Amazonが日本市場へ上陸する!?電子処方箋が引き起こす、調剤薬局の参入障壁の崩壊

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電子処方箋の導入で変わる、薬局のビジネスモデル

いつもコラムをご愛読頂きありがとうございます。日本M&Aセンターの調剤薬局専門グループです。

先日ニュースをみて衝撃を受けた方も多いかと思われますが、2023年Amazonが日本の処方薬販売への進出を検討しているとの報道がありました。確定した情報ではないにも関わらず、同業界の上場企業株価は急落し、競争激化への懸念が強まる形となっています。

電子処方箋導入に関する議論が熱を帯びる中、地域医療を担う一員として薬剤師の存在感は日々増し続け、ICT等の技術革新など薬剤師を取り巻く環境は刻一刻と変化し続けています。「今まで通り」では通用しない世の中が、もうすぐそばまで来ていることを調剤薬局の経営者の皆様は実感していることと思います。

調剤業務の外部委託やオンライン服薬管理指導、電子処方箋の導入などはここ数年話題に挙がることが増えてきました。このような流れは、AmazonをはじめとするITプラットフォーマー企業の参入に大きな影響を与えるように感じます。ICT化が進むにつれ、法律に守られ、参入障壁の高かった調剤薬局業界は変革の岐路に立たされています。

本稿では、調剤薬局の経営者が今知るべき、電子処方箋に関する動向、そしてこれからあるべき薬剤師としての姿についてまとめてみました。

電子処方箋とは

電子処方箋とは、今までの紙でのやりとりしていたデータを電子化し、クラウド上に構築する「電子処方箋管理サービス」を介して、医療機関・薬局間での処方・調剤情報や、その疑義照会等の情報連携を可能としています。
さらに、その患者さんの全国の医療機関・薬局での過去の薬剤情報も参照することができるので、質の高い医療サービスの提供が期待できます。

患者さんとしても、今までに処方、調剤された情報を含む医療情報が、全国の保健医療機関、保険薬局で共有されるため、より質の高い医療が受けられます。
また、電子処方箋を取り扱い薬局に事前送付することで、薬局内で長時間待たされることなく調剤を受け取ることができるなど様々なメリットを享受できます。

これまでの検討経緯

このように多くのメリットがある電子処方箋を推進するために、厚生労働省は2016年にガイドラインを定めました(2018年に一部改正)。ガイドラインは、「電子処方せんに対応できない薬局でも患者が調剤を受けられる」という前提のもと、システム構造や、業務のフロー等の指針を示しています。

運用の煩雑さや、導入費用が不明瞭であったため、なかなか導入が進んでこなかった電子処方箋ですが、在宅医療やオンライン診療の整備が進む中で、電子処方箋の有用性が改めてフォーカスされるようになり、厚生労働省は2020年にガイドラインを大きく改訂しました。
これが「データヘルス集中改革プラン」と呼ばれているものです。

この改訂では、煩雑さを生んでいた紙ベースの電子処方箋引換証から、処方箋にQRコードを導入し、管理を共有のクラウドサービスを使用することとして取り決めました。

出典:厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000653403.pdf)

電子処方箋の目的とメリット

電子処方箋の目的は、2022年に厚生労働省が発表していますように、大きく分けて下記の3点にまとめられます。
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000887982.pdf

診療歴の共有

複数の医療機関・薬局間での情報の共有が進むことで、実効性のある重複投薬防止等やより適切な薬学的管理が可能になるため、患者さんの更なる健康増進に貢献が可能

処方情報の一元化

患者さん自らが薬剤情報をトータルで一元的に確認することができ、服薬情報の履歴を管理できるとともに、必要に応じて医療機関、薬局等から各種のサービスを受けることが可能

生活様式に対応した利便化

処方箋原本を電子的に受け取ることが可能となり、オンライン診療・服薬指導の更なる利用促進に貢献

電子処方箋は、これから浸透していくことが予想される訪問医療、オンライン診療、そしてICT化との相性が良く、患者さんから見ても大きなメリットが予想されます。
薬剤師側からの視点としても、複数の医療機関・薬局間での情報の共有が進むことで、重複投薬防止等が可能となります。また、統一フォーマットでのやり取りにすることで、疑義照会や調剤情報の確認等の負担が軽減されます。

これらの取り組みも、やはりいきつくところはかかりつけ薬局としての機能強化、つまり対物業務を大幅に効率化して、薬剤師が対人業務に充てる時間を増やす必要があります。
ICTが進む中でも薬剤師としてできること、患者さんから選ばれる薬剤師になるためにやるべきこととは何なのでしょうか。

