【2022年】IT業界のM&A傾向と、”いま” ITオーナー様へ伝えたい事
⽬次
- 1. はじめに ~M&AによるIT人材の争奪戦から企業自体の争奪戦へ~
- 2. IT市場におけるM&Aの最新の動向
- 2-1. 「受託開発・SES」
- 2-2. 「パッケージサービス」
- 2-3. 「ウェブ・デジタルマーケティング」
- 2-4. 「その他」
- 3. ソフトウェア開発業における後継者問題と業界再編の波
- 4. 成長戦略型M&Aの代表例
- 5. ITオーナー様へ伝えたい事
- 5-1. 著者
はじめに ~M&AによるIT人材の争奪戦から企業自体の争奪戦へ~
IT業界は社会のIT化の進展に伴い、ますます重要性が高まっている一方で、IT人材の不足が深刻な状況となっております。M&Aは会社を買収することで、組織として出来上がっているまとまった人数の人材を採用できるため、「究極の人材採用」であると言われ注目されてきました。以前よりM&AによるIT人材の争奪戦は始まっておりましたが、M&Aニーズの急速な高まりは、IT企業自体の争奪戦の始まりを意味していると言っても過言ではないでしょう。
今回はそんなIT市場におけるM&Aの最新の動向と、M&Aが盛んになっている背景を事例とともにご紹介し、IT企業のオーナー様が業界再編の乗り切るために、どういった行動をしていくべきなのかを考えて頂くきっかけになれば幸いであると考えております。
IT市場におけるM&Aの最新の動向
IT業界の市場規模は2020年こそコロナ禍の影響で伸び率▲0.4%となったものの、2021年は伸び率3.5%と成長しており、年々膨らんでいる状況です。この傾向はまだ暫く続くと考えられ、業界全体としては成長余地が著しく大きいと言える業界です。
出典:経済産業省 特定サービス産業動態統計調査より日本M&Aセンター作成
一方でデジタル庁が発表したように、人材供給やDX人材の育成が追いついておらず、技術者の確保が大企業から零細企業に至るまで重要な課題となっています。特に中小零細企業にとっては技術者の確保は困難になっており、IT産業全体の有効求人倍率は6倍から8倍と言われており、他の業種と比較しても圧倒的に人材が不足している状況です。そのような採用市場下において、現場では仕事があっても人のリソースが足りないという状況が続いています。
2021年に成約に至ったM&Aの約3件に1件が、譲渡企業がIT企業によるものであり、9年連続でM&A件数が増加しており、全業種で最多の業界です。
そのためM&A市場としては圧倒的な売り手市場であり、1つの譲渡企業に対して非常に多くの買い手が立候補をする傾向にあり、今年、日本M&Aセンターにて仲介し成約に至った大阪のIT企業には8社の譲受候補企業が手を挙げるなど、IT業界はM&A業界の中では非常に人気のある業界です。
そして、多くが成長戦略を軸にM&Aを行っており、譲渡後も引き続き代表として企業成長を共に実現するオーナーが多い事もこの業界の特長となります。
出典:レコフ M&A データベースより日本M&Aセンター作成(2022年5月13日時点)(マーケットはIN-IN、OUT-IN)
IT業界と一口に言っても様々な業態が該当するため、体系的に整理しますと、東京商工リサーチの業種定義においては、大きく「受託開発・SES」「パッケージサービス」「ウェブ・デジタルマーケティング」「その他」に大別されます。
「受託開発・SES」
組み込みソフトウェア開発、金融機関向け基幹システム開発、業務用ソフトウェア受託開発、官公庁向け受託開発など
(例)NTTデータ、富士通、SCSK、NRI、CTC など
「パッケージサービス」
ゲーム・エンタメ系、AI・X-tech、IoT、ビッグデータ等の先進技術、クラウド(AWS等)構築運用
(例)マネーフォワード、サイボウズ、freee など
「ウェブ・デジタルマーケティング」
HP製作・デジタルマーケティング、ウェブメディア運営
(例)マイナビ、GMOインターネット、マクロミル、電通デジタル など
「その他」
ネットワーク構築(LAN等)、その他IT関連事業
(例)エスアンドアイ、コムシス、協和エクシオ、ミライト など
上記の区分においては、「受託開発・SES」におけるM&Aが活発になっており、特にソフトウェア開発業が大きな割合を占めております。その背景として、創業オーナーの後継者問題、DXに関連するIT業界の再編という2つの大きな課題が考えられています。
ソフトウェア開発業における後継者問題と業界再編の波
ソフトウェア開発業に該当する多くの企業は、1990年代のITバブル期に開業されており、いわゆるソフトウェアハウスという業態です。多くの企業が、大手SIerからの業務委託によって成長を遂げてきました。昨今、多重下請け構造として取り上げられることが増えてきましたが、当時は日本のIT化を一挙に担う成長産業でしたので、時代の流れに沿って多くの企業が市場の拡大と共に成長をしていきました。事実、当時経済産業省発表の資料によると、2010年のソフトウェア業全体の年間売上高は13兆2101億円であるのに対し、現在総務省が発表している資料において、2020年度は29兆8955億円となっています。
そこから約30年が経ち、多くのソフトウェアハウスが後継者問題に頭を抱えています。2010年頃から優秀な若手IT人材の採用が難しくなり、従業員が初めて定年退職者(65歳)を迎える企業も目立ちます。開発者としての素質は素晴らしくても、経営者としての素質を兼ね備えていない場合や、後継者候補も高齢化しており、問題の先延ばしにしかならない場合が多くみられます。また、ソフトウェアハウスは人による受託開発が中心であるが故に、目に見える商品よりも人の集団であるという側面が強く、エンジニアを率いていくためには専門性も必要となってきます。そのため、親族や銃表員が組織を引き継ぐことが難しいという性質を持っています。
そして、2つ目のDXに関連した業界変化。これは大きく日本のソフトウェア開発業のあり方が変わると想定しています。デジタル庁の発表やDX人材白書を見ても周知の通り、日本は圧倒的にDXが遅れており、アメリカ、中国に毎年引き離されています。その原因として、多重下請け構造によるウォーターフォール型開発の限界や、経済財政白書が指摘する通り、「日本のIT人材がIT産業に偏りすぎており、ITを活用する側のユーザー企業や行政機関などに所属するIT人材が大きく不足している」という事が一例として上がっています。白書では、IT人材がIT産業に従事している割合について、日本は72.3%、アメリカは35.5%としている。
ソフトウェア開発において、アジャイル開発への転換やDevOpsの取り組みが重要視されているように、今後は開発者だけでなく、システムの使用者を含めたチームとしてのやり取りが必須となってくると予想しています。
そうした中、現在の創業者が歩んできた過去と、後継者が引き継いで歩む今後は全く違う舵取りが必要になります。現在利益が出ているからと、同じ業態を今後も続けて5年後、10年後に会社が存続している可能性がどうかという問題は、多くの創業者の皆様が感じておられます。そのため、社内での承継に二の足を踏む方々が多いと感じています。
上記は、譲渡企業だけの課題では無く、承継先の企業にも同じ課題が存在します。
成長戦略型M&Aの代表例
例えば過去に基幹系自社サービス企業の譲渡をお手伝いさせて頂いた事例がありました。超大手企業から脱サラをした複数名で会社を立ち上げられ、20年以上専門領域の商品を開発、販売、保守すべてを担ってきた企業です。独立理由は、「超大手にはできない、本当に使いやすく、顧客の要望を盛り込んだ最高のシステムを作りたいから」という事でした。
創業以来黒字経営を続け、専門領域のエンジニアを多数保有し、評判が良かった企業でしたが、とある経営課題に頭を抱えていらっしゃいました。
それは、広告合戦となっている市場で、中小企業が開発する商品は、どれだけ良いものでもお客様の目に留まらない。という事です。
M&A当時、基幹系サービスの市場は、マネーフォワードやfreeeの広告がリアル世界、ネット共に目にする機会が増え、多くの資金を調達し、広告宣伝費をかけただけ顧客が増えていくという状況でした。
譲渡企業オーナーは、オーガニック成長の限界を感じ始めていました。そこで当社に相談があり、最終的に広告戦略が非常に得意な、優良企業様とのご縁を結ぶ事ができました。
譲受け企業様においても、基幹系サービスに新規参入を考えていらっしゃったタイミングであり、競合各社の動きを非常に注視しておられました。自社単独でエンジニアを集めて、一から立ち上げるには、最短でも2年はかかり、基幹系に精通したエンジニアを集めることは資金もかかります。そして二の足を踏んでいる間に、競合他社はどんどん広告費をかけて事業を拡大し、顧客を取り合っている状態が続いていました。
上記のM&Aはまさに成長産業のIT業界における成長戦略型の代表例となりました。譲渡企業、譲受け企業が共にWin-Winの関係だからこそ、資本業務提携に向けてとてもスムーズにお互いを思いやりながら進めていました。まだ契約が完了していないのに、一緒になったらこんな事をして事業を拡大したい。というお話が双方から図らずも出てくることが印象的でした。
ITオーナー様へ伝えたい事
私達コンサルタントは、企業の存続と発展の為に、業界を理解し、お客様に合ったプランを考え、将来にわたって成長する事が出来る出会いを提供する事を常に考え行動する必要があります。
IT業界はこれから大きな業界再編が起こるので、今までを築いてきたオーナーだからこそ、M&Aについて誰から情報を入手するべきなのか、真剣に考えて頂きたく思います。
そして、経営戦略の1つの手段としてM&Aを有効に活用いただき、事業承継や成長戦略の実現に繋げて頂けますと幸いです。
M&Aへのご関心、ご質問、ご相談等ございましたら、下記のお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。