創業60年の老舗洋菓子店を経営する40代の若手社長がM&Aをするまで
⽬次
- 1. 創業60年の老舗洋菓子製造企業を担う若き三代目社長の決断
- 1-1. 潜在的な後継者不在
- 1-2. 後継者となる従業員が借入金を引き受けること
- 1-3. 実際に経営者になって感じた経営の難しさ
- 1-4. 決め手は消費増税による消費減退
- 2. 日本M&Aセンターとの出会い
- 2-1. 何故、健太郎氏は着手金があることを良いと思ったのか?
- 2-2. 継続勤務か、退任か、譲渡スキームもポイントだった
- 3. 21LADYグループとの出会い
- 4. M&A後の本当のところ
- 4-1. 著者
日本М&Aセンター食品業界支援室の渡邉です。
当コラムは日本М&Aセンターの外食・食品専門チームメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
本日は渡邉が2020年9月にご成約されたトリアノン洋菓子店(譲渡企業)×21LADYグループ(譲受企業)のM&A成立までのストーリーについてお伝えします。
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- 創業60年の老舗洋菓子製造企業を担う若き三代目社長の決断
- 日本M&Aセンターとの出会い
- 21LADYグループとの出会い
- M&A後の本当のところ
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創業60年の老舗洋菓子製造企業を担う若き三代目社長の決断
トリアノン洋菓子店は東京都三鷹市に本社を構える1960年創業の老舗洋菓子店です。
創業者の安西松夫氏は全日本洋菓子協会連合会の会長も務めたご経験があり、洋菓子の世界では広くその名を知られております。ジャパンケーキショーでは20年以上連続して受賞者を輩出している技術力の高い企業で、高円寺・三鷹・大久保に店舗を構え、地域住民に愛されている企業でした。有名菓子ブランドのOEM製造も担っており、その味と技術には大手企業も高い信頼を寄せています。
譲渡をご決断された安西健太郎氏は三代目社長にあたり、当時46歳。社長就任2年目でした。
会社の未来を考え、100年企業への存続と発展をかけてM&Aを決断した社長の背景には次の4点がありました。
潜在的な後継者不在
社長はまだ40代の若さではあったものの、高校生の娘が一人いるだけで長期的に捉えると潜在的な後継者不在であることは早くから意識されていました。将来の娘婿に継がせるという選択肢もあるかもしれませんが、「必ずしも娘婿が洋菓子製造業を継ぎたいか」、「企業を経営するに足る実力があるか」など、様々な問題をクリアしなければならない状況にいらっしゃいました。
後継者となる従業員が借入金を引き受けること
従業員の中で経営者をやってみたいという人物も、もしかするといたのかもしれません。一方で、実際に社員が経営を引き受けるというのは非常に難しいことです。特に借入金の連帯保証などを引き受けることは従業員にとっては大きな負担となります。経営のため「現在の借入金は、今のオーナー家の経営責任の結果」と捉えていた健太郎氏は、自分が従業員の立場であれば、億単位の借入金の連帯保証を引き受けたくはないとお考えでした。
実際に経営者になって感じた経営の難しさ
社長になる前に10年以上、専務としてトリアノン洋菓子店を支えてきた健太郎氏。専務時代から社長になった時の青写真をしっかりと描いていらっしゃいました。それでも、実際に経営者になってみると想像とは異なることも沢山あり、経営の難しさを感じていらっしゃいました。自分が会社を成長させるスピードが、会社を衰退させるスピードを上回っていなければ、企業の成長はない。果たして自分一人で経営をしていくことが企業として最善の選択なのか、健太郎氏は非常に冷静にトリアノン洋菓子店が存続と発展をする未来を見据えていました。
決め手は消費増税による消費減退
様々な観点からM&Aを検討していた健太郎氏にとって、決断の決め手になったのは2019年10月の消費増税だったそうです。当時も利益は出していたものの、増税により消費が急速に冷え込む実感を感じたそうです。経営は自身が関与するところだけで決まるのではなく、当然、様々な外部環境の変化への対応が求められます。そのような社会変化のスピードを考えた時に、単独成長よりもM&Aにより他社と手を組むことの有効性を考えました。
日本M&Aセンターとの出会い
私(渡邉)と安西健太郎氏が初めてお会いしたのは2019年12月のことでした。
お会いさせていただく前に、多くの企業からM&Aの提案はあり、複数の担当者とお会いされていたそうです。長年の専務経験から多くの人と会ってこられた健太郎氏は、最終的には「この人は信頼ができる」という観点から私を選んでいただいたと、有難いお言葉を頂戴しておりますが、それだけではなく、日本M&Aセンターには「着手金が必要」なことが良かったと仰られていました。
何故、健太郎氏は着手金があることを良いと思ったのか?
