外食業界M&Aの歴史と今後の展望―業界大手ゼンショーHDとコロワイドの事例から―

江藤 恭輔

日本M&Aセンター業種特化2部 部長

業界別M&A
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外食業界とは

業界定義

外食業界とは、その名の通り消費者に飲食を提供する場を持つ業態の集合だ。食堂からレストラン、居酒屋からファストフードまで、街中で見かける飲食に関する店舗を持つ企業はすべて「外食業界」と認識して間違いないだろう。

消費者が注文した飲食料品をその場で提供するための店舗を事業所と呼ぶが、調理した飲食料品をデリバリーで消費者のもとへ届ける拠点も同様に事業所と呼ばれることが多い。

事業特性

金融危機や増税に伴う景気の変動といった外部要因に影響を受けやすいのが外食業界の特性のひとつ。また、たとえば少子高齢化といった社会の状況にも大きく左右される。この例に沿って考えると、人口が減少し少子高齢化が進めば自ずと外食に足を運ぶ消費者の絶対数は減少する。これに伴って国内市場規模は縮小を強いられる一方であるのは認めざるを得ない事実だ。

一方で、立地条件や内部管理が良ければ十分に勝機を望めるのもこの業界の特徴である。効率化を図れる部分は大きく、いかに少ないコストで顧客を満足させ続けるかが鍵となる。

店舗の店長に仕入れやオペレーションの裁量が集中し、そうでないスタッフの大半はパート・アルバイトという比率が常態化している。ノウハウを蓄積し、手放さないよう管理することが重要だ。

近年では多店舗経営と、それに見合うノウハウが不足しているという課題を脱却するためのM&Aが盛んになっている。また、後継者不足からM&Aに踏み切って店を残すという選択肢にもネガティブな印象が薄れてきていると言えるだろう。

飲食業界のM&Aの歴史

飲食業界のM&Aは、公表ベースで2016年は17件、2017年は32件、2018年は46件と、毎年増加傾向だ。 また、2018年10月にはゼンショーHDが米国やカナダ、オーストラリアでテイクアウト寿司店を展開するAFCを、12月には丸亀製麺を展開するトリドールHDが、シンガポールでカレーチェーンを展開するMCグループの株式を取得するなど、大手外食企業による海外企業のM&Aも増えている。

それでは、改めて飲食業界のM&Aの歴史を振り返ってみよう。 飲食業界のM&Aの歴史は、業界最大手の巨人であるゼンショーHD及びNo.2のコロワイドのM&Aの歴史と同義といえる。

【ゼンショーHDの実施した主なM&A】

【コロワイドの実施した主なM&A】


このように見ていくと、外食業界のM&Aの歴史はまだ非常に浅く、2000年代に入ってからゼンショーHDとコロワイドを中心に買収劇が加速したと言える。また、M&Aを積極的に活用した2社が現在の外食業界売上1位、2位の地位を確固たるものとしている事実は、M&Aが外食企業の成長に必要不可欠であることを、如実に表している。

現在の外食業界における再編のステージ

上述した、外食産業の巨人2社以外にも、M&Aは多数見受けられる。海外でも積極的なM&A戦略を展開しているトリドールHDや、国内・国外合わせて約80店舗のラーメン店を運営するウィズリンクHDを2019年5月に完全子会社化した吉野家HDなどもその例だ。

クリエイト・レストランツHDはグループを挙げてM&Aに取り組んでいる。子会社のSFPHD(2019年2月に東証1部に市場変更)は熊本で「前川水軍」などの居酒屋チェーンを展開するジョースマイルを2019年3月に子会社化した。
インバウンド需要の旺盛な沖縄でステーキチェーン「サムズ」を展開するグレートイースタンを2019年3月に買収した関西の雄フジオフードシステムなどの例も記憶に新しい。外食業界のM&Aは、いままさに群雄割拠の時代を迎えようとしているのだ。

一方で、年商1,000億円を超える国内の外食企業11社合計の売上シェアが、外食市場25兆円の占める割合は僅か10%弱であり、他業界に比べると非常に業界再編が遅れているマーケットとも言える

飲食業界における業界再編:ステージ1

それらの事実から総合的に判断すると、当面は年商5億円から30億円規模の外食企業が年商200億円以上の飲食企業のグループに入るM&Aが3年から6年ほど続くだろうが、外食業界のM&Aの件数はこの期間でピークを迎えることになるだろう。

飲食業界における業界再編:ステージ2

また、これによって外食企業上位10社のマーケットシェアがようやく30%程度に到達する。 その後、2025年以降は、年商1桁億の企業を大手が取得するという事例は大きく減少し、年商30億円から100億円クラスの中堅外食企業が、年商300億円以上の上場クラスの外食企業グループに次々と参画していくことが想定される。

飲食業界における業界再編:ステージ3

外食上場企業グループのマーケットシェアは50%を超えるようになる。M&Aの件数自体は少なくなるも、1件当たりのディールサイズは膨れ上がっていくだろう。

2035年以降は、ここまでM&Aを活用して企業規模を拡大して来た企業同士の資本提携が頻繁に起こる事態が想定される。これによって、最終的には上位4から5社ほどのグループに飲食業界は淘汰され、それらのマーケットシェアが80%に到達することが予想される。

業界再編後:新時代へ

最終的にはほとんどのチェーンの系列化が完了する。
「どこかの大手グループに帰属するチェーン店」、または「こだわりの味と食材を追求した個人店舗」のどちらかに二分化された時代へ到達するだろう。

