【食品・外食業界M&A事例】「中華×和食」弱みを補完する異業態のM&A

江藤 恭輔

日本M&Aセンター業種特化2部 部長

業界別M&A
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【譲渡企業様】
・企業名⇒株式会社タスク
・業種⇒和風居酒屋
・売上(M&A当時)⇒約5億円
・オーナー様のご年齢⇒63歳

【譲受企業様】
・企業名⇒株式会社王府井
・業種⇒中華料理店
・売上(M&A当時)⇒約24億円
・オーナー様のご年齢⇒41歳

何故、王府井(ワンフーチン)はM&Aによる譲受をしたのか?

事業拡大には「新規出店」×「従業員」の両方が必要

日本の飲食店の数は減少傾向にありますが、一方で従業者数は増えており、これは規模が小さい家族経営店が大きく減少する一方、短時間労働のアルバイトを多く雇っているチェーン店が増加していること等が要因としてうかがえます。
そもそもの人口減少に伴い、働き方改革など労働環境の見直しも進み、必要とされる従業員数が増えているということを考えると、現在では採用難易度が以前と比較して上がっていることは予想に難くありません。

また、好立地へ新規出店を行おうと考えても、当然ですが良い場所は既に埋まっています。新規出店先を決めつつ、その店舗に必要な人員を採用するという両方を同時に叶えないことには事業拡大が難しいのです。
したがって、既存の店舗と優れた技術を持つ従業員を同時に譲受できるM&Aは非常に有効な手段でした。

時代の変化に合わせた事業ポートフォリオの拡大が必要

王府井(ワンフーチン)は横浜中華街を代表する焼き小籠包の名店として、高い人気を誇っています。この人気の背景には、もちろん職人の卓越した技術や味がありますが、もう一つ大切なこととして、時代の変化に合わせて販売スタイルを絶えず変化させてきたことがあります。

インターネット通販も行っており、横浜中華街で食べ歩きが流行しはじめてからはテイクアウトに力を入れた店舗をオープンするなど、時代と共に販売方法にも工夫を重ねてきました。
横浜中華街で成功された王府井(ワンフーチン)ですが、横浜中華街は観光客が多いため「新規顧客の獲得」が中心となることや、観光客の性質上「休日の売上が高い」という点から、更なる事業の拡大のためにも「リピーターを多く抱える業態」かつ「平日利用に強い業態」を探されていらっしゃいました。

インバウンド需要×高い日本料理の技術が次の未来を創る

2020年に東京オリンピックの開催も控えている中、訪日観光客は今後も増えることでしょう。そのような中で、日本独自の料理は高い注目を集めるポテンシャルを秘めています。
また、王府井(ワンフーチン)の社長は、焼き小籠包が成功した理由として、職人にしか創れない味を磨き続けたからこそ、模倣店が出てきてもそれが差別化になったと振り返りをしており、高い技術を持った職人が調理することが何より大切なポイントとして考えていらっしゃいました。

上記のような背景に加え、社長自身が学生時代のアルバイト経験から日本料理が好きだったこともあり、日本食における高い技術を持った職人がいらっしゃる企業を探されるようになりました。

日本M&AセンターのDATA BOOKと出会う

王府井(ワンフーチン)の社長が本格的にM&Aを検討し始めたのは、日本M&Aセンターから郵送で届いた「2018年度決定版 食品業界M&A DATA BOOK ―最新業界動向の決定版-」をご覧になられたことがきっかけでした。
食品業界(外食・製造・卸・小売り)のM&Aトピックスなどをまとめた無料のデータ集です。それが手元に届いたことから関心を持っていただき、日本M&Aセンターにお問い合わせいただいたのがきっかけで、今回のM&Aはスタートしました。

何故、タスクはM&Aによる譲渡を決断したのか?

