2018年調剤薬局業界を総括!調剤報酬改定・M&A動向まとめ

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2018年は報酬改定がなされ、国からの“立地から機能へ”という強いメッセージが再確認された年であった。
そんな今年の調剤薬局業界を、以下総括していきたい。

2018年の調剤報酬改定

2018年2月7日、調剤報酬改定の要綱が発表されたが、その内容は薬局経営者に衝撃を与えるものだった。具体的には、以下の通りである。

調剤基本料3の適用基準

  • 月間枚数4万~40万枚(20点):集中率85%以上 または 医療機関と賃貸借関係
  • 月間枚数40万枚超(15点)

二つの大きな意味がある。ひとつは、減額基準となる集中率が95%から85%になったことで、多くのマンツー・門前型薬局が対象となることだ。これにより、4万枚以上40万枚以下の30店舗~300店舗程度の中堅・準大手は、マンツー・門前薬局の集中率を85%以下にしない限り、大幅な経営ダメージを受けることになる。今までであれば、患者に呼びかけたり、在宅を始めるなど、努力次第で95%以下にできた店舗も多いが、85%となるとまったく話は変わる。

もうひとつは、40万枚超という、約300店舗程度以上の大手調剤薬局に対して、15点とさらに減額をしたことである。集約し経営効率を上げることは、良質な医療サービスの提供と社会保障費の削減につながることを考えると、他の業界から見てまったく理解しがたい点数設定である。M&Aという視点で考えると、集中率85%以上95%以下の薬局が譲渡するときに、今までとは譲渡価額が変わってしまう可能性が大きい。これまでは、4万枚以上のグループが経営しても基本料1であったが、これからは4万枚以上のグループになった途端に、基本料3となり、1枚あたり210~260円利益が減ってしまうのである。また、40万枚以上の大手、4万枚以上40万枚以下の準大手・中堅、4万枚以下の中小企業で、買収時に提示する金額が変わることになるだろう。

基本料2(25点)の適用基準(変更点)

  • 2000回以上かつ85%以上
  • 特定医療機関の処方箋4,000回以上(ただし、同一建物内医療機関はひとつの医療機関とみなす・同一グループで複数同一の処方元前に出店している場合は合算される)

こちらについては、医療モールが対象になったということが大きい。調剤グループが経営するかどうかにかかわらず、医療モールで4,000回以上の処方箋を受ける薬局は1回あたり1月160円の利益が減ることになる。

特別調剤基本料(10点)

  • 敷地内薬局で集中率95%超

敷地内薬局は予想通り大幅な減算となったが、集中率95%超がついた。病院内なので、一般のマンツーや門前と比べても他の薬局処方箋を受けるのが難しいといわれているが、努力すれば無理な数字ではないという経営者が多い。また、敷地内薬局については、広告宣伝的な意味も強いため、今後も可能であれば、とりにいきたいと考える経営者が多いようだ。

また、薬剤師1名あたり月100件以上かかりつけ薬剤指導料を算定した際の特例もなくなった。大手調剤薬局が、この特例で基本料1を獲得していた店舗が多いことから、利益に対するインパクトは大きいと思われる。

後発品加算

  • 75%以上:18点
  • 80%以上:22点
  • 85%以上:26点
  • 後発品比率が20%以下:マイナス2点

今までの65%、75%の基準から5%ずつ基準がきりあがり、新たに85%以上26点、20%以下マイナス2点という政府目標にのっとった基準ができた。後発に関しては、次回改定でさらに基準があがるのは必至で、いずれ加算ではなく(対応していない店舗が)減算になっていくということだと思われる。

かかりつけ薬剤師の基準(変更点)

