薬局経営者が今知るべき海外の薬剤師の社会的地位と薬局の在り方

業界別M&A
更新日:

⽬次

[非表示]

いつもコラムをご愛読頂きありがとうございます。日本M&Aセンター調剤薬局業界専門グループの太田昇真です。

薬局経営者の皆様におかれましては、日々刻々と変化する日本国内における調剤薬局業界の動向を追うことで、未来に向けた経営戦略を立てていることかと思われます。一方で、海外の調剤薬局業界については、強い関心はあるものの中々その実態が見えにくいというのが実情ではないでしょうか。

調剤薬局業界における日本と海外の最大の差異は、薬剤師の社会的地位の高さです。その背景には、海外は薬剤師の権限が大きいこと、医療費(社会保険)や文化の違いなど様々な要因があります。
業界最前線で日々奮闘されている薬局経営者の皆様が海外医療先進国の事例を知ることは、今後日本において業界一体となって薬剤師の社会的地位と薬局の在り方を見直していく契機となると考え、本稿でまとめていきたいと思います。

日本と海外の薬剤師の社会的地位の違い

前段に述べた通り、日本と欧米諸国など医療先進国では薬剤師の社会的地位が大きく異なります。欧米諸国では薬剤師の社会的地位は非常に高く、それに比べると日本では薬剤師の社会的地位は低いというのが現状です。下記の表を見ても、ランキング1位のアメリカでは薬剤師の平均年収が1,000万円を優に超えており、社会的地位の高さを読み取ることができます。

出典:アメリカの報酬調査サイト「PayScale」、厚生労働省「令和3年 賃金構造基本統計調査」をもとに日本M&Aセンター作成

アメリカと日本における3つの違い

トップのアメリカの薬剤師・薬局は日本の薬剤師・薬局と、具体的には何が異なるのでしょうか?
大きく分けて以下の3点があげられます。

1.専門性の高さ

アメリカの薬剤師と日本の薬剤師の大きな違いとして、アメリカの薬剤師は「処方権」を保有しているなど、専門性の高さが挙げられます。日本においても薬剤師は薬物療法のプロと認識されているものの、患者の薬物治療に関する決定権において、日本の薬剤師は処方権を保有しておらず、医師の代わりに処方箋を作成することは出来ません。

一方、アメリカの薬剤師は処方権を持ち、医師の処方を必要とせずに薬を調剤することが可能です。アメリカの薬剤師の処方権は「プロトコール型処方権」と言って、「定められた条件の下で薬剤師に処方権を委譲する」という意味を表します。また、薬剤師が患者にインフルエンザなどの予防接種の注射も行うことが可能です。このことから、医師と同程度の権限や責任を持っていると言えるでしょう。

さらに、薬局において処方箋に従って薬を準備したり、薬を混ぜて調剤したり、患者への薬の説明といった基本的な業務はアメリカにおいても当然存在しますが、日本の薬局のように薬剤師が担当することはありません。「薬剤師以外でもできる仕事」は「テクニシャン」と呼ばれる薬剤師の助手的存在の方が請け負うため、薬剤師は「薬剤師にしかできない仕事」において高い専門性を発揮することに集中できるように仕組み化されているのです。

また、かつてはリフィル処方箋制度の有無も代表的な違いとして挙げられました。皆様もご存知の通り、令和4年度の調剤報酬改定を経てスタートしたリフィル処方箋制度は、病状が安定した患者において医師が期限を決めて処方箋を書き、期限内であれば薬剤師のモニタリングの元に、その都度繰り返し調剤が行われる制度です。アメリカだけでなく、イギリスやフランス、オーストラリアでは既に導入されており、薬剤師は自身の判断で継続して調剤を行うのか再受診を必要とするのかの判断を行うなど、より薬剤師としての技量が問われる責任の大きい業務を担ってきました。

2.難易度の高さ

アメリカの薬剤師がこれほどまでに社会的に高く評価されている理由として、薬剤師になるまでの難易度も重要なポイントです。

アメリカで薬剤師になるためには、高校卒業後にストレートでの薬学部への入学は認められていないため、まずは一般の大学で2~4年数学や化学などを学ぶ必要があります。その後、競争倍率が非常に高い4年制の薬学博士号(Pharm.D.)が取得できる大学院に進学し、さらに州が定める2種類の薬剤師免許試験両方に合格する必要があります。つまり、アメリカで薬剤師になるには最低でも6〜8年を要する上、ハードルが非常に高めに設定されており、その対価として日本以上に幅広い裁量権を薬剤師に与えている構図となっています。

3.医療費や文化の違い

薬剤師の社会的地位の土壌となる、医療費や文化の違いについて目を向けてみると、アメリカでは自己破産の原因トップ3内に医療費が含まれるほど、日本と比較して医療費が高いです。そのため、一般的な市民は軽い病状程度では安易に病院に行くという選択肢を取ることができません。そこで登場するのが薬局の薬剤師という存在です。アメリカでは身近な薬剤師に相談をして病状に合った薬を提案してもらう機会が多く、日頃より気軽に相談できる相手というイメージを持たれています。