ついに上陸、Amazon薬局

2020年11月、Amazonはアメリカ国内で「Amazon Pharmacy(アマゾン・ファーマシー)」の営業を開始し、業界に激震が走りました。

このビジネスモデルの特徴は、ウェブサイトや専用アプリから処方薬を注文し、自宅に配送してくれるサービスです。もちろん保険も適用されますし、食品や日用品も「ついで買い」ができることから利便性が高く、米国内でのシェアを伸ばし続けています。

そして先日、Amazonが日本での処方薬販売事業に、電子処方箋が解禁する2023年から本格参入するというニュースが流れました。
記事によると、当面はAmazonが直接販売をするのではなく、中小薬局と提携し、新たなプラットフォームをつくる方向です。ガラパゴス化している日本の処方薬販売業界のビッグデータを集め、「AmazonPharmacy」としての方向性を探っているようにも見られます。

中小薬局としてもAmazonと提携を組むか、選択を迫られることになります。
このモデルが確立されると、ネット上で患者との接点を容易につくることができ、またAmazonの強固な物流システムが活用されるため立地面での不利もなくなります。

今や日本国民の半数以上がAmazonを利用しています。これほど消費者にとって身近なAmazonが、本格的に処方薬販売に参入となれば、薬局業界に大きな影響を与えることになるのは想像に容易いでしょう。
揺れ動く業界で今何をすべきか
このアマゾン・エフェクトに対し、日本薬剤師会の山本信夫会長は、「これだけ規制を受けた業種だから、国の方針に極めて大きな影響を受ける。国にも考えてもらわないと、われわれだけでは考えきらないところがあるだろう」と述べています。
また、日本保険薬局協会の首藤正一会長(アインホールディングス)は「かかりつけ薬剤師機能を含めて、機能をどれだけ高めていけるかにかかっている」と述べています。

薬局経営者、薬剤師としても不安に思う部分はあると思いますが、できることは限られています。また患者さんの中には、直接相談したいから病院、薬局に行く人も必ずいます。
処方のフォロー、アセスメント、そして薬効のフィードバックなどがあって、はじめてより患者さんのためになる医療が実現します。

このような異業種の参入はAmazonだけではありません。2021年、NTTドコモは、オンライン薬局を展開するミナカラの株式を取得しました。
NTTドコモは、オンライン診療システム、オンライン服薬指導システムに参入しており、患者の医療におけるオンライン活用に向けて取り組みを強化しています。

このように、業界を取り囲む垣根は低くなり、調剤薬局業界は競争激化の一途をたどっています。調剤薬局の中には生き残りをかけ、専門性を高める薬局もあれば、OTC医薬品や健康食品などの販売へと業容を広げる薬局もあります。調剤ロボットを導入し、対人業務に時間をさけるようにしている薬局もあります。
こうしたボーダレスな競争を勝ち抜くために、既存の業務やビジネスモデルを変革することが今後の調剤薬局には求められています。

Amazonをはじめとする、これらのプラットフォーマーの参入を敵とみなし、危機感を持つことは正常な反応であるとは思います。
しかしながら、まだプラットフォーム段階での参入であり、共存の道も残されていると言える状況です。また1社のみで解決が難しい問題も、他社と提携を組むことで解決できることも必ずあります。

果たして向き合うべき相手は異業種の競合なのでしょうか。患者さんと正面から向き合い、直接話をすることでしか生まれない価値も必ずあります。これからの薬局に求められていることを見失わないよう、薬剤師のあるべき姿を考えていかなければなりません。

アマゾン薬局とは

アマゾン薬局は、「Amazon Pharmacy(アマゾン・ファーマシー)」のことで、2020年11月にアメリカで開始したオンラインで処方薬を手に入れることができるサービスのことです。このサービスは専用のアプリやウェブサイトから処方薬を注文し、自宅に配送するサービスです。医療保険も適用です。

患者が行う必要のあることとしては①「加入している医療保険」「既往歴」「定期処方薬」などのプロフィール入力②医師にアマゾン薬局への処方箋の送付依頼(アマゾン薬局で代行可能)③クレジットカードやデビットカードを登録(支払い) という流れになります。支払いが完了するとアマゾン薬局から処方薬が発送されます。
医療保険や既往歴の入力が必要となりますが、それ以外については既存のアマゾンのサービスを使用している方々であれば、類似している部分が多いため、ハードルにはならないと考えられます。

同社はアメリカでのアマゾン薬局の発表と同時に、Prime会員に対して2日で商品を無料配送し、ジェネリックとブランドオリジナルの医薬品についてはそれぞれ最大8割引と4割引で提供するプロモーションを発表しました。これは、顧客にとって、既存の薬局よりも安く同じ商品を購入できるということがメリットと言えます。

このように、アメリカでは運用が始まった「Amazon Pharmacy(アマゾン・ファーマシー)」は、ドラッグストアの脅威となると言われています。各社がどのような対策を行っているか、大手ドラッグストア2社の動きを例に挙げて解説します。

ウォルグリーンの事例

米ウォルグリーン・カンパニー(Walgreen Company 以下ウォルグリーン)は、アメリカを代表する薬局チェーンの一つです。100年以上続く老舗であり、現在は11ヵ国に21,000以上の店舗を持ちます。

どのような対策を講じているか

ウォルグリーンはアマゾン薬局に対抗するため①アプリのリブランディング②ロイヤルティプログラムの刷新③実店舗のサービスを拡充 に力を入れました。

同社ではアプリを大幅に改良し、顧客にとってより使いやすいものになりました。個人情報をアプリに入力すれば、買物やワクチン接種(同社ではワクチン接種が可能)などの履歴をもとに、会員向けの情報が届くようになります。また、アプリ内で購入した商品を店舗やドライブスルーで受け取ることもできます。
その他にも、コロナワクチンのバナーを配置、リフィル処方箋対応ページでは処方箋のバーコードを読み込み、薬局に送信するだけで調剤してもらうことが可能です。
24時間365日利用できる薬局のチャットシステムの開発や顧客に対して個別の健康のアドバイスを行うなどの新しいサービスも提供し、アプリをより使いやすく改良しました。
ロイヤルティプログラムについては、例えばオンラインでPB商品を購入した場合、5%のキャッシュバックが発生するというプログラムに刷新されており、付加価値を生みました。

CVSヘルスの事例

英CVSヘルス・コーポレーション(CVS Health Corporation 以下CVSヘルス)は、1963年に設立された健康・美容製品販売店が基になっており、設立以来買収を繰り返し、業容の拡大をしてきました。1967年には薬局業務にも着手し、現在ではドラッグストアを10,000店舗ほど展開している大手ドラッグストアとなります。

どのような対策を講じているか

CVSヘルスはアマゾン薬局に対抗するために「ヘルスハブ」店舗の展開に力を入れています。
ヘルスハブとは、薬局でありながら幅広いヘルスケアサービスを提供する店舗です。例えば、睡眠時無呼吸症候群や糖尿病などの患者に向けた新商品の販売やサービスを提供します。また「ミニッツクリニック」と呼ばれる簡易クリニックが併設されている店舗においては、特定看護師が常駐しており、慢性疾患を持つ患者のケアを行えます。

その他、顧客向けにiPadが準備されており、ヘルス&ウェルネス・アプリによる情報提供も受けることができます。ヨガや健康に関するセミナーを定期的に開催します。アメリカでは慢性疾患の有病率が年々増加傾向であり、しっかりとしたケアを受けられる人がいない中で、このようなサービスは大きな反響を受けているようです。

まとめ

アマゾン薬局に対抗するために上記2社はそれぞれ特色ある取り組みを始めています。
ウォルグリーンではアプリによるサービスの拡充、CVSヘルスでは実店舗のサービスを拡充といったようにアマゾン薬局ではなく自社を使うことのメリットを顧客に訴求しています。

日本では、アマゾン薬局は直接販売を行いません。中小薬局と手を組み、プラットフォームを作ることが想定されます。中小薬局と手を組み、エリアに関係なく患者へアプローチできますので、アマゾンと手を組んでいない地方の薬局はもちろん、複数店舗を持っている中堅の薬局においても脅威となり得るでしょう。立地に依存している薬局については厳しい戦いを強いられそうです。
具体的な話はまだ明確になっていないものの、Prime会員を豊富に持っていることや、ネット販売のノウハウを多く保有していることから、日本でも各社が対策を検討する必要があります。
それはつまり、自分の薬局を使うことで顧客にどのようなメリットがあるのかを明確にしなければならないということです。

自社でのサービス拡充を図ることを第一に考え、自社のみで対策が難しければ大手薬局チェーンと手を組んでノウハウを取り込むことも必要です。大手薬局チェーンでは、アプリを開発してそこから服薬指導を行える企業や、9,200万人が使用しているLINEを使用した服薬指導やおくすり手帳の管理などに着手をしています。
このようなノウハウを持っているところと手を組むという選択肢も視野に入れる必要があります。
調剤薬局業界はまさに今、大きな変革を求められています。まずは譲受け・譲渡についても選択肢の一つとしてとらえ、常に情報収集をしていく必要があります。

著者

日本M&Aセンター 業種特化事業部コラム制作担当

日本M&Aセンター  業種特化事業部コラム制作担当 

業種特化事業部はIT、建設・設備工事、住宅・不動産、食品、調剤薬局、物流、製造、医療・介護といった各業界に特化し、日々新たな案件に取り組んでいます。各コンサルタントのノウハウや知見を集め、有益な情報発信に努めてまいります。

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