  • 12ヶ月以上の店舗勤務実績
  • 育児介護休業法の期間は特例制度あり
  • かかりつけ薬剤師指導料が70点から73点に。

今までは6ヶ月の勤務実績が12ヶ月以上になり、さらに地域に根ざし長期的に患者とコミュニケーションをとる必要性が明示された形となった。一方で、かかりつけ薬剤師指導料が増額され、対応できる薬局に対しては、インセンティブが付与される形となり、対応できる薬局と対応できない薬局の生き残りに差が出ることとなる。

地域支援体制加算(基準加算の廃止)

基準加算の用件に加え、基本料1の場合は、

  • 麻薬、向精神薬免許
  • 在宅実績
  • かかりつけ届出

基本料1以外の場合、

  • 夜間休日加算400回
  • 重複投薬、相互作用防止加算 40回
  • 服用薬剤調整支援料 1回
  • 居宅在宅の実績 12回
  • 服薬情報提供料 60回
  • 麻薬指導管理加算 10回
  • かかりつけ薬剤指導料 40回
  • 外来服薬支援料 12回
  • 集中率85%以上の場合は、後発品割合50%以上であること

基本料1をとれていれば、比較的算定できる薬局もある一方、中堅以上など基本料1以外の薬局にとってはかなり厳しい水準となった。特に夜間休日加算400回/人というのは、大手調剤の中で在宅が得意な企業ですら1割程度の店舗しかできていないことを考えると、かなり難しいといわざるを得ない。

M&Aにおいては、地域支援体制加算を算定している薬局が売却する場合、基本料1+地域貢献加算=76点が、基本料3=15~20点となり、最大1枚あたり610円の利益減となる。一方で、大手調剤の中でも買収後に夜間休日加算など算定をこなせる企業は、他の大手に比べて非常に高く価額を提示できることになる。

以上のように、今回の報酬改定では対物から対人へのシフトを促すためのメッセージが非常に強いものとなった。この流れは来る地域包括ケアシステムに必須の事項であるため、今後はさらに条件の厳格化、範囲の増加がおこなわれるであろう。今回の改定で影響が無かったから良かったなどとホッとしている時間はないと強く思わされる改定であった。

問い合わせ件数が3倍!?めまぐるしく動く調剤薬局業界

報酬改定で加算された項目・減算された項目を分析すると、国の方針に沿って明らかな差がでている。それを受け、多くの薬局経営者の今後を考えさせられる年となったようだ。

その表れとして、当社宛の問い合わせ件数(譲渡検討等)が昨年比3倍を超えた。
お問い合わせの中には、『国の求める薬局作りをする自信がない。人材も集められない。さらには報酬減額や薬価改定が心配だから、数年後に考えていた引退時期を前倒ししたい』というオーナーもいらっしゃった。

譲渡を実行するか否かはそれぞれのタイミングがあるが、確実にいえることは“準備を始める企業が増えた”ということである。様々な選択肢の中から将来自社の取るべき方法を事前に把握し、良いタイミングで決断を下すための準備を始めている企業が増えているのだ。

大手企業は本業加速型M&Aで大型案件重視、小規模企業は売りづらい時代に

アインやメディカルシステムネットワークをはじめ、全ての上場企業・大手企業は積極的にM&Aでの出店をしたい意向がIRに表れている。たとえば、4月に公表された日本調剤の「2030年に向けた長期ビジョン」には同社のみでシェアを10%、売上は1兆円企業を目指すと発表している。このように、上場・大手各社は本業に集中する“本業加速型”での拡大成長路線に踏み出している。

しかし、そのM&Aへの姿勢については昨年と状況が変わり、集中率や店舗規模・店舗数等かなり案件を精査するようになっている。

実はこれについても報酬改定が絡んでいる。

ご存知のように、大手・準大手企業に対しては集中率85%以上の店舗を譲受ける場合、基本料が1をとれなくなり、それにともなって地域支援体制加算もとれなくなる可能性が高い。となれば1店舗単体での収益改善が容易ではなくなる(むしろマイナスとなる)。