若い経営者に未来を託す

譲渡企業であるタスクは銀座・赤坂で和食割烹風の居酒屋を3店舗運営しておりました。
多数の優れた調理人を有し、居酒屋に準じたリーズナブルな価格ながらクオリティの高い料理、空間を提供することで、周辺のビジネスマンや官公庁の宴会・接待需要を取り込み高い収益を上げていらっしゃいました。

しかしながら社長夫妻には、子供がいらっしゃらず後継者不在でした。また、優れた調理人は多数いらっしゃいましたが、経営に関しては長年、社長夫妻で行ってきたため、次世代の経営者を育成する機会を設けられずにいたのです。

従業員の長期的なモチベーションアップ

長年働いてきた従業員にとって嬉しいことは、新規出店によって新しい店長・料理長のポストができることや、リニューアル等によって更なる顧客との接点が増えることなど、将来が描けることにあります。
社長夫妻は、おふたりが退任された後も従業員のモチベーションが高まるような新しい打ち手を実行してくださるような、若く、チャレンジ精神溢れる方を後継者としてお探しされることにしました。

職人の技術を守るための異業種という選択

当初は、タスクに複数人所属する調理人が活かせる料亭関連の企業や、和食系の居酒屋を経営している企業に譲渡されることが最善だと考えていらっしゃいました。
しかしながら、そのような企業では譲受企業によって調理に対する方法などが決まってしまっている可能性もあり、従来の方法を捨てることに調理人たちが反発してしまうのではないかという懸念がありました。

そのため、あえて現在は一切、和食関連の事業を行っていない企業が譲受されることによって、従来の調理人の技術を守りつつ、承継ができるのではないかと考えるようになりました。

双方に強みを活かせる企業として中華料理店への譲渡を決意
タスクが譲受企業として最終的にお選びになったのが、王府井(ワンフーチン)です。

王府井(ワンフーチン)が横浜中華街で焼き小籠包などの物販に強く、休日の観光客などをメインターゲットにしていることに対して、タスクは銀座・赤坂で宴会に強く、平日のリピーターも中心としたビジネス層をメインターゲットにしていることなど、双方にビジネスモデルが異なる企業と組むことで、複数の強みを持つグループに成長することができるとお考えになったこともきっかけとなりました。

中華料理店と日本割烹風居酒屋が手を取り合った日

譲受企業の熱意

譲受企業である王府井(ワンフーチン)は、タスクの譲受にあたり、従業員には分からないように最大限の配慮を行いながら、即座に全ての店舗で料理を食べに回り、本当にこの味を引き継いでいきたいという強い思いのもと、本件に臨まれました。
譲受企業の社長自ら、譲渡企業であるタスクの社長へ直筆のお手紙も準備し、お渡ししたところ、その熱意は譲渡企業の社長の心を動かしました。

譲渡企業の決断

タスクが譲渡の依頼を日本M&Aセンターにお願いしたのが2018年の11月でした。本格的にお相手探しをスタートされた2019年1月から、お相手として王府井(ワンフーチン)が現れたのは2019年3月でした。
初はそのスピード感に戸惑いを覚えられた部分もありましたが、譲受企業の熱い思いや、タスクが築いてきた素晴らしい文化をM&Aを通じて学ばせてほしいという譲受企業の謙虚な姿勢が譲渡企業の社長の気持ちを動かしました。

成約式に贈られた素晴らしいプレゼント

その後、デュー・デリジェンスなどを経て、無事に2019年6月27日(大安)に今回の友好的なM&Aが実行されました。
当日、日本M&Aセンターで行われた成約式では、譲受企業からサプライズプレゼントとして、大きな紙に譲渡企業の店舗名が中国式の美しい花文字で描かれたものが、額縁に入れられて譲渡企業の社長ご夫妻に贈られました。

日本料理を長年つくってこられた店舗名が、中国式の絵文字によって表現される、まさに今回の友好的なM&Aを象徴するような素晴らしい贈り物となりました。

著者

江藤 恭輔

江藤えとう 恭輔きょうすけ

日本M&Aセンター業種特化2部 部長

1982年12月、宮崎県生まれ。青山学院大学法学部卒業後、大手金融機関にて約10年法人営業に従事した後、2015年10月、日本M&Aセンターに入社。その後、食品業界専門グループを立ち上げ、大手外食企業のM&Aを中心に、数多くの食品関連M&Aを手掛ける。2023年4月には同グループを部署に昇格させ、メンバー全員で、全国の優れた食文化の存続と発展をサポートしている。代表的な成約実績は、トリドールHDとアクティブソース(立ち飲み居酒屋晩杯屋)、トリドールHDとZUND(ラーメンずんどう屋)、サッポロライオンとハンエイ(餃子専門店である大阪王)、佐賀県の老舗アイス菓子メーカーである竹下製菓と生クリームパンメーカーの清水屋食品、PEファンドであるエンデバー・ユナイテッドと関西レストランチェーンのアートオブウォー・バサラダイニングの資本提携など。

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