『地域に密着した薬局をM&Aで成長し続ける組織に』メディカルシステムネットワーク

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地域に密着した薬局をM&Aで成長し続ける組織に

北海道小樽市を拠点に創業

メディカルシステムネットワーク(以下、メディシス社)は、1999年に北海道で創業した業界大手の東証1部上場企業です。北海道小樽市出身の田尻稲雄社長は、1891年に創業した医薬品製造・卸業の株式会社秋山愛生舘(現スズケン)の子会社であるメディカル山形薬品株式会社で代表取締役を務めたのち、メディシス社を設立されました。

以来、北海道を拠点に医薬品等のネットワーク事業や、「なの花薬局」の名称で調剤薬局を展開し、年商982億円(グループ2019年3月期)、調剤薬局の店舗数は420店(グループ2019年3月期)を誇ります。

全国展開の契機となったM&A

店舗拡大の大きな契機となったのは、2005年にニチイ学館の調剤薬局事業子会社であった株式会社サンメディック(現株式会社なの花東日本)と株式会社日本サンメディックスを譲受、同年株式会社阪急共栄ファーマシー(現株式会社共栄ファーマシー)を入札にて譲受したことです。

北海道で当時170億円の年商だったメディシス社が、M&Aによって関東と関西に出店網を拡大し、一気に300億円を超える企業へと飛躍を遂げました。

2000年には数億円規模だった企業が、10年後の2010年には204店舗、411億円の規模となり、2019年3月末日時点では420店舗、売上は982億円に達しました。その成長の軸となるのは積極的なM&Aによる店舗拡大です。

出典:メディカルシステムネットワークIR資料より

調剤薬局の再編を加速させるきっかけとなった上場企業同士のM&A

トータル・メディカルサービス(TMS社)のTOB

2013年9月、日本M&Aセンターの仲介により、メディシス社の子会社、ファーマホールディングが、九州北部を中心に調剤薬局35店舗を運営するトータル・メディカルサービス(TMS社)の普通株式を公開買付け(TOB)により取得しました。

本件はメディシス社にとっても、調剤薬局業界にとっても、大きな転換のきっかけとなるM&Aでした。

会社譲渡の必然性はなかったTMS社

福岡県北九州市。約97万人の人口を抱える九州第2の大都市に、TMS社は本社を構えています。1990年に設立され、その後ジャスダック市場に上場し、中堅調剤薬局として九州北部を中心に「さくら薬局」の名称で35店舗を展開、当時の薬局事業の売上は約70億円で、その他、給食事業などを含めると約113億円の売上のある企業です。

地元出身の社長、大野繁樹氏は民間病院に勤務後、民間病院に勤務後、TMS社の前身であるシー・エフ・ディ社に入社。40歳のとき、現在の社名に変更したタイミングで代表取締役に就任しました。

大野社長は、「地域医療への貢献」を経営理念の第一として約20年近く、患者さんと地域の中核医療機関の架け橋となり、信頼を築きながら地道に、精力的に経営を続けてきました。

業績は安定しており、現状のまま経営を続けても何も問題はない会社でした。
北九州市は、1979年の約107万人をピークに年々人口が減少したとはいえ、九州の玄関口として発展してきました。TMS社は地元の大学とのパイプも太く、また上場企業のため、多くの調剤薬局が抱える悩みである「薬剤師不足」とも無縁でした。後継者不在という悩みもありませんでした。

しかし2011年11月、人生の大きな転機が訪れました。検診でがんが見つかったのです。幸い手術は成功し復帰できたものの、前年度の決算発表を受けた株価が急落し、時価総額が純資産の7割ほどまでに落ち込んでいました。

こうした出来事をきっかけに、大野社長は”会社の経営が悪化する前に同じ志をもつ企業と手を組む”という経営戦略を決断されました。

来るべき未来を見据えたM&A

メディシス社は当時、九州エリアでは5店舗を展開するにとどまっていました。そこで重点強化地域として、九州での店舗数拡大を経営戦略のひとつとして掲げていました。

北のメディシス社と西のTMS社両社のマッチングは相乗効果が大いに見込まれ、本格的な交渉がスタートし、北海道にあるメディシス社の研修施設を大野社長が訪問。そのとき、大野社長は大きな衝撃を受けたと言います。

