コラム

人手不足が深刻化する原因とは?業界別の課題や対策を紹介

経営・ビジネス
更新日:

⽬次

[表示]

人手不足
「人手不足」は多くの企業が直面している問題であり、業務の停滞、サービスの品質低下など、企業経営に大きな影響を及ぼします。また、人手不足の長期化は既存の従業員への過度な負担となり、離職が加速する可能性もあります。

本記事では、人手不足が起きている背景、業界別の事情、人手不足解消に向けた対策をご紹介します。

日本M&Aセンターでは、人手不足の解消など様々な経営課題の解決に向けて専門チームを組成し、M&Aをはじめとしたご支援を行っています。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。

人手不足の現状

東京商工リサーチが全国の企業を対象に行った「人手不足」に関する調査結果(※1)によると、「正社員が不足」と回答した企業は、大企業で7割超にのぼりました。
その割合は全体でも6割を超えており、人手不足は企業規模に関わらず広がっている様子がわかります。

業種別にみると、特に2024年問題を目前にした 物流・運送業 での正社員の人手不足が深刻化しており、そのほか、 飲食業、宿泊業、サービス業 は、正社員、非正規社員ともに、半数以上の企業が不足を訴える結果となりました。
業界・業種別の状況については後述します。

また、2023年4月の「人手不足」関連倒産は12件と、前年同月(2件)の6.0倍に急増しており、人手不足関連倒産の増加は、今後も続くことが予測されています。

※1:東京商工リサーチ・2023年 企業の「人手不足」に関するアンケート調査(2023年4月3日~11日、企業を対象にインターネットによるアンケート調査を実施、有効回答4,445社)

①人手不足の原因

人手不足が起きる主な原因について見ていきます。

少子高齢化による労働人口の減少

少子高齢化が進む日本では、生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少しており、2050年には5,275万人まで減少すると見込まれています。

人口動態
出典:内閣府「令和5年版高齢社会白書」

このような生産年齢人口の減少により、労働力の不足、国内需要の減少による経済規模の縮小など様々な社会的・経済的課題の深刻化が懸念されます。

②都市部への人口集中

日本の人手不足は、少子高齢化による人口構造的なものが理由となっているだけではありません。2つ目に挙げられるのは首都圏など「都市部への人口集中」です。日本の人口が大都市圏に偏在していることにより、都市部以外の人手不足をさらに加速させています。

都市部への人口集中
出典:国土交通省国土審議会政策部会長期展望委員会「国土の長期展望」中間とりまとめ、より当社作成

上の図から東京・名古屋・大阪の「三大都市」の人口は、戦後一貫して増え続けていることがわかります。それに対し「三大都市圏以外の地域」は減少し続けており、今後も人手不足はさらに深刻化していくことが予測されています。

③求人の需給ギャップ

有効求人倍率は、仕事を求める1名に対して、何名の求人があるか雇用動向を示す指標で、厚生労働省が毎月発表しています。求職者数より求人数が多い、つまり人手不足の時は有効求人倍率が1を上回り、反対に求職者の方が多く就職難の場合は1を下回ります。

人手不足の原因の1つに、これら有効求人倍率の偏りも挙げられます。つまり「なかなか採用ができない」という課題を抱える企業がいる一方で、「希望の仕事の求人が(人材が足りており)見つからない」という求職者が存在している状況です。

例えば令和5年6月における全国の有効求人倍率調査を見ると、「建築躯体工事の職業」は倍率が10.68であるのに対し、「一般事務の職業」は0.35と求職者数が求人数を上回っています。

職業 有効求人倍率(令和5年6月)
建設躯体工事従事者 10.22 倍
土木作業従事者 6.50倍
一般事務従事者 0.33倍
会計事務従事者 0.66倍

出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和5年6月分)参考統計表」より抜粋

このように企業が求めるスキルや条件のギャップが生じていることも、人手不足を生む理由の1つと言えます。

人手不足が深刻化する業界

人手不足が特に深刻化している業界は、構造的な問題をそれぞれ抱えています。それぞれの背景について見ていきましょう。

物流・運送業界


物流は産業・経済活動の基盤であり、インターネット通販や宅配便など、物流サービスは人々の暮らしに不可欠なインフラとなっています。
その一方で、長年ドライバーなどの人手が慢性的に不足している業界の1つでもあります。

