【2019年版】医薬品卸業界M&Aの歴史と今後の展望
⽬次
- 1. はじめに
- 2. 4大卸の特徴
- 2-1. メディパルホールディングス
- 2-2. アルフレッサホールディングス
- 2-3. スズケン
- 2-4. 東邦ホールディングス
- 3. 業界再編の歴史
- 3-1. 業界再編のきっかけ
- 4. 今後のM&Aの可能性
- 4-1. 外部環境から考える経営戦略転換の必然性
- 4-2. 大連合の予感
- 4-3. 卸グループの組織再編が、薬局再編の勢力図を変える
- 5. その他のM&Aの可能性
- 5-1. 著者
はじめに
医薬品卸業界は、業界再編を経て全国規模の4大医薬品卸と地方の中堅卸に分けられました。
四大卸の内、最大手メディパルホールディングスの年商は3.2兆円で、総合商社7位の双日の年商が1.8兆円であることを考えると、医療関係者以外からの知名度は高くないものの、非常に影響力の大きい企業体であると言えます。
これらを生み出した再編の歴史と、これからのM&Aの可能性について考えてみたいと思います。
4大卸の特徴
メディパルホールディングス
医薬品卸業界最大手で年商3.2兆円です。株主としては、オーナー系を除き、武田薬品工業、小林製薬、大日本住友製薬、アステラス製薬があります。傘下に調剤薬局を持ちませんが、クオールの筆頭株主です。
OTC、化粧品、日用品卸部門でも、年商1兆を超え、今後のセルフメディケーション時代の流れに積極投資を行うことに特徴があります。
アルフレッサホールディングス
業界2位で年商2.7兆円です。株主としては、オーナーを除き、第一三共、アステラス製薬があります。調剤薬局171店舗をグループにもち、医薬品製造事業も行っています。
スズケン
業界3位で年商2.1兆円です。株主としては、オーナー系を除き、塩野義製薬、エーザイ、アステラス製薬があります。調剤薬局615店舗をグループに持ち、医薬品製造事業や、業界初となる製薬メーカー支援事業に力を入れています。
東邦ホールディングス
業界4位で年商1.2兆円です。株主としては、オーナー系を除き、塩野義製薬、田辺三菱製薬、第一三共、アステラス製薬があります。医薬品卸グループとして最も多い773店舗の調剤薬局をグループに持っています。
TBC広島やダイナベースなど、物流倉庫への投資と、最新の自動化物流システムに積極投資を行っています。
濱田会長が日本オリベッティ出身であり、4大卸の中でも顧客支援システム等のITに特徴を持ちます。医薬品製造事業も行っています。
業界再編の歴史
350社が4社に統合された激動の業界
医薬品卸業界は、下記の図のように、もともと350社存在した地方卸が統廃合を繰り替えし、上位4社で90%のシェアを占めるまで再編が進み、その後均衡状態が続いています。
業界再編のきっかけ
医薬品卸業界は、もともと他社との差別化が難しく、取引継続のための値引きが横行していたことや、全国で2万社以上ある薬局それぞれと、薬価改定の都度、交渉するコストにより平均営業利益率が1%という低い状態でした。
その中で、倒産した医療機関への債権の貸倒れによる財務体質の悪化や、大量仕入れを行うことで製薬メーカーから受け取れるリベートによる収益力向上の目的、また、取引価額の早期妥結の圧力(薬は、命にかかるモノであり、配送に緊急性が伴うことから、価額が決まる前に納入されます。その後交渉を行いますが、数ヶ月間にわたり価額が妥結されていないこともよくありました。それを是正するため、行政から卸側に圧力がかかりました。これにより医療機関側との交渉において、早期妥結のため、卸の営業が更なる値引きを行い採算が悪化しました。)により、債権者である製薬メーカーの系列を中心に統合が進みました。
そのため、現在も4大卸の株主に製薬メーカーが入ることで、色分けがなされています。
今後のM&Aの可能性
外部環境から考える経営戦略転換の必然性
2020年からの毎期の薬価改定、後発医薬品の更なる展開、スイッチOTCの流れ、メディカルシステムネットワークが行う医薬品ネットワーク事業、病院・薬局の統合・廃業に伴う取引先の減少及び債権回収問題、また2019年4月に発表された、ココカラファインとマツモトキヨシ、ココカラファインとスギ薬品の資本業務提携の方針発表にも表れるドラッグ業界の更なる統合など、外部環境の非常に大きな変化は避けて通れず、新たな経営の柱を立ち上げるためM&Aの必要性は高まっているといえます。
大連合の予感
2009年、業界を大きく変えることになるはずだったメディパルとアルフレッサの統合の基本合意が、公正取引委員会の承諾に時間がかかる見込みから白紙となりました。
しかし昨年にはスズケンが、東邦薬品のシステムを販売するための基本合意を行い、2019年には後発医薬品製造事業において両社で合弁会社を設立しました。
またアルフレッサと地方卸の富田薬品とモロオが、スペシヤリティ医薬品分野において提携しており、今後地方卸も含めた巨大な業界再編に注目が集まっています。
結論から言えば、さらなる再編は十分ありえると考えています。最も大きな障害であり、メディパルとアルフレッサの統合を阻んだ公正取引委員会が最も難色を示すのは、同一地域におけるシェアが高まり健全な競争が阻害されるということです。
スズケンと東邦の場合は、東邦が東京本社、スズケンが名古屋本社であることから、主要な商圏が異なるため、メディパル・アルフレッサ連合の際より承認の可能性が高いのではと考えられています。(ただし東邦の子会社である東邦薬品は、地方医薬品卸9社からなる「葦の会」に加盟しており、スズケンと統合されるとなるとそこへの影響も避けられないことから、簡単にはいかないとも言われています。)
卸グループの組織再編が、薬局再編の勢力図を変える
東邦は763店舗、スズケンは615店舗、アルフレッサは171店舗の調剤薬局をグループに持っています。
調剤薬局業界は、対物から対人業務へと大きく変革を求められ、かつ、大手調剤グループ各社が積極的にM&Aを行い、業界再編が進む中で、医薬品卸はグループ薬局に積極的な投資ができていないのが現状です。
しかしながら、これらの3社が持つ薬局を合わせると、調剤薬局業界最大手のアイングループの店舗数を大きく上回ることから、この3社がどのような決断をするかにより調剤薬局業界の再編が変わることとなります。
その他のM&Aの可能性
医薬品製造事業においては、東邦が富士フィルムから子会社を買収し、スズケンと合弁会社を設立、アルフレッサが第一三共から子会社を買収しております。
後発医薬品はコモディティであり価額競争力が重要であるため、多数の取引先をもつ医薬品卸が参入するのは自然な流れです。特に自社で調剤薬局を抱えるアルフレッサ、スズケン、東邦は優位であるといえ、今後もこの流れは続くと考えられます。
震災を経て重要性の認識が増した物流拠点の拡充については相当な投資が必要です。また倉庫の自動化の分野でも、各社積極的な投資を行っており、これらの領域ではオーガニックな投資よりもM&Aによる投資、成長戦略の方が時間を短縮できるため、十分起こりえるといえるでしょう。
再編を経て大手4社のシェア90%になった医薬品卸業界は、業界再編の最終形態ともいえ、各社の今後のM&A戦略は、医療関係者だけではなく、業界再編を向かえる異業種のリーダーの参考にもなるでしょう。