老舗の食品メーカーや伝統ある外食企業の存亡の危機を回避するべく、大手企業がそれらの企業を傘下に収める事例が増えてきている。
2014年11月、売上高150億円を超える日本を代表する老舗日本料理店「なだ万」の株式51.1%をアサヒグループHDが譲り受けた。これにより、180年を超える歴史と伝統を後世に繋ぎ、事業承継問題を解決。また、アサヒビールはなだ万が培った和食のノウハウを取引先の飲食店に提供することで、コンサルティング機能において競合他社との差別化を実現した。
現在日本国内には、業歴100年を超える老舗企業が約2万6000社あると言われている。また、国内の約3分の2に当たる66%の企業が、後継者不在による事業承継問題を抱えている。2015年3月には、1932年創業で国内シェア30%を誇るチョークのトップメーカー羽衣文具株式会社が、後継者不在を理由に自主廃業している。
後継者不在の有名老舗企業にとって、M&Aにより事業を承継することが、伝統の味や技術を承継するための有効な手段として認識され始めており、今後も同様のM&A事例が増え続けて行くことが予想される。
加速する回転すし業界の再編
回転ずしチェーン最大手、あきんどスシローと5位の元気寿司が経営統合の方針を固めたことが2017年9月に発表された。コメ卸最大手の神明(神戸市)がスシローの親会社株の3割超を新たに取得し、子会社である元気寿司との統合を主導する。売上高の単純合計は約1800億円で、業界シェアの3割を占める。規模拡大をテコに効率化を進め、海外での事業展開も加速する。
神明は10月をメドに、スシローグローバルホールディングス株の33%を英投資ファンドのペルミラなどから約400億円で買収。そのうえで元気寿司を交えた3社で資本・業務提携し、統合の時期など詳細を詰める。
スシローは約480店舗のほとんどが国内にあり、元気寿司は全店舗の約半分にあたる約170店を海外で出している。規模拡大や仕入れ先の共通化でコストを削減できるうえ、海外出店のノウハウを共有できる利点があるとみている。
回転寿司業界は市場規模約6,000億円、外食産業の中でもとりわけ安定的に拡大している業態であり、本件を機に更なる再編の進行が予想される。
外食企業はポートフォリオ経営を加速
多くの外食企業が、様々な業態を傘下に置くポートフォリオ経営を推し進めている。近年の外食業界のM&Aを見てみる。
このように、大手外食企業は様々な業態を組み合わせて全体の店舗数を増やしていく成長の仕方が主流になっており、その代表的な手法としてM&Aが活用されている。
カフェ業態とスシロー、くら寿司を除くと、国内で年商1,000億円を超える外食企業は、12社のみ。そのうち、単一業態で展開するのは日本マクドナルド、サイゼリヤの2社で、その他の10社はM&Aや新業態の開発を繰り返しながら、ポートフォリオ経営を強力に推進している。
また、郊外のロードサイドを中心に国内で561店を展開する幸楽苑HDは、グループ1000店構想を掲げるが、単一ブランド「幸楽苑」のみではドミナントエリアで自社競合が発生すると判断し、競合しない別のブランドが必要だった。そこで、ペッパーフードサービスが展開する「いきなり!ステーキ」とFC契約をしたことが2017年、大きな話題となった。
「いきなり!ステーキ」は都市部や大型ショッピングセンター(SC)など、集客力が高い立地を中心に国内で166店を展開する。今年5月に初のロードサイド店を群馬県に出店したが、都心店より高い売り上げと家賃の安さから、髙収益モデルを確立できると判断した。
ロードサイドでの店舗拡大を目指しており、両社の思惑が一致した。今後は、東北地方の幸楽苑の店舗を中心に50店の衣替えを実施していくという。
イオンの1強独占に待ったをかける食品スーパー上位ランカーのM&A攻勢
これまで、数々の企業を傘下に収めてきた国内小売No.1企業のイオン(連結売上8兆円の内、約6兆円がM&Aにより取得)。
SM事業においても一部・間接出資まで含めると、いなげや、カスミ、ビッグ・エー、マルエツ、 マルナカ、ベルク、マックスバリュ、レッドキャベツ、光洋など全国各地の企業と資本関係を構築している。 その1強独占のイオンに対して、積極的なM&A攻勢により追随をしようとする各地のスーパー上位ランカーが存在する。
また、2016年、2017年同業界で注目を集めたM&Aニュースとして、ゼンショーHDによる群馬県を基盤とするフジタコーポレーションの買収、ヤオコーによる神奈川県南部を中心に展開するエイヴィの買収が挙げられる。
ゼンショーHDは、2014年の「すき家」加重労働問題により、一旦はM&Aによる拡大路線の中断を余儀なくされた。今回、2年間の沈黙を破りフジタコーポレーションの買収発表することで、今後より一層強力に小売り事業の拡大を推し進めることを対外的にアピールした。
また、ヤオコーは埼玉県川越市に本社を置き、1都6県で138店舗を展開、売上高3,254億円(2016年3月期)を誇る関東では有数の優良スーパー。同社はこれまで創業家である川野一族を中心に独立独歩で成長を続けてきたが、2012年にライフコーポレーションとの業務提携を発表、プライベートブランドの「Yes!YAOKO」を充実させると同時に、ライフコーポレーションとの共同開発PBである「star select」の商品開発を進めてきた。今回、エイヴィを傘下に収めることで、現在6店舗しかない神奈川県内での店舗網の拡大と、エイヴィのローコストオペレーションのノウハウ、ディスカウントストアという新ブランドを獲得することとなる。
このように、各社M&Aを活用しながら勢力を拡大する群雄割拠の時代が、2018年以降も継続するだろう。