物流・運送業界は業務の特性上、他の業界と比べ所定外労働の時間が長く、低賃金であることが特徴です。
この点も、就業者の就業意欲や労働者の定着率を下げている、大きな原因の一つと言えます。2024年問題により、労働時間に制限がかかることで、さらなる働き手の不足が懸念されています。

宿泊・飲食サービス業界


宿泊・飲食サービス業界は、新型コロナウイルスによる打撃からインバウンド需要の回復で立て直し傾向にありますが、働く担い手の数が追い付いていない状況です。

また、パートや非正規雇用などの従業員が多い業界でもあるため、短期間での離職者が多くなり、慢性的な人手不足を生み出しています。

両業界ともに、長時間労働など労働条件の厳さに対して賃金が低い傾向にあります。これが新たな労働者の確保を難しくしていると考えられます。

これらの問題を解決するためには、労働条件の改善や賃金の引き上げ、さらには柔軟な働き方の導入などが求められます。また、デジタル技術の導入による労働力の効率化や、外国人労働者の採用なども考慮されるべきでしょう。

ホテル・旅館・温浴施設業界のM&Aと事業承継の動向・案件情報(2023年最新版)
飲食店業界のM&Aと事業承継の動向・案件情報(2023年最新版)

建設業界


建設業界は労働集約的な業界であり、身体的に過酷な作業が多いため、若者の就職志向が低いという問題があります。

また、高度な技術を必要とする職種が多い一方で、熟練の技能者の高齢化が進む中、技術習得に時間とコストがかかるため新たな労働力の確保が難しい状況です。

建設業界のM&Aと事業承継の動向・案件情報(2023年最新版)

医療・介護業界


医療・介護業界は高齢化社会の進行とともに需要が増加していますが、賃金問題や過酷な勤務条件(例:長時間労働、休日勤務、夜間勤務など)により、人手不足が深刻化しています。

特に介護人材の不足は深刻です。厚生労働省のシミュレーションによると、2025年に向けた介護人材の需要見込みが253万人であるのに対し、現状の増加率で推移した場合の介護人材の就業者数は、215.2万人にとどまります。つまり、37.7万人もの人手不足が発生します。

2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)
介護人材の需要見込み(2025年度) 253.0万人
現状推移シナリオによる介護人材の供給見込み(2025年度) 215.2万人
需給ギャップ 37.7万人

出典:厚生労働省作成『[2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について』より一部抜粋

また医療業界では、慢性的な医師不足に加え、医師の数が都市部およびその周辺に偏在していることから、地方の医師不足は深刻な状況です。

医療・介護業界のM&Aと事業承継の動向・案件情報(2023年最新版)

IT・情報サービス業


テクノロジーの急速な進展とデジタル化の需要増加により、ITに関する専門知識を有する人材が求められています。

しかし、教育システムが急速な技術の進歩に追いついていないため、特に新しいテクノロジーに精通した人材が不足しています。

また、人材が東京などの都市部を中心に偏在しており、地方は常に人材不足です。その結果、デジタル化社会に向けた都市部と地方の格差は開く一方となっています。

IT業界のM&Aと事業承継の動向・案件情報(2023年最新版)

人手不足を解消するための7つの解決策


人手不足の課題を解決するには、新たに人材を獲得する方法と、既存の人材で工夫を図り人手不足をカバーする方法があります。ここでは主な対策について見ていきます。

①採用要件・基準の見直し

従来の採用要件や基準にとらわれず、本来の採用目的に沿って見直すことで、適切なスキルセットを持った人材獲得の可能性を高めることができます。

またオンライン等を活用して、応募や選考プロセスの効率化を進めることで、より広範囲なターゲットにアプロ―チできます。

②待遇・労働改善

人材獲得や人材の定着に有効なのは、魅力的な労働条件です。待遇・労働条件が求職者の希望に沿わないと、敬遠されてしまいます。既存の従業員にとっても高いモチベーションを維持し、生産性を高めるために魅力的な労働条件は重要です。