「メディシスさんの教育システムは厚みがあり、圧倒的に進んでいました。当社とは2段階も3段階もレベルが違うのです。メディシスさん独自のマニュアルやハンドブックなど、自前で作るのは不可能です。正直なところ、これは太刀打ちできないと感じました。」

「ここまで事業規模を膨らませてきた中で、つねに新たなやノウハウを身につけ蓄積してきたことで醸成された人材の厚みにも確かなものを感じました。これだけの組織とシステムを構築するのは、とても自社単独ではできないことです。」と大野社長は当時話されていました。

調剤薬局業界が抱える不安材料は山ほどあります。このM&Aの話が進められていた当時、調剤報酬改定で報酬率が引き下げられることになるのは既定路線だと業界関係者は容易に想像しており、業界の右肩上がりの状況に大転機が訪れるのは明白でした。

おそらくそれ以降も改定は繰り返され、報酬は下げられていくのは既定路線であり、特に、2018年の改定はひとつのカギになる、と大野社長は睨んでいました。

来るべき未来を見据え、単独で生き残っていくのは難しいと考えていた大野社長はメディシス社のグループに入ることを決断されました。

株価は過去最高のプレミアムを実現し業界の注目を浴びる

メディシス社の調剤薬局事業を統括している中間持株会社・ファーマホールディングがTMS社株式に対して公開買付け(TOB)を行いました。

98.96%の応募があり、公開買付け価格は3,200円の値がつきました。対外公表日の前日のTMS社株式の終値は1,049円。 205%のプレミアム率がついたことになります。これは2006年以降、日本の公開買付け事例の中では史上最高のプレミアム率になっています。(グループ内再編を除く。)

2014年1月21日、TMS社の臨時株主総会が開催され、完全子会社になるための手続きの承認が行われ、全部取得条件付種類株式スキームにより2014年2月28日、TMS社はファーマホールディングの完全子会社となりました。

そして、両社の統合をきっかけに、調剤薬局の業界再編は一気に進みました。業界の地殻変動を起こす先駆けとなるM&Aとなったのです。

大野社長はその経営手腕を買われ、親会社の副社長として今度はグループ全体の経営に参画するようになり、現在でも持ち前の経営力を遺憾なく発揮されています。

地域を大事にして地域の人に役立つ薬局をつくる

異なる文化の集積が、強い組織を作る
文化が交じり合うことも、M&Aの効果を高めるうえでは大事なことです。

「私どもが企業をグループ化した場合、ひとつのマニュアルで縛るとか、その会社を支配しようとなどとは考えません。」と、メディシス社の秋野副社長は語られています。

M&A後も、そのまま経営陣が残り、そのエリアの中核企業の代表者として引き続き活躍されている事例も多くなっています。

青森県No.1の企業を東北エリアの中核企業に

青森県の八戸にて14店舗年商31億円という地域に根ざした薬局、アポテック社は、県内でも有名な“地域への貢献にこだわる”企業でした。

創業者である青山氏は、製薬会社勤務時代に担当していた病院から院外のお話があり、これが創業のチャンスだと思い独立の道に進まれました。青森という地で順調に経営をしており、50歳までに売上を100億、経常利益5億を達成して、アーリーリタイアをしようと奥様と夢を抱かれていたようです。

一時期はご子息に会社を譲ることも考えましたが、奥様と話し合った結果、アポテック社の将来を考えると組織にふさわしい人物に継がせるべきだという結論に至りました。ご子息にはご子息の人生もあり、「釣った魚をあげるのではなく、魚の釣り方を教えてあげるべき」と考えたため、親族外承継を心に決めていました。

一時期、とある大手企業との提携を模索し、一部株式を譲った経緯もありましたが、考え方や価値観の違いから、提携を解消しました。

地域でNo.1の薬局でも十分継続できるという自信があったため、後継者に社員を指名。バランス感覚があり、社長として適任であると考えていました。

ただ、その当時から漠然と自身の持っている株の承継をどうしたらよいのかという疑問がつきまとい、「そのまま自分に何かあれば莫大な相続税を残された親族に背負わせることになる。ましてや大きな企業に育ったため、家族が経営判断を下していくということは難しい」ということを考え、M&Aによる株式譲渡を考えるようになりました。

