譲受企業との語らい Vol.1 株式会社パワーエッジ様(東京都・IT企業)

竹葉 聖

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竹葉聖

日本M&Aセンター 業種特化3部 部長/IVS2023 LAUNCHPAD KYOTO 審査員

業界別M&A
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株式会社パワーエッジ、東京都内でシステム開発を手掛ける同社はこれまで10件のM&Aを実行してきた。創業者であり現代表である塩原氏は、早稲田大学時代に麻雀と出会いプロの雀士になるため修行を重ねていた。しかし「運の総量の違い」という、プロとアマの大きな壁にぶつかり断念。その後IT企業に就職し、取引先からの後押しで起業、現在はグループ売上30億企業の指揮をとる。塩原氏にM&Aのその後について話を伺った。

10社譲り受けて

2013年の吸収合併から始まり、2018年以降9社の譲受けを実施。M&Aを考えはじめたきっかけは、自社の成長の為。当初は譲渡と譲受けの両面から検討をしていたという。

塩原氏: 2018年は新卒を27名採用し、従業員が190名程になりました。ただ、「会社としてこれ以上単独で大きくなっていくのは限界がある」と感じていました。
当時は、譲渡したいという会社の情報が全然入ってこなかったですし、どうやったら会社を譲受けることができるのか全く分かりませんでした。

2013年頃からM&Aという経営オプションに着目していた塩原氏、当時の売上は4億円程だった。
竹葉:日本M&Aセンターとの接触のきっかけは、2014年に東京国際フォーラムで行われた弊社主催のM&Aのセミナーにご参加いただいたところからですよね?

塩原氏: そうですね、当時から会社を大きくするには、①会社を譲渡して他の企業の資本の下で大きくなる、②他の会社を譲受けて、その企業を成長させて大きくなる この2つしかないと思っていました。日本M&Aセンターさんとは弊社自体を譲渡するという相談からお付き合いを始めました。

その後、M&Aセンターとは別の仲介会社経由で譲受けを実施。成功事例として仲介会社のホームページに掲載されると、様々な仲介会社から「譲受けませんか?」というアプローチが増えていったという。日本M&Aセンターからも提案を行い、2019年に3件、2020年に1件のM&Aを実行する。

塩原氏: 竹葉さんからも数件提案頂いて、4件実行してようやくM&Aに慣れてきたかなという感じです。仲介会社を使わずにやった最初のM&Aは、ノウハウもないから、DD(デュー・デリジェンス)がかなり緩くて、譲り受けてみたら大変だった、ということもありましたけど。今は、意向表明書や契約書等は自分で作成しています。

竹葉:新型コロナの影響は出ていますか?

(塩原氏) IT業界だけかもしれないですけど、特に東京はほぼ影響はないです。一時的に、2020年の4月~6月にかけてはダメージがありましたが、すぐに戻りました。まだ、大阪の景気があまりよくないですが、名古屋はトヨタさんが復活して戻っています。「コロナをきっかけに譲渡をしたい」というIT企業が、あまり出てこなかった印象です。

業界独特の営業方法がある

2019年5月に日本M&Aセンターの仲介による1件目のM&Aとなった株式会社メディカルJSP。京都で電子カルテ、レセコンシステムの開発と販売を行う同社を、営業力と既存システムのバージョンアップというシナジーを見込んで譲り受けた。

塩原氏: メディカルJSPさんは、営業力に課題がありました。M&A実行後もお客様が減少傾向で、それを止められずにいました。新しいものを作りたいし、もうちょっと商品に付加価値をつけていかないといけないと考えていたのですが、開発のリソースが十分でないことや、医療業界特有の営業方法に課題を抱えていました。
そういった状況でしたので、昨年株式の一部をくすりの窓口さんに持ってもらって、くすりの窓口さん主導で売り上げを立てていく形を作りました。2020年末からくすりの窓口の大阪の営業本部長の方に業務委託という形でメディカルJSPに来ていただいて、効果が出始めてます。経営的な考え方もKPIやOKRが全然違うので衝撃でした。
僕らは技術者をベースにその技術者を使って営業をするという形なので、様々なお客様のところに営業をかけていくのは苦手ですし、あとは医療独特の営業ノウハウがないと導入数は伸びないと感じました。
創業直後からの伸びは早かったけど、現在停滞してしまっているという会社は、営業力のある会社と手を組んでいくのが良いと思います。

