2017年の調剤薬局M&A振り返り
⽬次
- 1. 2017年の調剤薬局M&A振り返り
- 2. 6万拠点の法則
- 3. 仲介件数の増加
- 4. ドラッグストア業界で続く有力企業のM&A
- 5. 地域包括ケアシステムの構築
- 5-1. 著者
2017年の調剤薬局M&A振り返り
2016年に引き続き、2017年も大手による地場の中堅調剤薬局買収のニュースが多く飛び込んできた。調剤薬局業界の再編が進んでいることはここ数年の動きを見れば周知の事実であったが、再編の流れはさらに加速しているように思える。
6万拠点の法則
現在、全国の調剤薬局店舗数は約5万8,000店舗弱。店舗ビジネスということを考えるとこれくらいの数が上限であるように感じる。私たちはこれを6万拠点の法則と呼んでいるが、あらゆる業界で6万拠点が飽和を現す数字になっているのではないだろうか。
例えばガソリンスタンド、コンビニ、運送業者、歯医者などが6万拠点で飽和している状態であった。かつてガソリンスタンドは国内店舗数が最大6万店舗ほどあったが、ここ10年―15年で淘汰が進み、現在は4万店舗を切る規模となっている。必要が無ければどんどん淘汰されていくであろうし、若者の車離れ、電気自動車の普及促進など様々な要因もある。調剤薬局業界においては、国が“今ある全ての薬局を残す気は無い”というような方針を示しており、必要とされる薬局のみが残るような報酬改定が続いていくことが予想され、さらなる再編が進むであろう。
仲介件数の増加
実際、当社が仲介する調剤薬局のM&A件数も年々増えており、2014年24件、2015年44件、2016年46件、2017年48件と増加の一途を辿っている。特に最近の新しい動きとしては、中堅規模の地域の薬局が新たな地域への進出や、自社で持っていないノウハウを求め、大手企業と手を組む、成長戦略型のM&Aが増えている。社長が社長として残り、自社で今までできなかったことを大資本と連携することで実現する、そのような形で厳しい業界を乗り越えていこうという動きが活発である。また、今までは薬局業単体で大きくなってきたが、店舗展開が加速化しているなかで、フランチャイズ系の企業やM&Aに強い金融機関やファンドの業界参入という動きもある。今後は業務の効率化といった観点からIT分野との結びつきが強くなっていくことが予想される。
ただし、大手企業による買収も引き続き見られており、2017年9月に阪神調剤薬局が埼玉県を地盤とする鈴木薬局を、12月にメディカルシステムネットワークが青森県を地盤とするアポテックを買収するなど、地域のトップクラスの企業が買収されるケースが目立つ。シェア上位10社で業界の売上全体の50%を占めるようになると、それまで地場で経営を続けてきたトップクラスが立て続けに売却していくフェーズに入るといわれている。
ドラッグストア業界で続く有力企業のM&A
ドラッグストアを例に挙げれば、2012年頃からその傾向が顕著になり、約3年の間に県でトップの企業が10社以上売却された。
調剤薬局業界のシェアを見ると、上位10社で15%という状況でまだまだ個人経営や中小企業が非常に多い状況である。上位10社のシェアが50%になるにはあと5年程度はかかるのではないかと思うが、既にこのような動きが出てきているということは業界再編に向けた動きが加速していることを伺わせる。
また上位10社のシェアが10数%程度という状況下では、大手企業であっても得意不得意なエリアがあり、競合他社としのぎを削る争いをするということはあまりなかった。しかし、50%を占めるような状況になると各地域で大手同士がそれぞれ差別化できる戦略を考えていかなければならない。そうなれば患者側が調剤薬局を選ぶ状況が生まれるので、「ブランド力」が必要になってくる。
例えば、日本調剤が神奈川県と協力して行っている未病促進事業のような地域に根差した動きや、メディカルシステムネットワークのような地域住民に向けたヨガ教室、管理栄養士による栄養指導などを行う調剤薬局も出てきている。独自色を出し、差別化に繋がるブランディングを考えていくことも今後は必要となのだ。
地域包括ケアシステムの構築
地域包括ケアシステムの構築に向け調剤薬局がどのような役割を担っていくのかについては、手探り状態と言える。
従来の調剤薬局は処方箋を発行する医師の指示に従って調剤を行えばよかったので、介護施設に出向いて入居者の処方箋受付に向けた営業をしたり、地域の多職種と積極的にコミュニケーションを図る必要はなかった。それが地域包括ケアシステム下では病院や診療所、介護施設や在宅サービスとの連携のなかで、提供するサービスの質を高め、範囲を広げていくことで、地域で存在感を出していなかければならない。
これまでの“待ち”の姿勢から“攻め”の姿勢への転換が求められているとも言える。これは業界全体として取り組むべき課題であるが、経営者にとっても薬剤師個人にとっても非常にハードルが高く、躊躇しているところが多いのが実情だ。この転換期に1日でも早く取り組めるかどうかが生き残りを分けるポイントになると考えられる。
今後、「薬を出しているだけ」の調剤薬局は淘汰されていく。サービス業として接客やサービスの質を高めることも大切であり、また、薬の専門機関として調剤した薬の効果を検証したり、患者に対して適切に指導・アドバイスを行うという本来の役割を見直してくことも重要である。その点、大手企業では「調剤薬局は何をすべきか」「患者にとってどのような存在であるべきか」といった根本的な課題についてよく議論し、それをきちんと従業員に伝えているところが多く、サービスの質も非常に安定してきている。
日本調剤では、フランチャイズのような形で展開することで、店舗間のサービスのばらつきをなくし安定させることに成功している。このようにサービスの質を保ち、研修や運営のシステムを構築するにはある程度の規模が必要だ。業界の再編が進む中で、調剤薬局のサービスの質をいかに高めていくかについても合わせて考えていくことが求められる。