コロナ禍での外食上場企業決算発表から見る、事業ポートフォリオを拡大させることの重要性

江藤 恭輔

日本M&Aセンター業種特化2部 部長

業界別M&A
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日本М&Aセンター食品業界支援室の江藤です。
当コラムは日本M&Aセンターの外食・食品専門チームの食品業界支援室のメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
本日は江藤が「コロナ禍での外食上場企業決算発表から見る、事業ポートフォリオを拡大させることの重要性」についてお伝えします。

大きな差が付いた、コロナ禍での外食上場企業決算

コロナ禍で発表された外食上場企業の決算報告については、各社で大きく明暗が分かれました。
営業利益ベースで黒字を計上した企業もあれば、昨年から引き続き赤字計上となった企業も多数存在します。

黒字計上をした企業

出典元:各企業有価証券報告書より日本M&Aセンター作成

赤字計上となった企業

出典元:各企業有価証券報告書より日本M&Aセンター作成

上記のように、主たるエリアや展開している業態はそれぞれ異なるものの、企業によって決算に大きな差がつきました。

明暗を分けたポイントは何だったのか

ここからは、大きく3つのポイントについて着目し、解説して行きます。

テイクアウト・デリバリーへの取り組み

コロナ禍で、大企業・中小企業問わず、様々な飲食企業がテイクアウト・デリバリーを開始しました。現在、日本のデリバリー市場はUber Eatsや出前館、menu、foodpandaなどが凌ぎを削っており、飲食店側からすると、選択の余地が非常に多いと言えます。そのため、デリバリー市場に参入するのはそこまで高い障壁がある訳ではありませんが、デリバリーを開始する店舗が急増したため、その分、消費者から選ばれるチャンスも一気に減少してしまったと言わざるを得ません。

その点、コロナ禍でも安定した業績を上げている企業は、コロナ前からイートインだけに捕らわれず、早くからテイクアウト・デリバリーを開始していたため、オペレーションがスムーズで待ち時間も少なく、かつ固定客もしっかりと保持しているため、イートインでの売上が減少しても、テイクアウト・デリバリーでその分を補うことが出来たと言えます。

逆に、居酒屋やダイニングバーなどを主たるフォーマットとして展開する外食企業については、テイクアウト・デリバリーに商品が馴染みづらいことから、その部分への対応がより遅れてしまい、厳しい決算となっています。

フランチャイズ比率について

コロナ禍前、年商1,000億円を超えるような上場外食企業のトップランカーは、店舗の殆どが自社直営店舗で、フランチャイズビジネスの展開などに取り組む企業が少ない状況でした。一方、コロナ禍でも好業績を叩き出している外食企業は、FC比率が非常に高いことが分かります。

  • コメダHD:FC比率90%以上
  • 日本マクドナルドHD:FC比率70%以上
  • 日本KFCホールディングス:FC比率70%以上
  • 壱番屋:FC比率80%以上

このように、FC比率の高い飲食企業においては、直営比率の高い企業に比べて本部コストが軽く、かつ事業そのもののリスクを低減することが出来ており、結果的にコロナ禍でも安定した業績を確保することが出来たと言えます。

食物販への取り組み

コロナ禍での決算においても営業利益ベースで黒字を確保した大阪王将を展開するイートアンドHDは、外食企業との認識が一般的ですが、売上の構成比率で見ていくと、既に食物販での売上が、外食での売上を大きく上回っている状況となっています。

出典元:イートアンドHD有価証券報告書より日本M&Aセンター作成

食品関連企業に限らず、コロナ禍で巣籠需要に対応した商品を展開する企業は軒並み好業績を確保していますが、その中でも、スーパーなどの量販店や生協向けに自社ブランドの商品ラインナップを取りそろえて展開するイートアンドHDは、外食の売上が大きく落ち込む中、それらを食物販事業で補い、結果的に営業利益ベースでも黒字を確保しています。

このように、外食事業だけの一本足打法にならず、様々な場面で自社の商品を買ってもらうよう、事業のポートフォリオ拡大に注力してきた企業が、結果的にコロナ禍でも安定した業績を収めることが出来たと言えます。

事業ポートフォリオを拡大させるために実施されたM&Aの事例

2008年7月【売】タクショク(長崎)×【買】ワタミ(東京)

事業ポートフォリオを拡大させて大成功を収めたM&A事例の元祖。タクショクはその当時で売上高80億円、経常利益5億円の超優良企業で、単独での上場も模索していました。

現在、タクショク事業は2021年3月期の事業別業績において、売上高366億円(前期比106.4%)、セグメント利益30億円(前期比135.2%)となり、外食事業が170億円(前期比36.4%)、セグメント損失96億円(前期は2.4億円の黒字)、会社全体の連結決算が売上高608億円(前期比マイナス33%)、営業利益△97億円となる中、タクショク事業がワタミの屋台骨を支える事業に成長しています。

2020年5月【売】コスミックダイニング×【買】アークランドサービスHD

コスミックダイニングは、スーパーや飲食店向けにとんかつやメンチカツ、ハンバーグなどの冷凍食品の製造販売を行っている売上高26億円の中堅食品製造企業です。

アークランドサービスHDとしては、本件買収により新たな事業領域へ進出することとなりますが、コロナ禍で巣籠需要の消費拡大が続く中、自社グループで展開するブランドを生かした冷凍食品の商品開発及び製造販売などを通じて事業規模を拡大し、将来の事業の柱を創出していくことが狙いと言えます。

M&Aを活用して将来の成長の起爆剤とリスク分散を

ここまで、コロナ禍でも安定した業績を計上し続ける企業の特徴や、実際に行われたM&Aの事例を解説して来ましたが、やはり、共通する取り組みや考え方、発想などが多く存在することが分かります。

もちろん、自社でテイクアウト・デリバリーの仕組みやオペレーションを開発したり、FC展開を始めたり、食品製造業に進出することも可能ですが、非常に世の中のスピードが速いこの時代においては、既に出来上がったビジネスモデルをM&Aという手法で自社に取り入れ発展させていく事が、非常に重要になって来ます。

大手企業や資金が潤沢な企業においては、積極的にM&Aを検討し、将来の成長の起爆剤を獲得し、かつ、またいつ訪れるとも分からない経済危機に備えてリスク分散を図ることが非常に重要です。

また、中堅・中小企業においては、このように先行き不透明な時代だからこそ、資本力の安定した大手企業との提携を前向きに検討し、安定した経営環境の中で、自分達の育ててきたブランドを更に発展させ、より多くの人たちに商品を届けて行くことが創業者やその後継者の務めと言えるのではないでしょうか。

いかがでしたでしょうか?
今後も食品業界支援室から最新の業界情報をお届けをさせて頂きます。
食品業界のM&Aへのご関心、ご質問、ご相談などございましたら、下記にお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。

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また、上場に向けた無料相談も行っております。お気軽にご相談ください。

著者

江藤 恭輔

江藤えとう 恭輔きょうすけ

日本M&Aセンター業種特化2部 部長

1982年12月、宮崎県生まれ。青山学院大学法学部卒業後、大手金融機関にて約10年法人営業に従事した後、2015年10月、日本M&Aセンターに入社。その後、食品業界専門グループを立ち上げ、大手外食企業のM&Aを中心に、数多くの食品関連M&Aを手掛ける。2023年4月には同グループを部署に昇格させ、メンバー全員で、全国の優れた食文化の存続と発展をサポートしている。代表的な成約実績は、トリドールHDとアクティブソース(立ち飲み居酒屋晩杯屋)、トリドールHDとZUND(ラーメンずんどう屋)、サッポロライオンとハンエイ(餃子専門店である大阪王)、佐賀県の老舗アイス菓子メーカーである竹下製菓と生クリームパンメーカーの清水屋食品、PEファンドであるエンデバー・ユナイテッドと関西レストランチェーンのアートオブウォー・バサラダイニングの資本提携など。

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