労働条件は給料など金額面に限りません。求職者は福利厚生の充実や休暇の取りやすさ、リモートワークなどフレキシブルな働き方など総合的に判断するケースが多く見られます。

求職者のニーズを把握し、働き方改革を含め、待遇・労働改善に取り組む柔軟さが、経営者には求められます。

③研修・教育制度の充実

既存の従業員の業務スキルを高めることで、生産性が高まり人手不足のカバーにつながります。これは長期的な視点から見て、人手不足問題を解決するための重要な戦略です。さらに、従業員が新しいスキルを学ぶことは、雇用の安定性と満足度の向上にもつながります。

また、充実した研修・教育の機会がある会社ということは、求職者にとっての安心感につながり、応募への影響も期待できます。

④生産性の改善・業務の抜本的見直し

人手不足の状況をカバーするには、ITを活用した業務の効率化・自動化によって生産性向上を図ることが重要です。そのために業務フローを洗い出し、単純作業を自動化し、従業員がより高度な作業に集中できるようにします。

人員が限られた中小企業が業務の効率化を進めるためには、大企業以上にITの力を借りる必要があります。人手不足を解消するためには、あらゆる場所で最新のシステムを導入し、業務の効率化を徹底していきましょう。

人手不足を解決する方法として、M&Aも選択肢のひとつに

近年は、譲渡する側、譲受ける側ともに、自社の成長を加速させるため、専門人材の確保などM&Aで人手不足、人材確保をカバーするケースが増えています。

人手不足を解消するためには、中長期的に取り組む必要があります。また、確保した人材のスキルをさらに高めるための教育、離職率を回避するための対策を継続的に講じていかなければなりません。しかし多くの時間と費用をかけて取り組める企業は限られています。

こうした状況に、例えば熟練の技術者を多く抱えた会社をM&Aによって自社グループの傘下に迎え入れることで、人手不足を解消に導くことができます。譲渡企業、また人手不足に悩む譲渡企業側にとっても、他社の傘下に入ることで新体制のもと事業を継続し、さらなる成長を目指すことが期待できます。
自社の状況に合った方法でM&Aを行えば、人手不足を解消して事業規模を拡張するチャンスが得られます。

人手不足を解消に導いたM&A事例インタビュー

実際にM&Aによる譲渡を通じて慢性的な人手不足を解決した日本M&Aセンターのお客様事例をご紹介します。

事例①M&Aで人手不足と事業承継の課題が一気に解決した事例
過去最高売上と最高益を達成しながら「人が足りない、育たない」という課題を抱えていた経営者は、M&Aによって事業承継と人手不足という課題を解決しました。
[M&A事例]Vol.88

事例②M&Aで事業シナジー以外に人材採用が成功した事例
人材が定着せず、採用コストが成長の足かせになっていると感じた経営者は、自社の中長期的な成長を考え、M&Aによる解決を選択しました。
[M&A事例]Vol.59

終わりに

以上、人手不足について現状と原因、解決するための対策を見てきました。

多くの企業が人手不足に悩む中、特に地方の中小企業において事態は深刻です。人手不足は日本の人口構造上の問題であり、かつ少子化による問題でもあるので、数年のうちに解決するようなものではありません。

人手不足が長期化すれば、やがて企業の収益は低下し、最終的には事業の継続が難しくなってしまいます。このような事態を避けるためには、本記事で紹介した、人手不足を解消するための対応策や、場合によってはM&Aも選択肢として検討する必要があります。

日本M&Aセンターでは、人手不足の解消など様々な経営課題の解決に向けて専門チームを組成し、M&Aをはじめとしたご支援を行っています。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。

