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IT企業の経営は今から3年が勝負!?オーナーの悩みは大きく3つに集約!?

青井 雅宏

著者

青井雅宏

日本M&Aセンター業種特化1部(2024年2月時点)

業界別M&A
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日米の金利差が広がりを見せる一方で、2023年6月現在、日本銀行は大規模な金融緩和策を維持する方針を決めました。
2023年6月19日現在、2年前は114円/ドルだったのが、141円/ドルと大きく円安の状態が続いています。
この情勢の中、日本の受託開発企業が先送りにし続けていた問題が、表面化し始めております。
今回のコラムでは、日本のIT業界の大多数を占める、中小受託開発企業にフォーカスして現状を考察したいと思います。

受託開発企業経営者の悩みは3つに集約!?

IT業界専属コンサルタントチームとして、年間約1,000名のIT企業オーナー経営者と意見交換を行い、また、IT企業数千社を対象とした業界アンケートも過去5回にわたり行ってまいりました。
その中で、経営における悩みは大きく3つに集約される事がわかってきました。

一つ目は人材課題

従来から人材不足という課題をM&Aで人材を確保したい。というオーナーは多くいらっしゃいました。
ここでは、攻めの人材戦略と称します。一方コロナ禍になり、自社のIT人材の流出をどのように防ぐかという守りの人材戦略をとる必要も出てきました。

二つ目は新規事業、新規商流の獲得

現状の多重下請け構造の最たる問題として、産業は拡大しているのに、何十年も受託単価が変わらず、その結果、従業員やビジネスパートナーの給与、外注費を上げることが出来ず、2次請け以下の受託開発企業は、長らく給与が変わらない状況が続きました。

その中で円安、物価高となり、海外人材のオフショア開発に頼る事も出来ず、コロナ禍で元請け企業が地方にリモートで求人を募るようになり、時代は大きく変化を見せています。

三つ目は次期後継者

多くの経営者がプロパーに引き継ぎたいという想いを持っている一方で、従来型の受託開発を引き継いでもこの先20年安定して同じ事業が出来ない事を誰よりも理解しているのが経営者です。

コロナ禍で更に複雑化した人材戦略

人材が売上、利益に直結するIT業界において、かつてほとんどの経営者が口をそろえて言っていた言葉があります。

「人さえいれば仕事には困らない。良くしてくれている取引先も『もっとチームを増やしてほしい』と言ってくれている。だから手ごろな企業をM&Aしてエンジニアを増やしたい。」
「毎年10名程度の中途が取れている。今年は新卒も5名入社が決まった。採用には苦労しているけど、少しずつ人を増やせている。」

上記の言葉は2020年頃によくオーナーから聞くお話でした。

2023年現在、聞こえてくる声に少し変化があります。

「求人を出していても反響が悪くなってきている。リモート勤務可能、エンジニアが中心のアットホームな会社というキーワードは最早選ぶ側にとっては当たり前となっている」
「リモート可能な企業が増えており、今まではU/I/Jターン者を中心に採用をしていたが、そうした人たちが東京の会社を辞めずにリモートで帰ってきているため、採用できなくなった」
「受注単価が上がらないので、給与面でどう考えても大手企業に勝てない」

人材戦略に成功している上場企業の驚異的な指数

ここで、1社人材戦略のお手本ともいえるIT企業の数字を見てみましょう。

株式会社SHIFTの2022年8月期第4四半期及び通期決算説明会資料によると、連結エンジニア数は2020年4Q時点で4,322名(内正社員は2,628名)、2022年4Q時点で8,415名(内正社員は5,561名)となっており、コロナ禍の2年間で正社員は+2,933名増加しております。

SHIFT社の単体エンジニア単価においては、2020年4Qで71.3万円だったのが、2022年4Qでは86.6万円となっておりコロナ禍で+15.3万円の上昇となります。

また、高スキル人材の採用比率は3年間で約3倍に拡大し、DevOps、インフラ、セキュリティ、コンサル、アカウントMGの各領域に優秀者が続々と転職をしてきております。

地方自治体も優良企業の地方進出を後押し

地方においては、国も積極的に後押しを始めています。

例えば、2022年4月、宮城県では「宮城県IT企業誘致加速化助成金」として、県外に本社を置く情報通信関連企業が県内に初めて事業所を新設する際に助成金を支給する事としました。
それ以降、仙台市の求人においては「東京の仕事を、東京の単価で、東京の給与をもらいながら、仙台で働きませんか?」という内容が増えています。

この先3年で新たな経営戦略が求められる

このような現状がある中、多くの経営者は頭を抱えています。
受託開発企業は人が全てです。そのため、銀行から多額の借入をして設備投資をする、等の一大決心とは全く違う戦略を考える必要があります。

少し横を見れば、今と同じ環境で、給与が良くなり、開発環境も元請けに近づける会社がすぐに見つかります。
一人のシステムエンジニアとしては、家族を守るために今の住居も変わらず待遇も上がります。
その中で優秀な人材を取られずに自社に繋ぎとめるには経営者はどのような人材戦略をとるべきでしょうか?