対して日本では医療費が安いことから、欧米では薬剤師に相談するケースであっても日本では医師に相談をすることが圧倒的に多いため、欧米ほど日常的に薬剤師に相談をする文化が定着していないと考えられます。

日本の薬剤師が更に活躍するために

現在の日本では欧米と比較すると薬剤師の諸権限が無い場合が多く、先進国の薬剤師制度からは遅れており後進国と言えます。アメリカの薬剤師は、①専門性の高さ②難易度の高さ③医療費や文化の違いの3つの観点から社会的地位が非常に高いというお話をしてきましたが、日本の薬局業界はアメリカからどのような学びを得て、薬局の在り方を変えていくべきなのか、最後にまとめたいと思います。

1.専門性の高さについて

ついに日本でも令和4年度の調剤報酬改定を経てリフィル処方箋制度がスタートしましたが、薬剤師は医師から患者の経過観察が求められるなど、専門性を今以上に発揮する機会が増えていくでしょう。

その結果、地域医療での薬剤師の存在感が大きくなり、薬剤師の地位向上にも繋がると考えられます。このように、最近は日本でも薬剤師の働き方に変化が起きつつあり、海外のように薬剤師が本来の仕事に集中できるような環境の職場も増えていると聞きます。チーム医療が重要視されるようになってから、医師と協力して仕事をする場面が多くなり在宅医療においても薬剤師の役割は重要なものになっています。

2.難易度の高さについて

日本においても、医療技術の高度化・医薬分野の発展にあわせて、より高度なスキルを持つ薬剤師が必要とされつつあり、そうした変化に対応するための長期実習・アドバンスト教育の実施を目的として、2006年に薬学部を6年制に延長したという経緯があります。

前段のリフィル処方箋を例に挙げると、診察が不要となることで薬局の責任が大きくなります。
より優秀な薬剤師の育成が求められるという課題が出てくる中で、薬剤師の難易度の高さと専門性の高さを両輪で向上させていくことが、アメリカのような薬剤師の社会的地位向上に繋がると考えられます。

3.医療費や文化の違いについて

これまでアメリカの薬剤師と比較して日本の薬剤師は患者との接点が少なく、存在感や専門性を中々発揮する場面が少なかったですが、新型コロナウイルスの感染拡大がもたらす薬局業界のパラダイムシフトによって状況は一変しました。

密を避けたい顧客心理による受診控えなど、病院→薬局→自宅の従来の行動サイクルが崩壊する中で、プラスに捉えると薬剤師にとっては患者との接点を増やすチャンスです。
長期処方の患者には薬剤師が適正使用等を確認したり、薬局に来られない患者にはオンライン服薬指導+配達を行ったり、病院に行けない患者にはOTCの販売を行ったり、さらに服用後のFAF(服用後のフォロー、薬学的Assessment、医師へのFeedback)によって、対物業務から対人業務へと切り替えが進み、その先にはアメリカの薬局のように患者と日常的に繋がり、信頼される存在へと進化することができるのではないでしょうか。

20年後の未来を考える

前述してきたアメリカのように薬剤師の地位が高いものになるために必要なことは、薬剤師の皆様が真の意味で「かかりつけ薬剤師」となることだと思います。単に薬を渡すだけではなく、どれほど患者さんの健康サポートができるか、試行錯誤しながらにはなると思いますが、経営者の皆様は考え続けていく必要があります。

M&Aへのご関心、ご質問、ご相談等ございましたら、下記のお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。

著者

日本M&Aセンター 業種特化事業部コラム制作担当

日本M&Aセンター  業種特化事業部コラム制作担当 

業種特化事業部はIT、建設・設備工事、住宅・不動産、食品、調剤薬局、物流、製造、医療・介護といった各業界に特化し、日々新たな案件に取り組んでいます。各コンサルタントのノウハウや知見を集め、有益な情報発信に努めてまいります。

この記事に関連するタグ

「調剤薬局」に関連するコラム

調剤薬局における親族継承のメリットとデメリット

業界別M&A
調剤薬局における親族継承のメリットとデメリット

日本M&Aセンター業界再編部調剤薬局業界専門グループの伊東勇一と申します。経営者として事業を長く続けていくこと。これは地域医療の一端を担う調剤薬局としても長く地域に貢献し続けることであり、多くの経営者が望まれていることかと思います。@cv_buttonただし、様々な苦境を乗り越えてきた経営者であっても、年齢の壁は乗り越えることはできず、いずれ事業承継が必要になります。事業承継は一般的に、親族承継・

