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【運送業界M&A事例】継がせる不幸にしたくない、2代目社長の苦悩とM&Aという選択

業界別M&A
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【譲渡企業様】
・企業名⇒土屋自動車運輸株式会社
・業種⇒一般貨物自動車運送業
・売上(M&A当時)⇒899百万円

【譲受企業様】
・企業名⇒ホッコウ物流株式会社
・業種⇒特定貨物自動車運送業
・売上(M&A当時)⇒7,282百万円

譲渡企業様の概要とM&Aの検討理由

直請け中心の一般貨物運送業

土屋自動車運輸は東京都台東区(当時)に本社を置き、従業員は約100名、売上約9億円の一般貨物運送業です。M&A当時の社長である服部氏の義父にあたる土屋泰三氏が昭和43年に創業をしました。

東京都と大阪府を中心に建設資材、定温食品を中心に輸送する事業者であり、荷主からの直請けの仕事が多く、安定的な売上を確保していました。

義父からのバトンタッチ、その後の苦労

服部氏は元日通の社員であり、国内のみならずオランダ駐在等海外でのビジネス経験を持つエリートでした。しかし、義父からの強い要請により40歳のときに土屋自動車運輸に入社をしました。

義父の体調も悪かったこともあり、引継ぎはたったの1ヶ月、1年ほどはただがむしゃらに奔走していました。しかし、引き継いでからは苦難の連続でした。

運賃の値上げは十分にできず、新規の取引先は増えない。

その間燃料代の高騰やトラックの購入費の増加等の外部環境のあおりを受け、経営は非常に厳しくなってきました。この苦労を息子にやらせるかどうかを本気で悩んでいました。

3つの選択肢からM&Aを決断

服部氏は漠然と60歳になるまでには社長業を辞めるつもりでした。そこで会社の将来について3つの選択肢を検討しました。

  • 息子に継がせる
  • M&Aで第3者に譲渡する
  • 廃業

運送業の周りの経営者が次々に親族に事業を承継しているのを見て、まず第一に自身の息子への承継を検討しました。しかし、経営環境が厳しい中、自分が経験してきた苦労を息子にも味わわせることに非常に抵抗がありました。

継がせて不幸にするわけにはいかない、これは息子には継がせるべきではないと本気で考えました。残るは廃業とM&A、但しM&Aで相手が見つかるほど優良な企業ではないとの認識があり、廃業を検討していた頃、日本M&Aセンターから1通のセミナー案内ダイレクトメールが届きました。

興味本位でコンサルタントと連絡を取り、話を聞きながら「もしかすると譲受けてくれる会社があるのではないか」という考えに変わっていきました。義父に話をし、義父もM&Aには賛成であったため、M&Aでの事業承継を決断しました。

譲受企業様の概要とM&Aの検討理由

北海道を代表する特殊貨物自動車運送業

ホッコウ物流は北海道に本社を置き、北海道内を中心として一般物流とドレージを行う未上場企業でした。過去にM&Aの実績もあり、グループ全体で100億以上の売上を保持していました。

エリアの拡大、本州への進出

ホッコウ物流は北海道では確固たるブランド力を有していましたが、関東での拠点がありませんでした。かねてより関東への進出をもくろんではいましたが、優良な土地もなく、また地の利がないために取引先の開拓がまったく進んでいませんでした。

そのため、土屋自動車運輸の商圏エリアは非常に魅力的で、またそれを中心とし、さらなる拡大につなげられるのではないかと期待をして譲受けに名乗りをあげました。

本件M&Aで重要となったポイント

両社長の境遇が似ており、お互いを理解しあうことが出来たトップ面談

誰もが緊張するトップ面談。服部氏は相手方がどのような社長が来られて、どのように話せばよいかがまったく分かりませんでした。

しかし、面談冒頭でホッコウ物流の社長の自己紹介が始まり「実は自分も真の創業オーナー社長ではない」ということを話され、服部氏と境遇が似ていることを伝えました。

服部氏の気持ちに寄り添い、理解してもらえるお相手だったことがわかり、非常に和やかなトップ面談となりました。服部氏は他の候補先もありましたが、面談の結果ホッコウ物流一択で心を決めました。M&Aは企業と企業の結婚ですので、お互いが寄り添い合えるか、理解し合えるかは非常に大切なポイントとなります。

誠心誠意の従業員開示

契約後の一番の山場である従業員開示の場面、服部氏は非常に不安でした。

「従業員から何を言われるだろう、文句の一つもでるのは仕方がない、辞めたいという社員も出てくるのではないか」様々な不安がよぎる中開示をしましたが、結果的には一人の退職者もでず、従業員全員が受け入れてくれました。

服部氏の丁寧な説明、自分の思い、この選択が従業員の皆様にとっても幸せになると思って判断をしたことを誠心誠意伝え理解を得られたことが、混乱なく承継できたポイントです。運送業はドライバーがいないことには成り立ちません。

開示で失敗し、退職者が出てしまうと経営が立ち行かなくなるケースもあります。開示の際はうそ偽りなく、誠心誠意丁寧に説明をすることで理解が得られ、成功の確率は高まります。今回はまさにその模範となるような開示をすることで全員がM&Aに賛成してくれました。

服部氏にとって、ホッコウ物流にとって、従業員にとって、荷主にとって、全ての方々が幸せになるM&Aを実現できました。

著者

日本M&Aセンター 業種特化事業部コラム制作担当

日本M&Aセンター  業種特化事業部コラム制作担当 

業種特化事業部はIT、建設・設備工事、住宅・不動産、食品、調剤薬局、物流、製造、医療・介護といった各業界に特化し、日々新たな案件に取り組んでいます。各コンサルタントのノウハウや知見を集め、有益な情報発信に努めてまいります。

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