現在の自社の強みをしっかりと理解し、自社サービスに舵をきるのか、地域DXとして地元企業から直接請負を始めるのか等の一大決心をするタイミングが来ている事を良く伺います。

次期後継者に最適なのはプロパー社員なのか

上述にて、受託開発企業がおかれている状況と、この先数年の間に一大決心をする必要がある事をお伝えさせて頂きました。
現在、帝国データバンクによると、サービス業での社長の平均年齢は58.8歳となりました。

受託開発企業の正確な平均年齢は公表されておりませんが、世にある多くの企業が1990年代にソフトハウスとして独立し、創業時の代表年齢が30代後半でした。
約30年経過した2023年現在、受託開発企業の社長は65~70歳であることが多いように感じます。
事業を存続させる以上、必ず時期後継者を考えなければいけません。

日本M&AセンターがIT企業経営者の方々に行った業界アンケートでは、過去3回にわたり、最も多い回答が③「現在の役員または役員候補(親族以外)」でした。(下図参照)

※日本M&AセンターによるITソフトウェア業界の経営に関する意識調査結果より
一方で、その時期については、5年より先が最も多く、次いで予定なしという回答でした。

※日本M&AセンターによるITソフトウェア業界の経営に関する意識調査結果より
ここから見えてくる結論としては、後継者探しを先送りにしている現実があるという事です。

この先3年が勝負の年

後継者がいるのか、いないのか。今のIT業界にはその問いはそれほど重要では無いと私は考えています。

IT業界で周りに遅れることなく、企業を成長させる事。これが最も重要な事だと思います。
IT業界は、他の業界よりも10年早い速度で変化し続けていると良く言われますが、コロナ禍でその速度は更に早まりました。

ゆっくりと人材を採用し、マイペースに事業を拡大しているだけだと、気づいた時には周りの企業は更に成長をしているかもしれません。
IT業界専属コンサルタントとして、この先3年はIT企業にとって勝負の年です。
現在のシステムエンジニアの転職市場はかつてない活況を見せており、各大手企業は高い給料を払ってでも優秀なエンジニアを獲得しようと動いています。

さらには、不足するエンジニアを自ら育て上げる為に、プログラミング教育や地方でのアウトソーシング事業を行う事により、プログラマーの時点で囲っていく動きも見せています。

企業を成長させるレバレッジ戦略の為にM&Aがある

多くのオーナーとお話をすると、M&Aに対する印象が良くない事を多く耳にする事があります。

「下請けになるようなM&Aにそもそも興味がない」
「仲介会社の多くはITの事を何もわかっていないから話を聞くだけ無駄」
「仲介会社に頼んでM&Aしても社員が不幸になるだけ。仮にM&Aをするなら取引先に面倒を見てもらう約束をしている」

これらは全て間違いです。と言いたいところなのですが、現実には上記のようなM&Aを提案する仲介も後を絶たないのも事実です。
私が所属する業種特化事業部は「柔軟な発想で未来の世界を想像し、日本中にその想いを届け、最高のM&Aを通して、産業創成を実現する」事を目的に経営アドバイザーとして、一人一人のオーナーと接しております。

私たちが経営アドバイザーとして提案するM&Aは、お客様が最も成長できる事を軸に物事を考えております。受託開発企業にとってM&A後の社員の離職は全く事業成長に繋がりません。
どのように受注単価を上げ、人材を採用し、企業の内製化などでR&Dを行い、直接取引をしていくのか。エンジニアにとってワクワクする未来を作り上げる最短の方法を支援させて頂きます。

3年後に自社単独で描く成長計画と、最良の企業と一緒になって描く成長計画だと、どちらが育っているでしょうか。
是非、そういったご提案をさせて頂ければ幸いです。

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著者

青井 雅宏

青井あおい 雅宏まさひろ

日本M&Aセンター業種特化1部(2024年2月時点)

1990年生まれ、大阪府出身。同志社大学社会学部卒業。在学中に売上高1000億円企業の創業オーナーの秘書として2年間経営ノウハウを学んだ後、株式会社キーエンスへ入社。事業部売上ランキング2015年、2016年1位を達成した後、日本M&Aセンターへ入社。現在、IT業界の多くのオーナーに寄り添い、最良の提案を行っている。

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