一方、メディシス社としては、東北エリアに核となる企業を構えたいという構想があり、トップ面談や薬局見学、研修施設見学などを経て、メディシスグループにアポテックが入ることが決まりました。

「まだまだアポテック社自体も成長の余力があるということを感じ取れた。メディシスと一緒になれば、アポテック社に関わる全ての方々に幸福をもたらすことができるのだと素直に感じた」

「地域の中でNo.1という立場も素晴らしいことであるが、やはり全国規模のグループに参画し、より広い視野を持って、日本の地域医療に貢献するチャレンジができることは素晴らしいことである。本当にやってよかった。」と青山氏は語っています。

M&A後、青山氏は後継に指名していた社員に代表を譲られています。

毎期増収増益の大分県No.1薬局をグループ化

大分県内に調剤薬局23店を展開する永冨調剤薬局は、1982年の創業。2018年9月期の売上高は約37億円、経常利益は約1.5億円と、財務内容は良好で現状は単独経営に全く問題ない県内トップの企業です。

社長の永冨茂氏は、福岡大学薬学部を卒業後、明治製菓の医薬情報担当や大分赤十字病院での薬剤師を経て、30歳で独立し37年間かけて会社を成長させてこられました。

また、保険薬局協会、薬剤師会の重役を歴任し大分県の医療への貢献が認められ、天皇陛下より藍綬褒章を受章されています。独自の「ヘルサポ(ヘルスサポート)」というシンボルを掲げて地域医療をリードしてきたことで、厚生労働省のモデルに認定されています。

他にも、大分県内の人気企業ランキングで5位に選ばれたり、同社のイメージキャラクターが大分合同新聞社企画のキャラクター人気投票(大分県内のお気に入りキャラクターを投票で選ぶ)で1位を獲得したりするなど、業界を超えて広く認知されていた企業です。

ご子息も入社して16年経過しており、後継者の問題もない状況でした。

しかしながら、永冨社長には気になる点もありました。

度重なる薬価改定や報酬改定による利幅の減少や薬剤師不足の深刻化です。大分県には薬科大学がないこともあり、薬剤師確保が難しい。薬剤師が採用できなければ店舗拡大などの成長路線も描くことが難しくなってしまいます。

こうした状況の中で、10年、20年先を考えて、将来を見据えた経営体制を検討した結果、大手企業と手を組むことを考えるようになりました。

永冨社長が最も重要としたのは、理念・文化の合う相手と組むことでした。複数社の候補企業の中で、実はメディカル社は株価としては一番手ではありませんでした。しかし、会社と従業員の未来を真剣に考え、社風と理念が最も理想に近いメディカル社と組むことを最終的に永冨社長は決断されました。

M&A後も従業員全員の雇用と給与は維持され、社名や薬局の看板も変わらず、社長も続投しています。これらはすべて永冨社長側の提示条件でした。また、今回の譲渡対価の中から従業員全員に特別賞与を支給されました。

結果、M&Aを理由にした退職者は1人も出なかったようです。

今、日本全国の地域を代表する薬局の大手グループ入りが加速している中で、永冨調剤薬局にメディシス社が選ばれたことは、メディシス社の評価があがることを意味します。

田尻社長は「全国でも評価の高い企業と一緒に仕事ができる」と述べ、ともに地域の健康に貢献していくべく、効率的な経営体制の構築と収益力の強化を図り、九州エリアの店舗拡充に力を入れていくとしています。

著者

日本M&Aセンター 業種特化事業部コラム制作担当

日本M&Aセンター  業種特化事業部コラム制作担当 

業種特化事業部はIT、建設・設備工事、住宅・不動産、食品、調剤薬局、物流、製造、医療・介護といった各業界に特化し、日々新たな案件に取り組んでいます。各コンサルタントのノウハウや知見を集め、有益な情報発信に努めてまいります。

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