不動産賃貸管理業界のM&A事例(後継者候補の退職・「会社継がない」息子の決断で頭が真っ白に)

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今回、不動産賃貸管理業界のM&A事例事例をご紹介させていただきます。
後継者候補が急遽辞職してしまったオーナーの案件と、「会社継がない」息子の決断で頭が真っ白になったという案件をご紹介します。

案件1:後継者候補が急に辞めてしまったため、第三者承継を選択

【譲渡企業】A社
・所在地⇒関東
・業績⇒年商1億円以上
・事業内容⇒不動産賃貸管理・仲介
・株主⇒和田社長(仮称)
・従業員⇒約10名

【譲受企業】B社
・所在地⇒関西
・業績⇒年商100億円以上
・事業内容⇒不動産売買・賃貸管理・仲介
・株主⇒上場企業のため複数

譲渡企業A社は和田社長(仮称)がお父様の経営する不動産個人商店を引き継ぎ、法人を設立。業暦が長く、既に地元での知名度も高かったので、無理に拡大路線をとるのではなく既存顧客を大事にする会社にしていこうと、堅実な経営をされていました。

後継者候補の右腕の存在

和田社長には、明確に後継者として決めている番頭がいました。創業期から会社のことを支えてきてくれた社員であり、他の従業員からも慕われる、仕事的にも人間的にも頼れる人材でした。

本人にはまだ伝えていませんでしたが、彼が40代前半のときから、後継者候補として育ててきたつもりでした。営業出身でしたが、財務もわかるようにと経理処理も担当させたり、採用面接には必ず同席させたり、銀行からの融資関係も任せていました。

彼が50歳のときには、営業、財務、人事がわかる、まさに和田社長が思い描いていた後継者候補になっていました。

突然の辞任届け

和田社長が75歳を迎え、そろそろ引退を考えていたときに、その後継者候補から突然、会社を辞めたいという申し出を受けました。仕事や待遇には満足しており、また家庭もうまくいっていると聞いていたので、まさに衝撃的でした。

詳しく話を聞いてみると、健康上の理由だとわかり、それは引き止めるわけにもいかないと、あきらめざるを得えませんでした。和田社長は75歳にして、突然後継者候補を失ったということです。単なる後継者候補ではなく、重要なマネージャーを失った会社の業績は、徐々に下降線をたどっていきました。

和田社長は、長女を含めた家族会議を繰り返し、M&Aという手段を選ぶことにしました。

スピーディーに良いお相手を見つけるために

弊社にご相談いただいたとき、社長のご年齢はすでに70代後半でした。企業マネジメントを考えると、できるだけ早くお相手を探すことが求められていました。「長い付き合いの顧客が多いので、顧客フォローが特に丁寧なお相手」というご希望を受け、まずはマネジメント人材を派遣でき、かつ市場からの信頼も高い上場企業を中心に、候補先企業リスト(ロングリスト)をご提示しました。

そして、通常であれば、そこから追加の諸条件でフィルタリングをして、提案先を絞ってから実際に提案活動をすすめていきますが、今回はロングリスト全てに提案を進めていきました。

結果、通常半年で1社出てくるところ、開始1ヶ月で5社の候補先企業があがってきました。じっくりと選り好みしてから、提案先を選ぶことも大事ですが、敢えてそうせずに、より多くの企業に提案することが、スピーディーなお相手探しには有効です。

5社から1社、選ばれるために

今回は1社の譲渡企業に対し、5社の譲受企業候補が手をあげる、倍率5倍の勝負でした。譲受企業の立場としては、いかに選ばれるかが大事になってきますが、選ばれるためには、いくつかの条件があります。

それは、①人が送れる②新卒採用している③利益率が同業他社よりも高い④売上成長率が同業他社よりも高い、ということです。その上で、譲受企業の熱意が重要になってきます。本件、①は必須条件でした。③については、その会社の生産性を示しており、低ければ従業員の給与がさがってしまうのではという懸念が残ります。

今回は、関西で勢いのある上場企業B社が選ばれました。マネジメントの点で近くの同じ関東の企業が望ましいのではという意見もありましたが、B社社長自らフットワーク軽く訪問したことで、熱意が伝わったようです。

元社長の協力が、顧客関係の維持には不可欠

不動産管理会社のM&Aの場合、M&A実行後管理戸数が減ってしまった、という話をしばしば耳にします。下手なM&Aの場合、管理戸数が1年で半分以下になった例もあるようです。

そうならないために、私たちは元社長の引継ぎ協力を重要視しています。手間はかかりますが、両者がしっかりとコミュニケーションをとり顧客情報を抜かりなく交換することで、良い引継ぎができるのだと思います。

元社長が1年、場合によってはそれ以上顧問として残ることは、譲渡企業の門出を祝う最高の贈り物だと思います。

案件2:上位10社で管理戸数の合計が400万戸を突破

賃貸管理戸数ランキングで22年トップを走り続けている大東建託が、2016年12月に管理戸数100万戸の大台に達したことは記憶に新しいです。ですが約20年前は賃貸管理戸数上位10社の合計で約36万戸(1996年)とマーケット全体のシェアの2%にも至っていませんでした。

現在では上位10社の合計は400万戸を突破し、シェアは20%にまで迫り業界の再編の波が訪れています。私たち日本M&Aセンターはこのような再編が進む業種に対し専門チームを設けてM&Aの仲介をいたしております。