そのため、複数店舗の案件によりいっそう重きを置くようになった。複数店舗であれば技術料が多少落ち込んでもドミナント戦略がとれ、コスト削減や薬剤師の調整等も行うことができ、1店舗を譲受ける場合に比べてリカバリーも早く、かつ打てる施策が多いというメリットがある。1店舗を10回譲受けることにくらべ、10店舗を一回で譲受けたほうがよいというほうに譲受け企業側は気持ちが傾いた一年であった。

現に、1店舗企業は徐々に譲渡がしづらくなっている。今後の改定次第では全く譲渡ができなくなる時代に突入するであろう。
ドラッグストア業界もかつては同じ状況であり、1店舗企業の譲渡が厳しくなった後は、複数店舗を持っている企業がだんだんと譲渡が難しくなっていった。今となっては50店舗以上の大きな規模の企業のみが譲渡対象になるというようになっている。
調剤薬局業界においても同じ軌跡をたどらざるを得ないだろう。
企業規模別M&A状況の変遷 (日本M&Aセンター作成)

地域No.1企業の戦略的譲渡や後継者のための譲渡も

今年も昨年に引き続き多くの地域No1薬局や地方の中堅企業が大手の傘下に入った。

どの企業も財務内容や収益面では申し分ない、さらには薬剤師も豊富に抱える企業である。これらの企業は自社での哲学や方針が明確であり、薬局機能としても非常にレベルの高い企業である。

それらの企業がどんどん大手の傘下に入っているのは、先に述べた大手企業の状況の変化も関連するところがある。大手企業は上述の通り、中堅企業の譲受に必死であり、その譲受け条件や譲渡企業の要望に対して非常に柔軟になりつつある。そのため中堅企業としても、ニーズに合致した企業が見つかりやすくなってきている。

『M&A譲渡をしてもこのまま残って経営をしたい』
『親族や腹心を次期社長にしたい』
『大手の経営資源を利用して自社を発展させたい』

このようなさまざまな社長の要望に応えようとする譲受け企業が多いのが現状だ。

譲渡を経験されたとある中堅企業オーナーは「大手と一緒になって一番変わったのは、リスクをとることができ、チャレンジができるようになったこと」とおっしゃった。
少し前のM&Aのイメージ(M&Aによって社長は交代、看板も変わる)は、実態とは大きくかけ離れている。

メディカルシステムネットワークのグループ入りした青森のアポテックはまさにその例である。
経営陣はそのまま続投し、社名はそのまま残り薬局の看板も変更することはなく今も営業している。
大手企業によっても細かい考え方は違ってはくるが、それぞれの地域に根差してきた譲渡企業の良さやブランドを大切にする傾向が、現在の調剤薬局業界におけるM&Aの主流だ。

ファンドやブローカーの出現!正しいM&Aを再認識する必要性が高まる

業界再編が進んでいる調剤薬局業界では、そこに商機をにらんだM&A仲介会社が多く参入してきている。これについては歓迎すべきことだ。それによって再編はさらに進み、業界は活性化していく。

参入企業が増えていく一方、その”質”については十分注意をしなければならない。
決算書や月計表のみを見て、高値で譲渡できることをアピールするブローカーなどは要注意である。また、最初だけ高値で提示をし、基本合意で独占交渉権を得、その後買収監査でもっともらしく減額を要請するファンドなども横行している。
M&Aを活用する企業が多く参入することは歓迎すべきだが、正しい手順、正しいやり方でM&Aを進めなければ決してうまくいかないのがM&Aである。業界全体がその認識を高めて注意していかなくてはならない。

著者

日本M&Aセンター 業種特化事業部コラム制作担当

日本M&Aセンター  業種特化事業部コラム制作担当 

業種特化事業部はIT、建設・設備工事、住宅・不動産、食品、調剤薬局、物流、製造、医療・介護といった各業界に特化し、日々新たな案件に取り組んでいます。各コンサルタントのノウハウや知見を集め、有益な情報発信に努めてまいります。

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