日本M&Aセンターでは、業務に着手する際に「提携仲介契約」を締結させていただいており、譲渡企業には株価を算定する企業評価料と、譲渡企業の詳細を譲受け候補先に提案するための概要書などを作成する案件化料として、候補先を探す前に着手金をいただいております。
同様に、譲受け企業からも具体的なトップ面談に進む際や、詳細の資料開示を行う際には情報提供料として着手金をいただいております。
譲渡企業の立場に立った際に、一定の仕切りがない状態で誰でも面談に進めるとなると、それだけでも忙しい経営者の時間が度々、奪われることになるかもしれません。また、そこまで真剣に検討していない先にも情報が開示されることがあれば、それは企業ノウハウの流出にも繋がり大きなリスクとなり得ます。
日本M&Aセンターでは譲受けを希望される候補先からも着手金をいただくことで「支払いをしてでも譲渡オーナーと面談したい」という企業にしか開示や個別資料の面談設定を行わないため、厳選してご紹介が可能という点にご安心されたと仰られていました。
継続勤務か、退任か、譲渡スキームもポイントだった
よく譲渡企業のオーナーが思われるのは「譲渡したら退任しなければならない」ということです。
株主であることと、社長であることは、また異なる話なのですが「譲渡=退任」というのは、健太郎氏が悩まれていたポイントの一つでした。
現在は、若い経営者が会社の基盤を強固なものにするために、継続勤務を前提にM&Aをして株式だけ譲渡するケースも増えています。三代続いてきたトリアノンブランドや従業員に思い入れのある健太郎氏は退任せずに、M&A後も社長を続けながら株主ではなくなるというスキームにご安心されたことも、譲渡を決めた理由となりました。
日本M&Aセンターからは過去に株式譲渡をしたものの、社長を続投されているオーナーなどを実際にご紹介し、体験談を共有いただくなどの場も設けさせていただきました。
依頼先は日本M&Aセンターに決めたものの、M&Aは、あっさり決断できるほど重みのない判断ではありません。日本M&Aセンターと提携仲介契約をした際も、もちろん、それ以降も考え抜かれたと伺っています。
私とも、直接お会い頂いたその場で弊社との契約は心に決めていらっしゃったとのことですが、実際に提携仲介契約をいただいたのは、初めてお会いしてから3ヵ月後でした。
特にトリアノン洋菓子店は現時点で財務面で困っている企業ではありませんでしたし、「本当に今なのか」といったことや「決まった際には従業員にどうやって説明しよう」など、様々な葛藤の中で、3ヵ月考え抜き、M&Aが最善の手段であると動かれ始めたのです。
21LADYグループとの出会い
2020年3月に日本M&Aセンターと提携仲介契約をし、具体的にお相手を探し始めたトリアノン洋菓子店。
今回の譲渡先である21LADYグループの山田社長と面談をされたのは、お相手探しから5ヵ月後の2020年8月でした。
21LADYグループは投資業などを行う名古屋証券取引所セントレックス市場の上場企業(証券コード:3346)ですが、2002年に洋菓子のヒロタを譲受して以来、18年間、ヒロタが苦しい時には自社ビルを手放してまで存続を図るなど、歴史ある企業を譲受けたことに責任を持ち、ブランドを守り続けてきた企業になります。
山田社長は2019年に21LADYの社長に就任しましたが、ヒロタの創業からの歴史や、どんな想いで商品を作ってきたのかといった背景をしっかりと理解され、経営されている方でした。
当時、ヒロタブランドへの信頼から焼菓子などをOEM依頼されるケースが複数あったそうですが、ヒロタの当時の施設では対応が難しい部分もあり、トリアノン洋菓子店をグループに迎え入れることで双方にビジネスの幅が広がり、より収益性の高い企業を作ることができるというビジョンの元に譲受けを検討されていました。
迎えたトップ面談の日、健太郎氏は包み隠すことなく、誠実に面談に臨まれました。
自分一人では企業を今後も成長させていくには難しいこと、特に企画力などが欠けていることが自分には足りない部分だと思うということを率直に語られていました。
そのおかげもあり、21LADYの山田社長も健太郎氏の悩まれているポイントを理解され、そして投資・育成事業を行っているからこそ企画力には実績もあり「そこは任せてください」と自信をもってお伝えいただきました。
譲受け後の21LADYが考えるトリアノン洋菓子店とのビジョンも含め、「頼もしさを感じて、このお相手しかいないと思った」と後に健太郎氏は語っています。
M&A後の本当のところ
M&A後、現在(2021年2月)も健太郎氏は社長としてトリアノン洋菓子店で新たなチャレンジを行っています。
「これまでは定期的に棚卸をしていましたが、上場企業のグループ入りをしたことで毎月になりました。オーナー企業だから良いかと、これまでに目を瞑っていた部分も、しっかりしていかなければならず、体制を整えるのに今は忙しく頑張っています。ただ、会社が強くなっていくためには必要なプロセスだと思うのでM&Aをして良かったです。」健太郎氏はそう語っています。
従業員も「会社というものは譲渡することもある」と分かったことは良い意味で刺激になったそうです。
現在は洋菓子のヒロタの社員と交流を図るなど、友好的なM&Aによって良いグループ入りを果たせているものの、万が一、利益が出なければ、またどこかのグループ入りをすることや吸収合併なども選択肢としてはゼロではありません。
「トリアノン洋菓子店のブランドを守るためにも、自分達はグループ各社と協力しながらも、単独でも利益を出し続けられる存在でないといけないという良い意味での緊張感が従業員にやる気を与えている」とも、健太郎氏は語っていました。
譲受け企業である21LADYグループも、これまでの譲渡企業を大切にするためにも、急速な変化は与えていないようで、トリアノン洋菓子店のペースを尊重しながら、少しずつ企業変革に取り組まれています。21LADYグループとトリアノン洋菓子店の挑戦は始まったばかりで、大きな成長があるのは、きっとこれから先だと思います。
両社の更なる発展を心より祈っております。
いかがでしたでしょうか?
今後も食品業界支援室から最新の業界情報をお届けをさせて頂きます。
次回のコラムは食品業界支援室松岡より「どうなる!?アフターコロナのM&A」をテーマにお送りいたします。
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