どのような会社が企業を譲り受け、譲渡をした経営者はどのようなことを考えていたのか、具体的な事例をご紹介。今回はご子息への事業承継を断念したものの無事に第三者へのM&Aに成功した案件です。

「会社継がない」息子の決断で頭が真っ白に

所在地:西日本
事業:年商10億円以上
事業内容:不動産開発・管理・仲介
株主:北山社長(仮名)
従業員:約20名

創業から約30年に渡り、地場に密着して不動産仲介管理や売買など、不動産に関わる総合的なサービスを展開する優良企業です。

北山社長が創業されたのは50歳を過ぎた頃でしたので、会社をいずれかのタイミングで一人息子へ承継することをお考えでした。ご子息も自身が会社を引き継ぐことを想定していたものの、事態はうまく進みませんでした。

息子から「今の仕事を辞められない」

ご子息は東京の大学へ進学。新卒として一部上場の大手総合建設会社へ勤務。「いずれは地元へ帰り父の仕事を継ぐのだろう」と漠然とイメージをしていたこともあり、大企業への就職は下積みをする期間と捉えていました。

ですが事業承継の相談を父である北山社長から持ち掛けられたとき、すでにご年齢は40歳。社内でも部下を持ち責任あるポジションに就いたタイミングであったため、承継を断ることにしたのです。

北山社長は事業承継についてその時までご子息に対し明確に意志を伝えていませんでした。「家業さえ継げば食うことには困らないだろう」とご子息が中途半端な気持ちで会社を継ぐことを考えてほしくなかったためです。

本件は親子の間で気持ちとタイミングのズレが生じてしまったケースと言えます。北山社長はご子息の決断に「頭が真っ白になった」とおっしゃられ、親族への承継を断念されました。

70歳から白紙で後継者探し

北山社長は70歳を迎え事業承継について全くの白紙から再スタートすることとなり、当社にご相談の運びとなりました。

我々は事業承継に関して年間約1,000社の譲渡相談をお受けいたしますが、そのうち8割は60代までにご相談いただいております。今回のご相談は決して早いとは言えませんが、お相手となる会社様の理想に関し入念にヒアリングをさせていただきました。

条件として

  • 1.同業が希望だが同エリアは顔見知りも多く商売がしづらくなる為避けたい。
  • 2.会社の規模が大きすぎると企業風土を画一化されてしまいそうなので避けたい。
  • 3.とにかく若くエネルギーのある経営者に繋いでほしい。
    このように3点を明確に条件としお相手探しを始めました。

この企業は不動産管理物件を1,000戸以上持ち、売上の6割を安定収益と出来ていた上に、自ら収益物件の開発販売まで行えている企業ですので、エリア外からの進出を図りたい企業からも魅力的な存在であり早い段階で譲り受けを希望される企業との交渉が始まりました。

不安はあって当たり前

北山社長が面談を選んだお相手は上記の条件を満たす創業5年の40代の経営者でした。ご子息と同年代ということもあり若い世代への承継が実現できると譲渡意欲は高まっていきました。

しかし若い会社ゆえになかなか融資をつけることができず、すぐに進むと思っていたM&Aに対し北山社長は徐々に不安が大きくなっていきます。

そんなときに他の企業が譲受企業として手を挙げることになりました。主たる事業は小売業ですが、別会社で不動産仲介会社の代理店と建設会社を運営しており、グループの第2の柱とすべくМ&Aでの強化を考えていました。

小売業はすでに西日本の同エリアに進出していたので、速やかに決断をすることとなりました。

M&Aで本業を加速

北山社長は最終的に後者の企業とM&Aをすることに決めました。
売り手は不動産開発・管理、買い手は賃貸仲介と、それぞれ得意な分野が異なっていました。

双方の得意分野が組み合わさり相乗作用(シナジー効果)を発揮させた事業拡大が可能であるというM&Aのメリットを、譲受企業の社長から何度も丁寧に説明してもらったことが決め手となりました。

また譲受企業はもともと小売業ですので、出店計画に関する新たな不動産情報ルートを加えることにより、本業を加速的に成長させておられます。

事業承継には常に選択肢を持って

M&Aが成立した後、北山社長はこう語りました。「親族承継しか考えていなかった頃に息子から継がないと言われたとき、ぶつけようのない感情に苦しんだ。

第三者への事業承継がうまくいった後でもそれは続いている。親族に承継をしたい人ほど早くから第三者への会社の譲渡の選択肢を持つべき。

息子にこそ第三者が会社をどう評価をしているのかを示す必要があった」。
「息子は自分の気持ちをわかってくれている」と考えている経営者は少なくありません。しかし家族だからといって、言わなくても気持ちが通じるわけではありません。

早くから家族と密にコミュニケーションをとり、選択肢を複数検討しておくことが円満な事業承継の秘訣といえるでしょう。

著者

日本M&Aセンター 業種特化事業部コラム制作担当

日本M&Aセンター  業種特化事業部コラム制作担当 

業種特化事業部はIT、建設・設備工事、住宅・不動産、食品、調剤薬局、物流、製造、医療・介護といった各業界に特化し、日々新たな案件に取り組んでいます。各コンサルタントのノウハウや知見を集め、有益な情報発信に努めてまいります。

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