【調剤薬局経営者向け】生き残る組織を作るため・新卒薬剤師は何を求めるのか

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医薬分業が始まり30年が経過しようとしています。

今の若い医師たちには、薬のことは薬剤師に任せることが当たり前になってきました。次々に新薬がリリースされるなかで、医師として仕事をしながら、新薬の勉強をすることは大変であり、薬のことは専門家である薬剤師に頼る方が良いことを、医師も分かってきたのではないでしょうか。

一方で、薬剤師に求められるものは増しています。

このような薬の専門性に加えて、「かかりつけ薬剤師」としてのスキル向上など、業務外での研鑽が必要な時代を迎えています。そのような時代背景もあり、薬剤師から選ばれるため、時代からの要請に応えるため、薬剤師のスキルアップを支援する体制が薬局には求められています。

組織力を持たない薬局は時代から取り残される

薬局は今後、ある程度の組織力を持たなければ時代から取り残されるでしょう。

薬剤師の支援をすることが出来ない「パパママ薬局」では、経営自体が成り立たなくなってくることが予想されます。魅力的な組織力を持たない薬局は、他社から薬剤師を補充し、在宅の営業をしてもらい、さらにはノウハウも共有してもらうような、不足したところを常に補ってもらう経営を強いられるからです。

「パパママ薬局」の場合、個人事業主の感覚が強く、またオーナーが管理薬剤師として業務に追われているケースも多く、経営者として会社を組織化するイメージが持てないと思います。そのような薬局では、運よく数店舗まで店舗を増やして、そこで拡大路線は限界を迎えます。そうならないように組織力を培っていく必要があるのです。

組織力の源泉は人にあり

では、組織力とはどのように培っていくべきでしょうか。
具体的な戦略を立て、計画を作っても、人がついてこなくては、組織は動きません。組織を動かす人づくりこそが、最も重要な事だと思います。従業員と経営者では考え方が異なるのが普通です。

従業員が理念を理解したうえで、心地よく働いてくれるためにはどうすればよいのか。経営者は自分を振り返りながら、反省しつつ、根気強く理念を伝えて、従業員に明るい未来をみせ続けなければならないのです。

採用においては、理念を共有できる薬剤師・事務スタッフを採用し、マネジメントに適した人材を採用していく必要があります。薬剤師の採用については、これから目指すべき薬剤師像を語り合い、当事者意識を持てる薬剤師を採用していく必要があります。

また、オーナーが組織で働いたことがなく、組織を大きくしてきた経験が無ければ、大手調剤チェーンや大手製薬会社にて組織経験を豊富に積んでいる人材を採用する必要があります。

魅力ある経営者のもとには人が集まる

組織運営において最も重要な要素が人であれば、採用こそ経営者が最も心血を注ぐべきことなのです。

日々、数多くの薬局のオーナーと面談をするなかで、しばしば「この地域は薬剤師不足で、採用をしようとしても良い人材がいない」「うちの従業員はやる気がない」といった言葉を耳にします。

ところが、同じ地域の他の薬局のオーナーと面談すると「うちには良い薬剤師が多く揃っている」「やる気のある薬剤師のためにも店舗を増やすことを検討している」といった全く別の言葉を耳にすることがあります。

結局のところ、経営者も選ばれる立場だということです。魅力的な経営者のもとには、やる気があって能力のある人材が集まります。採用に心血を注ぐ経営者のもとには、多くの採用機会が訪れます。経営者は常に自分を磨くことを意識しなければいけません。

新卒薬剤師は、何を求めるのか

アインHD、5日に行われた内定式に過去最多の600名を超える薬剤師

10月3日の日経新聞に掲載のニュースである。紙面によると、同社は薬剤師として400人の採用を予定していたが、5日からの内定式には、600人を超える薬剤師の内定者が参加したようだ。

アインHDだけではなく、大手調剤チェーンといわれている各社に我々は今回の内定者数をヒアリングしたところ、(非公表事実のため社名は控えるが)389人、350人、205人、129人と数百人単位で内定を出していた。また、大手調剤の多くは、アインHDのように昨年よりも内定者を増やしていた。

