M&Aのその後「事業面、採用面でシナジーを創出~二人の経営者との歩み~」 (ファインシステムのケース)

七澤 一樹

日本M&Aセンター業界特化3部/IT業界専門チーム

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株式会社ファインシステム 代表取締役社長 山内 祐司氏(譲渡企業/写真右/成約式当時) 
株式会社パワーエッジ 代表取締役 塩原 正也氏(譲受企業/写真左)

株式会社ファインシステム

  • 設立・創業:1986年
  • 従業員数:約30名(2019年5月時点)
  • 事業内容:スポーツイベント事業、歯科技工所向けソフト事業、一般ユーザー向けシステム開発事業
  • 売上高:約3億円(2019年5月時点)
  • 譲渡理由:創業者の急逝に伴う株式の承継問題の解決と、会社の更なる成長を実現させるため

株式会社パワーエッジ

  • 設立・創業:2000年
  • 従業員数:【単体】204名 【連結】350名(2022年11月時点)
  • 事業内容: SES事業、各種パッケージの開発・販売
  • 売上高;【単体】21億4,000万円(2022年7月期)【連結】38億6,800万円(2022年度)

ファインシステム社の変遷

1986年兵庫県加古川市、創業者である佐藤勉氏が、歯科技工所に特化したソフトの開発・販売をするために株式会社ファインシステムを創業しました。
もともと歯科技工所に勤めていた佐藤氏が、技工所内の作業の効率化を目指し、独自で開発したソフトが人気を得たことが創業のきっかけにあたります。

創業時は役員1名と従業員1名といった体制でした。
1996年に現取締役COOである山内 祐司氏が新卒として入社しました。
2015年に、前代表取締役の佐藤氏が急逝した際に、次期経営者候補であった山内氏が社長業を引き継ぎました。

山内氏は責任感が強いタイプで、突然の社長就任に戸惑いながらも日々試行錯誤しながら、リーダーシップを発揮し、組織を牽引されていました。
2019年には、創業家が抱える株式承継問題の解決のため、パワーエッジ社とM&Aを実施し、更なる成長に拍車をかけています。

M&Aを実施して3年以上が経過した現在、山内社長に近況をインタビューさせていただきました。

M&A実施、そしてコロナへ

ファインシステム社は、M&A実施後すぐに社員への開示を実施しました。山内氏は当時の様子を次のように語ります。

「全体的に、『これからどうなるのだろう、よくわからないけど大丈夫…?』といった未知なる出来事に対する不安を、一部の従業員は感じているようでした。
そんな矢先に、コロナウイルスが世界を襲い、従業員の関心がコロナへシフトしていき、いつのまにかM&Aへの不安はかき消されていったように思います」
(2019年11月に社員への開示を実施、翌2月には日本で初めて新型コロナウイルスに関して報道されました)

コロナは、とりわけファインシステム社のスポーツ事業へ大きく影響を及ぼしました。
当時ファインシステム社の主力事業のひとつに、自社の計測システムを活用したスポーツイベントの運営を請け負う事業がありました。

緊急事態宣言の発動と同時に、ほとんどのスポーツ大会が中止となり、スポーツ事業全体で売上が激減しました。
特にファインシステム社が注力しているマラソン大会については、その9割が中止に見舞われる、といった状況でした。
当初は、コロナによる影響度合いが想定しづらく、全従業員の出勤を制限するなど、休業に近い体制を敷いていました。

1~2カ月が経過し、徐々にコロナによる影響を把握できるようになり、スポーツ事業以外の事業は稼働が戻ってきたため、スポーツ事業のみ休業という体制へと変更したようです。
いつ出口が見えるか分からない、トンネルの中を手探りで進んでいくような状況のなかで、パワーエッジグループという存在は、当時の山内氏の精神面での拠り所となっていたと言います。

「親会社という、相談できる先があるという心理的安全性によって、目の前の一つ一つの課題解決に注力することができた」と山内氏は当時の心境を語ります。
山内氏には、経営相談ができる経営者仲間は今までもいたようですが、身内だからこそ、ありのまま自社の課題を相談できる、パワーエッジ社代表の塩原氏の存在はとても心強かったようです。

そのような状況の中で、コロナによる同業他社への影響を見渡すと、人員の削減や、事業を三分の一へ縮小する、といった状況も見受けられたようです。
現在は、コロナによる影響度合いも回復してきており、スポーツ大会はコロナ前の9割まで戻ってきたと言います。