オシカワさん強いです

2019年6月に牛乳宅配店向けパッケージシステムの開発・販売を行う株式会社オシカワシステムの譲受けを実施。同社は創業37年、牛乳業界では知らない人はいないという圧倒的な知名度を誇っており、創業以来無借金の優良企業であったが、後継者不在によりM&Aを実行した。

塩原氏: まずM&A実行後にオシカワシステムさんの社員の方々全員と個人面談をしました。社内の制度とかやり方を色々と良い方向に変えていっています。
押川会長がきちっとした経営をする方だったので、それを少し緩めていったような感じですが結構好評です。あとは、売り切りだったサービスをSaaSモデルに移行中です。

竹葉:オシカワシステムさんだけでは出来なかったものが、パワーエッジさんと一緒になったことで出来るようになったという点はありますか?

塩原氏: 一部、パッケージの機能追加やカスタマイズをパワーエッジから技術者を出して手伝っています。Windowsのサポート切れや、パッケージの改定のタイミングなど数年に一度特需が発生するのですが、そのタイミングでもグループの開発リソースを活用するなど、うまくシナジーが出ています。

コロナ後が楽しみ

2019年10月に譲受けた株式会社ファインシステム。スポーツイベント事業、HP制作、歯科技工所向けソフトという3つ事業を持つ企業を譲受けた。M&A実行後、PMIの最中に新型コロナが発生し、スポーツイベント事業に影響が出始める。しかしながら、残りの2つの事業にリソースを集中することでコロナ禍を凌いでいる。ここを耐えれば、コロナ後に期待ができると話す。

塩原氏: ファインシステムさんは、M&Aを実行後、個人面談もして、さあこれからだ、というところで新型コロナが発生しました。スポーツイベントが次々にキャンセルされていってあの時はマズいと思いました。スポーツイベント事業では何人かの社員に休職してもらいました。ただ、その分HP制作、歯科技工所向けソフトなどのIT部門が頑張っています。元々本業だったITをきちんとやっていこうということで、受託の仕事をどんどんとってきています。今までなら断っていたようなものも受けているので、技術者が足りなくて、パワーエッジから技術者を2名派遣して更に採用も増やしています。M&A後も残ってもらっているファインシステム社の山内社長とは「80人くらいの会社になりそうだね」と話しています。

竹葉:スポーツイベント1本足の企業さんは大変そうですよね。

塩原氏: スポーツイベント事業から撤退している企業も出てきています。売上が90数%ダウンしたという話も聞きます。コロナ禍を生き残った企業は、明けたときに強くなっていると、日本M&Aセンターの三宅社長もよく仰っていますが、ファインシステム社はスポーツイベント事業のほかに2つの事業がある3本足経営でしたので、このような状況でも耐えられています。コロナが明けると、スポーツイベントは必ず戻ってきますので、プレイヤーが少なくなる分、売上はこれまでよりも拡大すると考えています。
 また、同じグループ会社のオシカワシステム社の顧客である牛乳販売業者もHP制作のニーズがあるので、ファインさんに紹介しています。

ローカルで強い人間関係

2020年10月には、静岡の自治体向けシステムの開発を行っているメディアミックス株式会社の譲受を実施。静岡県庁の基幹システムを長年手掛ける同社は、成長戦略のためにM&Aを実行した。現在の状況と今後の展望について伺った。

塩原氏: メディアミックスさんについては、先代の鈴木社長がM&A後も残ってくださっているのでとても助かっています。メディアミックスをもっと大きくしたい、等のポジティブな話もしています。
パワーエッジ社としても、浜松、静岡、名古屋の東海エリアの事業を伸ばしていきたいと思っているのですが、地方は地場社長がやはり強いんです。地元の付き合いが長いこと、繋がりが強いこと、ローカルで強い人間関係が構築されているので東京の企業が進出しても殆ど仕事がありません。鈴木社長にはメディアミックスさんの仕事もしつつ、ローカルのネットワークを活かしてグループの営業もしていただいています。
メディアミックス社の社員を今の倍にしたいと考えています。静岡という土地柄、技術者も少ないのですが、メディアミックス社の本社を駅前に移転したりして、今後技術者が集まりやすい環境を整えて、採用に力を入れていくつもりです。