著者

M&A マガジン編集部

M&A マガジン編集部

日本M&Aセンター

M&Aマガジンは「M&A・事業承継に関する情報を、正しく・わかりやすく発信するメディア」です。中堅・中小企業経営者の課題に寄り添い、価値あるコンテンツをお届けしていきます。

この記事に関連するタグ

「人手不足」に関連するコラム

人手不足の解消はどうすればいい?対応策とは

経営・ビジネス
人手不足の解消はどうすればいい?対応策とは

2003年に少子化社会対策基本法が制定されてから20年以上が経過していますが、いまだ有効な対策は見つかっているとは言い難い状況です。そのため、長期的な労働力人口の減少傾向は避けられません。また、労働市場の流動化が進み転職がしやすくなったため、苦労して確保した人材を定着させることが、以前と比べて非常に難しくなっています。そのほかにも、様々な要因が複雑に組み合わさり、業種を問わず多くの企業で人手不足が

人材確保の方法、対策や業界別の成功事例を紹介

経営・ビジネス
人材確保の方法、対策や業界別の成功事例を紹介

現代の日本社会が直面している最も深刻な課題のひとつが、少子高齢化です。少子高齢化は労働市場において供給不足を引き起こし、これが企業の人材確保、人材の定着を難しくしています。本記事では、人材確保が困難になっている社会的背景を簡潔に整理したうえで、必要な人材確保、定着させるための方法、成功のヒントとなる業界別の事例をご紹介します。貴社の人材確保についてのお悩みはM&Aで解決することができるかもしれませ

2024年問題とは?物流・運送業への影響、対策をわかりやすく解説

経営・ビジネス
2024年問題とは?物流・運送業への影響、対策をわかりやすく解説

2024年問題は、主に物流・運送業界、建築業界などに様々な影響を及ぼすとされています。本記事では、物流・運送業界における2024年の概要、想定される影響や対策についてご紹介します。M&Aの目的、検討ポイントは業界・業種によって異なります。物流・運送業をはじめ各業界・業種に精通した専門チームがあなたの会社のM&Aをご支援します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。物流・運送業界のM&Aについ

目指しませんか、地元のスター企業!

M&A全般
目指しませんか、地元のスター企業!

地方の中小企業は深刻な人手不足に現在、日本経済の大きな課題として注目されている「人手不足問題」。働く人口(生産年齢人口)は2025年までに504万人減、2040年までに3,174万人減少するといわれています【出典:『日本の地域別将来推計人口』(平成30(2018)年推計)】。特に、東京以外の地域ではこの減少幅が非常に大きくなっています。生産年齢人口減少率が大きい10都道府県これにより、特に地方の中

【1万字スペシャル対談】SHIFT×日本M&Aセンターが巻き起こす、SI業界革命

M&A全般
【1万字スペシャル対談】SHIFT×日本M&Aセンターが巻き起こす、SI業界革命

2019年5月、業務提携を発表したSHIFTと日本M&Aセンター。提携により、2社が共同で運営する新たなコンソーシアムを立ち上げ、SI業界変革を加速していくという。果たして両社は今後、業界の未来をどのように変えていくのか。SHIFT代表取締役社長丹下大氏と、日本M&Aセンター上席執行役員渡部恒郎に語ってもらった。ソフトウェアテスト業界を切り拓く日本M&Aセンター渡部SHIFTはソフトウェアテストの

「海外進出は、お前にはまだ早い」”攻め”の2代目と”守り”の会長の間で揺れる海外進出

海外M&A
「海外進出は、お前にはまだ早い」”攻め”の2代目と”守り”の会長の間で揺れる海外進出

中堅中小企業を悩ます、国内市場の縮小、人材不足…。「もう海外に出て行くしかない!」そう思っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。私が長年買収のお手伝いをさせていただいてきた、とある会社の2代目社長も上記の通り海外進出を考えていました。同社の創業者は父親であり、実質の経営は2代目に任せているものの、自身は会長という肩書でまだ在席しています。ずっと考えてきた東南アジアの会社への出資について、会長

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース