事業承継ファンドとは?仕組みや活用のメリット、事例について紹介
事業承継ファンドとは?
ファンドとは、広く投資家から資金を集め、主に企業などに投資をして利益を得て、投資家に利益を分配する仕組みのことを指します。 その中でも事業承継ファンドとは、後継者不在に悩む中小企業を主にサポートし、事業承継を解決に導きながら成長支援を行うファンドのことを指します。*
このような事業承継ファンドの活用が広まっている背景には、大きく二つの理由が挙げられます。
ひとつは、年々深刻化する後継者不在問題です。親族内承継や、従業員等への社内承継が何からの事情で選択できない際の選択肢としてクローズアップされています。
もうひとつは、ファンドに対するイメージの改善です。かつては「ファンドによる企業買収」というと、ドラマや映画などの影響でネガティブなイメージを持たれる傾向が少なからずありました。しかし中小企業において、ファンドによる事業承継が徐々に浸透してきたことによって、これらの印象が大きく変わってきています。
事業承継ファンドは買収後、経営のプロとして事業承継問題の解決も含め、対象会社の企業価値を高めることを目指します。企業価値が高まることは、対象会社の従業員だけでなく、取引先企業などあらゆるステークホルダーにとって歓迎されることでしょう。このように事業承継にファンドが介在することによるメリットが認知され始めたことで、ファンドに対するイメージがポジティブに塗り替えられ注目を集めています。
この記事のポイント
- 事業承継ファンドは経営ノウハウや資金を提供し、企業価値の向上を目指す。
- 事業承継ファンドの活用場面には、後継者候補がいない場合、経営ノウハウが不足している場合、資金力がない場合、現経営陣に引き続き経営を任せたい場合がある。これにより、経営の独立性を保ちながら成長が期待できる。
- ファンド選びのポイントは、専門家からの助言を受けること、担当者との相性、提案内容の確認、過去の支援実績の確認、出資者の性質を考慮すること。
⽬次
事業会社同士のM&Aとの違い
一般的に事業会社によるM&A・企業買収は、技術力やノウハウ、人材や流通網の確保などを自社グループ内に取り込んで全体にシナジー効果を生じさせることを目的として行われます。
一方、事業承継ファンドによる支援は、経営ノウハウ・資金・人材ネットワークなどファンドが持つ資源を用いて、経営課題を解決することを目的としています。
このように対象企業へのアプローチの差異が、事業会社同士のM&Aと、事業承継ファンドへの譲渡との違いになります。
また事業承継ファンドによる事業承継は、ファンドによる経営革新で磨き上げた上で、最終的な承継者にバトンを渡します。このワンクッション置いて企業価値を高めるというプロセスが加わる点も、両者の大きな違いの一つです。
事業承継ファンドを活用できる場面
次に、中小企業において事業承継ファンドを活用できる場面について考えてみましょう。事業承継ファンドの特長を生かし、その効果を最大限に発揮できる場面として考えられるのは、以下の4つです。
- 後継者候補がいない
- 後継者候補の経営ノウハウが不十分
- 後継者候補の資金力がない
- いまの経営陣に引き続き任せたい
それぞれについて見ていきましょう。
後継者候補がいない
配偶者や子供などの親族内や、社内の役員・従業員などに後継者としてふさわしい人物がいない場合、M&Aなどにより第三者に会社や事業を譲渡するか、廃業するかを選ばなければなりません。
廃業ではなく第三者への譲渡を選択した場合には、前述のように事業会社と並び、事業承継ファンドが相手先の選択肢に挙げられます。
後継者候補の経営ノウハウが不十分
後継者候補がすでにいたとしても、後継者教育、経営ノウハウや経験が不十分な場合があります。このような場合、経営のプロである事業承継ファンドに託す、という方法が解決策の一つとして挙げられます。
各ファンドは、経営や事業承継に関する情報やネットワークを豊富に持ち、専門的な知識、実績を有する人材が在籍しています。ファンドの出資を受けることで、これらの強力な武器が活用できるため、後継者候補の教育やサポート機能を十分に果たしてくれるでしょう。
後継者候補の資金力がない
事業承継のハードルの1つに、多額の資金を要する「株式の買い取り」が挙げられます。そのため、後継者候補に株式を買い取るだけの資金力がない場合に、事業承継ファンドが活用される場合があります。
まず、現オーナー経営者の株式を後継者候補でなく事業承継ファンドが買い取ります。次に、ファンド側が後継者候補を次の経営者に指名することで新体制がはじまります。つまり、対象企業の価値が高まり、後継者候補が株式の買い取り資金を準備し、ファンド側の株式を買い取るのです。
経営陣に引き続き任せたい
現在の経営陣に引き続き経営を任せたい場合にも、事業承継ファンドは選択肢になるでしょう。
この場合、現経営陣に発行済株式の一部を再出資してもらう必要があります。
事業承継ファンドが出資する第一の目的は、企業価値を高めて、投資家に利益を分配することです。必ずしも出資した企業の経営権の掌握ではありません。双方の良好な関係を築き、協力して企業価値を高める体制が整えれば、現経営陣に引き続いて経営を任せることは十分に可能です。
事業承継ファンドを活用する4つのメリット
次に、事業承継ファンドを活用する主なメリットを紹介します。
①経営の独立性をもたせて事業承継できる
前述のとおり、事業承継ファンドの主な目的は企業価値を高める点にあり、経営権の掌握や他企業との統合ではありません。
そのため、企業価値の向上以外の場面で必要以上に対象企業に干渉することは、一般的にあまり見られません。
出資した企業の独立性を尊重する傾向は、企業文化を引き継いで従業員の雇用や顧客との取引継続を守りたいオーナーにとって望ましいことといえます。
②会社のさらなる成長が期待できる
事業承継ファンドの出資を受ければ、経営のプロの視点で、さまざまな指摘やアドバイスを受けられます。
数多くの会社経営を見てきたファンドの視点で、これまで気づけなかった自社の強みや潜在的な弱点などを抽出し、企業価値向上につなげられるのです。こうしたプロセスによって、会社のさらなる成長が期待できます。
③外部から優秀な人材を招へいできる
日本企業は業種を問わず、慢性的な人手不足が続いていますが、経営陣も同様です。数多くの企業経営の経験を有する人物、様々なネットワークをもつ有能な幹部社員を独自に探し出し、中小企業の経営におけるキーパーソンとして配置するのは困難といえます。
しかし、事業承継ファンドのサポートを得ることで、有能な人材を集め、経営陣として受け入れる可能性はぐっと高まります。経営陣だけでなく、さまざまな現場で優秀な人材が導入されれば、自社のポテンシャルを最大限に引き上げられるでしょう。
④経営者の精神的負担が軽減される
経営者は会社の経営状態だけでなく、従業員の雇用や将来の事業承継など、会社に関するあらゆる事柄を一人で背負わなければなりません。この精神的なプレッシャーを常時背負い続けるのは、非常に負担がかかります。しかし、事業承継ファンドをパートナーとすることで、経営に関するアドバイスや相談、前述した優秀な人材の招へいが実現に近づき、経営者の精神的な負担が軽減されることが期待できます。
国内の代表的な事業承継ファンド
国内における事業承継ファンドは、現在大小さまざまな組織が存在します。その中でも代表的な事業承継ファンドとして、以下の3つを紹介します。(掲載の3社はあくまで一例であるため、そのほかのファンドについて知りたい方はお尋ねください。)
株式会社日本投資ファンド
M&A仲介の日本M&Aセンターと日本政策投資銀行が共同で設立したのが、株式会社日本投資ファンドです。
日本投資ファンドは、中堅・中小企業の成長基盤を支える「社会インフラ」としての役割を果たす目的で設立されました。日本M&Aセンターが長年中小企業のM&Aを支援してきた実績にもとづく知見・ノウハウ・ネットワーク力と、日本政策投資銀行のファンド運営の経験や資金力、地域の隅々まで広がるネットワーク力を融合させ、そのサービスを日本各地の地方銀行を通じて展開しています。
中小企業基盤整備機構(中小機構)
経済産業省傘下の独立行政法人である中小企業基盤整備機構(中小機構)は、金融機関をはじめとする民間機関などと協調し、支援目的に応じたさまざまなファンドを形成しています。
事業承継はもちろん、ベンチャー企業やスタートアップ向けのファンドの形成・支援も活発に行われており、新事業の創業や事業拡大の支援なども積極的に行っています。
中小機構が作るファンドは出資比率の50%超を出資しているため、その公的な性格がファンドの運営にも大きく影響しているのが特徴です。
SBI地域事業承継投資株式会社
SBI地域事業承継投資株式会社とは、SBIホールディングス株式会社の傘下で事業承継ファンドを運営している投資ファンドです。SBIグループは、地域創生と事業承継問題の解決を目指し、グループとしてのこれらの取り組みをより一層強力に推進していく目的で2019年に設立されたのが、SBI地域事業承継投資株式会社です。当ファンドの特徴として挙げられるのは、その投資対象です。後継者問題を抱える中小企業以外にも、これまで一般的な事業承継ファンドの投資対象とはされてこなかった小規模企業にも積極的な投資を行うことが予定されています。そのため、当ファンドでは裾野を広げた企業支援が期待されています。
事業承継ファンドの選び方
事業承継における事業承継ファンド活用のメリットや、具体的な会社名などについて解説してきました。
それらを踏まえ、事業承継ファンドの選び方や注意すべき点などについてお伝えします。気を付けるべきポイントは主に以下の5つです。
専門家からの助言をもとに選ぶ
経営者が自身の知識や経験から最適解を考えることは理想ですが、一人で考えているだけでは正しい結論を導くことが難しいでしょう。そのような場合に備えて、M&A仲介会社、税理士や公認会計士、弁護士などの専門家に相談し、ファンドを活用した事業承継が自社の承継に適しているかどうかを尋ねてみることをおすすめします。別の角度から自社の事業承継を考える良い機会となるはずです。
担当者との相性・信頼度で選ぶ
事業承継ファンドによる承継をファンドに打診すると、ファンド側から専属の担当者がつきます。
事業承継の実現に向けて、日々コミュニケーションをとる相手である為、自社に対し十分な理解をしていうか、担当者の相性や信頼度も、事業承継ファンドを選ぶ上で大切なポイントです。きちんとパートナーとして適切であるかどうか考えましょう。
提案された計画・支援内容をもとに選ぶ
事業承継ファンドによる事業計画や支援内容は、ファンドごとにそれぞれ異なります。比較的長期のスパンで承継後の企業価値向上を考えるファンドもあれば、人材や情報などのファンドがもつリソースを一気に大量投下し、短期間で企業価値を上げる点に特化しているファンドもあるため、現在提案を受けているファンドがどのタイプなのかを把握する点が大切です。
過去の支援実績・投資実績をもとに選ぶ
医師や弁護士に専門分野があるように、事業承継ファンドにも得意分野や専門分野があります。自社がファンドの得意とする分野であれば成功する確率も高くなりますが、そうでない場合にはそのファンドによって成功することは難しくなります。ファンドの得意分野や専門分野を知るには、過去の支援実績や投資実績を尋ねてみましょう。過去の実績と自社の状況を比較し、似たような業種・規模・状況などの案件をどれくらい行っているのかが事業承継ファンドを選ぶ基準の一つになります。
ファンドへの出資者をもとに選ぶ
ファンドにはそれぞれ得意としている分野や手法などがありますが、それらの性質の違いは、主に誰が出資しているのかによって左右されます。ハイリターンを求める出資者の多いファンドであれば、短期間でできる限りハイリターンを求める運営が行われる傾向にあります。一方、じっくりと承継した企業を育てるタイプのファンドであれば、比較的時間をかけて承継が行われることが期待できます。したがって、ファンドを選ぶには出資者を確認して、自社が求める事業承継に望ましいところに任せるようにしましょう。
事業承継ファンドを活用する流れ
事業承継ファンドを活用する場合は、一般的に以下の流れで事業承継が行われます。
- オーナー経営者がM&A仲介会社などを通じて(あるいは直接)ファンドに問い合わせ
- ファンドとの間で秘密保持契約を締結し、財務関係書類などを開示
- ファンドとの間で基本合意書を締結
- 条件のすり合わせを行い、弁護士などの専門家によるデューデリジェンス(企業の経営状況や財務状況などの調査)を受ける
- デューデリジェンスの結果を最終的な条件に加味し、再度すり合わせを実施
- 最終的な譲渡契約を締結し、ファンド側に保有している株式を売却
- 事業承継ファンドによるさまざまな形での経営支援が行われ、企業価値評価を上げていく
具体的な手順については事業承継ファンドごとに違いますが、ファンドによる事業承継は、大まかに上記の手順で行われます。
事業承継ファンドの活用事例
最後にファンドを活用した事業承継事例をご紹介します。
PEファンドのサポートで社内改革を実行。社員への事業承継をした事例
従業員から抜擢された社長が、抜本的な経営改革を目的にPEファンドへの譲渡を決断。PEファンド側も同社の製品や技術、成長ポテンシャルの高さに強い関心を示し成約に至った事例です。
PEファンドの活用事例詳細はこちら
PEファンドが主導となって社長を招聘し、事業承継をした事例
従業員から抜擢された社長が、抜本的な経営改革を目的にPEファンドへの譲渡を決断。PEファンド側も同社の製品や技術、成長ポテンシャルの高さに強い関心を示し成約に至った事例です。
PEファンドの活用事例詳細はこちら
終わりに
事業承継の選択肢の一つとして、近年では事業承継ファンドを活用した事業承継も選ばれるようになっています。
ファンドへの売却は、あまり聞き慣れないこともあり、心的抵抗がある経営者もいます。しかし、ファンドによる経営支援によって事業承継問題の解決によって企業文化や従業員の雇用を維持しながら、会社の新たな成長を目指す新しい手段として積極的に活用されています。
ただし、ファンドにはそれぞれ特徴があり、かつ運営方針もさまざまでバラエティに富んでいます。したがって、活用するにはどの事業承継ファンドが自社の事業承継に合うのかを見極める必要があります。
そのためには、事前にM&A仲介会社など専門家を通じてファンド側へ入念なヒアリング、確認をしておくことをおすすめします。
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