【2019年】調剤薬局業界のM&A総まとめ

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2019年の調剤薬局業界M&Aの振り返り

成約件数が3倍に増加、益々進む業界再編

2019年は、調剤薬局2位の日本調剤で三津原博前社長から三津原庸介新社長に交代され、阪神調剤グループの経営が阪神調剤ホールディングから岩崎裕昭氏が代表取締役を務めるI&Hへと移行されるなど、大手でも事業承継が行われました。

また一方でアイセイ薬局の創業者である岡村氏が薬局業界に復帰され大きな話題となりました。さらに、薬価改定や消費増税といった大きなイベントもあり、規模に関わらず全ての薬局に大きな影響を与えた年でもあったのではないでしょうか。

そのような中で、M&Aを活用して企業経営の舵を大きく切る企業も非常に多くなりました。ドラッグストア等の競合との競争激化や報酬改定・薬価改定に対する先行き不安が大きくなっていく中で、今まで準備段階として情報収集されていた企業が、いよいよ本格的に動き出されました。

その表れに、当社仲介による調剤薬局M&Aの成約件数は昨年比3倍を超えました。
そして、譲渡理由も単なる後継者不在やオーナーの高齢化による事業承継を目的とした譲渡ではなく、「より企業を発展させたい」「成長のために大手の力を借りたい」というように、成長戦略型の譲渡理由が増えてきているのも確かです。

10年後・20年後の調剤薬局業界について真剣に考えられているオーナーの中で、“どこかと組んでより成長していく”という選択肢が、より一般的なことになってきたと言えます。
2019年の調剤薬局業界におけるM&Aのトピックとしていくつか挙げてみたいと思います。

0402通知

今までグレーゾーンとなっていた、医療事務がピッキングを行う行為が、4月2日の通達で薬剤師の監督下など、いくつかの条件の下で実質解禁となりました。

薬剤師は薬を正確に調剤する仕事から、患者の服薬フォローに力をいれていくということが改めて明確になりました。

M&Aという意味では、これにより薬剤師不足の心配がなくなったと考える経営者がいる一方で、完全に時代が変わったことを改めて認識し、事務員・薬剤師共に研修をより一層充実させ、IT投資を進めることで国の方向性についていくために、大手との提携を選ぶ経営者も増えています。

医薬品卸の談合

11月末に、衝撃的なニュースが走りました。大手医薬品卸4社が「独立行政法人地域医療推進機構」の医薬品納入価の入札において談合を行った疑惑により強制捜査を受けることが公表されました。

この問題についてはいろいろと指摘が挙げられていますが、根本的な原因としては、医薬品卸業界の寡占化により、交渉力が強くなっていることが挙げられます。

医薬品卸は、かつて約350社存在した地方卸が統廃合を繰り返し、上位4社で90%のシェアを占めるまで再編が進みました。これにより購入者である病院や薬局に対する交渉力が非常に強くなりました。

今回の事件は、いかにスケールメリットが重要かということを考えさせられる一例ともなったと言えるのではないでしょうか。

大手調剤のM&A

スケールメリットの獲得を狙っていくうえで、やはりM&Aは欠かせません。

調剤薬局業界は、売上高1,000億円を超える大手調剤薬局が9社存在し、各社が積極的にM&Aを行い再編が進みました。上記は、大手調剤薬局の店舗数推移をまとめたものです。

大手10社で約5,800店舗、市場の10%を占めています。
2003年には、まだ大きな開きはありませんでしたが、2018年にはアインホールディングスが2位以下を大きく引き離し、阪神調剤ホールディングが10位から5位に躍進しています。

この2社に共通するキーワードがM&Aです。

上の表は上場6社(※アイセイ薬局は2016年に非上場化)のM&A取得店舗数推移をまとめたものになります。

アインホールディングスは2010年から2019年の9年間で688店舗のM&Aを行っていますが、これは2番目に多いクオールの1.7倍、3番目の総合メディカルの3.2倍もの数字になります。

アインホールディングス全体で1,106店舗(2018年度末)となっているため、その半分以上の店舗をM&Aで買収してきたということになります。その意味ではアインホールディングスは地域薬局の集合体であるとも言えるでしょう。

中堅調剤が地域ドミナントを始めた

大手ばかりがM&Aを実行しているわけではありません。

中堅調剤では生き残りをかけて、M&Aを積極活用しています。早い内に大手と提携する永冨調剤薬局(大分)のような企業もあれば、同地域内にて買収を進めスケールメリットを発揮する、あるいは遠方店舗を切り離してドミナントエリアに経営資源を集中させるなど、動きが活発になっています。

上記は当社成約案件の譲渡理由になります。これまでよりも選択と集中による譲渡件数が増えているのがみてとれます。

そして、地域ドミナントが重要なのは、大手調剤のデータからもみてとることができます。下の図は大手調剤の売上高と経常利益率を表したものですが、このグラフを見ると大きく2つのグループに分けられます。

1つ目のグループは、札幌臨床検査センター(北海道)、メディカル一光(三重)になります。

売上高は全国大手に比べると劣りますが、地域に特化することでそれぞれの県でのシェアは全国チェーンのトップクラスと肩を並べ、経常利益率も高くなっています。

そして2つ目のグループが、いわゆる全国に店舗を展開する全国チェーンになります。このグループでは、売上高と経常利益率が相関関係にあり、スケールメリットを見て取ることができます。

M&Aを使いスケールメリットを強化していくというのは正しい戦略である言えます。ここで、業界再編の先を行くといわれるドラッグストアの業界についても少し触れてみたいと思います。

上の2つの図はそれぞれ2010年と2018年の大手ドラッグストア業界の売上と経常利益率を表した2つのグラフになります。

2010年には大手16社の売上合計は3兆円(市場規模5.6兆円、シェア54%)でしたが、2018年には5.4兆円(市場規模7.3兆円、シェア74%)に成長しました。

規模の成長に伴い、各社の経常利益率平均 3.4%→4.42%となっています。

2010年の時点では、売上高2,000億円を境として、2,000億円未満の企業は1社を除き総じて経常利益率3.4%未満、2,000億円以上の企業は3.4%以上と規模の経済が鮮明に出ています。

そこから8年後の2018年になると、2,000億円以上の企業がさらに利益率を上げたのと同時に、2,000億円未満の企業のうち何社かは、2,000億円企業に迫る利益率に伸ばしていました。

これらの企業に共通するのは地域ドミナントしているグループということです。クスリのアオキ(北陸+北関東)、クリエイトSD(首都圏)、薬王堂(東北)、ゲンキー(北陸)は全体の売上は大きくないものの、特定地域におけるシェアは大手以上となっています。

このように地域特化した店づくりによって利益率の向上を達成しているのは、厚生労働省の掲げる「地域密着の構想」とも合致すると言えます。

また、2010年と比べると、レデイ(経常利益率1.1%)はツルハに、CFS(2%)とグローウェル(3%)は合併し、ウエルシア(4.2%)となっており、利益率の低い企業は高い企業に買収されるか、統合されていくことが見てとることができます。

ココカラファインについても、やはり最大手クラスほどの利益率の達成はできておらず、マツモトキヨシグループと経営統合されることで、利益率の改善が見込まれることとなります。

ドラッグストア業界で始まった大手同士のM&A

2019年、ドラッグストア業界においては、ココカラファインとマツモトキヨシグループの資本提携がニュースとなり世間を騒がせました。

この提携によって業界が大きく動き、更に一つ再編のフェーズが変わるのではと言われています。
ドラッグストア業界は、再編が進み、M&A件数のピークは既に過ぎています。M&Aの件数は年々少なくなり、増加に転じることもありませんでした。

しかし、件数が減ったからと言って再編が減速するということではない点に注意が必要です。 大手同士の統合により、業界構造がさらに大きく変わることになりますので、M&Aの件数は減るものの、再編そのものはむしろ加速します。

そして再編が進むと、中小企業は売却したくても、できない時代になります。

これは先述した医薬品卸の業界も同じであり、調剤薬局業界においても今後同じ軌跡を辿らざるを得ないと考えられています。

2020年における調剤薬局業界の展望

調剤報酬改定により再編の波は加速

来期の報酬改定を見据え、譲渡したいというオーナーが増加していますが、今年の11月頃から譲り受け企業側の基準がさらに厳しくなってきました。

具体的には、今までは集中率85%未満の薬局であれば、積極的に譲り受けられてきましたが、11月以降は来期の調剤基本料3のハードルの集中率の引き下げを見据え、70~80%以上の店舗まで敬遠されるようになってきています。

また、かかりつけを見据え、内科のマンツー薬局よりも、皮膚科、眼科は評価が低くなり、1階よりも2階以上の店舗は敬遠されやすくなりました。

医師会の横倉会長や、中医協の中川副会長からは、医薬分業の意義に対する疑義も改めて示され、来年の報酬改定はより厳しくなると予想されており、再編はますます加速すると考えられます。

メインプレイヤーは中堅調剤

当社成約実績の譲渡企業の規模に着目してみると、売上高5億円以下の企業が多かった数年前から大きく変わり、20億円以上の地域No.1クラスの名門企業による戦略的な譲渡の増加がより顕著に表れています。

相乗効果で成長スピードを加速させ、他社のスピードに負けない発展を実現するという明確な目標を掲げたうえで、戦略的に大手と手を組む中堅調剤が増えてきています。

また、譲渡だけでなく、自社の出店エリア内でのドミナント強化を目的として、中堅調剤が地元の薬局を譲り受けるケースも増えてきています。

新規出店がなかなか叶いにくくなってきている中で、地域での発言力やブランド力を維持させていくために、M&Aによって特定のエリア内で店舗数を増やすことにより、独自の薬価交渉時に優位性を持つ企業もあります。

大事なことは、譲渡するにせよ譲り受けるにせよ、どこの企業も将来を見据えて今から動き出しているという事実です。

M&Aというと、どうしても大手企業の話で他人事のように聞こえてしまいがちですが、中堅調剤がメインプレイヤーであり、中堅調剤がどこと組み、どのように動いていくのかによって今後の業界構図も大きく変わっていくと考えています。

ドラッグストアの参入

中堅調剤による譲り受けと同じように伸びているのが、ドラッグストアによる譲り受けです。小規模案件が大手調剤から敬遠傾向にある中で、ドラッグストアは調剤薬局事業への積極展開を始めています。

より地域で力を持つための地盤固めのために積極的にM&Aを活用し、調剤薬局や調剤併設店の展開を広げています。

ドラッグストア業界最大手のウエルシアは、年々調剤併設店舗を増やしており2019年8月末現在で1,350店舗にまで増やしており、調剤薬局業界最大手のアインホールディングスの店舗数(1,106店舗/2019年10月末現在)よりも多い数値となっています。

2020年は、調剤薬局業界におけるドラッグストアの存在感もより一層大きなものになっていくでしょう。

2020年は限られた調剤薬局のみが大手と組める時代に

私たちは“6万店舗”が国内における拠点ビジネスの臨界点と定義し、「6万拠点の法則」と呼んでいますが、コンビニと同様に調剤薬局も約6万店舗になり、ますます統合が進んでいくと考えられています。

大手10社のシェアはまだ18%程度となっているため、これからもより多くの譲り受けニーズが出てくることでしょう。

しかしながら、譲渡企業が譲渡したいと思えば、いつでも譲り受け企業が出てきた時代は終わりました。先述したように、現在はエリアや規模・集中率等の内容について細かく精査されるようになっています。

そして2020年の報酬改定によって、その傾向はさらに加速していくと見られます。その結果、提示される条件が低くなり、譲渡側と譲受側の目線が合わなくなるというケースが増えていくでしょう。

実際に、アインホールディングスはIR資料にて、M&Aについては「より確実で大型の案件へ投資を集中させる」と計画に宣言されています。

先述したドラッグストアの業界と同様に、調剤薬局も譲り受ける対象の規模が徐々に大きくなっていき、地域でNo.1クラスの企業しか譲渡できないという時代が到来することになるでしょう。

今からその時代をしっかり見据えて、様々な選択肢の中から将来自社が取るべきベストなシナリオを事前に想定し、タイミングを逃すことなく決断を下していくことがこれからの調剤薬局経営者には求められるのではないでしょうか。

業界を取り巻く環境はこの10年間で大きく変わりました。

そして、これからさらに大きく変わっていくでしょう。

薬剤師の質が問われる世の中になり、機械化・IT化が進み、オンライン服薬指導の許可により立地は関係なくなり、ITに利便性を感じている世代が高齢化することにより患者のニーズも変わっていくことが予測できます。

益々厳しくなっていく業界の中で勝ち残っていくためには、このような環境やニーズの変化に合わせて、薬局経営も変化し、進化していく必要があります。

企業規模の大小関係なく、求められる薬局の質は同じです。いかに時代に即した薬局作りが出来るかどうか。よりよい薬局作りのために、最高の選択を決めていただくために、当社がお手伝いさせていただければ幸いです。

著者

日本M&Aセンター 業種特化事業部コラム制作担当

日本M&Aセンター  業種特化事業部コラム制作担当 

業種特化事業部はIT、建設・設備工事、住宅・不動産、食品、調剤薬局、物流、製造、医療・介護といった各業界に特化し、日々新たな案件に取り組んでいます。各コンサルタントのノウハウや知見を集め、有益な情報発信に努めてまいります。

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