【2020年】調剤薬局業界M&A 、回顧と展望
⽬次
- 1. 2020年調剤薬局業界の振り返り
- 2. 当社における2020年調剤薬局M&Aの成約実績
- 3. 変化するビジネスモデル
- 4. 2021年調剤薬局業界M&Aの展望
- 4-1. 著者
2020年調剤薬局業界の振り返り
2020年を振り返ると調剤報酬改定の実施、新型コロナウイルス感染症の蔓延など、調剤薬局業界には逆風の1年となった。医薬分業で成長を続けてきた調剤薬局業界だが、近年は新規出店ペースが鈍化し、社会保障制度を持続させるための財政健全化対策として、政府は年々医療費の抑制を強化しており、成長期の中で店舗数が大きく増加した調剤薬局は厳しい経営環境となっている。
業界最大手のアインホールディングスの第三四半期決算(2020年5月~21年1月期)は、純利益が前年同期比36%減の45億円となった。新型コロナウイルス感染症が広まって外出が手控えられ、都市部のドラッグストアが振るわず、医療機関の受診を見送る人も多く処方箋の取扱枚数が減った影響も受けた。同様に、クオールホールディングスが2021年2月に発表した第3四半期の連結決算では、売上高、営業利益、経常利益、純利益ともに前年同期比で減少となっている。
当社における2020年調剤薬局M&Aの成約実績
2020年は東日本で23件、西日本で21件、全体で44件の成約実績となっている。
当社における2019年の成約実績と比較し、成約件数は増加傾向となっている。(成約件数前年比110%増)
1店舗あたりの平均売上高は約2億円。
都心部では事業のスリム化を図るためのM&A、その他の地域では後継者不在や業界の先行き不安から譲渡を選択するM&Aが目立った。
調剤報酬改定の内容から、今後も社会保障費を削減するという国の意思が明確になり、今後も調剤薬局業界は厳しい経営環境に置かれる可能性が高い。また、オーナーの高齢化も進んでいることから、近年譲渡を検討される調剤薬局のオーナーが激増している。
変化するビジネスモデル
新型コロナウイルス感染症の収束が見えない中、調剤薬局業界でもIT化の動きが目立ち始めている。2020年改正薬機法の一部が施行され、オンライン服薬指導の導入が進んだ。まだ一部の患者にしか浸透していないものの、投資余力のある大手企業にとって、オンライン服薬指導は他社との違いを出す好機となり、各社はその対応に力を入れている。
また、薬局のデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)への取り組みとして、カケハシが提供する「Musubi(ムスビ)」を導入する薬局が増加している。「Musubi(ムスビ)」は薬剤師がタブレット端末を使って患者に服薬を指導すると、その場で薬歴の記録が完了する、といった薬局向けの薬歴システムである。これによって、患者はどの薬局でも共通の情報をもとに薬剤師からアドバイスをもらうことができ、薬剤師は薬歴作成のための残業などから解放され、働き方改革につながるなど、導入する薬局にとってメリットは多い。
このように大手企業ではオンライン対応やDXへの取り組みが進む一方、システム導入の費用負担や、オンラインは対面と比べ調剤報酬が下がる場合もあり、中小薬局全体としてはオンライン対応やDXへの取り組みが遅れている。
こうしたIT化への取り組みが遅れている中小薬局のオーナーは危機感を募らせており、より良いサービスを患者に届けるため、大手のグループ入りを選択するM&Aも増えている。
2021年調剤薬局業界M&Aの展望
調剤薬局業界はこれまで述べてきたとおり、国の政策や人口動態の推移から考えると、大きな再編の波が訪れることが予想される。更に医療や介護の地域サービスとの連携強化、IT化への対応など、これまでとは違った経営に取り組む必要が出てきており、近くにある医療機関から処方箋を受け取るというビジネスモデルでは存続が困難になっている。自社の発展、医療業界全体の発展のために、戦略的に大手と手を組み、積極的に他資本と協調していく必要性があり、会社発展の手段として2021年も調剤薬局業界のM&Aは増加していくことが想定される。