一方で、準大手と言われる100~200店舗クラスの中堅薬局チェーンや、50店舗以下の特定のエリアでドミナント展開している地域薬局にヒアリングしたところ多いところで16人であり、ほとんどは5人以下であった。

新卒薬剤師の7割弱が大手調剤・大手ドラッグへ

薬学教育協議会のデータによると、2018年3月に6学制学科の卒業生のうち薬局に就職したのは3,475名(36.3%)、ドラッグストアなどの一般販売業に就職したのが866人(9.0%)であり、合わせて4,341人であった。

主要チェーンの2019年度春入社の薬剤師は、14社で2,900名であり約7割を占めている。つまり残りの約1,400名の新卒薬剤師を、約25,000法人で分け合わないといけない。我々が全国の薬局オーナー様とお話させていただく中で、一番の経営課題に薬剤師の採用難を抱えるのも頷ける。店舗数では数倍しか変わらないのに、採用力は100倍近く差が出ているのはなぜであろうか。
(卒業生の就職先情報は、2018年度のデータであるが、2019年度の全体の人数とさほど変わらないのでそのまま引用した。)


【出典】一般社団法人薬学教育協議会「就職動向調査結果報告書」

やはり安定志向が根強い傾向

2020年卒マイナビ大学生就職意識調査によると、企業選択のポイントにおいて、1位は「安定している会社」(39.6%、前年比6.6pt増)。2位が、「自分のやりたい仕事(職種)ができる会社」(35.7%、前年比2.4pt減)。3位には「給料の良い会社」(19.0%、前年比3.6pt増)が続いている。

世の中的にも、安定志向の学生が多いのは事実であり、薬剤師も例外ではないと考えるのが普通であろう。

また、特に薬剤師の場合には学生自身の安定志向は勿論のこと、近年無視できなくなっているのは大手企業志向の親世代が子どもの就活に介入することである。私立だと卒業までに1,000万以上と、多額の学費を援助してもらった両親に対しての責任を果たすといった意味合いもあるのではなかろうか。

薬剤師に求められる独自性

現在、厚生労働省は薬局に対して、役割ごとに分類する法案が検討されている。”通常の薬局”、”地域密着型”、”高度薬学管理型”の3つに分かれ、それぞれに期待される役割を果たしていくことになるであろう。

これは薬剤師にも、同じことがいえるのではなかろうか。高度薬学管理型薬局に必要な“高い専門性を持つ薬学のスペシャリスト”になるのか、地域密着型薬局に必要な“一般的な薬の知識だけではなく、緩和ケア・介護といった知識を有し、服薬や健康全般に関する悩みを解決する能力を有する医師よりも近い存在”になるのか。
このように、薬局の変化とともに薬剤師も単に免許をもって安心するのではなく、今後生き残っていくために独自性が求められる時代に突入した。

独自性を身に着けるためには、やはり“通常の薬局”ではなく”地域密着型””高度薬学管理型”薬局で勤務し知識を習得することが不可欠である。現状では、高度薬学管理型薬局の有力候補は、敷地内薬局であり、地域密着型薬局とは、病院や緩和ケアに注力している施設を受けている薬局である。この二種類の薬局の多くは大手調剤または、地域密着の中堅薬局が保有しており、今後もその流れは続くであろう。

M&Aを通じた独自性の共有

前述のとおり、大手調剤は、新卒薬剤師の7割を囲っており、いずれは彼らも新卒薬剤師を選ぶ時代が来るであろう。すると必然的に優秀な薬剤師は大手に集まり、そして薬局の質が高まる。薬局の質が高まると人が集まる。こういった好循環に大手は既に入っているのかもしれない。

だから今後、薬局オーナーとして自分たちも独自性もった薬局になるのか、そういった独自性を持つ薬局と手を組みノウハウを得るのか、今まさにそういった決断を求められているのでないか。

著者

日本M&Aセンター 業種特化事業部コラム制作担当

日本M&Aセンター  業種特化事業部コラム制作担当 

業種特化事業部はIT、建設・設備工事、住宅・不動産、食品、調剤薬局、物流、製造、医療・介護といった各業界に特化し、日々新たな案件に取り組んでいます。各コンサルタントのノウハウや知見を集め、有益な情報発信に努めてまいります。

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