2018年の食品業界M&A一覧

外食業界は市場の縮小に加え、人材確保の難しさや働き方改革への対応、仕入や物流の高騰、FC店などの場合ではオーナーの高齢化による店舗修繕の遅れなど、様々な課題を抱える。こうした状況下における解決策としてM&Aという選択肢が取られてきている。

2018年の食品業界のM&A件数は46件(MBO、連結子会社化を除く)だった。2017年は30件だったので、割合にして前年比1.5倍超のM&Aが実施されたことになる。(2016年は17件)。

一方で、2017年には、トリドールHDによるアクティブソース(立ち飲み居酒屋晩杯屋の運営)や、株式価値100%換算で42憶のバリュエーションとなった、同じくトリドールHDによるZUND(豚骨ラーメン店ずんどう屋の運営)の買収、DDHDによる商業藝術の買収など、買収規模や業界に対するインパクトの大きさという意味で、特徴的な案件が多かった。反対に、翌年2018年には、業界を揺るがすほどの大きな案件が少なかった印象だ。

上の表からも分かる通り、かつて年商5億前後の譲渡企業が、外食M&Aマーケットのボリュームゾーンだったが、2017年以降は年商2桁億企業の占める割合が増加。さらなる外食業界再編が進むにつれ、年商10億円~30億円程度の中堅企業が、メインターゲットとなっていくだろう。

なお、市場規模25兆円と言われている外食マーケットにおいて、年商1,000億円を超える大手外食企業11社の売上高の合計は、わずか10%の2.5兆円に留まる。他の業界同様、今後は加速度的に市場の再編が進むようだ。

上位5社~10社のマーケット占有率が増加するにつれて、被買収企業の規模も次第に肥大化していく。店舗数10店舗未満、5億円未満の企業が、M&A相手を探すのが非常に難しい状況になるだろう。

2018年を代表する外食業界のM&A

近年の外食業界のM&Aを振り返ってみよう。ここでは2018年の事例に注目してみる。

壁の穴×ジーテイスト「30店舗の崖の乗り越える、成長戦略型M&A」

成長企業が「30店舗の “崖”」を前に、より大手の傘下に入ることで成長速度を加速させるためにM&Aを活用する成長戦略型のケースだ。

30店舗の “崖”とは、飲食店は30店舗を超えたあたりから「管理面」「組織体制」「社内ルール整備」など内部管理体制が追い付かなくなってしまい収益を大幅に落としてしまう現象のことである。

本来であれば30店舗の規模間を境に先述のような内部管理体制を強化する必要性に迫られるのだが、間接コストが大きく嵩み、結果として収益力を大幅に落としてしまいがちなのだ。

この崖に落ちないためのソリューションのひとつがM&Aだ。大手企業とのM&Aを積極的に活用し、敢えて株を手放すことで、上場企業の様々な経営ノウハウ(物件情報、間接部門、人材採用ノウハウ、教育ノウハウ、経営幹部人材の獲得)を獲得。結果としてさらなる成長の実現が目指せる。

AFC×ゼンショーHD「海外展開の加速」

国内の外食トップランカーは、国内でのポートフォリオ経営を加速する一方、海外進出も強化しているのが現状だ。特定の地域に集中したM&Aを積極的に行っている。

はしもと×クリエイト・レストランツHD「老舗の味を後世に残す、友好的事業承継型M&A」

老舗企業のM&Aは、いわゆる「2012年問題」の前後から徐々に増加傾向にある。「2012年問題」とは、団塊世代(1947年生まれ〜1949年生まれ)が引退年齢である65歳を迎え始める2012年の前後に水面へ姿を現す後継者問題のことだ。社内の限られた選択肢の中で後継を探すのか、あるいは事業承継するのかという問題が深刻化する。

2008年には井筒まい泉がサントリーの傘下に入った。この時期は後継者の不在だけではなく、2009年のリーマンショックなど市場環境の変化など様々な要因があったが、2012年問題に関連するN&A事例として象徴的だ。

2010年には高級フレンチの先駆けとされるシェ松尾が髙瀬物産の関連会社であるホーコーフーズ傘下に加わり、2014年には老舗料亭のなだ万がアサヒビールの傘下に入った。

1968年創業、札幌などで、ごまそば「遊鶴」など10店舗近くを展開する老舗外食企業である株式会社遊鶴が、クリエイト・レストランツHDと合併。これは2018年の事例だ。クリエイト・レストランツHDは、ブランドラインナップの強化、地方老舗企業の事業承継案件に取り組むことで、同地域でのグループ基盤の強化を目指すという。

いずれも老舗企業が大きな企業とM&Aすることでその味と伝統が残った事例である。

著者

江藤 恭輔

江藤えとう 恭輔きょうすけ

日本M&Aセンター業種特化2部 部長

1982年12月、宮崎県生まれ。青山学院大学法学部卒業後、大手金融機関にて約10年法人営業に従事した後、2015年10月、日本M&Aセンターに入社。その後、食品業界専門グループを立ち上げ、大手外食企業のM&Aを中心に、数多くの食品関連M&Aを手掛ける。2023年4月には同グループを部署に昇格させ、メンバー全員で、全国の優れた食文化の存続と発展をサポートしている。代表的な成約実績は、トリドールHDとアクティブソース(立ち飲み居酒屋晩杯屋)、トリドールHDとZUND(ラーメンずんどう屋)、サッポロライオンとハンエイ(餃子専門店である大阪王)、佐賀県の老舗アイス菓子メーカーである竹下製菓と生クリームパンメーカーの清水屋食品、PEファンドであるエンデバー・ユナイテッドと関西レストランチェーンのアートオブウォー・バサラダイニングの資本提携など。

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