『兵庫県からM&Aで全国展開へ』阪神調剤ホールディングのM&A
⽬次
- 1. グループとしての成長の為に
- 1-1. 成長の転機
- 1-2. 店舗展開の戦略
- 2. ホールディングス化
- 3. 譲渡企業オーナーが活躍し続ける体制
- 3-1. オーナーが継続勤務し新店舗オープン ~株式会社高階誠心堂~
- 3-2. 事業承継と成長戦略を同時に解決 ~株式会社鈴木薬局~
- 3-3. 著者
阪神調剤ホールディングは、1976年の創業以降、約40年間患者さま第一を貫き店舗数を増やしている調剤薬局業界のリーディングカンパニーであり、全国展開している保険薬局チェーンの中でも最も長い歴史を持つ企業のひとつです。
2012年には阪神調剤ホールディング株式会社を設立し、グループ会社とともに、日本の地域医療を支えるリーディングカンパニーとして全国で調剤薬局を運営しています。
グループとしての成長の為に
成長の転機
阪神調剤の歴史の中で大きな転換点は神戸から大阪に進出したことだといえるでしょう。
当時神戸では知名度の高かった阪神調剤が、今後の店舗展開を見据えて大阪の多根病院近隣に薬局を出店したことを機に、大阪でのネットワークを構築することに成功し、次々に店舗を増やしていくことができるようになりました。
岩崎専務も「(多根病院は)大きい病院であったため、その後の出店にも大きく影響し、この地域での拡大につながった」と振り返っています。
この大阪への進出が契機となり阪神調剤の成長は加速し、2018年10月11日現在でグループ店舗数は515店舗になっています。
店舗展開の戦略
店舗の新規開業とM&Aの比率は約1:10となっており、M&Aが大半を占めている形となっています。
2012年にホールディングス制を採用してから、M&Aで出店を増加させた結果、2017年には阪神調剤本部の店舗数よりグループ店舗数の方が多い状態となっています。
「今後も阪神ホールディング全体での成長に向けてグループ会社一丸となって取り組んでいきたい」と岩崎専務は話します。
ホールディングス化
ホールディング体制は阪神調剤の大きな特徴の一つです。ホールディングス化を実施した理由は、全国の各地域に合ったサービスを提供するためです。
阪神調剤の本社がある兵庫県芦屋から全国の各地域ごとの情報や特性を把握し、よりよいサービスを提供するためには、各地域を知り尽くしたグループ会社社長と協力していくことが必要です。
そのため、看板も変えず会社をそのまま残し、譲渡オーナーにはそのまま会社の社長として働いてもらうこの仕組みを支持するオーナーも少なくありません。
譲渡企業オーナーが活躍し続ける体制
オーナーが継続勤務し新店舗オープン ~株式会社高階誠心堂~
株式会社高階誠心堂は熊本県で創業80年以上の老舗薬局です。その三代目オーナーである高階氏は地元で調剤薬局を3店舗を経営し、知名度があり、利益もしっかり出て、薬剤師のご子息もいて後継者は心配ないという状況でした。
しかし、従業員や患者の満足度を向上させるためを考えると現状には疑問を感じることもあったそうです。店舗数を増やすことも常に検討していて、ドクターから新規の開局を依頼されたことも多くありましたが、薬剤師の確保の問題や、資金面を考えると断念せざるを得ない状況が続いたとのことです。
そんな中、M&A後に社長が社長として残ったまま経営手腕を振るうことができ、さらには資金面、薬剤師の確保は親会社が全面的にバックアップしてくれるということを知り、阪神調剤に参画されました。
M&A後は、新規開局の話が舞い込んできたタイミングで、開局を引き受けることができるようになったそうです。資金面や人材の援助を親会社から受け、4店舗目、5店舗目をオープンできました。現在も5店舗企業の社長として経営をされています。
事業承継と成長戦略を同時に解決 ~株式会社鈴木薬局~
株式会社鈴木薬局は埼玉県内で当時21店舗の調剤薬局、介護事業、さらには5店舗のフィットネス事業を行っていた中堅薬局チェーンです。
創業者である鈴木社長(当時63歳)は、経営計画を緻密に作成され、大手企業に負けないくらいの経営手腕を有していました。会社は増収増益を維持しており、社内の役員にも優秀な人材がいて組織化に成功されていました。
鈴木社長は次のビジョンとして “10年で100億企業にしよう”という考えておられましたが、めまぐるしく経営環境が変わる世の中、この会社をどのように後継者に引き継いだら良いか模索されていました。株式の承継についても、評価はかなりの額になっていたため、引き継ぐには資金の問題がありました。
あらゆる方法を模索される中、最終的に鈴木社長は阪神調剤ホールディングへ参画されました。
複数の候補先の中から阪神調剤ホールディングを選ばれた理由は、ホールディングスの中で独自性を持ち、鈴木社長が築き上げられてきた従来の鈴木薬局のカラーをそのまま生かすことができると考えたからです。
グループ入りをしてから1年が経過した2018年、鈴木氏は会長に就任し、予定通り後継者候補であった取締役が社長に就任しました。阪神調剤グループ内の薬局をいくつか任せてもらうことができ、32店舗になりました。
また、M&A案件の持ち込みも増え、今までとは全く違う次元で会社が成長することができているといいます。
本件は阪神調剤薬局がホールディングス体制の中でグループの発展、株式の承継、譲渡企業の成長戦略を描けた良い事例です。