【2020年5月】Withコロナ時代の調剤薬局業界
⽬次
- 1. 常に感染の危険と隣り合わせの状況
- 2. 売上が20%~75%減っている一方、変わらぬ販売管理費
- 3. ただ待っているだけではコロナ前の水準まで戻ることはない
- 4. 初めて不安を感じる資金繰り
- 5. 潜在的なリスクの顕在化
- 6. 加速すると予測される調剤報酬の改革
- 7. 立地から機能へ
- 8. IT化が進む調剤薬局業界
- 9. 現場の声を聴かせてください!
- 9-1. 著者
常に感染の危険と隣り合わせの状況
全国で緊急事態宣言が発令され、2か月近くが経過しようとしております。
薬局経営者の方から「従業員の方の危険を最小限に抑えるため、自身がほぼ毎日現場に出ている。」というお話をよく聞きます。
STAY HOMEで人との接触を避ける重要性が叫ばれるなか、皆様に置かれましては、常に感染の危険性と隣り合わせの状況で、患者さんのため・地域医療のために働いて頂いているか思います。大変な状況であることを拝察いたしますが、ご自愛のほどお祈り申し上げます。
売上が20%~75%減っている一方、変わらぬ販売管理費
連日報道されている通り、今回のコロナ禍で多くの業界がマイナスの影響を受けています。調剤薬局についてはどのくらいの影響があるのか、緊急事態宣言発令以降、100名ほどの薬局経営者の方々と話をする機会がありましたので、聞いた話を少し共有させていただきます。
売上への影響については、前年対比で多くの店舗が20~30%ほどの減収、小児・整形の門前店舗だと50~75%の減収という回答でした。一方、人件費・家賃を中心とした販売管理費は変わらないため、ほとんどの企業が3月・4月の単月では大幅な赤字となったようです。
ただ待っているだけではコロナ前の水準まで戻ることはない
長期処方がかなり増えていて、目の前の売上減少以上に利益への影響が大きそうです。また、これが将来的にも続くのではと考えている方が多くいらっしゃいました。
たしかに、医療費削減にもつながっているので、国として「長期処方を制度化しても国民の理解を十分得られるのでは?」となり、制度化に向けた動きにつながる可能性は大いにあるかと思います。そういったことから、コロナ以前の売上に戻すことができるのか、経営者の方はみなさん不安に感じていらっしゃるのが印象的でした。
初めて不安を感じる資金繰り
調剤薬局の場合、売掛金の債務者は国となりますので、他の業界のように取引先が倒産して債権が回収不可となるようなリスクはほとんどありません。
ですので、安定的に利益を生みだすことができていた企業がいきなり倒産の危機に陥ることは発生しづらいのですが、コロナが流行し始めて2~3か月が経ち「あれ、現金の減り早いけど来月の買掛金の支払い大丈夫か?」ということに気付き始めた企業が増えています。
潜在的なリスクの顕在化
調剤薬局運営企業の決算書を多く拝見しましたが、前述した通り、売掛金の貸倒れリスクがほとんどないことに加え、隣接医療機関から安定した処方箋が来ることが決まっていることもあり、意外と会社に現金を残していないことが調剤薬局運営企業の特徴の一つです。
「これが半年続くと会社の現金が底をつく可能性がある。こんなことになることを全く想定していなかった。資金力のある会社と資本提携を行えないか?」といった相談も多く受けています。
加速すると予測される調剤報酬の改革
これから、コロナウイルス感染症関連給付金の支給に伴い、国・自治体の財政が悪化することが予想されます。調剤報酬についても大きな影響があるのではないでしょうか。
コロナ禍によるマイナスの影響を多く受けている飲食やアパレル、旅行業界に比べれば調剤薬局業界が受ける影響は大きくはありません。自己負担等を考慮しない単純計算ではありますが、年間約8億枚の処方箋について、1枚当たりの点数が20点減れば国としてのコストが約1,600億円減ります。
また、調剤基本料1を取得している薬局は点数が高いことに加え、地域支援加算の取得もしやすく、技術料は高い水準となります。
これを「大手の会社であれば、利益を出すことができる水準の点数に減らす。」「地域支援加算・後発加算取得のハードルを上げるタイミングを早める。」といった可能性は十二分にあるかと思われます。2025年の変更に向けての動きのスピードが加速し、一枚当たりの技術料は今までよりも早いスピードで下がっていくのではないでしょうか。
立地から機能へ
調剤薬局業界の課題として“立地勝負のビジネスモデルであること“が毎回挙げられていますが、これについても淘汰されていくスピードが加速すると考えられます。
今回のコロナ禍で、電話による処方や遠隔管理指導の必要性・有効性が実際に証明されました。宅配などについても、議論が進んでおり、国として将来進めたかったことが体現されていっているように感じます。立地が関係ない時代がすぐそこまで来ていることを認識し、戦略を練らなければ生き残りは難しいでしょう。
かかりつけ、在宅、IT化、どこに強みを出すのか、いずれにせよ、立地という優位点のみで患者さんが来訪している薬局には、将来を考える上で非常に重要なタイミングであると思います。コロナ禍が終われば患者さんが戻ってくることはないと思い、5年後、10年後の戦略を考えていきましょう。
IT化が進む調剤薬局業界
先述した通り、今回のコロナ危機で“IT化”の重要性がさらに増したように思います。
「コロナによって医療業界では遠隔とIT化の推進が数年間分前倒しになった。」という話をよく聞きます。調剤薬局業界においてもこの流れは顕著で、減っていく粗利(薬価差益と技術料)を補うためにIT化によるコストの削減とともに、在宅や遠隔対応により患者さんの数自体を増やしていくことが必要になってくると思います。
こういった対応ができる会社を1社でも増やせるよう、当社としても全国の企業様に対して支援を行っていこうと考えております。
現場の声を聴かせてください!
最後になりますが、命がけで医療を支えているのはドクター・看護士の方々だけではなく、薬剤師の方々も同様だと思います。
しかし、メディアではあまり取り上げられていないのが現状です。当社としては、なんとか現場の皆様の声を世の中に発信していきたいと考えております。何か困っていることやコロナ危機の中、工夫していることなどあれば、ぜひ教えて頂ければと思います。