真面目なBS/PL

多くのM&Aを手掛けてきた塩原氏が、M&Aを進めるにあたって、会社を見るポイントはどこなのか。判断基準となる3つのポイントを特別に教えて頂いた。

塩原氏: まずは、BS/PLが汚い会社は絶対にダメだと思います。私自身、自分の会社の経理を自分でやっていた時期もあるので、オーナーの気持ちは大体わかります。過度な税金対策や私腹を肥やすようなことをしていると後から必ず問題が出てきます。パッと見綺麗であれば、後から何か出てきても大したことがなかったり、どうにか対応できる場合が多いので、とにかく真面目なBS/PLであることが大切です。
次に、社長さんの人柄です。基本真面目な人はBS/PLもちゃんとしています。真面目にコツコツ事業をやってきたという社長さんが良いです。まじめで一生懸命な方ですと社員もそういった方が多いので、社員も社長に似てくるということなのかと思います。

竹葉:塩原様とお仕事一緒にさせて頂いていて、頭の回転が速い方だなというのがあります。弊社の会計士も同席して、スキームの説明などさせていただいた時があったのですが、「僕より数字強い」と舌を巻いてました(笑)
速くて判断力がある方だなと思っているのですが、ご自身の判断の軸というか、信条みたいなものがあれば聞きたいのですが、

塩原氏: 『行雲流水』ではないですが、流れに乗っている時にはその流れを止めないことです。逆に、流れがよどんだ時は、一度立ち止まって、これまでの経験と理論に基づいて慎重に判断をするようにしています。
例えばメディアミックスさんは、最初に提案されたタイミングでは、先行していたディールがあったので検討を止めていました。ただ、先行していたディールがブレイクしたタイミングで、ちょうど竹葉さんから連絡があり再度検討してみることにしました。

竹葉:M&A後に残られる社長がとても良い方で、塩原様と合いそうだな、と思って紹介し続けていたんです。

塩原氏: 竹葉さんに先見の明があるってことですね。現にメディアミックスさんの鈴木社長との相性はすごくいいので(笑)

ちゃんとした進め方をする会社に入ってもらうべき

日本M&Aセンター以外の仲介会社も起用し、M&Aを実行してきた塩原氏。様々な仲介会社との仕事を経験したからこそわかる、仲介会社の違いは大きいという。最後にディールの進め方、コンサルタントの質、客観的にみるM&Aセンターの仕事ぶりを聞いた。

塩原氏: M&Aセンターさんですと、概要書をみて、良いねという話をして、着手金をお支払いすると膨大な情報を頂ける。他社さんで概要書見て、良いねという話をすると突然トップ面談になったところがありました。情報はこちらから、「この資料と、この資料をください」と言わないと出てこない、またディールの後半になって問題点が見つかることも多かったです。「こっちがM&A初めての企業だったらどうするんだろ?」と思いました。


竹葉:当社については、その着手金が高く感じるということを聞くのですがどうでしょうか?

塩原氏: 100万円ですよね?100万円気にする人はM&Aできないと思います(笑)
私は着手金が高いということはあまり気にしていないです。
譲受けは、案件ありきですので絶対日本M&Aセンターさんから買います、というわけでないですが、間に入られるアドバイザーの方の選定は重要だと思います。動く金額が億単位になるので、しっかりした進めた方をする会社に仲介してもらうべきだと思いますよ。

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著者

竹葉 聖

竹葉たけば きよし

日本M&Aセンター 業種特化3部 部長/IVS2023 LAUNCHPAD KYOTO 審査員

公認会計士試験合格後、有限責任監査法人トーマツを経て、2016年に日本M&Aセンターに入社。IT業界専門のM&Aチームの立上げメンバーとして7年間で1000社以上のIT企業の経営者と接触し、IT業界のM&A業務に注力している。18年には京セラコミュニケーションシステム(株)とAIベンチャーの(株)RistのM&A、21年には(株)SHIFTと(株)VISH、22年には(株)USEN-NEXTHOLDINGSと(株)バーチャルレストラン等を手掛ける。IVS2022 LAUNCHPAD NAHA及びIVS2023 LAUNCHPAD KYOTO審査員

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