一方でコロナ禍において、止む無く廃業や、事業を縮小した企業も少なくないため、競合の数はコロナ前と比較すると減少しているようです。
そのため、ファインシステム社へのスポーツ関連事業に関する問い合わせ件数や相談件数は、コロナ前よりも増加している状況にあるようです。

実は、ここには一つの考えがあったようです。
「コロナを経て、業界の需要が戻ってきたときに、競合の数も減っているはずだから、その時に備えて今から準備しておこう」と、塩原氏がアドバイスをしていたようです。

そのアドバイスを受けて、ファインシステム社はあえて、コロナ禍においても採用の手を緩めることなく、需要が回復した際のことを見据え、案件に対応できる体制を準備していたようです。
そうすることにより、需要回復からのスムーズな事業の再始動が叶ったといいます。

事業における変化

M&A実施による事業のシナジーについては、パワーエッジグループの他の会社の案件をファインシステム社が請け負うなどして、グループ会社間でも仕事の循環が生まれているようです。

一つ目は、ファインシステム社が、新たにグループ会社の顧客相談に対応するサポート専門の部隊を組成したことです。
もともとファインシステム社のそれぞれの事業にサポート担当がいたようですが、現在はグループ会社の顧客ごとにサポート専門部隊を組成し、5名体制で稼働しているようです。

二つ目は、ホームページ制作関連の事業を、パワーエッジ社やグループ会社であるPCブレイン社などから請け負っていることです。
ファインシステム社は、以前から某大手調査会社を介して、地元エリアの制作の仕事は定期的に請け負っていました。
パワーエッジグループと連携することで、商圏が全国に拡がっていきました。

三つ目は、システム開発事業の新たに立ち上げたことです。
親会社であるパワーエッジ社のノウハウをキャッチアップしつつ、加古川にSES事業を立ち上げました。

現在の全ての開発チームの人数は新卒含めて13名です。
そのうちSESに関わっている方はまだ2~3名のようですが、今後は20名以上の規模にしていきたいと考えているようです。

採用面における変化

ファインシステム社の従業員数は、M&A実行時は30名前後でしたが、現在では50名にまで増加しています。

コロナ禍においても採用を継続し、採用費・育成費などのコストは増加傾向にあるものの、進行期は黒字を見込んでいます。
これらの方針についても、山内氏が塩原氏から経営ノウハウを享受しつつ、都度相談をしながら経営戦略を考えていく中で、積極採用の方向に舵を取った結果のようです。

加古川エリアでは、神戸や大阪まで出ずに、地元の近くで働きたいと考える若者が一定数存在するようで、結果として若いメンバーの採用が叶っています。
従業員が働きやすい環境作りにも力を入れており、今後の更なる人員増加に伴い、オフィスが手狭になることを避けるため、新たに支店も増設しました。

山内氏は、「人が増えると活気が出るし、みんながいきいきしているのを見るのが楽しい」と人材採用を積極化するメリットを語っています。
ファインシステム社のコーポレートサイトには、全従業員が思い思いの姿でポーズをとっている写真が掲載されています。
新入社員が入ってくる度に、コーポレートサイトのトップページも賑やかになっていきます。

二人の経営者との仕事を通じて

山内氏は、創業者である佐藤氏と、親会社の代表である塩原氏、二人の経営者と伴奏して仕事をしてきました。
山内氏は、「先代と、塩原氏、お二人の性格や考え方は180度と言っていいくらい異なるが、共通する部分としては、明確にご自身の軸があり、そこからブレることなく真っすぐ突き進む信念をお持ちで、自分らしく生きておられる点である」と語っています。

山内氏自身もM&Aの前後は少なからず戸惑いがあったようですが、塩原氏と本音で話し合い、「本物の経営者に育てたい」という熱い想いを伝えてくれた塩原社長に付いていくことを決心し、その選択は間違いではなかったと振り返っているようです。

「目の前の人の役に立つ」という自身の信念のもと、協力して事業を進めていくパートナーの考えも尊重しつつ、変化に柔軟に対応していくことで、ファインシステム社の成長を今も牽引しています。

著者

七澤 一樹

七澤ななさわ 一樹いつき

日本M&Aセンター業界特化3部/IT業界専門チーム

神奈川県出身。大学卒業後、㈱マイナビにて8年間ITソフトウェア業界向け人材紹介のコンサルティング営業に従事。入社4年目、5年目は企業向け人材紹介部門において、2年連続年間売上高1位を記録。チームマネジメントを経験した後、㈱日本M&Aセンターに入社。現在はITソフトウェア業界を専門にM&A支援業務に取り組む。

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