薬価制度と日本の財政について

業界別M&A
薬価制度と日本の財政について

改定によって見直しが続く薬価薬局を経営していく中で重要な経営指標の一つに「薬価」があります。薬価、すなわち薬価基準制度とは、保険医療機関等の扱う医薬品の価格を公的に定めているシステムです。厚生労働大臣を通じて国が決定する薬価ですが、最近の薬価改定では医療費抑制のため薬価の引き下げが顕著となっています。さらに二年に一回であった薬価改定が2021年度から中間年も薬価の見直しを行うようになり、毎年改定に

日医工の上場廃止から考えるジェネリック医薬品卸業界の先行き

業界別M&A
日医工の上場廃止から考えるジェネリック医薬品卸業界の先行き

いつもコラムをご愛読いただきありがとうございます。日本M&Aセンター業種特化事業部の岡田拓海です。今回は「日医工の上場廃止から考えるジェネリック医薬品卸業界の先行き」についてお伝えします。@cv_button日医工の上場廃止が及ぼす医薬品卸業界への影響2022年12月28日、日医工株式会社は業績不振を理由に申請していた事業再生ADRが成立したことを発表しました。事業再生案として、国内投資ファンドの

2022年調剤薬局業界M&Aの振り返りと2023年の市場展望

業界別M&A
2022年調剤薬局業界M&Aの振り返りと2023年の市場展望

日本M&Aセンターの田島聡士と申します。2022年は、一部メーカーの製造不正を発端に生じたジェネリック医薬品の供給不足が、先発品も含めた医薬品の供給不足にまで発展し、地域に関わらず全国の薬局に大きな影響を与えました。この未曾有の医薬品不足に加え、毎年の薬価改定と2年に1度の報酬改定、近隣での競合店舗の出現など多種多様な問題に頭を抱える薬局経営者も増えています。ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源

Amazonが日本市場へ上陸する!?電子処方箋が引き起こす、調剤薬局の参入障壁の崩壊

業界別M&A
Amazonが日本市場へ上陸する!?電子処方箋が引き起こす、調剤薬局の参入障壁の崩壊

電子処方箋の導入で変わる、薬局のビジネスモデルいつもコラムをご愛読頂きありがとうございます。日本M&Aセンターの調剤薬局専門グループです。先日ニュースをみて衝撃を受けた方も多いかと思われますが、2023年Amazonが日本の処方薬販売への進出を検討しているとの報道がありました。確定した情報ではないにも関わらず、同業界の上場企業株価は急落し、競争激化への懸念が強まる形となっています。@cv_butt

ファーマシィとの資本提携で注目されるアインホールディングスの歴史と挑戦

業界別M&A
ファーマシィとの資本提携で注目されるアインホールディングスの歴史と挑戦

はじめに2022年5月9日、多くの調剤薬局業界関係者が驚いたのではないでしょうか。業界最大手のアインホールディングスが、中国地方を中心に100店の調剤薬局を持つファーマシィホールディングスの全株式を取得し、完全子会社化することを発表したのです。@cv_button取得額は非公表ですが、ファーマシィホールディングスの2021年3月期の売上高は約215億円で、アインホールディングスのM&Aとしても、過

「調剤薬局」に関連するM&Aニュース

くすりの窓口、ヘルパーリンクを同社前代表取締役に譲渡

株式会社くすりの窓口(5592)は、連結子会社の株式会社ヘルパーリンク(千葉県千葉市)の株式を、同社前代表取締役に譲渡することを決定した。くすりの窓口は、薬局・医療向けソリューションを提供している。ヘルパーリンクは、インターネットを利用したシニア層向け生活サポート、介護代行サービスのビジネスマッチングサイトの運営等を運営し、地域の登録サポーターを通じて生活サポートサービスを提供している。背景・目的

ファーマライズホールディングス、寛一商店グループから一部の調剤薬局事業を譲受け

ファーマライズホールディングス株式会社(2796)は、寛一商店株式会社・アサヒ調剤薬局株式会社・有限会社ハヤシデラ・有限会社共生商会・株式会社ハーベリィ科学研究所・株式会社ソフトリー・有限会社ライフプランニング・新潟医薬株式会社・有限会社さくら調剤薬局(以上、会社更生手続き中)及び株式会社メディカルアソシエイツ(以下、寛一商店グループ)から、一部の事業譲渡を受けることを決定した。また、同日、同社と

メディカル一光グループ、三重県薬剤師会から薬局2店舗を譲受け

株式会社メディカル一光グループ(3353)の連結子会社である株式会社メディカル一光(三重県津市)は、一般社団法人三重県薬剤師会(三重県津市)より2薬局を譲受けることについて決定した。メディカル一光は、調剤薬局事業・医薬品卸売事業を行う。三重県薬剤師会は、薬剤師を会員とする職能団体。事業(調剤薬局)譲受けの目的今回の譲受けは、メディカル一光グループの薬局事業のさらなる強化を目的としており、地域医療の

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース